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第8話 ローズの過去と罪と別れ
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ローズを抱いた後、様々な事に気が付いたセムネイルは起床した時に話を聞く事を決め眠りに付いていた。
ふとローズが動くのに気が付き、目が覚める。
「あ、セムネイル様。 すみません、起こしてしまって……」
「構わん、それより身体に大事は無いか? 痛む所が有れば、直ぐに魔法で癒すぞ」
ローズは叱られると思っていたのか、きょとんとした後に苦笑いをした。
「ふふっ、いえ大丈夫です。 本当に……優しく抱いて下さいましたから」
「ん……なら良い。 では、どうした? まだ起きるには早いと思うが」
「いえ……その、や、やっぱり何でも有りません」
何かを言いかけたが誤魔化しベットへと横になるローズを見て、セムネイルの嫌な予感は確信へと変わる。
「よく眠れなくなったのは……何時からだ?」
「!? ……何故それを」
図星だったのか、振り向くローズの表情は険しかった。
「俺の……知ってるずっと大昔の話だ。 魔神と神が争っていた時代、人間を奴隷にし使い捨ててた時代に……その刻印を見た気がする」
「神々の戦争……神魔大戦の事ですか? セムネイル様は……いったい」
「くっくっくっ、最強と呼ばれた欲望と狭間の魔王だと言ったら信じぬか?」
ローズの表情は、一瞬驚愕に染まるが直ぐに真面目な表情へと変わる。
「いえ、セムネイル様の力は確実に人外の領域です。 むしろ……納得しました」
「納得したか、ふはははは! どこぞのシスターとは大違いだな」
シスターの単語を出すと、ローズの表情に陰りが見えた。
(やはりか……)
抱いた時に見た背中の刻印は、ローズを捻じ曲げ悪女にさせる要因となっているのだろう。
「ローズ、俺を信じるならお前の話を聞かせろ。 お前はもう俺の女だ。 何があろうと、何をしてようと、俺が全てから守ってやる」
暫くの沈黙が続いた後、ローズはゆっくりと話し始めた。
◆◇◆
「私は……冒険者の父と母の元で産まれました。 その時に住んでいた国は、聖エオルニア教国に有る小さな街です。 私が……8才の時に、両親はクエスト中に死にました」
(聖エオルニア教国か……コルナが所属する国だな。 エオルニア……あの糞女神か)
既に嫌な予感しかしないが、セムネイルは黙って話を聞き続ける。
「その国では……黒髪は奴隷の証とされ。 忌み子等とも呼ばれていました。 黒髪は滅びた魔族の象徴、汚れた血だと。 私の両親は茶髪と赤髪でしたが、私の事を愛し育ててくれました」
ローズの話を聞いていたセムネイルは苛立ちから歯を強く噛み締めた。
(滅びた魔族か……。にしても、汚れた血とは……あの糞女神が好きそうな言葉だな)
「ですが……両親が死んでからは地獄でした。 優しくしてくれていた街の人達も冷たくなり……ある日、来たのです。 エオルニア教会から派遣された……忌み子狩りが」
ローズの身体が震える。
過去を話すだけで、当時をフラッシュバックし辛いのだろう。
セムネイルは優しく抱きしめ、頭をゆっくりと撫でた。
「っ……ありがとうございます、セムネイル様。 そ、そして……教会に連れて行かれた私は……ひたすら犯され、なぶられました」
セムネイルの紅い瞳に怒りと殺意が宿る。
「ど、どれだけの年月が経ったか分からない頃……突然教会から出され、奴隷としてこの国に連れて来られました」
「お前を……犯した奴の名前は分かるか?」
「え……? あ、はい……大司教のブヒヌスという、醜い男です」
「分かった、約束する。 必ずその男を殺す。 なぶり、永く苦しめ、地獄すら生ぬるい目に合わせる」
ローズの瞳から、大粒の涙が溢れる。
「はい、はい……ありがとうございます」
暫し、セムネイルの腕の中で泣いたローズはまたポツリポツリと話し始めた。
「そして……この街の冒険者ギルド所属の副ギルドマスターに買われ、癒着や汚職の手伝いをさせられていました。 その時に、奴隷の制約は解除され刻印だけが……背中に残っています」
(副ギルドマスター……あぁ、あの金髪のガリガリ野郎か)
「なぜ、制約を解かれた?」
「それは、恐らくですが受付嬢となり癒着や汚職をしやすくする為だったと思います……」
「その副ギルドマスターに、何かされたか?」
無言で頷くローズを見て、セムネイルはこの後に副ギルドマスターを殺しに行く事を心中で誓った。
「私は、ゆ、許されない事をして来ました。 だから、横柄な受付嬢となり……「他のスタッフを巻き込まないようにしたんだろ?」
セムネイルに図星をつかれたローズは言い淀む。
「そ、それは……それに、私はセムネイル様と一緒に居たシスターに……同じ女として許されない事をしました」
「そうだな」
ビクッ!
セムネイルの冷たい返答に、ローズの身体が強張る。
「そして、俺に抱かれて罪は赦された。うん、何の問題も無いな」
「え……?」
「よし、丁度良い時間になったし起きるか! 起きて、飯でも食おうローズ」
「ですが……その後、私はどうしたら?」
キョトンとするローズは愛らしく、セムネイルはローズの綺麗な黒髪を撫で回す。
「ん? また冒険者ギルドで受付嬢すれば良いではないか。 俺も冒険者になるしな! ふはははは!」
「え、えぇぇーー……ふふ、分かりました!」
問題無いわけがないのだが、きっぱり言い切るセムネイルを見て……ローズは久し振りに本音で笑った。
両親と笑いあってた、あの頃のように。
◆◇◆
衣服を整え、革鎧を着てから宿屋のカウンターに向かう。
魔力で気配を探るが、コルナはまだぐっすり寝ているようだ。
(くっくっくっ、どれだけ酒に弱いんだか)
「おはようさん! お兄さん、早いね! あれ……そちらのお嬢さんは……?」
「おはよう、サシャ。 此方はローズ、俺の女だ。 もう出るから、勘定を頼む」
「ど……どうも」
何故か、サシャから鋭い視線がローズへと向けられる。
「ふぅん……昨日、あれからは誰もうちの宿屋を訪ねて来てない筈なんだけどねぇ……まぁいいさ。 1人銀貨3枚だよ」
「分かった。 昨日、一緒に入った連れの分も払おう」
そう言って、セムネイルは金貨を10枚カウンターに置いた。
「ちょっ?! お兄さん!? 多すぎるよ! なんだい、お兄さん算数が苦手なのかい?」
サシャは大慌てでカウンターの金貨を数える。
「ふっ、いや。 また利用させてもらうからな、前金も含めてる。 釣りは要らん、ただ幾つか頼み事をさせてくれ」
「ま、前金って……金貨1枚で銀貨100枚分の価値が有るんだよ? 何年泊まるつもりだい?」
「サシャを抱くまでだ。 当然、その後も泊まるが」
セムネイルが最低な事を言っている間、ローズはサシャを嫉妬の目で睨み、サシャは少し嬉しげだった。
「かー、お兄さんの冗談には参ったね。 綺麗な美人さん連れてる時に、こんな行き遅れをからかっちゃダメだよ? で? 頼み事って?」
カウンターにどさりと袋を置く。
昨日、ギルドマスターから貰った金の殆どだ。
「まず、これを昨日の連れに渡してくれ。 俺には不要だ、次からはコレでちゃんとした護衛を雇えとも。 それと、俺達の事は秘密にしてくれ。 何処に行ったとも分からないと」
セムネイルの言動にサシャはしぶい顔で困惑する。
「んん~~、でもあのお嬢さんが悲しまないかい?」
「昨日出会って飯を食っただけの関係だ。 大丈夫さ、いつか会える」
「分かったよ、何か理由が有るんだね。 治癒の女神ウルナ様に誓って、お兄さんの事は喋らないよ」
「恩にきる、ありがとう。 じゃあ、また夕方に。 それと……治癒の女神ウルナの好物は葡萄だ。 女神像の供えに出してやってくれ」
「え? お兄さん、まるでウルナ様を知ってるみたいな事を言うね。ふふっ、まぁ手に入ったらお供えしてみるよ」
サシャに手を振り、宿屋を後にする。
「さて、ローズ。 旨い飯屋をしってるか?」
嫉妬で少し表情の暗かったローズが笑顔に変わった。
現金なものだが、そんな所も可愛いと思うセムネイルもちょろい男である。
「はい! お任せ下さい! こっちです、セムネイル様!」
2人仲良く朝食に向かうのであった。
◆◇◆
2人が宿屋から出て暫くしてから……。
「あ、あのーすみませ~ん。 ここは何処何でしょうか……」
コルナが宿屋のカウンターに恐る恐る話し掛けていた。
「おや、やっと起きたのかい。 おはようさん、此処は宿屋だよ?」
「や、宿屋……?」
コルナは目覚めた時の事を思い出す。
衣服の乱れもないし、1人用の部屋だった。
中から開けられる、丈夫そうな鍵の付いたしっかりした部屋だった。
(……っということは……セムネイルさんに連れ込まれて襲われた訳じゃないのか……)
安堵と、何処か落胆するコルナ。
「なんだいなんだい、昨日の事を何も覚えて無いんだね。黒髪の色男にお姫様抱っこで連れて来られたんだよ?」
(間違いない、セムネイルさんだ!)
「そ、その黒髪の男性は今どちらに!? 別の部屋ですか?」
サシャは少し黙った後、答えた。
「……その色男から言付けだよ。 この金でちゃんとした護衛を雇えってさ。 それと、ここの支払いも終わってる」
「え……? そ、そんな……ど、何処に向かうか言ってましたか?!」
「すまないね……聞いてないんだよ」
サシャは罪悪感を感じながらも、セムネイルとの約束を守った。
「そ、そうですか……」
様々な憶測がコルナの心中を駆け巡る。
(もしかして、私が何かしたの? いえ、もしかしたら後で戻ってくるのかも。 それに、今すぐ出たら会えるかも)
「あ、ありがとうございます! すみません、もう出ます!」
「はいはい、この大金も忘れるんじゃないよ。 行ってらっしゃい、今度は酔い潰れるんじゃないよー」
サシャに見送られ、急ぎ宿屋エリアから食事処エリアに向かう。
そのまま行ければ、サムネイルに会えただろう。
そのまま行ければ。
「シスター コルナですね。 詰所から連絡が有り、迎えに来ました」
「っ……はい、わざわざ……ありがとうございます」
突如、道を塞いだ男達にコルナは抵抗せずに付いていく。
(セムネイルさん……出来ればお別れをちゃんと言いたかったです。 ありがとうございます、私を助けて下さり。 そして、ごめんなさい……さようなら)
それから、ブルムフの街でセムネイルがコルナに会うことは二度と無かった。
ふとローズが動くのに気が付き、目が覚める。
「あ、セムネイル様。 すみません、起こしてしまって……」
「構わん、それより身体に大事は無いか? 痛む所が有れば、直ぐに魔法で癒すぞ」
ローズは叱られると思っていたのか、きょとんとした後に苦笑いをした。
「ふふっ、いえ大丈夫です。 本当に……優しく抱いて下さいましたから」
「ん……なら良い。 では、どうした? まだ起きるには早いと思うが」
「いえ……その、や、やっぱり何でも有りません」
何かを言いかけたが誤魔化しベットへと横になるローズを見て、セムネイルの嫌な予感は確信へと変わる。
「よく眠れなくなったのは……何時からだ?」
「!? ……何故それを」
図星だったのか、振り向くローズの表情は険しかった。
「俺の……知ってるずっと大昔の話だ。 魔神と神が争っていた時代、人間を奴隷にし使い捨ててた時代に……その刻印を見た気がする」
「神々の戦争……神魔大戦の事ですか? セムネイル様は……いったい」
「くっくっくっ、最強と呼ばれた欲望と狭間の魔王だと言ったら信じぬか?」
ローズの表情は、一瞬驚愕に染まるが直ぐに真面目な表情へと変わる。
「いえ、セムネイル様の力は確実に人外の領域です。 むしろ……納得しました」
「納得したか、ふはははは! どこぞのシスターとは大違いだな」
シスターの単語を出すと、ローズの表情に陰りが見えた。
(やはりか……)
抱いた時に見た背中の刻印は、ローズを捻じ曲げ悪女にさせる要因となっているのだろう。
「ローズ、俺を信じるならお前の話を聞かせろ。 お前はもう俺の女だ。 何があろうと、何をしてようと、俺が全てから守ってやる」
暫くの沈黙が続いた後、ローズはゆっくりと話し始めた。
◆◇◆
「私は……冒険者の父と母の元で産まれました。 その時に住んでいた国は、聖エオルニア教国に有る小さな街です。 私が……8才の時に、両親はクエスト中に死にました」
(聖エオルニア教国か……コルナが所属する国だな。 エオルニア……あの糞女神か)
既に嫌な予感しかしないが、セムネイルは黙って話を聞き続ける。
「その国では……黒髪は奴隷の証とされ。 忌み子等とも呼ばれていました。 黒髪は滅びた魔族の象徴、汚れた血だと。 私の両親は茶髪と赤髪でしたが、私の事を愛し育ててくれました」
ローズの話を聞いていたセムネイルは苛立ちから歯を強く噛み締めた。
(滅びた魔族か……。にしても、汚れた血とは……あの糞女神が好きそうな言葉だな)
「ですが……両親が死んでからは地獄でした。 優しくしてくれていた街の人達も冷たくなり……ある日、来たのです。 エオルニア教会から派遣された……忌み子狩りが」
ローズの身体が震える。
過去を話すだけで、当時をフラッシュバックし辛いのだろう。
セムネイルは優しく抱きしめ、頭をゆっくりと撫でた。
「っ……ありがとうございます、セムネイル様。 そ、そして……教会に連れて行かれた私は……ひたすら犯され、なぶられました」
セムネイルの紅い瞳に怒りと殺意が宿る。
「ど、どれだけの年月が経ったか分からない頃……突然教会から出され、奴隷としてこの国に連れて来られました」
「お前を……犯した奴の名前は分かるか?」
「え……? あ、はい……大司教のブヒヌスという、醜い男です」
「分かった、約束する。 必ずその男を殺す。 なぶり、永く苦しめ、地獄すら生ぬるい目に合わせる」
ローズの瞳から、大粒の涙が溢れる。
「はい、はい……ありがとうございます」
暫し、セムネイルの腕の中で泣いたローズはまたポツリポツリと話し始めた。
「そして……この街の冒険者ギルド所属の副ギルドマスターに買われ、癒着や汚職の手伝いをさせられていました。 その時に、奴隷の制約は解除され刻印だけが……背中に残っています」
(副ギルドマスター……あぁ、あの金髪のガリガリ野郎か)
「なぜ、制約を解かれた?」
「それは、恐らくですが受付嬢となり癒着や汚職をしやすくする為だったと思います……」
「その副ギルドマスターに、何かされたか?」
無言で頷くローズを見て、セムネイルはこの後に副ギルドマスターを殺しに行く事を心中で誓った。
「私は、ゆ、許されない事をして来ました。 だから、横柄な受付嬢となり……「他のスタッフを巻き込まないようにしたんだろ?」
セムネイルに図星をつかれたローズは言い淀む。
「そ、それは……それに、私はセムネイル様と一緒に居たシスターに……同じ女として許されない事をしました」
「そうだな」
ビクッ!
セムネイルの冷たい返答に、ローズの身体が強張る。
「そして、俺に抱かれて罪は赦された。うん、何の問題も無いな」
「え……?」
「よし、丁度良い時間になったし起きるか! 起きて、飯でも食おうローズ」
「ですが……その後、私はどうしたら?」
キョトンとするローズは愛らしく、セムネイルはローズの綺麗な黒髪を撫で回す。
「ん? また冒険者ギルドで受付嬢すれば良いではないか。 俺も冒険者になるしな! ふはははは!」
「え、えぇぇーー……ふふ、分かりました!」
問題無いわけがないのだが、きっぱり言い切るセムネイルを見て……ローズは久し振りに本音で笑った。
両親と笑いあってた、あの頃のように。
◆◇◆
衣服を整え、革鎧を着てから宿屋のカウンターに向かう。
魔力で気配を探るが、コルナはまだぐっすり寝ているようだ。
(くっくっくっ、どれだけ酒に弱いんだか)
「おはようさん! お兄さん、早いね! あれ……そちらのお嬢さんは……?」
「おはよう、サシャ。 此方はローズ、俺の女だ。 もう出るから、勘定を頼む」
「ど……どうも」
何故か、サシャから鋭い視線がローズへと向けられる。
「ふぅん……昨日、あれからは誰もうちの宿屋を訪ねて来てない筈なんだけどねぇ……まぁいいさ。 1人銀貨3枚だよ」
「分かった。 昨日、一緒に入った連れの分も払おう」
そう言って、セムネイルは金貨を10枚カウンターに置いた。
「ちょっ?! お兄さん!? 多すぎるよ! なんだい、お兄さん算数が苦手なのかい?」
サシャは大慌てでカウンターの金貨を数える。
「ふっ、いや。 また利用させてもらうからな、前金も含めてる。 釣りは要らん、ただ幾つか頼み事をさせてくれ」
「ま、前金って……金貨1枚で銀貨100枚分の価値が有るんだよ? 何年泊まるつもりだい?」
「サシャを抱くまでだ。 当然、その後も泊まるが」
セムネイルが最低な事を言っている間、ローズはサシャを嫉妬の目で睨み、サシャは少し嬉しげだった。
「かー、お兄さんの冗談には参ったね。 綺麗な美人さん連れてる時に、こんな行き遅れをからかっちゃダメだよ? で? 頼み事って?」
カウンターにどさりと袋を置く。
昨日、ギルドマスターから貰った金の殆どだ。
「まず、これを昨日の連れに渡してくれ。 俺には不要だ、次からはコレでちゃんとした護衛を雇えとも。 それと、俺達の事は秘密にしてくれ。 何処に行ったとも分からないと」
セムネイルの言動にサシャはしぶい顔で困惑する。
「んん~~、でもあのお嬢さんが悲しまないかい?」
「昨日出会って飯を食っただけの関係だ。 大丈夫さ、いつか会える」
「分かったよ、何か理由が有るんだね。 治癒の女神ウルナ様に誓って、お兄さんの事は喋らないよ」
「恩にきる、ありがとう。 じゃあ、また夕方に。 それと……治癒の女神ウルナの好物は葡萄だ。 女神像の供えに出してやってくれ」
「え? お兄さん、まるでウルナ様を知ってるみたいな事を言うね。ふふっ、まぁ手に入ったらお供えしてみるよ」
サシャに手を振り、宿屋を後にする。
「さて、ローズ。 旨い飯屋をしってるか?」
嫉妬で少し表情の暗かったローズが笑顔に変わった。
現金なものだが、そんな所も可愛いと思うセムネイルもちょろい男である。
「はい! お任せ下さい! こっちです、セムネイル様!」
2人仲良く朝食に向かうのであった。
◆◇◆
2人が宿屋から出て暫くしてから……。
「あ、あのーすみませ~ん。 ここは何処何でしょうか……」
コルナが宿屋のカウンターに恐る恐る話し掛けていた。
「おや、やっと起きたのかい。 おはようさん、此処は宿屋だよ?」
「や、宿屋……?」
コルナは目覚めた時の事を思い出す。
衣服の乱れもないし、1人用の部屋だった。
中から開けられる、丈夫そうな鍵の付いたしっかりした部屋だった。
(……っということは……セムネイルさんに連れ込まれて襲われた訳じゃないのか……)
安堵と、何処か落胆するコルナ。
「なんだいなんだい、昨日の事を何も覚えて無いんだね。黒髪の色男にお姫様抱っこで連れて来られたんだよ?」
(間違いない、セムネイルさんだ!)
「そ、その黒髪の男性は今どちらに!? 別の部屋ですか?」
サシャは少し黙った後、答えた。
「……その色男から言付けだよ。 この金でちゃんとした護衛を雇えってさ。 それと、ここの支払いも終わってる」
「え……? そ、そんな……ど、何処に向かうか言ってましたか?!」
「すまないね……聞いてないんだよ」
サシャは罪悪感を感じながらも、セムネイルとの約束を守った。
「そ、そうですか……」
様々な憶測がコルナの心中を駆け巡る。
(もしかして、私が何かしたの? いえ、もしかしたら後で戻ってくるのかも。 それに、今すぐ出たら会えるかも)
「あ、ありがとうございます! すみません、もう出ます!」
「はいはい、この大金も忘れるんじゃないよ。 行ってらっしゃい、今度は酔い潰れるんじゃないよー」
サシャに見送られ、急ぎ宿屋エリアから食事処エリアに向かう。
そのまま行ければ、サムネイルに会えただろう。
そのまま行ければ。
「シスター コルナですね。 詰所から連絡が有り、迎えに来ました」
「っ……はい、わざわざ……ありがとうございます」
突如、道を塞いだ男達にコルナは抵抗せずに付いていく。
(セムネイルさん……出来ればお別れをちゃんと言いたかったです。 ありがとうございます、私を助けて下さり。 そして、ごめんなさい……さようなら)
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