御伽の歯車

シュガーコクーン

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無明

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 あぁ、死ぬんだな。
























 黒煙が部屋の隙間を縫って充満する。もう、火が扉の前まで迫っているのだろう、肌が焼かれるように熱い。

 とうとう燃え出した部屋の中、その紅く赤く燃え盛る炎をただ目に焼き付けるように眺め続けて。そして私は。










「エフィーニア?」

 優しい響きを持って紡がれた言葉に意識が浮上する。頭がぼんやりとする。私はあの情景を振り払うように目を瞬かせた。

「…………あ」
「大丈夫かい?」

 背後から私を抱き締め心配そうに覗き込んでいる顔を見て安堵する。本来なら、彼の顔は見て安堵するところかびゃっと驚き、落ち着きなんてできやしない筈なのだが。それでも、この精霊の存在は私にとってはなくてはならないモノであり、安らぎを齎すモノなのだ。

「うん。……大丈夫」



 そうだった、今は広場を囲うように置かれた花のリースが魔術の炎によって燃える光景をその炎の中心で楽しんでいたところだった。この行事の主役である炎の熱は結界によって阻まれ、私達の元へは届かない。

 それでも、じりじりと焼かれるような錯覚に陥る。しかし、私の他にはそのように感じていると思われる人はいない。私が、過去の火事とこの炎を重ね過ぎたのだろう。


 今度は目を閉じゆったりと頭を振る。

 目を開くと、ほらもう大丈夫。

 私を腕で囲っているディアノールを筆頭に、横にも、斜めにも。沢山私の大事な人が共に空間を有している。こんなにも幸せなのだから、目を逸らしてはいけないと思う。






 ーーーーカチカチカチカチーー

 幾重にもなっている大小様々な歯車が、噛み合い、今も動いていることだろう。あの見渡す限り、縦横無尽に歯車が在る空間を思い浮かべる。


 そんな空間に行く唯一の権利を持っているディノを仰ぎ見る。前はほのほのと微笑んでいるこの精霊が偉いだなんて、到底信じられなかった。今は流石に分かっているが。

 体に回される腕を掴み、微笑む彼に私は笑って言う。

「幸せ」
「うん。私も幸せだよ」

 お互いの目を見合って更に笑う。




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