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ドレイクの仲間 アンドリュー・バロウズ
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「じゃあ、俺は三十ゴールド賭けるぜ」
「う、受けて立とう…」
昼休みの診察室でサーキスとパディはトランプのポーカーで遊んでいた。金を賭けたゲームだ。
「僕はスリーカードだ!」
「俺、フォーカード」
「なんで⁉ どうしてこれで負ける⁉」
サーキスは結局、祖母のフィリアに弟子入りして手品を教えてもらうことになった。しかし、手品を教えてもらうにあたって一つ条件があった。サーキスが手品ができるようになっても決して自分が手品師であることを明かさないこと。フィリアの時のようにいざという時に手品の技術を使えということである。
盗賊並みの器用さを持つサーキスはあっという間に手品を覚えた。フィリアが何年もかかったことをたった二週間ほどで習得してしまい、義理の祖母を驚かせた。
そして、その使い道は限られており、こんな貧乏な医者をカモにして金を巻き上げる他、遊び方がなかった。
「今度はストレートフラッシュだぜ」
「何でそんな役が揃うの⁉ おかしくないかい⁉」
眼鏡の医者は咳き込みながら、半ベソをかいている。
「こうなったら今月分の家賃をつかって金を取り戻すしか!」
見ていたリリカが慌てて間に入った。
「もう先生、やめてください!」
「いいよ、もうお金は返すよ」
「え…。いいの? んー…男として情けないけど、じゃあいただいておくよ…」
サーキスは欲求不満を募らせていた。
(普通に手品がやりたいよぉー!)
*
「ごめん! 先生! リリカ! サーキスいるかー!」
昼休みが終わると玄関から野太い声がした。訪問者は屈強なドラゴンの戦士、ドレイクだった。今日も彼は武器も持たない普段着で登場。パディ達三人が揃って玄関まで迎えに行き、彼を歓迎した。
「ドレイクさんお久しぶりー! お尻は大丈夫?」
「ははは! 毎回訊かれるな! なるだけオルバンに乗らないようにしているよ。それとできるだけ湯船に浸かって尻をほぐしている。魔女のマーガレットとも仲良くやってるよ。マーガレットは訳ありで近隣の街に置いて来た。…それで今日はまた患者を連れて来たんだ」
「どこにいるの? ドレイクさん一人にしか見えませんよ?」
「すまないが、奴はスレーゼンが珍しいらしく遊びに出かけてしまった。自由気ままで勝手な奴だ。戻って来るまで少し待ってくれ」
一同は思った。
(病院に行かないといけないぐらい具合が悪いのになぜ遊びに行けるんだろう…)
「それじゃあ…!」
サーキスが目を輝かせて言った。
「オーディンはどうなったの⁉ この前はマーガレットさんがすぐに帰ったから続きが聞けなかったんだ! ブラハム王国のある村をオーディンが破壊しようとしてたんだよね!? それもドレイクさんの痔のせいで戦いが一か月延期になったんだ!」
「そうだったそうだった。悲しい別れだった…」
サーキス、パディ、リリカの三人は待合室に座ってドレイクの話をゆっくりと聞くことにした。
「パディ先生のおかげで尻が治った私はオーディンと果し合いの日、ブラハム王国の村の丘で約束通り彼と対峙した。相手は馬と合わせて全長七メートルはある大物だ。私は震えた。私とオルバンは死闘の末、何とかオーディンを倒すことができた。
オーディンの死に際に私達は会話を交わした。本当は彼は村を襲撃する気など初めからなかったらしい。彼は人間が好きだったそうだ。しかし、オーディンは自分より力がある魔王に服従していた。
彼は世界を支配しようとする魔王に歯向かって倒したいとも考えていたが、力の差は目に見えていたらしい。それで自分を倒せる人間に自身の意思を託そうと考えたそうだ。
オーディンは息を引き取る直前にこう言った。『人々を救ってくれ』と」
「オーディーーン!」
涙腺が弱いサーキスがもう泣いている。
「せ、せっかくだったから…、ドレイクさんはオーディンと仲間になればよかったね…。うっうっ…」
「私もそれは考えた…。残念だった…」
湿っぽい雰囲気の中、現実主義者のリリカは思った。
(オーディンみたいな巨体のモンスターとパーティーを組んだら、宿屋とか道具屋の中に入って行けないでしょ? 入り口の扉壊すわよ…。…そんなこと言ったらこの人達はきっと逆上するわね。うん。黙っておこう)
「それからマーガレットを仲間にした。マーガレットばあさんはセリーンの勇者の武具、セリーンの籠手を持っていた。導き合わせだな。それで気が付いたことがある。セリーンの勇者以外、セリーンの防具を装備することはできないが、防具達は持ち主を選んでいることを知った。
…一度、マーガレットが酒場のテーブルに籠手を忘れたことがあった…。その籠手を他人が触ろうとしていたが、そいつは持ち上げることができなかったのだ」
(やっぱりいちいちセリーンの兜を人にかぶせる必要はなかったんだ…)
「私はそれでセリーンの装備探しに一層力を入れた。そしてセリーンの盾を持つ賢者を見つけ出した。それもその男は過去にセリーンの盾を装備できる人間とパーティーを組んでいたらしい! その賢者は魔法使いの呪文も僧侶の呪文もレベル八までオール九回使える天才らしい!」
「おお! やったー! もうすぐ旅が終わるんじゃないのか⁉」
サーキスが歓声を上げたが、すぐに疑問を言った。
「…え? いや、勇者が迷子になっているんだったら、その賢者にさっさと捜索の呪文を使ってもらって勇者の場所を探せばいいじゃない? それに『らしい』って何なの?」
そこで病院の玄関が音を立てて開いた。訪れたのは長髪の色男。無言で指二本を立てて決めポーズ、ウインクをした。そして彼が脇に挟んでいたスケッチブックを手に取り、鉛筆で何かを書くとこちらにそれを見せつけた。
『俺はアンドリュー・バロウズ! バロウズって呼んでくれ! よろしくな!』
ドレイクが説明した。
「見ての通り、彼は声が出ない。何かの病気にかかっているらしい。それで呪文も唱えられなくなったんだ…。ちなみに彼は二十八歳」
バロウズがまた何かを書いてこちらに見せた。
『なあ、ドレイク。さっきナンパに成功しかけて、女の子と喫茶店でスケッチブックで会話してたんだけど、その子の方が周りの目を気にして苦笑いで帰っちゃった。声が出ないってそんなに悪いことなのか? 偏見だよなあ…』
一同がコメントに困っていると今度はバロウズがリリカの顔をジロジロと見る。かと思えば目を輝かせてスケッチブックに文字を書いた。
『君かわいいねえ! よかったら俺とお茶しない⁉』
(さっき失恋したのにもう違う相手を探してるの⁉ そのターゲットがあたしなんて⁉ 気持ち悪い! 生理的に全く受け付けないわ!)
リリカはバロウズの言葉を無視してドレイクに質問した。
「ドレイクさん? バロウズさんって今までどうしてたの? 賢者が声を出せないって致命的じゃない?」
「私がバロウズを見つけた時、彼はホームレスになっていた。冒険者としての需要がない彼は無職になっていたのだ。そしてセリーンの盾を枕にして寝ていた」
『盾は枕にもなるし、洗濯板にも使える。バーベキューをしてもいい。軽い、錆びない、焦げない! 最高だ!』
パディが椅子から立ち上がっておずおずと言った。
「僕は医者のパディです。初めまして。この場で失礼ですけど、診察しますね。あ、道具が要るか…。少々お待ちください」
パディは診察室に戻って棒に小さい鏡が付いた道具、喉頭鏡を取って来る。そして椅子に座ったバロウズの顔を覗く。
「はい、口を大きく開けてー。あーん!」
バロウズが口を開くとパディは鏡を口蓋垂(のどちんこ)の辺りに設置。すると咽頭にある声帯に大きなできものが見えた。二枚ある声帯の両側に。パディの診断は早かった。
「声帯ポリープですね。かなり長い間放置されていたようだ。おそらく最初のうちはかすれながらも声が出ていたと思うけど、次第に声が出なくなっていった…。そんな感じでは?」
バロウズが頭を縦に振る。
「喉には左右に二本のヒダ状のものがあります。それを動かして空気を振動させて声を出しているのです。そこに炎症か何かでできものができた。最初は片方だけできていたと思いますが、長期間放置したためにポリープが大きくなって隣にもできてしまった…。あ、切れば治りますよ」
『マジか⁉ どこの医者も怪しい薬をくれるだけで治せなかったぜ⁉ 本当かあんた⁉』
「バロウズ。だから言っただろ。パディ先生は天才だと」
「手術後にすぐに声が出るわけではありません。予後観察でしばらく入院してもらいます。食事はなるだけおいしいものを用意しますよ!」
『俺のセクシーボイスが帰って来る! 君ともお話できるようになるよ!』
バロウズがスケッチブックをリリカに向けたが、彼女は無視して手術の準備を始めた。
*
バロウズは手術後、一週間ほど入院して何とか呪文が唱えられるぐらいまでに喉が回復した。入院中、リリカは一切彼に関わらなかった。バロウズの世話はパディとサーキスが行なった。
ドレイクとバロウズがオルバンに乗って帰るとひょっこりとリリカが顔を出した。
「やっと帰ってくれたわ…。よかった…。同じ屋根の下に住んでたから顔を合わさないようにするのがたいへんだった…」
「患者さんを毛嫌いしたら駄目だぜ。バロウズさんは発声練習をする時、お前を空のドライブとかに誘おうと必死だったんだぜ。かすれた声で『リリカちゃん、お茶しよう。一緒にオルバンに乗ろう。遊びに行こう』って何千回も言ってたんだぜ。お前が原動力だったんだ!」
「無理なものは無理なのよ!」
パディが腕組みをしながら言った。
「勇者はきっと見つかるね。ドレイクさんはもう来ないかな。用がなくてもまた来て欲しいけどなー」
「う、受けて立とう…」
昼休みの診察室でサーキスとパディはトランプのポーカーで遊んでいた。金を賭けたゲームだ。
「僕はスリーカードだ!」
「俺、フォーカード」
「なんで⁉ どうしてこれで負ける⁉」
サーキスは結局、祖母のフィリアに弟子入りして手品を教えてもらうことになった。しかし、手品を教えてもらうにあたって一つ条件があった。サーキスが手品ができるようになっても決して自分が手品師であることを明かさないこと。フィリアの時のようにいざという時に手品の技術を使えということである。
盗賊並みの器用さを持つサーキスはあっという間に手品を覚えた。フィリアが何年もかかったことをたった二週間ほどで習得してしまい、義理の祖母を驚かせた。
そして、その使い道は限られており、こんな貧乏な医者をカモにして金を巻き上げる他、遊び方がなかった。
「今度はストレートフラッシュだぜ」
「何でそんな役が揃うの⁉ おかしくないかい⁉」
眼鏡の医者は咳き込みながら、半ベソをかいている。
「こうなったら今月分の家賃をつかって金を取り戻すしか!」
見ていたリリカが慌てて間に入った。
「もう先生、やめてください!」
「いいよ、もうお金は返すよ」
「え…。いいの? んー…男として情けないけど、じゃあいただいておくよ…」
サーキスは欲求不満を募らせていた。
(普通に手品がやりたいよぉー!)
*
「ごめん! 先生! リリカ! サーキスいるかー!」
昼休みが終わると玄関から野太い声がした。訪問者は屈強なドラゴンの戦士、ドレイクだった。今日も彼は武器も持たない普段着で登場。パディ達三人が揃って玄関まで迎えに行き、彼を歓迎した。
「ドレイクさんお久しぶりー! お尻は大丈夫?」
「ははは! 毎回訊かれるな! なるだけオルバンに乗らないようにしているよ。それとできるだけ湯船に浸かって尻をほぐしている。魔女のマーガレットとも仲良くやってるよ。マーガレットは訳ありで近隣の街に置いて来た。…それで今日はまた患者を連れて来たんだ」
「どこにいるの? ドレイクさん一人にしか見えませんよ?」
「すまないが、奴はスレーゼンが珍しいらしく遊びに出かけてしまった。自由気ままで勝手な奴だ。戻って来るまで少し待ってくれ」
一同は思った。
(病院に行かないといけないぐらい具合が悪いのになぜ遊びに行けるんだろう…)
「それじゃあ…!」
サーキスが目を輝かせて言った。
「オーディンはどうなったの⁉ この前はマーガレットさんがすぐに帰ったから続きが聞けなかったんだ! ブラハム王国のある村をオーディンが破壊しようとしてたんだよね!? それもドレイクさんの痔のせいで戦いが一か月延期になったんだ!」
「そうだったそうだった。悲しい別れだった…」
サーキス、パディ、リリカの三人は待合室に座ってドレイクの話をゆっくりと聞くことにした。
「パディ先生のおかげで尻が治った私はオーディンと果し合いの日、ブラハム王国の村の丘で約束通り彼と対峙した。相手は馬と合わせて全長七メートルはある大物だ。私は震えた。私とオルバンは死闘の末、何とかオーディンを倒すことができた。
オーディンの死に際に私達は会話を交わした。本当は彼は村を襲撃する気など初めからなかったらしい。彼は人間が好きだったそうだ。しかし、オーディンは自分より力がある魔王に服従していた。
彼は世界を支配しようとする魔王に歯向かって倒したいとも考えていたが、力の差は目に見えていたらしい。それで自分を倒せる人間に自身の意思を託そうと考えたそうだ。
オーディンは息を引き取る直前にこう言った。『人々を救ってくれ』と」
「オーディーーン!」
涙腺が弱いサーキスがもう泣いている。
「せ、せっかくだったから…、ドレイクさんはオーディンと仲間になればよかったね…。うっうっ…」
「私もそれは考えた…。残念だった…」
湿っぽい雰囲気の中、現実主義者のリリカは思った。
(オーディンみたいな巨体のモンスターとパーティーを組んだら、宿屋とか道具屋の中に入って行けないでしょ? 入り口の扉壊すわよ…。…そんなこと言ったらこの人達はきっと逆上するわね。うん。黙っておこう)
「それからマーガレットを仲間にした。マーガレットばあさんはセリーンの勇者の武具、セリーンの籠手を持っていた。導き合わせだな。それで気が付いたことがある。セリーンの勇者以外、セリーンの防具を装備することはできないが、防具達は持ち主を選んでいることを知った。
…一度、マーガレットが酒場のテーブルに籠手を忘れたことがあった…。その籠手を他人が触ろうとしていたが、そいつは持ち上げることができなかったのだ」
(やっぱりいちいちセリーンの兜を人にかぶせる必要はなかったんだ…)
「私はそれでセリーンの装備探しに一層力を入れた。そしてセリーンの盾を持つ賢者を見つけ出した。それもその男は過去にセリーンの盾を装備できる人間とパーティーを組んでいたらしい! その賢者は魔法使いの呪文も僧侶の呪文もレベル八までオール九回使える天才らしい!」
「おお! やったー! もうすぐ旅が終わるんじゃないのか⁉」
サーキスが歓声を上げたが、すぐに疑問を言った。
「…え? いや、勇者が迷子になっているんだったら、その賢者にさっさと捜索の呪文を使ってもらって勇者の場所を探せばいいじゃない? それに『らしい』って何なの?」
そこで病院の玄関が音を立てて開いた。訪れたのは長髪の色男。無言で指二本を立てて決めポーズ、ウインクをした。そして彼が脇に挟んでいたスケッチブックを手に取り、鉛筆で何かを書くとこちらにそれを見せつけた。
『俺はアンドリュー・バロウズ! バロウズって呼んでくれ! よろしくな!』
ドレイクが説明した。
「見ての通り、彼は声が出ない。何かの病気にかかっているらしい。それで呪文も唱えられなくなったんだ…。ちなみに彼は二十八歳」
バロウズがまた何かを書いてこちらに見せた。
『なあ、ドレイク。さっきナンパに成功しかけて、女の子と喫茶店でスケッチブックで会話してたんだけど、その子の方が周りの目を気にして苦笑いで帰っちゃった。声が出ないってそんなに悪いことなのか? 偏見だよなあ…』
一同がコメントに困っていると今度はバロウズがリリカの顔をジロジロと見る。かと思えば目を輝かせてスケッチブックに文字を書いた。
『君かわいいねえ! よかったら俺とお茶しない⁉』
(さっき失恋したのにもう違う相手を探してるの⁉ そのターゲットがあたしなんて⁉ 気持ち悪い! 生理的に全く受け付けないわ!)
リリカはバロウズの言葉を無視してドレイクに質問した。
「ドレイクさん? バロウズさんって今までどうしてたの? 賢者が声を出せないって致命的じゃない?」
「私がバロウズを見つけた時、彼はホームレスになっていた。冒険者としての需要がない彼は無職になっていたのだ。そしてセリーンの盾を枕にして寝ていた」
『盾は枕にもなるし、洗濯板にも使える。バーベキューをしてもいい。軽い、錆びない、焦げない! 最高だ!』
パディが椅子から立ち上がっておずおずと言った。
「僕は医者のパディです。初めまして。この場で失礼ですけど、診察しますね。あ、道具が要るか…。少々お待ちください」
パディは診察室に戻って棒に小さい鏡が付いた道具、喉頭鏡を取って来る。そして椅子に座ったバロウズの顔を覗く。
「はい、口を大きく開けてー。あーん!」
バロウズが口を開くとパディは鏡を口蓋垂(のどちんこ)の辺りに設置。すると咽頭にある声帯に大きなできものが見えた。二枚ある声帯の両側に。パディの診断は早かった。
「声帯ポリープですね。かなり長い間放置されていたようだ。おそらく最初のうちはかすれながらも声が出ていたと思うけど、次第に声が出なくなっていった…。そんな感じでは?」
バロウズが頭を縦に振る。
「喉には左右に二本のヒダ状のものがあります。それを動かして空気を振動させて声を出しているのです。そこに炎症か何かでできものができた。最初は片方だけできていたと思いますが、長期間放置したためにポリープが大きくなって隣にもできてしまった…。あ、切れば治りますよ」
『マジか⁉ どこの医者も怪しい薬をくれるだけで治せなかったぜ⁉ 本当かあんた⁉』
「バロウズ。だから言っただろ。パディ先生は天才だと」
「手術後にすぐに声が出るわけではありません。予後観察でしばらく入院してもらいます。食事はなるだけおいしいものを用意しますよ!」
『俺のセクシーボイスが帰って来る! 君ともお話できるようになるよ!』
バロウズがスケッチブックをリリカに向けたが、彼女は無視して手術の準備を始めた。
*
バロウズは手術後、一週間ほど入院して何とか呪文が唱えられるぐらいまでに喉が回復した。入院中、リリカは一切彼に関わらなかった。バロウズの世話はパディとサーキスが行なった。
ドレイクとバロウズがオルバンに乗って帰るとひょっこりとリリカが顔を出した。
「やっと帰ってくれたわ…。よかった…。同じ屋根の下に住んでたから顔を合わさないようにするのがたいへんだった…」
「患者さんを毛嫌いしたら駄目だぜ。バロウズさんは発声練習をする時、お前を空のドライブとかに誘おうと必死だったんだぜ。かすれた声で『リリカちゃん、お茶しよう。一緒にオルバンに乗ろう。遊びに行こう』って何千回も言ってたんだぜ。お前が原動力だったんだ!」
「無理なものは無理なのよ!」
パディが腕組みをしながら言った。
「勇者はきっと見つかるね。ドレイクさんはもう来ないかな。用がなくてもまた来て欲しいけどなー」
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