14 / 15
引きこもり
しおりを挟む
「ツクヨミ?怒ってないから出てきなさい。何時間そこにいると思っているの?」
ルルーシェは優雅な午後のティータイムの最中である。
それはいつもの習慣なので特段変わったことではない。
しかし強いて言うのであれば、それはルルーシェの膝上にツクヨミが寝そべっていないということだろうか。
そのツクヨミは今、ルルーシェが座るソファーの下に身を潜めている。
使用人達が仕事をしっかりとこなしているのだとわかっているルルーシェは出てきたらゴミだらけ、なんていう心配はしなくて済んでいる。
しかし、ツクヨミが立て籠もってもう三時間。
ルルーシェはただただ、今日中に出てきてくれるだろうか、と心配になってきた。
「ツクヨミー?」
三時間前、ルルーシェはこの部屋で羽が舞う光景を見た。
空間の上半分だけを切り抜いたなら、まるで幻想の世界にいるような心地になるだろう。
しかし下半分を見てみると、ソファーのクッションは布がズタズタに切り裂かれ羽が無惨に飛び出していることが目に入る。
扉を開けたことで風が生まれたらしく、事実を主張するがごとく舞う羽が邪魔で部屋に踏み込むことにルルーシェは躊躇う。
視界を埋める羽なんてどこ吹く風だと言わんばかりに足取り軽く歩いて行くフレアンヌは凄いと素直に思った。
(ツクヨミ、こんなことする子じゃないと思ったのだけれど。今回は言い聞かせていなかった私がいけないわね。後で掃除してくれる人達に謝らないと)
ルルーシェは一歩部屋に踏み込んだ状態で立ち尽くした。
どこを見ても羽が目に飛び込むのだ。
罪悪感を持っている身として、この残骸はそっと見なかったことにして視線を外したい事案である。
「ルルーシェ様」
「なぁに?」
ルルーシェはちらりといつの間にか隣に佇んでいたフレアンヌを見上げる。
「ツクヨミがソファーの下から出てきません。引き摺り出しますか?」
可愛らしく小首を傾げられても、言っている内容は可愛らしくない。
「ありがとう。でもいいわ」
ルルーシェは緩く首を横に振り、今度こそ部屋の中を歩く。
実行犯な黒猫の姿が見当たらないと思ったら、既に隠れ済みだったとは。
ツクヨミもしおらしく反省しているようなので、叱らずに優しく誘い出してやろうとルルーシェはソファーの前でしゃがむ。
「ツクヨミ?大丈夫、誰も怒っていないわ。反省しているのならこれから気をつければいいのよ。出てきなさい?」
「…………」
「ツクヨミー?」
「…………」
「ねぇ、ツクヨミってば」
「…………」
「え、いるわよね?」
心配になったルルーシェはフレアンヌの方を振り返って尋ねた。
「はい、居ます」
「そうよね」
ツクヨミの匂いはソファーの下からする。
しかし、こんなにもルルーシェが話しかけて無言を返されることはこれまでになかったのだ。
「…………ツクヨミ、大丈夫?」
「………………」
ルルーシェは眉を下げる。
「大丈夫なら、いいのよ。出てきたくなったら出て顔を見てね?」
「ツクヨミ?怒ってないから出てきなさい。何時間そこにいると思っているの?」
三時間強経過した頃、少し前から感じていた部屋の外の騒めきがいっそう強くなったように感じる。
しかし、ルルーシェが何も知らされないということは、関わらない方がいいということだ。
気になるが、とても気になるが、今はツクヨミをソファーの下から出すことだけに集中する。
結局ツクヨミは空腹に負けルルーシェの膝上へと姿を現し、ルルーシェは自分は食欲より下なのかと若干落ち込んだ。
(食欲は三大欲求の一つだもの。勝てるわけないのよ)
ルルーシェは自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
ルルーシェはツクヨミと共にベッドに寝そべって何か重要だったであろう事項を思い出そうと唸っている。
屋敷中が騒がしいだけならばまだルルーシェは気にしないが、今日はいつも絶対に晩餐は共にするラカーシェが食堂に来なかったので気掛かりなのだ。
「ゔう~」
もやもやとした突っ掛かりが気になって心が晴れない。
「んーー!」
何か、小説で出来事があった気がする。
「ゔ~、うぅ………、………………」
心が晴れなかろうが思い出せなかろうが幼い体は眠気に抗えないものである。
ルルーシェは優雅な午後のティータイムの最中である。
それはいつもの習慣なので特段変わったことではない。
しかし強いて言うのであれば、それはルルーシェの膝上にツクヨミが寝そべっていないということだろうか。
そのツクヨミは今、ルルーシェが座るソファーの下に身を潜めている。
使用人達が仕事をしっかりとこなしているのだとわかっているルルーシェは出てきたらゴミだらけ、なんていう心配はしなくて済んでいる。
しかし、ツクヨミが立て籠もってもう三時間。
ルルーシェはただただ、今日中に出てきてくれるだろうか、と心配になってきた。
「ツクヨミー?」
三時間前、ルルーシェはこの部屋で羽が舞う光景を見た。
空間の上半分だけを切り抜いたなら、まるで幻想の世界にいるような心地になるだろう。
しかし下半分を見てみると、ソファーのクッションは布がズタズタに切り裂かれ羽が無惨に飛び出していることが目に入る。
扉を開けたことで風が生まれたらしく、事実を主張するがごとく舞う羽が邪魔で部屋に踏み込むことにルルーシェは躊躇う。
視界を埋める羽なんてどこ吹く風だと言わんばかりに足取り軽く歩いて行くフレアンヌは凄いと素直に思った。
(ツクヨミ、こんなことする子じゃないと思ったのだけれど。今回は言い聞かせていなかった私がいけないわね。後で掃除してくれる人達に謝らないと)
ルルーシェは一歩部屋に踏み込んだ状態で立ち尽くした。
どこを見ても羽が目に飛び込むのだ。
罪悪感を持っている身として、この残骸はそっと見なかったことにして視線を外したい事案である。
「ルルーシェ様」
「なぁに?」
ルルーシェはちらりといつの間にか隣に佇んでいたフレアンヌを見上げる。
「ツクヨミがソファーの下から出てきません。引き摺り出しますか?」
可愛らしく小首を傾げられても、言っている内容は可愛らしくない。
「ありがとう。でもいいわ」
ルルーシェは緩く首を横に振り、今度こそ部屋の中を歩く。
実行犯な黒猫の姿が見当たらないと思ったら、既に隠れ済みだったとは。
ツクヨミもしおらしく反省しているようなので、叱らずに優しく誘い出してやろうとルルーシェはソファーの前でしゃがむ。
「ツクヨミ?大丈夫、誰も怒っていないわ。反省しているのならこれから気をつければいいのよ。出てきなさい?」
「…………」
「ツクヨミー?」
「…………」
「ねぇ、ツクヨミってば」
「…………」
「え、いるわよね?」
心配になったルルーシェはフレアンヌの方を振り返って尋ねた。
「はい、居ます」
「そうよね」
ツクヨミの匂いはソファーの下からする。
しかし、こんなにもルルーシェが話しかけて無言を返されることはこれまでになかったのだ。
「…………ツクヨミ、大丈夫?」
「………………」
ルルーシェは眉を下げる。
「大丈夫なら、いいのよ。出てきたくなったら出て顔を見てね?」
「ツクヨミ?怒ってないから出てきなさい。何時間そこにいると思っているの?」
三時間強経過した頃、少し前から感じていた部屋の外の騒めきがいっそう強くなったように感じる。
しかし、ルルーシェが何も知らされないということは、関わらない方がいいということだ。
気になるが、とても気になるが、今はツクヨミをソファーの下から出すことだけに集中する。
結局ツクヨミは空腹に負けルルーシェの膝上へと姿を現し、ルルーシェは自分は食欲より下なのかと若干落ち込んだ。
(食欲は三大欲求の一つだもの。勝てるわけないのよ)
ルルーシェは自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
ルルーシェはツクヨミと共にベッドに寝そべって何か重要だったであろう事項を思い出そうと唸っている。
屋敷中が騒がしいだけならばまだルルーシェは気にしないが、今日はいつも絶対に晩餐は共にするラカーシェが食堂に来なかったので気掛かりなのだ。
「ゔう~」
もやもやとした突っ掛かりが気になって心が晴れない。
「んーー!」
何か、小説で出来事があった気がする。
「ゔ~、うぅ………、………………」
心が晴れなかろうが思い出せなかろうが幼い体は眠気に抗えないものである。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです
斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。
思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。
さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。
彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。
そんなの絶対に嫌!
というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい!
私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。
ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー
あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの?
ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ?
この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった?
なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。
なんか……幼馴染、ヤンデる…………?
「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる