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オズの魔法使い(2)
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「じゃーん! パディ先生の国で大人気の物語! オズの魔法使いだよ! この本は先生から孤児院に進呈するよ」
サーキスには聞いたこともない話だった。絵本の表紙には荒野にたたずむフレアスカートの少女と一匹の犬が描かれていた。少女は明るい髪でボブカット、顎には小さなホクロがあった。主人公と思しき少女はファナのようにも見えた。
題名の下には原作者にライマン・フランク・ボームと書かれている。さらに脚色にはパディ・ライス、絵ナタリー・エーデルとあった。パディ医師が脚色した話を食堂のナタリーが絵にしたようだ。
ファナは二人で絵本が読めるようにサーキスと膝をくっつけた。それだけでもう彼の気持ちはいっぱいになった。ファナが絵本のページをめくる。
「この話はね、カンザスっていう所から主人公のドロシー推定十二歳と犬のトトが家ごと竜巻に飛ばされて魔法の国で冒険するお話なんだよ!」
ドロシーは北の魔女に西の悪い魔女をやっつけるように頼まれる。そうすればカンザスに帰してもらえるらしい。いささか荒唐無稽なストーリーではあるが、なるほど子供向けだとサーキスは思った。
そしてドロシーは不思議な三人と仲間になる。一人はブリキの木こり。青いバケツのようなものがいくつも重なって人の形を作っている。片手には木こりらしく斧を持っている。面白いことに頭には頭髪があって髪型は軽い天然パーマ。眼鏡をかけていた。まるでパディ医師だ。
「木こりはパディ先生に似てるね!」
もう一人は手足が木でできているカカシ。麦わら帽子をかぶった女の子のカカシだ。布の顔には毛糸の金髪が生えている。髪型はツインテールだ。
「ほら、カカシさんはリリカだよ!」
最後にライオンが登場した。
「ほらほら! このライオン、オスなのにたてがみがないよ!」
ライオンは顔の周りにたてがみが一切なく、代わりに頭の上に金色の短髪が乗っている。ヤブにらみの目で顔はサーキスに似ていた。その絵のライオンは後ろ足で顔をかいている。
木こりとカカシとライオンはそれぞれ、命と知恵と勇気を持っておらず、それらを求めてドロシーと旅をする。ファナが読み聞かせる。
『さっそく悪い魔女がドロシー達へ攻撃して来ました。たくさんの狼がドロシー達を襲って来ました。木こりがみんなの前に出ます。木こりは言いました。
「僕は噛まれても痛くないよ」
木こりは狼に怪我をさせないように斧の裏で狼達の頭をこつんこつんと叩きました。狼達は鳴いて逃げました。大勝利です。
ドロシー達はライオンがいないことに気が付きました。
「あ、あそこにいるわよ」
カカシが木の上を指差すとそこにはライオンがよじ登って泣いていました。
「うわーん、怖かったよー」
ドロシー達は大笑いです。』
内容が気に入らない様子でサーキスが言った。
「何これ?」
「はははー! さあ、次のページに行ってみよう!」
それからも木こりとカカシが大活躍。ライオンはいつも一目散に逃げ回って泣いてばかりだ。
「この作者はライオンに恨みでもあるのかよ!」
「いやサーキス、絵本のライオンにそこまで感情移入することないよ」
「それから特におかしいのがこのシーン!」
ドロシー一行の前に崖が現れ、行く手を阻む。そこでカカシが木こりに、長いロープを巻きつけた斧を投げさせておおよその距離を計る。それからドロシーの影を使って十二歳の平均身長と辺りの樹木の影を比較する。
そして影から木の高さを計算した結果、カカシのリリカが、「そこの木を切り倒せば向こう岸に行けるわよ」と言う。結果、大木の橋がかかり、難なく一行は崖を渡ることができた。そこでもライオンは高い所が怖いと泣いていた。
「カカシは脳味噌が無いって設定じゃないのかよ⁉ 明らかな設定ミスだぜ! …それにブリキの木こりって命がないのになんで動くんだ? ブリキってそもそも動くのか?」
「まあまあ、読んでればわかるよ」
ドロシー達は西の魔女の城へたどり着く。城内では階段がなかったため、時計塔の歯車を使おうとカカシが提案。みんなは歯車をつたってよじ登って行く。時計の歯車というテクノロジーがよくわからない二人には何とも奇天烈な世界かと思った。
『いよいよ最後の戦いです。泣いてばかりのライオンはここで勇気を出しました。勇気を出してパンチ!』
そこでは絵本を見開き二ページを使っていた。悪い魔法使いをライオンが拳で殴っている迫力あるシーンだった。
『ライオンは悪い魔女をやっつけました。』
話が終わるとファナがこのオズの魔法使いについて解説した。
「サーキスも気が付いたと思うけど、この絵本の主人公はライオンさんだよ。本当の原作はドロシーが主人公らしいけど、パディ先生が勝手に話を変えたんだって。このドロシーは全然、出番がないよ。私はとほほだよ。それに三人は命も知恵も勇気も最初から持ってたんだね。三人とも気付いてなかっただけだったんだね」
サーキスは絵本を読み返した。内容は確かに泣いて嫌がるライオンが中心に描かれている。パディからサーキスに頑張れとエールが聞こえてくるようだった。そして悟った。
(バレてる! 俺が街から逃げたのが先生達にバレてた! ごめん先生! リリカ! もう逃げないよ…)
サーキスが鼻水を流しながら泣き出すとファナがサーキスから絵本を取り上げた。
「また泣き出した! 絵本が汚れる!」
「ごめんよ、ドロシー…」
「私はドロシーじゃない!」
「うえーん!」
涙するサーキスはまだこの絵本には謎があると思った。
(俺の勇気はわかった。カカシのリリカの欲しい知恵って何だろ? ブリキのパディ先生の欲しがる命って何なんだ?)
コトコトと揺れる馬車の中、サーキスが泣き終わると隣のファナが彼の手を繋いだ。二人の指を交互にからめた繋ぎ方だ。
「ほら恋人つなぎだよ」
ファナが顔を赤らめる。サーキスの気持ちは最高潮に達した。
(うおぉーー⁉ 俺は今猛烈にチューがしたい! でもどうしたらいいのかわからない! 寺院のみんな! 俺を導いてくれ!)
サーキスには聞いたこともない話だった。絵本の表紙には荒野にたたずむフレアスカートの少女と一匹の犬が描かれていた。少女は明るい髪でボブカット、顎には小さなホクロがあった。主人公と思しき少女はファナのようにも見えた。
題名の下には原作者にライマン・フランク・ボームと書かれている。さらに脚色にはパディ・ライス、絵ナタリー・エーデルとあった。パディ医師が脚色した話を食堂のナタリーが絵にしたようだ。
ファナは二人で絵本が読めるようにサーキスと膝をくっつけた。それだけでもう彼の気持ちはいっぱいになった。ファナが絵本のページをめくる。
「この話はね、カンザスっていう所から主人公のドロシー推定十二歳と犬のトトが家ごと竜巻に飛ばされて魔法の国で冒険するお話なんだよ!」
ドロシーは北の魔女に西の悪い魔女をやっつけるように頼まれる。そうすればカンザスに帰してもらえるらしい。いささか荒唐無稽なストーリーではあるが、なるほど子供向けだとサーキスは思った。
そしてドロシーは不思議な三人と仲間になる。一人はブリキの木こり。青いバケツのようなものがいくつも重なって人の形を作っている。片手には木こりらしく斧を持っている。面白いことに頭には頭髪があって髪型は軽い天然パーマ。眼鏡をかけていた。まるでパディ医師だ。
「木こりはパディ先生に似てるね!」
もう一人は手足が木でできているカカシ。麦わら帽子をかぶった女の子のカカシだ。布の顔には毛糸の金髪が生えている。髪型はツインテールだ。
「ほら、カカシさんはリリカだよ!」
最後にライオンが登場した。
「ほらほら! このライオン、オスなのにたてがみがないよ!」
ライオンは顔の周りにたてがみが一切なく、代わりに頭の上に金色の短髪が乗っている。ヤブにらみの目で顔はサーキスに似ていた。その絵のライオンは後ろ足で顔をかいている。
木こりとカカシとライオンはそれぞれ、命と知恵と勇気を持っておらず、それらを求めてドロシーと旅をする。ファナが読み聞かせる。
『さっそく悪い魔女がドロシー達へ攻撃して来ました。たくさんの狼がドロシー達を襲って来ました。木こりがみんなの前に出ます。木こりは言いました。
「僕は噛まれても痛くないよ」
木こりは狼に怪我をさせないように斧の裏で狼達の頭をこつんこつんと叩きました。狼達は鳴いて逃げました。大勝利です。
ドロシー達はライオンがいないことに気が付きました。
「あ、あそこにいるわよ」
カカシが木の上を指差すとそこにはライオンがよじ登って泣いていました。
「うわーん、怖かったよー」
ドロシー達は大笑いです。』
内容が気に入らない様子でサーキスが言った。
「何これ?」
「はははー! さあ、次のページに行ってみよう!」
それからも木こりとカカシが大活躍。ライオンはいつも一目散に逃げ回って泣いてばかりだ。
「この作者はライオンに恨みでもあるのかよ!」
「いやサーキス、絵本のライオンにそこまで感情移入することないよ」
「それから特におかしいのがこのシーン!」
ドロシー一行の前に崖が現れ、行く手を阻む。そこでカカシが木こりに、長いロープを巻きつけた斧を投げさせておおよその距離を計る。それからドロシーの影を使って十二歳の平均身長と辺りの樹木の影を比較する。
そして影から木の高さを計算した結果、カカシのリリカが、「そこの木を切り倒せば向こう岸に行けるわよ」と言う。結果、大木の橋がかかり、難なく一行は崖を渡ることができた。そこでもライオンは高い所が怖いと泣いていた。
「カカシは脳味噌が無いって設定じゃないのかよ⁉ 明らかな設定ミスだぜ! …それにブリキの木こりって命がないのになんで動くんだ? ブリキってそもそも動くのか?」
「まあまあ、読んでればわかるよ」
ドロシー達は西の魔女の城へたどり着く。城内では階段がなかったため、時計塔の歯車を使おうとカカシが提案。みんなは歯車をつたってよじ登って行く。時計の歯車というテクノロジーがよくわからない二人には何とも奇天烈な世界かと思った。
『いよいよ最後の戦いです。泣いてばかりのライオンはここで勇気を出しました。勇気を出してパンチ!』
そこでは絵本を見開き二ページを使っていた。悪い魔法使いをライオンが拳で殴っている迫力あるシーンだった。
『ライオンは悪い魔女をやっつけました。』
話が終わるとファナがこのオズの魔法使いについて解説した。
「サーキスも気が付いたと思うけど、この絵本の主人公はライオンさんだよ。本当の原作はドロシーが主人公らしいけど、パディ先生が勝手に話を変えたんだって。このドロシーは全然、出番がないよ。私はとほほだよ。それに三人は命も知恵も勇気も最初から持ってたんだね。三人とも気付いてなかっただけだったんだね」
サーキスは絵本を読み返した。内容は確かに泣いて嫌がるライオンが中心に描かれている。パディからサーキスに頑張れとエールが聞こえてくるようだった。そして悟った。
(バレてる! 俺が街から逃げたのが先生達にバレてた! ごめん先生! リリカ! もう逃げないよ…)
サーキスが鼻水を流しながら泣き出すとファナがサーキスから絵本を取り上げた。
「また泣き出した! 絵本が汚れる!」
「ごめんよ、ドロシー…」
「私はドロシーじゃない!」
「うえーん!」
涙するサーキスはまだこの絵本には謎があると思った。
(俺の勇気はわかった。カカシのリリカの欲しい知恵って何だろ? ブリキのパディ先生の欲しがる命って何なんだ?)
コトコトと揺れる馬車の中、サーキスが泣き終わると隣のファナが彼の手を繋いだ。二人の指を交互にからめた繋ぎ方だ。
「ほら恋人つなぎだよ」
ファナが顔を赤らめる。サーキスの気持ちは最高潮に達した。
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