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満月の夜の公園
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2次元は男。3次元は女が好き。
2次元の男は萌えで、3次元の女は癒し。
だから私に恋は縁遠いものだった。
でも推しそっくりな容姿を持つ3次元の男が居たら。恋をしてもおかしくないと思った。
「プリンはプリンプリン! なっんでそんなに美味しいの~」
ゲームのガチャで想定より少ない回数で推しを引き当てた私は上機嫌だった。お祝いプリンを求め、9時という微妙な時間にコンビニへと向かった帰り道。
まさかピンポイントで暴走族の抗争現場に居合わせるとは思うまい。
私の中のお祝いムードは霧散し、物陰で震えることしかできない。なお、プリンは食べ切った後である。
美味しそうなプリンに目が眩んで公園で食べたりするんじゃなかったと後悔しても遅いのだ。
鈍い音が鳴り続ける。怒声が肌に刺さる。
何の音だかわからないようなアホの子でも能天気でもないため、私はただ身を縮こめ震え続ける。
早く終わって。
時間感覚はとうに失われた。
どれだけ経ったのかはわからないが、音が消えた。今は自然の音しか聞こえない。
立ち去るような足音も大勢分聞こえていたからもう誰もいないのではないだろうか。
物陰からそっと出て物音を立てずけれど素早くこの場を立ち去ろうと出口へ向かう。
「あっれ~? まだ獲物残ってんじゃん」
ひゅ。息が止まる。
私が見つかったのではないことを祈りそっと声の方を振り返る。
立っている男が5人。全員私を目線で捉えていた。
けれどそんなことどうでもいい。鉄棒に座るにやにやと嗤う男も、無表情で人間の頭を踏みつけている男も、そんな男の顔を拭う男も、積み重なっている人間の上に足を組んで座る眼鏡男も。どうでもいい。目に入るただの風景。
私の視線は満月を背景に拳を握り佇む狼のように鋭い目付きの男に囚われたのだから。
私は頼りない足取りで、その男に近づく。
「好きです! 愛してます! どタイプです!」
暫くの間。
緊迫した空気を風が攫っていった。
「は?」
顔を歪め、毛虫を見る目で吐き捨てられた。
「オレらの名前本当に知らないの?」
「知りません」
「ここらで有名じゃん?」
「…………じゃあ聞いたことはあるかもしれません。けど、興味ないことってぽろぽろ抜けちゃうんですよね~」
何故か嗤う男が面白がって、アジトだという所に連れて来られた。
怒らせないために口答えはせず質問にきちんと答えているけど目はどうしても満月の人に行ってしまう。
「あの人の写真撮るのはありでしょうか」
「ん? いいよ~」
けらけらと笑いつつも許可を出してくれた。面白がっているだけのように見える。
それでも撮れるのなら構わないと自分の中で過去1番素早くスマホを取り出し満月の人の横顔を連写する。
「そんなに白夜好き?」
「…………好きです!」
「え、その間何?」
「お名前を存じ上げなかったので。私が今撮らせて貰っている人の名前ですよね?」
「うんそーだよ。そーだけど。え、マジでオレらのこと知らない感じ?」
たっぷりと撮らせてもらい、スマホの容量が限界を迎えた。
「じゃあ帰りますね。ありがとうございました!!」
「えっ!?」
普段は歩きスマホ駄目絶対を信条としている私は、今だけは仕方ないのだと言い訳してスマホのアルバムを開く。
そして現れた撮りたてほやほやのご尊顔に震える。私は抑えきれない衝動を逃そうと小声で叫んでしまう。
「リアル推し最高……!!」
2次元の男は萌えで、3次元の女は癒し。
だから私に恋は縁遠いものだった。
でも推しそっくりな容姿を持つ3次元の男が居たら。恋をしてもおかしくないと思った。
「プリンはプリンプリン! なっんでそんなに美味しいの~」
ゲームのガチャで想定より少ない回数で推しを引き当てた私は上機嫌だった。お祝いプリンを求め、9時という微妙な時間にコンビニへと向かった帰り道。
まさかピンポイントで暴走族の抗争現場に居合わせるとは思うまい。
私の中のお祝いムードは霧散し、物陰で震えることしかできない。なお、プリンは食べ切った後である。
美味しそうなプリンに目が眩んで公園で食べたりするんじゃなかったと後悔しても遅いのだ。
鈍い音が鳴り続ける。怒声が肌に刺さる。
何の音だかわからないようなアホの子でも能天気でもないため、私はただ身を縮こめ震え続ける。
早く終わって。
時間感覚はとうに失われた。
どれだけ経ったのかはわからないが、音が消えた。今は自然の音しか聞こえない。
立ち去るような足音も大勢分聞こえていたからもう誰もいないのではないだろうか。
物陰からそっと出て物音を立てずけれど素早くこの場を立ち去ろうと出口へ向かう。
「あっれ~? まだ獲物残ってんじゃん」
ひゅ。息が止まる。
私が見つかったのではないことを祈りそっと声の方を振り返る。
立っている男が5人。全員私を目線で捉えていた。
けれどそんなことどうでもいい。鉄棒に座るにやにやと嗤う男も、無表情で人間の頭を踏みつけている男も、そんな男の顔を拭う男も、積み重なっている人間の上に足を組んで座る眼鏡男も。どうでもいい。目に入るただの風景。
私の視線は満月を背景に拳を握り佇む狼のように鋭い目付きの男に囚われたのだから。
私は頼りない足取りで、その男に近づく。
「好きです! 愛してます! どタイプです!」
暫くの間。
緊迫した空気を風が攫っていった。
「は?」
顔を歪め、毛虫を見る目で吐き捨てられた。
「オレらの名前本当に知らないの?」
「知りません」
「ここらで有名じゃん?」
「…………じゃあ聞いたことはあるかもしれません。けど、興味ないことってぽろぽろ抜けちゃうんですよね~」
何故か嗤う男が面白がって、アジトだという所に連れて来られた。
怒らせないために口答えはせず質問にきちんと答えているけど目はどうしても満月の人に行ってしまう。
「あの人の写真撮るのはありでしょうか」
「ん? いいよ~」
けらけらと笑いつつも許可を出してくれた。面白がっているだけのように見える。
それでも撮れるのなら構わないと自分の中で過去1番素早くスマホを取り出し満月の人の横顔を連写する。
「そんなに白夜好き?」
「…………好きです!」
「え、その間何?」
「お名前を存じ上げなかったので。私が今撮らせて貰っている人の名前ですよね?」
「うんそーだよ。そーだけど。え、マジでオレらのこと知らない感じ?」
たっぷりと撮らせてもらい、スマホの容量が限界を迎えた。
「じゃあ帰りますね。ありがとうございました!!」
「えっ!?」
普段は歩きスマホ駄目絶対を信条としている私は、今だけは仕方ないのだと言い訳してスマホのアルバムを開く。
そして現れた撮りたてほやほやのご尊顔に震える。私は抑えきれない衝動を逃そうと小声で叫んでしまう。
「リアル推し最高……!!」
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