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第20話 代償と好都合
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「おい! 其処の奴隷2人の主はお前か!!」
冒険者ギルドに入って来た衛兵達が槍をリンとノラに突き付けながら、1番偉そうな衛兵がセムネイルを問い詰める。
ローズとセリスは2人を庇う様にして、衛兵達の前を塞ぐ。
「2人は俺の妻だ。 次、奴隷と呼んだらお前達も床に染みに変えてやるからな。 覚悟しろ」
セムネイルの黒髪がざわめき、紅い瞳が輝く。
4人の妻達はセムネイルの邪魔にならぬよう、固唾を飲んで見守っている。
「ひ、ひっ! だ、だが白状したな! おい! コイツが犯人だ、引っ捕らえろ!!」
「動くな、動いた奴から殺すぞ」
セムネイルの殺気が鍛えられた衛兵達に向く。
「ひぃぃ! 早く早く捕らえろぉぉ! 分隊長の俺の命令が、き、聞けないのかー!」
偉そうな分隊長とやらが、唾を撒き散らし部下に怒鳴るが、衛兵達は身体を恐怖で震わすばかりで誰1人動こうとはしなかった。
それはそうだろう。
時折襲来する、飛竜よりも凄まじい殺気と威圧を出す相手に動く筈がない。
まだ飛竜の群れに突っ込めと言われる方がましだ。
「ふむ、部下達は良く分かってるらしい。 で? お前はどうするのだ? さっき、俺の妻に暴行を働いて床の染みになった奴等と同じになるか?」
「ぐ、ぬぐぐ、おのれぇ! 我らはブルムフ衛兵隊だ! この街に不利益をもたらす者は許さん!」
無謀にも、分隊長は剣を抜き、セムネイルに斬りかかった!
「其処までだ!! 手を出すな!!!」
ギルドに怒号が響いた。
入り口にはギルドマスターと、コルナと街に入る時に会話した衛兵隊長が立っていた。
怒号を発したのは衛兵隊長のようだ。
分隊長は驚き、斬りかかるのを止め入り口を見た。
全員が入り口に立つ2人を注視する中、セムネイルだけは違った。
「ひっ?! い、いだだだだだ」
分隊長の肩を背中から掴み、ゆっくりと床へと潰しに掛かる。
「えぇっ!? 衛兵隊長殿が言ったじゃねぇですかぁ! 何で床の染みにしようとするの?! 待て待て待て! 待って下さいよぉ!」
それに気付いたギルドマスターが慌てて止める。
「……ちっ。 一応、蛸は俺の上司だからな。 今回は止めてやる。 だが、次に亜人を差別し決め付けをしている所を見たら……直ぐに地面の染みに変えてやる? 分かったか?」
肩が凹む痛みに、分隊長を涙涎を滴しながら必死に頷いていた。
セムネイルが手を離すと、泣きながら分隊長はギルドを出ていった。
「よ! 蛸、無事に魔石は換金出来たのか?」
「勿論でさぁ! お陰でギルドが破産せずに済みました! 本当にありがとうございます!」
冒険者のギルドマスターが一介の冒険者に敬語を使っているのを、衛兵隊長やその場の全員が不思議に思っていたがセムネイルはそんな事は気にしない。
「そうか、それは何より。 で? 2人揃ってどうしたんだ?」
入り口に立つ、ギルドマスターと衛兵隊長を見る。
「あ、それは……」
「いえ、ゼゴン殿。 ここは私から説明を。 昨日の朝、君が同行していたシスターが街を出たのは知っているかね?」
セムネイルは目を見開く。
(そうか……所属してるとは聞いてたが、この街の教会に住んでる訳じゃ無かったのか)
コルナの尻を見ていたセムネイルは、コルナの説明を全然聞いていなかった。
「いや、一昨日の夜に別れたからな。 それで?」
「……そうか、知らないか。 実は、迎えの聖エオルニア教国所属の神父達を護衛していた冒険者達の悪い噂を聞いてな。 しかも、帰りにはこの街に置いて帰ったと……」
「あぁ……あのクズ共か。 それなら、其処の床の染みになってるぞ」
「その……ようだな。 詰所に通報があったと聞き、急いで駆け付けたが遅かったようだ。 ゼゴン殿とは、そこの入り口でばったりお会いしてな。 偶然だ」
セムネイルは衛兵隊長を睨み付ける。
「悪いな。 俺は魔力で気配を探知できるんだ、お前達2人が遠くから一緒に歩いて来たのは分かってる」
腕を組み、2人を見据える。
俺を欺くのは許さないと。
「ふぅ……衛兵隊長ザモン殿。 あの新人冒険者を欺くのは無理だぜ。 元A ランク冒険者の俺が赤子の手をひねる様にやられたんだ」
「どうやら……その様だね。 すまない、欺くつもりは無かったのだ。 改めて、私はこの街ブルムフの衛兵隊長を務めているザモンだ。 君の名前を聞いても?」
「俺は、極悪非道な欲望と狭間の魔王セムネイルだ! 一昨日、ようやく封印が解けた! 後ろの美しく、可愛い女達は俺の妻だ」
セムネイルの紹介に、4人が照れながら答える。
「ローズです。 何度かお会いした事は有るかと思いますが、当ギルドの受付嬢をしています」
「旦那様の妻が1人、セリスと申します。 以後、お見知りおきを」
「リ、リンです! 森の民エルフのリンです、後……その、セムネイル様の妻ですぅ」
「おぉ!? リン大丈夫か!? 顔真っ赤だぞ! あ! 俺はノラだ! 誇り高き狼獣人だぞ! がうー!」
4人の可愛い妻達の自己紹介をセムネイルは満面の笑顔で聞いていた。
(うむ、やはり皆美しく可愛いな。流石は俺の妻達だ!)
ギルドマスターゼゴンと衛兵隊長ザモンは苦笑いだが。
「そうですね。 とりあえず、魔王云々は置いといて取り引きの相談といきましょう。 セムネイルさん」
ザモンが目配せをすると、待機していた衛兵達が撤退を始めた。
「話しは俺のギルマス部屋でするといい。 おい! この床の染みをさっさと落とせ! 依頼人が怖がるだろうが!」
奥で様子を見ていたスタッフ達が、急いでギルドの片付けを始める。
あの赤い染みを片付けるスタッフをセムネイル以外が気の毒に思っていた。
◆◇◆
「おや? 扉が無いとは、中々に斬新だね。 ゼゴン殿」
セムネイルと妻達、ゼゴンとザモンはギルドマスターの部屋に移動し椅子へと座った。
「い、いやぁ……その、な? がははは」
ゼゴンが笑って誤魔化すが、扉が無いのはセムネイルが乗り込んだ時に蹴破ったからだ。
「汗臭いから丁度いいだろ。 で? 取り引きとは何だ?」
セムネイルが長椅子の真ん中に座り、妻達は両サイドに座って話を聞いている。
「まず、1つ。先程、貴方が犯した犯罪についてです。 冒険者同士の殺し合いは正当な理由が有れば許されますが、聖エオルニア教国所属の冒険者は違います。
正当な理由が有っても、エオルニア教所属の冒険者は絶対の法で守られており殺害した場合は磔か打ち首となります」
「それは、所属の冒険者が犯罪者でもか?」
「……はい。 勿論、全ての所属している冒険者が悪人では無いのでしょう。 ですが、悪い噂は後を立ちません」
セムネイルは深く溜め息をつく。
今日はリンとノラとセリスが冒険者となり、成り上がる為にダンジョンへ行く予定だったのがクズ共のせいで行けそうも無いからだ。
「やっぱり、エオルニアの糞を信仰する奴等はいつも糞だな」
「おいおい、まさか……主神エオルニアに会った事があるんですかぃ?」
ゼゴンが食い付いて聞いてきた。
「ん? あぁ、何度か殺りあったぞ? 配下の神やら英雄やらを連れてないと戦わない糞みたいな女だ」
主神エオルニアはこの世界の名前となる程の有名な女神だ。
公の場で、当たり前の様にエオルニアを糞みたいな女だと評するのは世界でセムネイルとセリスぐらいだろう。
「そのぐらいで。 何処に耳があるか分かりません。 要するに、このままだとセムネイルさんは死刑です」
「くっくっくっ、殺ってみるか?」
セムネイルの全身から殺気が溢れ、歴戦の兵士であるザモンですら生きた心地がしなかった。
「いえ、この街……いや、王国全ての兵を用いても不可能でしょう。 それに、待って下さい。 話しはまだ終わっていません」
「……分かった。 続けろ」
セムネイルから殺気が消え、ザモンは安堵の溜め息をつく。
ちなみに、殺気は妻達にはいかず。
4人は何をそんなに怖がっているのか分かっていなかった。
ゼゴンは泡を吹いていたが。
「ふぅ……はい。 2つめ、セムネイルさんの奥様であるリンさんとノラさんの事です。 ……冒険者登録をされましたよね? 首にタグを下げてますし」
リンとノラが咄嗟にタグを隠すが、時既に遅い。
それよりも……。
「おい蛸。 ギルドのスタッフに衛兵側のスパイが居るぞ。 後で、探っとけ」
「え? あっ! おい、ザモン殿どういう事だ?!」
「ふふ、いえ……偶然ですよ。 それよりも、亜人であるお2人は冒険者として登録は出来ないのでは……?」
「い、いえ! それは違います! 前例が無いだけです!! ギルドの条約にも、亜人が冒険者登録不可とは記載してありません!」
挑発する様に煽るザモンに怒りながらローズが答えた。
「おい、ザモンとやら。 もっと簡潔に言え。 それと、俺の妻を侮辱するなら殺すぞ」
怒るローズとセムネイルの様子に、ザモンは何故か満面の笑みを浮かべた。
「ローズさん、貴女は少し見ない間に変わりましたね。 凄く、良い方向に。 それとセムネイルさん、誤解しないで下さい」
ザモンはローズに、前までしていた全ての不正と犯罪を知っていたと仄めかす。
「ほう? 言ってみろ」
「貴方がしたいのは、亜人の地位向上ですよね? 後は……黒髪差別を無くす事ですか? 言い方を変えると、聖エオルニア教国に喧嘩を売りたい……違いますか?」
ザモンは自信満々で、そう問うが残念ながら相手が悪すぎた。
「は? 全然違うぞ? 妻のリンとノラをSランク冒険者にするのは、人間に変な目で見られたり不遇を受けない様にする為だ。 俺は別に黒髪で待遇が悪くても構わんし、ローズを差別する奴が居たら誰だろうと殺すだけだ」
唖然とした表情をしたザモン。
少し間が空いた後、急に笑い始めた。
「おい、セリス……コイツなんか怖いぞ」
「しっ! ノラ教えたでしょ? 旦那様が会話している時は静かに見守るのが淑女の嗜みって」
隣のセリスとノラの会話を微笑ましく聞きながら、セムネイルはザモンの狙いを予想していた。
「あはははっ! 本当に素晴らしい! 貴方が魔王でも、魔族でも、何でもいい! やはり、私の目に狂いは無かった!」
「おい、気が狂ったんじゃないならさっさと取り引きとやらを言え。 俺達に何をさせたい」
「ふ~、失礼しました。 結論を申し上げます。街から近い所に在る、大迷宮を踏破して頂きたい。 セムネイルさんが、教会からの依頼を達成すれば罪は赦され無罪放免です。
そして、誰も踏破出来なかった大迷宮を奥様方と共に踏破すれば……亜人が冒険者になった事に異論を唱える者はいないでしょう」
ザモンの取り引きを聞き、セムネイルはようやく笑みを浮かべた。
「その話し、詳しく聞かせろ」
冒険者ギルドに入って来た衛兵達が槍をリンとノラに突き付けながら、1番偉そうな衛兵がセムネイルを問い詰める。
ローズとセリスは2人を庇う様にして、衛兵達の前を塞ぐ。
「2人は俺の妻だ。 次、奴隷と呼んだらお前達も床に染みに変えてやるからな。 覚悟しろ」
セムネイルの黒髪がざわめき、紅い瞳が輝く。
4人の妻達はセムネイルの邪魔にならぬよう、固唾を飲んで見守っている。
「ひ、ひっ! だ、だが白状したな! おい! コイツが犯人だ、引っ捕らえろ!!」
「動くな、動いた奴から殺すぞ」
セムネイルの殺気が鍛えられた衛兵達に向く。
「ひぃぃ! 早く早く捕らえろぉぉ! 分隊長の俺の命令が、き、聞けないのかー!」
偉そうな分隊長とやらが、唾を撒き散らし部下に怒鳴るが、衛兵達は身体を恐怖で震わすばかりで誰1人動こうとはしなかった。
それはそうだろう。
時折襲来する、飛竜よりも凄まじい殺気と威圧を出す相手に動く筈がない。
まだ飛竜の群れに突っ込めと言われる方がましだ。
「ふむ、部下達は良く分かってるらしい。 で? お前はどうするのだ? さっき、俺の妻に暴行を働いて床の染みになった奴等と同じになるか?」
「ぐ、ぬぐぐ、おのれぇ! 我らはブルムフ衛兵隊だ! この街に不利益をもたらす者は許さん!」
無謀にも、分隊長は剣を抜き、セムネイルに斬りかかった!
「其処までだ!! 手を出すな!!!」
ギルドに怒号が響いた。
入り口にはギルドマスターと、コルナと街に入る時に会話した衛兵隊長が立っていた。
怒号を発したのは衛兵隊長のようだ。
分隊長は驚き、斬りかかるのを止め入り口を見た。
全員が入り口に立つ2人を注視する中、セムネイルだけは違った。
「ひっ?! い、いだだだだだ」
分隊長の肩を背中から掴み、ゆっくりと床へと潰しに掛かる。
「えぇっ!? 衛兵隊長殿が言ったじゃねぇですかぁ! 何で床の染みにしようとするの?! 待て待て待て! 待って下さいよぉ!」
それに気付いたギルドマスターが慌てて止める。
「……ちっ。 一応、蛸は俺の上司だからな。 今回は止めてやる。 だが、次に亜人を差別し決め付けをしている所を見たら……直ぐに地面の染みに変えてやる? 分かったか?」
肩が凹む痛みに、分隊長を涙涎を滴しながら必死に頷いていた。
セムネイルが手を離すと、泣きながら分隊長はギルドを出ていった。
「よ! 蛸、無事に魔石は換金出来たのか?」
「勿論でさぁ! お陰でギルドが破産せずに済みました! 本当にありがとうございます!」
冒険者のギルドマスターが一介の冒険者に敬語を使っているのを、衛兵隊長やその場の全員が不思議に思っていたがセムネイルはそんな事は気にしない。
「そうか、それは何より。 で? 2人揃ってどうしたんだ?」
入り口に立つ、ギルドマスターと衛兵隊長を見る。
「あ、それは……」
「いえ、ゼゴン殿。 ここは私から説明を。 昨日の朝、君が同行していたシスターが街を出たのは知っているかね?」
セムネイルは目を見開く。
(そうか……所属してるとは聞いてたが、この街の教会に住んでる訳じゃ無かったのか)
コルナの尻を見ていたセムネイルは、コルナの説明を全然聞いていなかった。
「いや、一昨日の夜に別れたからな。 それで?」
「……そうか、知らないか。 実は、迎えの聖エオルニア教国所属の神父達を護衛していた冒険者達の悪い噂を聞いてな。 しかも、帰りにはこの街に置いて帰ったと……」
「あぁ……あのクズ共か。 それなら、其処の床の染みになってるぞ」
「その……ようだな。 詰所に通報があったと聞き、急いで駆け付けたが遅かったようだ。 ゼゴン殿とは、そこの入り口でばったりお会いしてな。 偶然だ」
セムネイルは衛兵隊長を睨み付ける。
「悪いな。 俺は魔力で気配を探知できるんだ、お前達2人が遠くから一緒に歩いて来たのは分かってる」
腕を組み、2人を見据える。
俺を欺くのは許さないと。
「ふぅ……衛兵隊長ザモン殿。 あの新人冒険者を欺くのは無理だぜ。 元A ランク冒険者の俺が赤子の手をひねる様にやられたんだ」
「どうやら……その様だね。 すまない、欺くつもりは無かったのだ。 改めて、私はこの街ブルムフの衛兵隊長を務めているザモンだ。 君の名前を聞いても?」
「俺は、極悪非道な欲望と狭間の魔王セムネイルだ! 一昨日、ようやく封印が解けた! 後ろの美しく、可愛い女達は俺の妻だ」
セムネイルの紹介に、4人が照れながら答える。
「ローズです。 何度かお会いした事は有るかと思いますが、当ギルドの受付嬢をしています」
「旦那様の妻が1人、セリスと申します。 以後、お見知りおきを」
「リ、リンです! 森の民エルフのリンです、後……その、セムネイル様の妻ですぅ」
「おぉ!? リン大丈夫か!? 顔真っ赤だぞ! あ! 俺はノラだ! 誇り高き狼獣人だぞ! がうー!」
4人の可愛い妻達の自己紹介をセムネイルは満面の笑顔で聞いていた。
(うむ、やはり皆美しく可愛いな。流石は俺の妻達だ!)
ギルドマスターゼゴンと衛兵隊長ザモンは苦笑いだが。
「そうですね。 とりあえず、魔王云々は置いといて取り引きの相談といきましょう。 セムネイルさん」
ザモンが目配せをすると、待機していた衛兵達が撤退を始めた。
「話しは俺のギルマス部屋でするといい。 おい! この床の染みをさっさと落とせ! 依頼人が怖がるだろうが!」
奥で様子を見ていたスタッフ達が、急いでギルドの片付けを始める。
あの赤い染みを片付けるスタッフをセムネイル以外が気の毒に思っていた。
◆◇◆
「おや? 扉が無いとは、中々に斬新だね。 ゼゴン殿」
セムネイルと妻達、ゼゴンとザモンはギルドマスターの部屋に移動し椅子へと座った。
「い、いやぁ……その、な? がははは」
ゼゴンが笑って誤魔化すが、扉が無いのはセムネイルが乗り込んだ時に蹴破ったからだ。
「汗臭いから丁度いいだろ。 で? 取り引きとは何だ?」
セムネイルが長椅子の真ん中に座り、妻達は両サイドに座って話を聞いている。
「まず、1つ。先程、貴方が犯した犯罪についてです。 冒険者同士の殺し合いは正当な理由が有れば許されますが、聖エオルニア教国所属の冒険者は違います。
正当な理由が有っても、エオルニア教所属の冒険者は絶対の法で守られており殺害した場合は磔か打ち首となります」
「それは、所属の冒険者が犯罪者でもか?」
「……はい。 勿論、全ての所属している冒険者が悪人では無いのでしょう。 ですが、悪い噂は後を立ちません」
セムネイルは深く溜め息をつく。
今日はリンとノラとセリスが冒険者となり、成り上がる為にダンジョンへ行く予定だったのがクズ共のせいで行けそうも無いからだ。
「やっぱり、エオルニアの糞を信仰する奴等はいつも糞だな」
「おいおい、まさか……主神エオルニアに会った事があるんですかぃ?」
ゼゴンが食い付いて聞いてきた。
「ん? あぁ、何度か殺りあったぞ? 配下の神やら英雄やらを連れてないと戦わない糞みたいな女だ」
主神エオルニアはこの世界の名前となる程の有名な女神だ。
公の場で、当たり前の様にエオルニアを糞みたいな女だと評するのは世界でセムネイルとセリスぐらいだろう。
「そのぐらいで。 何処に耳があるか分かりません。 要するに、このままだとセムネイルさんは死刑です」
「くっくっくっ、殺ってみるか?」
セムネイルの全身から殺気が溢れ、歴戦の兵士であるザモンですら生きた心地がしなかった。
「いえ、この街……いや、王国全ての兵を用いても不可能でしょう。 それに、待って下さい。 話しはまだ終わっていません」
「……分かった。 続けろ」
セムネイルから殺気が消え、ザモンは安堵の溜め息をつく。
ちなみに、殺気は妻達にはいかず。
4人は何をそんなに怖がっているのか分かっていなかった。
ゼゴンは泡を吹いていたが。
「ふぅ……はい。 2つめ、セムネイルさんの奥様であるリンさんとノラさんの事です。 ……冒険者登録をされましたよね? 首にタグを下げてますし」
リンとノラが咄嗟にタグを隠すが、時既に遅い。
それよりも……。
「おい蛸。 ギルドのスタッフに衛兵側のスパイが居るぞ。 後で、探っとけ」
「え? あっ! おい、ザモン殿どういう事だ?!」
「ふふ、いえ……偶然ですよ。 それよりも、亜人であるお2人は冒険者として登録は出来ないのでは……?」
「い、いえ! それは違います! 前例が無いだけです!! ギルドの条約にも、亜人が冒険者登録不可とは記載してありません!」
挑発する様に煽るザモンに怒りながらローズが答えた。
「おい、ザモンとやら。 もっと簡潔に言え。 それと、俺の妻を侮辱するなら殺すぞ」
怒るローズとセムネイルの様子に、ザモンは何故か満面の笑みを浮かべた。
「ローズさん、貴女は少し見ない間に変わりましたね。 凄く、良い方向に。 それとセムネイルさん、誤解しないで下さい」
ザモンはローズに、前までしていた全ての不正と犯罪を知っていたと仄めかす。
「ほう? 言ってみろ」
「貴方がしたいのは、亜人の地位向上ですよね? 後は……黒髪差別を無くす事ですか? 言い方を変えると、聖エオルニア教国に喧嘩を売りたい……違いますか?」
ザモンは自信満々で、そう問うが残念ながら相手が悪すぎた。
「は? 全然違うぞ? 妻のリンとノラをSランク冒険者にするのは、人間に変な目で見られたり不遇を受けない様にする為だ。 俺は別に黒髪で待遇が悪くても構わんし、ローズを差別する奴が居たら誰だろうと殺すだけだ」
唖然とした表情をしたザモン。
少し間が空いた後、急に笑い始めた。
「おい、セリス……コイツなんか怖いぞ」
「しっ! ノラ教えたでしょ? 旦那様が会話している時は静かに見守るのが淑女の嗜みって」
隣のセリスとノラの会話を微笑ましく聞きながら、セムネイルはザモンの狙いを予想していた。
「あはははっ! 本当に素晴らしい! 貴方が魔王でも、魔族でも、何でもいい! やはり、私の目に狂いは無かった!」
「おい、気が狂ったんじゃないならさっさと取り引きとやらを言え。 俺達に何をさせたい」
「ふ~、失礼しました。 結論を申し上げます。街から近い所に在る、大迷宮を踏破して頂きたい。 セムネイルさんが、教会からの依頼を達成すれば罪は赦され無罪放免です。
そして、誰も踏破出来なかった大迷宮を奥様方と共に踏破すれば……亜人が冒険者になった事に異論を唱える者はいないでしょう」
ザモンの取り引きを聞き、セムネイルはようやく笑みを浮かべた。
「その話し、詳しく聞かせろ」
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