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親友が休んだ日の体育授業

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「先生、弟が腹痛で保健室にいます。多分途中で来るとは思いますが……」

 進んで体操服の上をきっちりズボンの前にしまっている…………なんていう真面目な者はいないだろう体育の授業。体育の先生は揃って熱血かつ厳しいため皆渋々しまっている現状だ。

 いやだってダサいだろう。今時あり得ないだろう。態々先生に反抗したりはしないが。


 実に珍しいことに、そんなダサい格好でさえもスマートに着こなしてしまう双子の片割れがいない。

 美形でも腹を壊すことがあるのかとお腹が弱い身として親しさを感じた。




 ストレッチを共にするペアにちらりと視線をやりすぐに逸らす。

 気分は迷子の子猫ちゃん。

「マジか…………」

 今日、圭吾は熱で休み。

 よって俺は必然的にぼっち。

 双子の片割れも片割れがいないため必然的にぼっち。


 結果、俺と双子の片割れがペア。


「………………」

 俺はもう一度双子の片割れを見遣る。バチッと目が合った。

 ここで目を逸らすのは不自然な気がして逸らせずお互い見つめ合う形となる。


 いやいやいや、何この状況。


 心は半泣き、顔は強張って仕方ない。

 相手は笑みを浮かべている。しかも段々と笑みが深まっている気がする。

 広い体育館の中だというのに追い詰められてる気分だ。

「まず馬跳び、女子10回男子15回! 素早くやれよ~」

 急にストレッチをやるとか言い出した先生が呑気に告げる。呑気すぎて苛ついた。落ち着け俺。



「あ~、まず俺馬やるな」
「うん」

 順調だった。双子の片割れが飛ぶ時は。

 それはもう素早かった。運動神経が良すぎて只々感心していた。足が頭に当たらないだろうという安心感もあり楽にさせて貰った。


 問題は、双子のスタイルの良さだ。

 脚が長く、そのために馬が運動神経普通以下の俺にとって高すぎた。

 敗北感とともに、言葉を絞り出す。

「ごめん、少し……いや、結構膝を折ってくれ…………」
「わかった」

 膝を折った双子の片割れがこちらに顔を向ける。

「ごめん、もう少し」
「…………これでいいかな?」
「あ、うん。ありがと」


 無事自分も15回跳び終えた後、先に終えた女子達の視線が此方に集中していたことに初めて気づき肩が跳ねた。




 5限という昼飯が溜まっている時間に体を動かしたことと、精神的ストレスを受けたことにより胃が死にかけた。
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