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ホラーよりも面白いもの

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「真央、ウチ来ない?」

放たれたのは、初めての言葉。

「………………」

その言葉はオレの耳から騒音を消し、頭を真っ白にさせる。


「おーい、真央」
「はっ!ごめん、予想外すぎてフリーズしてた!!」

そう、初めてのお家へのお誘いなのだ。

「いく!いく!初めて!」
「ああ、嬉しい。俺も初めてだ」

俊介は人気者だろうに、オレと同じで初めて友達と家で遊ぶのか。
意外すぎる。

「じゃあ初めて同士?」

俊介は、オレがそう聞くと恥ずかしそうに少し頬を染める。

「…………ああ」

(あ、なんか可愛い)

これがギャップ萌えというものだろうか。


いつもはかっこいい俊介が恥ずかしがる姿は胸に突き刺さる。

「なんで親指立ててるんだ?」
「ん、…………なんとなく?」
「ふはっ、なんだそれ」

オレの中で乱舞するいいねが外にも現れてしまった。


完全に無意識だったためすっと手を下ろす。

「いや、もっと立てていてくれ」
「いや、それこそなんで?」
「なんとなく?」
「オレと同じ言い訳じゃん!」

俊介は笑ったくせに、と納得がいかないオレは机をばしばし叩く。


そして手短なところにあった俊介の手もついでに一発だけ叩く。

「ん?」

何故か俊介の手のひらが上を向いた。
オレは怒っていることも忘れて俊介の様子をうかがう。

するとそこにはオレに何かを期待するような目をした俊介が。

オレはもう一度俊介の手を見る。

(叩けってこと?)

恐る恐る、パチンと俊介の手を叩く。
少しだけ、俊介の口角が緩んだ気がした。

(あってるのかよ!?)

俊介が不良なのは殴られるためなのだろうか。

「マゾ?」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ」

俊介は本気で嫌がる素振りを見せ、なんだオレの勘違いかと納得する。

さっきのは友達同士の遊びなのだろう。

「違うんだ」
「違う。つーかどこからマゾが出てきたんだ」

俊介は眉を寄せている。

あのタイミングで少しでも笑えば誰でもそう思う。
しかも声、を出して笑うのではなくにやけていたのだからなおさらに。

しかしオレは、言うと面倒くさいことになりそうだったから黙っておいた。




オレと俊介の家は結構近く、歩いて五分ほどしか離れていないという事実に驚いた。
俊介の家は高層マンションで、オレの家は極平凡な一軒家だというちがはあるが。

「何もなくて悪いな」

俊介の言う通り、必要最低限の家具しか置いておらずとても殺風景だ。
家具が高そうだとは思うが、それでもシンプルにレイアウトしたというより、生活できるように置いているだけ感がひしひしと伝わってくる。

「本当に何もないね」
「正直すぎんだろ」

庇いようがないんだもん。


ソファはこの広い部屋に似合わない一人掛けで、オレはどこに腰を落ち着けるべきなのだろうと思案する。

「真央」

オレは俊介に手を引かれてソファの元へ行く。
しかしこのソファは一人掛けだ。
困惑するオレをよそに、俊介はまだオレの手を引く。


そして、オレはあっという間に俊介の脚の間に座らされた。

(………………ん?)

あっという間の出来事で、ついていけない。

それに、なんだかこの座り方は違うと思う。
そんな気持ちを込めて俊介を仰ぎ見る。

「一席分しかないから仕方ないだろ」
「たしかに」

オレも一席分しかなくてどうしようかと考えていたし、ちょうどいいのか。



(何すればいいんだろう)

オレは初めてのお家訪問だから何をすることが普通なのか知らない。
そしてオレの偏見だが、俊介を普通に当てはめるのも違う気がするのだ。

(うん、無難に話そう)

「俊介、ご両親は?」
「ああ、俺は高校入ってからこの家もらって一人暮らしだ」

平然と言っているが、これになんて返せと言うのだ。

(地雷踏んだか?)

わざわざ遠い地域に住んでいる人が、正陽に入ろうとは思わないから、ここに引っ越す前もこの近くに住んでいたはずだ。


それなのに一人暮らしをするということは、ご両親とは不仲な可能性が高い。

「…………寂しい?」

昔を思い出すように少し遠い目をして俊介は話す。

「……たしかに前は寂しかったんだと思う。でも、真央が友達になってくれたからな。もう寂しくないなぁ」

(その言葉はずるいと思う)

オレは体を捻って俊介と向かいあい、頭を撫でる。
後ろに撫でつけていて硬い印象を持たせる髪は、実際はとても柔らかく、その意外な撫で心地にオレはとても満足した。


驚きに満ちた俊介の顔を見てさらに満足する。

「沢山遊ぼう。寂しいだなんて絶対思わせないから!めっちゃくちゃ楽しくさせてあげる!」

本当はそんな自信ないのに、俊介を少しでも不安にさせたくなくて、なけなしの勇気を奮って胸を張る。

「毎日?」
「毎日!」

俊介がにやりと笑う。

「それは頼もしいな」


宣言をしたはいいが、そもそもこの部屋には遊べるものがテレビしか見当たらない。
そのテレビの周辺もとてもすっきりとしていて、とてもDVDやスイッチがあるようには見えない。

「……プライムビデオはとってる?」
「入ってるはず。なんか見るか?」

やっと生活感があるものが出てきて安心した。

「うん、見たい。好きなジャンルある?」
「………………ホラー」
「今の間なに!?」

一応とっただけで使わずに放置していたのか。
何故好きなジャンルを答えるだけでそんなに間が空くのか。


そしてオレはホラーが苦手だ。
アニメのホラーはもう大丈夫になったが、リアルなものは未だに大の苦手である。

正直に言うと、ホラーなんて見たくない。
何が面白いのか理解できない。
しかし、オレは俊介に楽しんでもらいたいのだ。

「じゃあホラーにしよっか」



体感でとても長い長い映画が終わってオレは、燃え尽きた。
何故、あの時のオレはホラーを見ようなどと言ってしまったのか。

「映画より真央のリアクションの方が面白かった」

それはおかしい。

「苦手なら言ってくれればよかったのに」

途中でギブアップしようと思ったりしたけど、男としてのプライドが邪魔をした。

「でも楽しませるって宣言しちゃったから」

ホラーを選んだことを絶賛後悔中ではあるけど、宣言した気持ちに嘘偽りはないのだ。

「いや、アニメのホラーは大丈夫になったんだよ」
「へぇ、昔は怖かったのか」
「うん。あの国民的アニメの夏の特番、ウサギのぬいぐるみの目がピカッと光ったりする話とか怖すぎてぬいぐるみをママにどかしてもらったもん」
「可愛いな」
「馬鹿にしないで。今は大丈夫なんだから」

そう、アニメなら大丈夫。

怖いには怖いが、もう二次元を三次元である現実と混ぜてしまうことはないから。






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