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ラウカー寺院とサフラン(2)
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サーキスが胸を叩いて了解した。
「おう、いいぜ! 任せとけ!」
ミアがファナに耳打ちする。
「すみません、ファナさん」
「いいよいいよ! 私も力になりたいよ! …でもサーキスとギルって絆っていうか友情を感じるね」
「ふふふ。ですね。ギルはサーキスさんもセルガーさんのこともいつも友達じゃないって言ってるけど、無意識でたまに友人って言ってますの。素敵な関係ですね」
「そうだね。それからお土産のパウンドケーキありがとう! リリカと先生にあげるね」
「よろしくお伝えください」
そして別れの時間になった。サーキスが腰を下ろしてサフランに言う。
「それじゃあサフラン。俺と一緒に病院に行こうか? 木こりのお医者さんがお前の脚を診てくれるぜ。カカシさんもいるぞ」
「わー行きたい! ライオンさんと一緒に行くー!」
それを聞いた子供達が羨ましがった。
「いいなあ!」
「僕も行きたい!」
「こらこら。遊びに行くのではありません。ではサーキスさん、サフランをよろしくお願いします」
ミアの後にギルも続いて言った。
「たぶん手術が必要になると思う。その時はお前達の判断に任せる。責任は俺が持つから気にするな。数日後に俺がサフランを迎えに行く。代金はセルガーが払うから大丈夫だ」
「了解だ。じゃあまた来るぜ」
「みんな、今日はありがとう!」
「サーキスさん、ファナさん。今日は楽しかったですわ!」
「さようならー!」
サーキスはファナとサフランの手を握って帰還の呪文を唱えた。三人が瞬時にその場から消える。そこでジョセフが言った。
「僕もこっそり付いて行けばよかったー。スレーゼンで遊びたかったよー」
「そう思って貴様には目を光らせていた。もしもあいつらに付いて行っていたら俺からどういう目に遭ったと思う⁉」
ギルから怒られてジョセフはしょんぼりとした。
「行かなくてよかったよ…」
子供達は大笑いした。
*
サーキス達が病院の前に現れるとファナが言った。
「病院に帰って来るんだー! すごーい! 彼氏が僧侶っていいこといっぱい!」
ファナから聞く彼氏という言葉は毎回サーキスの気持ちを有頂天にさせた。
「ふっふふ! サフラン、ここが病院だよ。木こりのお医者さんに会いに行こう」
サーキスとサフラン、ファナの三人が玄関を通って診察室に顔を出すとパディとリリカが驚いた。
「ただいまー」
急患はいなかったようでサーキスはほっとした。ファナも朗らかに帰宅を報告する。
「ただいま、リリカに先生! 孤児院はすごく楽しかったよー!」
「お、お帰り早かったね! 君は誰かなー? こんにちはー!」
サフランは軽い天然パーマと眼鏡の先生を見てとっさに指差して言った。
「木こりさん! こんにちは! 私はサフラン!」
「あー! オズの魔法使いを読んだんだね。ということは孤児院の子供さんだね。サーキスと一緒に遊びに来たのかなー? ほらそこにはカカシさんがいるよー」
リリカも遅れて挨拶した。
「サフランっていうのね。こんにちは」
「頭いいカカシさん!」
「ありがとう! やっぱりとってもいい絵本でしたよね! 最高でしたよ、先生!」
ファナが腕組みをしながら言う。
「そうかなー? 主人公のドロシーの影が薄いのはどうかと思うけど?」
「じゃあ今度は違う絵本を描いてもらおうかな。ファナ君がガラスの靴を履いて王宮で王子様とダンスを踊る話はどうだい?」
「何それ素敵⁉ 面白そう!」
ファナ達が新しく聞く物語に夢中になる。サフランも目を輝かせて見たい聞きたいと手を上げた。話題が静まったところにサーキスが冷静に言った。
「本題だけど、サフランは患者さんとしてギルから預かって来たんだ。ギルが宝箱でサフランを視たらしく、右股間の骨がおかしいと言っていた」
「ふむふむ。サフランにちょっとベッドに横になってもらおうか」
パディは表面上からは何も情報が得られないと思ったのか、サーキスに宝箱で右股関節を視てもらう。すると彼が言うには骨が陥没しているらしい。
「ほ、骨の色もかなり悪いぜ…」
「その骨の中に血は通ってる?」
骨には血管が通っている。これはサーキスもパディから習わずとも、直接、目で見て覚えたことだった。
「上の方が血が通ってない…」
詳しく知るためにサーキスから骨の絵を描いてもらった。パディが見たところ潰れている骨は大腿骨だった。
「なるほど。これは大腿骨骨頭壊死だね。骨の潰れ具合からかなり痛いはずだ…。サフラーン?」
パディがサフランに優しく声をかけた。
「脚はすっごく痛いんじゃないの?」
「すごい痛ーい!」
サーキスが解説した。
「ギルが言うにはサフランは我慢強いらしい」
「正直言って状態は良くない。このままだと立てなくなる。連れて来てくれてよかったよ。手術すれば普通に歩けるようになる。一応、保護者の許可はもらいたいんだけど…」
「それなら俺達に一任された」
ファナも続いて言った。
「手術をするなら私達の判断に任せるってギルから言われたよ。責任はギルが持つって言ってた。先生がやると言うなら私は賛成だよ! 私も責任持つよ!」
「俺からも頼むよ!」
出会ってすぐではあったが、サーキスはサフランに気持ちを入れ込んでいた。
「よし、ではやろう。手術内容は右大腿骨骨頭の切除だ。骨は一旦なくなるが、回復呪文でまた伸びる。僕の経験上、おおかた健康な骨が生えてくるはずだ。…サフラン? 脚の手術をするけどいいかな? 痛くなくなるよ?」
「よくわからないけど木こりさんが言うならするー!」
「君は勇敢だねえ! よしよし」
パディはオズの魔法使いを描いてもらってよかったと心底思った。
*
手術が終わり、切り取られたサフランの骨がトレイに乗っている。頭が陥没した骨だ。ベッドでサフランは静かに眠っている。サーキスは宝箱で彼女の股関節を確認したが、パディが言った通り骨が伸びていた。今度の骨は血流もいい。
「先生、本当にありがとう。どうしてもサフランは助けて欲しかった」
「どういたしまして」
(彼女は何か特別なものがあるのかな)
サーキスに勘ぐってもきっとまた何も話してくれないだろう。パディは彼が打ち明けることをただ待つのみだった。そして手術の後片付けも終わるとリリカがサーキスに言った。
「あんたは今日はお休みのはずだったからもう帰っていいわよ。サフランはあたしが預かる。今夜はあたしのベッドで一緒に眠ることにするわ。たまには患者さんと寝るのもいいわね」
「ありがとう。それからお土産のケーキ、食ってくれよ」
*
翌朝、サーキスが病院へ行くとサフランが元気にあちこち歩きまわっていた。昨日、足を引きずって歩いていた彼女が嘘のようだ。
「ライオンさん、おはよう!」
「おはようサフラン。脚は大丈夫か?」
「うん! ありがとう! すごい歩けるー! 呪文でも治らなかったのに木こりさんすごーい!」
「サーキス、サフランが元気になってたいへんよ! 意外とおてんばね。それにこの子は僧侶だったのね。びっくりしたわ。…それでね、あんたにお小遣いをあげるからサフランのリハビリがてらに遊んで来なさいよ」
「おう、サンキュー。じゃあサフラン、ドロシーに脚が治ったって報告に行こうか?」
「行くー!」
そうしてサーキスはサフランの手を引いて出発した。後ろから二人を眺めていたリリカはサーキスは良い父になるだろうと想像した。
翌日、ギルがサフランを迎えに来た。別れ際にサフランは泣いてサーキスに抱きついた。
「ライオンさん達とさよならしたくないー!」
お互いになんとも惜しいお別れとなった。
サフラン達が孤児院へ帰り、十日ほど経った頃、サーキス宛にミアから手紙が届いた。
『親愛なるサーキスさん
先日はサフランのことをありがとうございました。
脚が治ってサフランは走り回って元気に遊んでおります。
以前はサフランは部屋に引きこもって呪文の書を読みふける性格でした。今ではみんなの和の中に入って毎日遊んでいます。健康は素晴らしいことだと再認識させられました。
サーキスさんも、そちらでサフランに呪文のことを厳しく伝えたみたいですね。あれから勝手に呪文を使ったりしてはいないみたいです。代わりに怪我をした人をうちの寺院まで案内していました。彼女の変わりようがとても嬉しいです。
ご存知かと思いますが、私達夫婦は立派な僧侶など育てようとは思っていません。子供達の幸せだけを願っています。
病院の皆さんにもよろしくお伝えください。
ミア・ラウカー』
「おう、いいぜ! 任せとけ!」
ミアがファナに耳打ちする。
「すみません、ファナさん」
「いいよいいよ! 私も力になりたいよ! …でもサーキスとギルって絆っていうか友情を感じるね」
「ふふふ。ですね。ギルはサーキスさんもセルガーさんのこともいつも友達じゃないって言ってるけど、無意識でたまに友人って言ってますの。素敵な関係ですね」
「そうだね。それからお土産のパウンドケーキありがとう! リリカと先生にあげるね」
「よろしくお伝えください」
そして別れの時間になった。サーキスが腰を下ろしてサフランに言う。
「それじゃあサフラン。俺と一緒に病院に行こうか? 木こりのお医者さんがお前の脚を診てくれるぜ。カカシさんもいるぞ」
「わー行きたい! ライオンさんと一緒に行くー!」
それを聞いた子供達が羨ましがった。
「いいなあ!」
「僕も行きたい!」
「こらこら。遊びに行くのではありません。ではサーキスさん、サフランをよろしくお願いします」
ミアの後にギルも続いて言った。
「たぶん手術が必要になると思う。その時はお前達の判断に任せる。責任は俺が持つから気にするな。数日後に俺がサフランを迎えに行く。代金はセルガーが払うから大丈夫だ」
「了解だ。じゃあまた来るぜ」
「みんな、今日はありがとう!」
「サーキスさん、ファナさん。今日は楽しかったですわ!」
「さようならー!」
サーキスはファナとサフランの手を握って帰還の呪文を唱えた。三人が瞬時にその場から消える。そこでジョセフが言った。
「僕もこっそり付いて行けばよかったー。スレーゼンで遊びたかったよー」
「そう思って貴様には目を光らせていた。もしもあいつらに付いて行っていたら俺からどういう目に遭ったと思う⁉」
ギルから怒られてジョセフはしょんぼりとした。
「行かなくてよかったよ…」
子供達は大笑いした。
*
サーキス達が病院の前に現れるとファナが言った。
「病院に帰って来るんだー! すごーい! 彼氏が僧侶っていいこといっぱい!」
ファナから聞く彼氏という言葉は毎回サーキスの気持ちを有頂天にさせた。
「ふっふふ! サフラン、ここが病院だよ。木こりのお医者さんに会いに行こう」
サーキスとサフラン、ファナの三人が玄関を通って診察室に顔を出すとパディとリリカが驚いた。
「ただいまー」
急患はいなかったようでサーキスはほっとした。ファナも朗らかに帰宅を報告する。
「ただいま、リリカに先生! 孤児院はすごく楽しかったよー!」
「お、お帰り早かったね! 君は誰かなー? こんにちはー!」
サフランは軽い天然パーマと眼鏡の先生を見てとっさに指差して言った。
「木こりさん! こんにちは! 私はサフラン!」
「あー! オズの魔法使いを読んだんだね。ということは孤児院の子供さんだね。サーキスと一緒に遊びに来たのかなー? ほらそこにはカカシさんがいるよー」
リリカも遅れて挨拶した。
「サフランっていうのね。こんにちは」
「頭いいカカシさん!」
「ありがとう! やっぱりとってもいい絵本でしたよね! 最高でしたよ、先生!」
ファナが腕組みをしながら言う。
「そうかなー? 主人公のドロシーの影が薄いのはどうかと思うけど?」
「じゃあ今度は違う絵本を描いてもらおうかな。ファナ君がガラスの靴を履いて王宮で王子様とダンスを踊る話はどうだい?」
「何それ素敵⁉ 面白そう!」
ファナ達が新しく聞く物語に夢中になる。サフランも目を輝かせて見たい聞きたいと手を上げた。話題が静まったところにサーキスが冷静に言った。
「本題だけど、サフランは患者さんとしてギルから預かって来たんだ。ギルが宝箱でサフランを視たらしく、右股間の骨がおかしいと言っていた」
「ふむふむ。サフランにちょっとベッドに横になってもらおうか」
パディは表面上からは何も情報が得られないと思ったのか、サーキスに宝箱で右股関節を視てもらう。すると彼が言うには骨が陥没しているらしい。
「ほ、骨の色もかなり悪いぜ…」
「その骨の中に血は通ってる?」
骨には血管が通っている。これはサーキスもパディから習わずとも、直接、目で見て覚えたことだった。
「上の方が血が通ってない…」
詳しく知るためにサーキスから骨の絵を描いてもらった。パディが見たところ潰れている骨は大腿骨だった。
「なるほど。これは大腿骨骨頭壊死だね。骨の潰れ具合からかなり痛いはずだ…。サフラーン?」
パディがサフランに優しく声をかけた。
「脚はすっごく痛いんじゃないの?」
「すごい痛ーい!」
サーキスが解説した。
「ギルが言うにはサフランは我慢強いらしい」
「正直言って状態は良くない。このままだと立てなくなる。連れて来てくれてよかったよ。手術すれば普通に歩けるようになる。一応、保護者の許可はもらいたいんだけど…」
「それなら俺達に一任された」
ファナも続いて言った。
「手術をするなら私達の判断に任せるってギルから言われたよ。責任はギルが持つって言ってた。先生がやると言うなら私は賛成だよ! 私も責任持つよ!」
「俺からも頼むよ!」
出会ってすぐではあったが、サーキスはサフランに気持ちを入れ込んでいた。
「よし、ではやろう。手術内容は右大腿骨骨頭の切除だ。骨は一旦なくなるが、回復呪文でまた伸びる。僕の経験上、おおかた健康な骨が生えてくるはずだ。…サフラン? 脚の手術をするけどいいかな? 痛くなくなるよ?」
「よくわからないけど木こりさんが言うならするー!」
「君は勇敢だねえ! よしよし」
パディはオズの魔法使いを描いてもらってよかったと心底思った。
*
手術が終わり、切り取られたサフランの骨がトレイに乗っている。頭が陥没した骨だ。ベッドでサフランは静かに眠っている。サーキスは宝箱で彼女の股関節を確認したが、パディが言った通り骨が伸びていた。今度の骨は血流もいい。
「先生、本当にありがとう。どうしてもサフランは助けて欲しかった」
「どういたしまして」
(彼女は何か特別なものがあるのかな)
サーキスに勘ぐってもきっとまた何も話してくれないだろう。パディは彼が打ち明けることをただ待つのみだった。そして手術の後片付けも終わるとリリカがサーキスに言った。
「あんたは今日はお休みのはずだったからもう帰っていいわよ。サフランはあたしが預かる。今夜はあたしのベッドで一緒に眠ることにするわ。たまには患者さんと寝るのもいいわね」
「ありがとう。それからお土産のケーキ、食ってくれよ」
*
翌朝、サーキスが病院へ行くとサフランが元気にあちこち歩きまわっていた。昨日、足を引きずって歩いていた彼女が嘘のようだ。
「ライオンさん、おはよう!」
「おはようサフラン。脚は大丈夫か?」
「うん! ありがとう! すごい歩けるー! 呪文でも治らなかったのに木こりさんすごーい!」
「サーキス、サフランが元気になってたいへんよ! 意外とおてんばね。それにこの子は僧侶だったのね。びっくりしたわ。…それでね、あんたにお小遣いをあげるからサフランのリハビリがてらに遊んで来なさいよ」
「おう、サンキュー。じゃあサフラン、ドロシーに脚が治ったって報告に行こうか?」
「行くー!」
そうしてサーキスはサフランの手を引いて出発した。後ろから二人を眺めていたリリカはサーキスは良い父になるだろうと想像した。
翌日、ギルがサフランを迎えに来た。別れ際にサフランは泣いてサーキスに抱きついた。
「ライオンさん達とさよならしたくないー!」
お互いになんとも惜しいお別れとなった。
サフラン達が孤児院へ帰り、十日ほど経った頃、サーキス宛にミアから手紙が届いた。
『親愛なるサーキスさん
先日はサフランのことをありがとうございました。
脚が治ってサフランは走り回って元気に遊んでおります。
以前はサフランは部屋に引きこもって呪文の書を読みふける性格でした。今ではみんなの和の中に入って毎日遊んでいます。健康は素晴らしいことだと再認識させられました。
サーキスさんも、そちらでサフランに呪文のことを厳しく伝えたみたいですね。あれから勝手に呪文を使ったりしてはいないみたいです。代わりに怪我をした人をうちの寺院まで案内していました。彼女の変わりようがとても嬉しいです。
ご存知かと思いますが、私達夫婦は立派な僧侶など育てようとは思っていません。子供達の幸せだけを願っています。
病院の皆さんにもよろしくお伝えください。
ミア・ラウカー』
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