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オズの魔法使い(1)
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翌日。ファナと付き合うことになったサーキスはご機嫌で病院の玄関を掃除していた。それをリリカは不安そうな顔で眺めている。彼のこれからの行動に危惧の念を抱いていた。
(『ファナのこと大事にしなかったらあたしが許さないんだからね!』とか陳腐なセリフ、こいつには必要ないわね…。むしろ逆方向に危険だわ。今のうちに釘を刺しておかないと…)
「ファナと恋人同士になったあんたに一応、お祝いは言っておくわ。おめでとう。それでね、あんたは付き合いだしたら愛は勝手に育まれるって思ってるでしょ?」
「セリーン様が全自動で俺達を導いてくれるんじゃないのか⁉」
「えっとね、仮にファナがどこか違う男と話をしていたらどう思う?」
「気になってしょうがないぜ。何を話したか根ほり葉ほりファナに訊くぜ。いや現場を見たら邪魔してやるぜ。腕をバキバキと鳴らしながらな。なに人の女に手を出してるんだってなふうに」
サーキスは顎をつまみながら続けた。
「…ふーん、そうだな…。離れていても話ができる魔法や機械でもあればファナから俺にどこの誰と話をしたとか逐一報告してもらうぜ! いっつもファナとお喋りしていたいぜ!」
(うわー。これは酷いわ。どうしたらいいのかしら…)
「例えばだけど、あたしとサーキスって他人から見たら付き合ってるように見えるみたいじゃない?」
「そうだぜ。金髪同士で仲が良さそうっていう謎の理由でな。背丈がちょうどいいとかも言われたことがあるぜ。俺はお前なんか全く好みじゃないぜ。迷惑だ」
「ありがとう、同意見よ。それでファナがあんたのこと嫉妬してたらどうする? 『今日はリリカと何を話したの? 距離が近すぎじゃない? もしかしてお昼ご飯一緒に食べた? 手術の時、目が合ったりしない?』とか」
「は? 何うざったいことを言ってるんだ⁉ だから俺はリリカのことなんか好きじゃないって! そんなの気にされたら仕事もできなくなるだろ⁉」
「自分で言ってておかしいと思わない?」
「はっ⁉」
「質問変えるけど、あんたファナの性格、どういうところが好き?」
「あの何も考えてなくて思ったことをすぐ言うところだぜ」
「そうなのよ。初めてあんたと会った時、サンドイッチを作って来たじゃない? 食パンと具材なんかお金がかかってたと思うわ」
「お、俺もそう思った!」
「どこかの誰ともわからない人にああいうごちそうを用意したのは友達に代わってのお礼だって。あんたがたまたまやって来たからフォードさんが助かったけど、あたしも先生もあんたには心の底から助けられたと思ったわ。その気持ちを汲み取って、友達を助けてくれてありがとうってお礼ができる人なの、彼女は」
サーキスの瞳が潤んだ。
「お、俺が間違えていたぜ、ぐすぐす…」
「実はね、パン屋のフレッドさんだけどね…。ファナに告白してたのよ。前から好きだったみたい。あんたに言ったら動揺しておかしなことやるのじゃないかって今まで黙ってたの」
「え…。そうなんだ…」
「フレッドさんはあんたとファナが仲良くしているところを度々見かけて、焦って告白したみたいね。美男子だけど、ファナの好みじゃなかったみたい。ちなみにあたしはあんた達、どっちも好みじゃないわ」
「いらない情報だぜ…」
「ファナを信じて彼女の自由に色々やらせてあげて。また美男子のパン屋さんと話をしていてもそこは我慢。男の見せ所よ」
「で、でも、最終的にフラれちゃったら?」
「それは受け入れなさい。セリーン様の試練なのよ」
「うわーん! 幸せを手に入れたと思ったらそれを失う怖さを知ったぜ! そんなに突き落とされるかもしれないなら最初からファナと付き合わない方がよかったかもしれない! うえーん!」
「そんなことないわよ! あたしはあんたを応援しているわ!」
「ぐすぐす…」
(リリカはなんて情の厚い奴なんだ…)
(こいつは不安要素が多すぎるわ。もしフラれでもしたら、ショックで街から出て行くに違いない。お願い! あんた達早く結婚して!)
*
ラウカー夫婦がスレーゼンを訪ねて二週間ほど過ぎた頃。
「はあー、運転手のおじさん熱かったけど、何を言ってるのかわからなかった」
「だねー!」
スレーゼンの街外れでサーキスとファナは黒光りする馬車へ乗り込んだ。運転手曰く、最新型の馬車らしい。馬車の揺れを軽減し、これまでにない乗り心地、それでいて追求されたスピードなど、運転手はサスペンションやタイヤの作り方まで乗客のサーキス達に熱く語っていた。
今日は二人がお隣のロベリア市、ギル達が営む孤児院まで遊びに行く日だ。ファナはミアと住所を交換しており、あれ以来、手紙のやり取りを何度か行っていた。ファナとサーキスが孤児院へ遊びに行きたいと要望すると、夫婦共々是非お待ちしていますという返事が来た。
サーキスは今日のためにチュニックを新調、ファナはベージュのフリルブラウスに脛が見えるフレアパンツ。二人の服装はよそ行きを意識していた。
二人は座り心地の良い座席に座り、窓の外を眺める。乗客は仕切りを挟んでここからは見えないが、他に老夫婦が二人乗っている。サーキス達は土産にスレーゼンの名物となったフライドチキンを用意している。子供達もこれなら喜ぶだろう。少しだけ匂いが馬車の中に漂う。二人は恥ずかしく思った。
スレーゼンからほとんど出ることがないファナは、発車前の馬車に楽しい期待で心が落ち着かず、胸が躍っていた。そして馬車が出発する。ファナは歓声を上げたいところだったが、他に乗客がいたので声を押さえて外を見ながら微笑んだ。
「すごい、速いね!」
「おう! 運転手のおじさんが言ってた通りだ! 馬車がいいのもそうだろうけど、道がいいから全然揺れない。以前、他のに乗った時は酷かったぜ」
ファナは流れる山々の景色を楽しんでいたが、しばらくしてバスケットから一冊の絵本を取り出した。
(『ファナのこと大事にしなかったらあたしが許さないんだからね!』とか陳腐なセリフ、こいつには必要ないわね…。むしろ逆方向に危険だわ。今のうちに釘を刺しておかないと…)
「ファナと恋人同士になったあんたに一応、お祝いは言っておくわ。おめでとう。それでね、あんたは付き合いだしたら愛は勝手に育まれるって思ってるでしょ?」
「セリーン様が全自動で俺達を導いてくれるんじゃないのか⁉」
「えっとね、仮にファナがどこか違う男と話をしていたらどう思う?」
「気になってしょうがないぜ。何を話したか根ほり葉ほりファナに訊くぜ。いや現場を見たら邪魔してやるぜ。腕をバキバキと鳴らしながらな。なに人の女に手を出してるんだってなふうに」
サーキスは顎をつまみながら続けた。
「…ふーん、そうだな…。離れていても話ができる魔法や機械でもあればファナから俺にどこの誰と話をしたとか逐一報告してもらうぜ! いっつもファナとお喋りしていたいぜ!」
(うわー。これは酷いわ。どうしたらいいのかしら…)
「例えばだけど、あたしとサーキスって他人から見たら付き合ってるように見えるみたいじゃない?」
「そうだぜ。金髪同士で仲が良さそうっていう謎の理由でな。背丈がちょうどいいとかも言われたことがあるぜ。俺はお前なんか全く好みじゃないぜ。迷惑だ」
「ありがとう、同意見よ。それでファナがあんたのこと嫉妬してたらどうする? 『今日はリリカと何を話したの? 距離が近すぎじゃない? もしかしてお昼ご飯一緒に食べた? 手術の時、目が合ったりしない?』とか」
「は? 何うざったいことを言ってるんだ⁉ だから俺はリリカのことなんか好きじゃないって! そんなの気にされたら仕事もできなくなるだろ⁉」
「自分で言ってておかしいと思わない?」
「はっ⁉」
「質問変えるけど、あんたファナの性格、どういうところが好き?」
「あの何も考えてなくて思ったことをすぐ言うところだぜ」
「そうなのよ。初めてあんたと会った時、サンドイッチを作って来たじゃない? 食パンと具材なんかお金がかかってたと思うわ」
「お、俺もそう思った!」
「どこかの誰ともわからない人にああいうごちそうを用意したのは友達に代わってのお礼だって。あんたがたまたまやって来たからフォードさんが助かったけど、あたしも先生もあんたには心の底から助けられたと思ったわ。その気持ちを汲み取って、友達を助けてくれてありがとうってお礼ができる人なの、彼女は」
サーキスの瞳が潤んだ。
「お、俺が間違えていたぜ、ぐすぐす…」
「実はね、パン屋のフレッドさんだけどね…。ファナに告白してたのよ。前から好きだったみたい。あんたに言ったら動揺しておかしなことやるのじゃないかって今まで黙ってたの」
「え…。そうなんだ…」
「フレッドさんはあんたとファナが仲良くしているところを度々見かけて、焦って告白したみたいね。美男子だけど、ファナの好みじゃなかったみたい。ちなみにあたしはあんた達、どっちも好みじゃないわ」
「いらない情報だぜ…」
「ファナを信じて彼女の自由に色々やらせてあげて。また美男子のパン屋さんと話をしていてもそこは我慢。男の見せ所よ」
「で、でも、最終的にフラれちゃったら?」
「それは受け入れなさい。セリーン様の試練なのよ」
「うわーん! 幸せを手に入れたと思ったらそれを失う怖さを知ったぜ! そんなに突き落とされるかもしれないなら最初からファナと付き合わない方がよかったかもしれない! うえーん!」
「そんなことないわよ! あたしはあんたを応援しているわ!」
「ぐすぐす…」
(リリカはなんて情の厚い奴なんだ…)
(こいつは不安要素が多すぎるわ。もしフラれでもしたら、ショックで街から出て行くに違いない。お願い! あんた達早く結婚して!)
*
ラウカー夫婦がスレーゼンを訪ねて二週間ほど過ぎた頃。
「はあー、運転手のおじさん熱かったけど、何を言ってるのかわからなかった」
「だねー!」
スレーゼンの街外れでサーキスとファナは黒光りする馬車へ乗り込んだ。運転手曰く、最新型の馬車らしい。馬車の揺れを軽減し、これまでにない乗り心地、それでいて追求されたスピードなど、運転手はサスペンションやタイヤの作り方まで乗客のサーキス達に熱く語っていた。
今日は二人がお隣のロベリア市、ギル達が営む孤児院まで遊びに行く日だ。ファナはミアと住所を交換しており、あれ以来、手紙のやり取りを何度か行っていた。ファナとサーキスが孤児院へ遊びに行きたいと要望すると、夫婦共々是非お待ちしていますという返事が来た。
サーキスは今日のためにチュニックを新調、ファナはベージュのフリルブラウスに脛が見えるフレアパンツ。二人の服装はよそ行きを意識していた。
二人は座り心地の良い座席に座り、窓の外を眺める。乗客は仕切りを挟んでここからは見えないが、他に老夫婦が二人乗っている。サーキス達は土産にスレーゼンの名物となったフライドチキンを用意している。子供達もこれなら喜ぶだろう。少しだけ匂いが馬車の中に漂う。二人は恥ずかしく思った。
スレーゼンからほとんど出ることがないファナは、発車前の馬車に楽しい期待で心が落ち着かず、胸が躍っていた。そして馬車が出発する。ファナは歓声を上げたいところだったが、他に乗客がいたので声を押さえて外を見ながら微笑んだ。
「すごい、速いね!」
「おう! 運転手のおじさんが言ってた通りだ! 馬車がいいのもそうだろうけど、道がいいから全然揺れない。以前、他のに乗った時は酷かったぜ」
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