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ギーリウスとジョセフ少年(3)
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サーキスとギーリウスは病院の前で距離を置いて向かい合っていた。お互い何も武器は持っていない。また素手の戦いになる模様だ。サーキスは屈伸したり、肩を回したりと準備運動をしている。その彼の後方をパディとリリカが見守っている。
屈強な男が通りに立っているせいか周りに野次馬が集まってきた。
パディがリリカに質問した。
「サーキスって格闘技をやってたの?」
「はい、らしいです。Ⅴ流格闘術って言ってました。本人は寺院を生き抜くための格闘技で師匠から習ったって言ってました。たぶんギーリウスのお父さんから、ですね」
「何かバイオレンスな寺院だね。ますます普通の僧侶じゃないね。いい意味で異質だ。こう言っては悪いけど、期待してしまうよ。色々と」
「あたしもです!」
「どっちが勝つと思う? 向こうの方がすごく強そうだけど。聖騎士と僧侶ってちょっと実力差が激しくないかい?」
「ですよね…。あたし、ここの病院に来る前は聖騎士とパーティーを組んでました。彼はめっぽう強かったですよ。でも、それは剣を持った時のことで今回は素手の勝負です。それにサーキスの技は組技なんです。体格差も関係ないと思います。もつれ込んで関節を取れればサーキスが勝てると思います。でも相手も同じ技を使われるとどうなるかわかりませんが…。頑張ってサーキス!」
サーキスを応援する気持ちが大きいことがわかる。リリカの真剣な横顔にパディは思わずほくそ笑んでしまう。ここまで親睦が深まるとは予想もしていなかった。
「お、喧嘩だぞ喧嘩」
サーキス達のただならぬ雰囲気に野次馬がさらに集まって来た。そこでギーリウスは何か不可思議なことを言い出した。
「奥さん、奥さーん!」
サーキスは弾かれたような顔で驚いた。
「奥さんのおっぱーい! おっぱいちょうだーい! ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「やめろ、そんなことは一度も言ってないぞ! 取り消せ!」
「おっぱいちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「先生達の前でそんなことを言うな! うわあああーーー!」
顔を真っ赤にしたサーキスは拳を振り上げてギーリウスへ向かって行った。
「うぉーっ!」
錯乱したように地面を駆るサーキス。ギルの思惑通りのようだった。
(かかったな!)
二人がぶつかりそうな距離で、ギルは右足を軽く上げるとその場で回転した。そして何かの技を放つ。パディを含む見物人達はギルの左足だけは何とか見えたが、上半身はあまりの速さで誰の目にも捕らえることができなかった。
鈍い音がしてサーキスが弾丸のような速さで弾き返された。サーキスは吹っ飛んで壁にぶつかり、ピンボールのように跳弾してパディ達の足元に転げ落ちた。
「え?」
パディが見ればサーキスは舌を丸出しで白目を向いている。首はありえない方向に曲がって頭は触らなくてもわかるぐらい陥没していた。
一応、医者のパディは瞳を開いて脈を取り、心音を聞いた。
「…心臓が止まってる…。死んでる…」
小声で言うパディにリリカが我を忘れて絶叫した。
「きゃーーーーっ! 人殺しーーーっ!」
「なんだなんだ?」
「死んでるってよ」
野次馬も何事とサーキス達の周りに群がり始めた。
「ヤバいことになった! 弱すぎだ!」
ギルが一番早く駆け寄り、サーキスの体を捕まえた。
「ちょっとサーキスに触らないで! この人殺し! ファナに何て言えばいいの⁉ うわー!」
「ドクター! その女を黙らせろ! 口を塞いでくれ!」
「な、何を…むぎゅむぎゅむぎゅ…」
「タビリティ・レッドヘイト・ニングガードゥ…」
ギルが何かの呪文の詠唱を始めた。
「おいおい、警察呼んだ方がいいぜ警察ー」
「先にガラを押さえた方がいいぜー」
「お前、犯人捕まえろよ」
「やだよ、無理だよこんな奴」
(くっそー好き勝手いいやがる!)
ギルは腹を立てながらも詠唱を続けた。
「…クリースイン・スタリモナ・モアランクモア・ランクコート・メントファー…」
凄惨な現場であったが、野次馬達はどことなくのん気なことを言い続けていた。しばし時間がかかってギルの呪文が終わる。
「…アザーイーチ・ルートファント・レイルズゼント・完全復活」
光が見えたと思えばたちどころにサーキスの首や頭の怪我が治って彼は寝言のようなことを言い出した。
「…むにゃむにゃ…。奥さんもう食べられないよう…。こらやめろレオ、犬のお前が食ったら駄目だろ…」
ギルはサーキスの肩を揺さぶった。
「ほら、お前周りの観客に挨拶しろ! サーキス元気か!」
「…げ、元気だよ」
「もっと大きな声で!」
「俺はサーキスでーす! 元気でーす!」
「お世話おかけしましたー」
とパディ達はサーキスを連れて大急ぎで病院へ戻った。
*
全員が診察室に戻ると男達の談笑が始まった。
「ところでお前は俺に何をしたの? 全く見えなかったぜ」
「上段回し蹴りだ。あれで俺の半分ぐらいの力だ…。ちなみに俺は格闘は蹴りしか知らない。あの程度が見えないなんて。あれぐらいで死ぬな。と言うか見て避けろ」
「そうだ! 俺って一回死んだんだ! そう言えば奥さんとも会えたよ! 嬉しかったぜ!」
「すごいよね、ギル君。その若さで君は完全復活の呪文が使えるんだ!」
「ああ。モンスターをひたすら倒していたらこうなった。そして倒したい敵がいて、強くなる必要もあった。一応、僧侶の呪文はレベル八まで九回使える。ここまでできてもまだ倒せない敵がいると思う。だからもう俺はあまり戦いたくないんだ」
「すごいぜ! お前は聖騎士だったから寺院で一番呪文を覚えるのが遅かったけど、追い越されてしまったぜ! それにしても死んで生き返ったらスッキリするもんだな! 気分がいいぜ!」
「だろ? 死ぬのも悪くないよね!」
パディ達が和気あいあいで笑っていたが、リリカはそうではなかった。
「いいわけないでしょ!」
彼女は激昂していた。
「そうやって人を殺しておいて生き返らせたらチャラっておかしいわよ! 命ってのはそんなに安っぽいものじゃないわ! 謝ってギーリウス! そんな考えだからあたしは僧侶が嫌いなのよ! あんたは聖騎士みたいだけどね! サーキスも殺されて何をヘラヘラしてるの? 先生もちょっとの時間死ぬのは気にしないんですか? そんなのおかしいわよ…。ううっ…」
リリカがさめざめと泣き出すとギーリウスはブーツを脱ぎ出した。そして足の甲、額をピッタリと床に付け、両手で丁寧な三角形を作ってリリカに向けた。それは三人が見たこともないぐらい立派な土下座だった。
沈黙が支配する。フォードの鉛筆の音だけが部屋に響いた。
「も、もういいわよ。顔を上げて。お願い」
ギルは体を起こして靴を履いた。
「悪かったな」
リリカは返事もしないで目をこすりながら部屋を出て行った。
「ジョセフは寝たままか…。仕方ない帰るか。まあ、あれだ。ドクターにサーキス、今日はありがとう。…で、いいよな?」
「もちろん! また来てくれたまえ」
「俺がそこまで送るぜ!」
一部始終、話を聞いていたフォードは彼に興味津々だった。
(その若さで完全復活が使えるとは…。どうにかワシの手駒にできないものか。フィリップに奴のことを調べさせるとしよう)
屈強な男が通りに立っているせいか周りに野次馬が集まってきた。
パディがリリカに質問した。
「サーキスって格闘技をやってたの?」
「はい、らしいです。Ⅴ流格闘術って言ってました。本人は寺院を生き抜くための格闘技で師匠から習ったって言ってました。たぶんギーリウスのお父さんから、ですね」
「何かバイオレンスな寺院だね。ますます普通の僧侶じゃないね。いい意味で異質だ。こう言っては悪いけど、期待してしまうよ。色々と」
「あたしもです!」
「どっちが勝つと思う? 向こうの方がすごく強そうだけど。聖騎士と僧侶ってちょっと実力差が激しくないかい?」
「ですよね…。あたし、ここの病院に来る前は聖騎士とパーティーを組んでました。彼はめっぽう強かったですよ。でも、それは剣を持った時のことで今回は素手の勝負です。それにサーキスの技は組技なんです。体格差も関係ないと思います。もつれ込んで関節を取れればサーキスが勝てると思います。でも相手も同じ技を使われるとどうなるかわかりませんが…。頑張ってサーキス!」
サーキスを応援する気持ちが大きいことがわかる。リリカの真剣な横顔にパディは思わずほくそ笑んでしまう。ここまで親睦が深まるとは予想もしていなかった。
「お、喧嘩だぞ喧嘩」
サーキス達のただならぬ雰囲気に野次馬がさらに集まって来た。そこでギーリウスは何か不可思議なことを言い出した。
「奥さん、奥さーん!」
サーキスは弾かれたような顔で驚いた。
「奥さんのおっぱーい! おっぱいちょうだーい! ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「やめろ、そんなことは一度も言ってないぞ! 取り消せ!」
「おっぱいちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「先生達の前でそんなことを言うな! うわあああーーー!」
顔を真っ赤にしたサーキスは拳を振り上げてギーリウスへ向かって行った。
「うぉーっ!」
錯乱したように地面を駆るサーキス。ギルの思惑通りのようだった。
(かかったな!)
二人がぶつかりそうな距離で、ギルは右足を軽く上げるとその場で回転した。そして何かの技を放つ。パディを含む見物人達はギルの左足だけは何とか見えたが、上半身はあまりの速さで誰の目にも捕らえることができなかった。
鈍い音がしてサーキスが弾丸のような速さで弾き返された。サーキスは吹っ飛んで壁にぶつかり、ピンボールのように跳弾してパディ達の足元に転げ落ちた。
「え?」
パディが見ればサーキスは舌を丸出しで白目を向いている。首はありえない方向に曲がって頭は触らなくてもわかるぐらい陥没していた。
一応、医者のパディは瞳を開いて脈を取り、心音を聞いた。
「…心臓が止まってる…。死んでる…」
小声で言うパディにリリカが我を忘れて絶叫した。
「きゃーーーーっ! 人殺しーーーっ!」
「なんだなんだ?」
「死んでるってよ」
野次馬も何事とサーキス達の周りに群がり始めた。
「ヤバいことになった! 弱すぎだ!」
ギルが一番早く駆け寄り、サーキスの体を捕まえた。
「ちょっとサーキスに触らないで! この人殺し! ファナに何て言えばいいの⁉ うわー!」
「ドクター! その女を黙らせろ! 口を塞いでくれ!」
「な、何を…むぎゅむぎゅむぎゅ…」
「タビリティ・レッドヘイト・ニングガードゥ…」
ギルが何かの呪文の詠唱を始めた。
「おいおい、警察呼んだ方がいいぜ警察ー」
「先にガラを押さえた方がいいぜー」
「お前、犯人捕まえろよ」
「やだよ、無理だよこんな奴」
(くっそー好き勝手いいやがる!)
ギルは腹を立てながらも詠唱を続けた。
「…クリースイン・スタリモナ・モアランクモア・ランクコート・メントファー…」
凄惨な現場であったが、野次馬達はどことなくのん気なことを言い続けていた。しばし時間がかかってギルの呪文が終わる。
「…アザーイーチ・ルートファント・レイルズゼント・完全復活」
光が見えたと思えばたちどころにサーキスの首や頭の怪我が治って彼は寝言のようなことを言い出した。
「…むにゃむにゃ…。奥さんもう食べられないよう…。こらやめろレオ、犬のお前が食ったら駄目だろ…」
ギルはサーキスの肩を揺さぶった。
「ほら、お前周りの観客に挨拶しろ! サーキス元気か!」
「…げ、元気だよ」
「もっと大きな声で!」
「俺はサーキスでーす! 元気でーす!」
「お世話おかけしましたー」
とパディ達はサーキスを連れて大急ぎで病院へ戻った。
*
全員が診察室に戻ると男達の談笑が始まった。
「ところでお前は俺に何をしたの? 全く見えなかったぜ」
「上段回し蹴りだ。あれで俺の半分ぐらいの力だ…。ちなみに俺は格闘は蹴りしか知らない。あの程度が見えないなんて。あれぐらいで死ぬな。と言うか見て避けろ」
「そうだ! 俺って一回死んだんだ! そう言えば奥さんとも会えたよ! 嬉しかったぜ!」
「すごいよね、ギル君。その若さで君は完全復活の呪文が使えるんだ!」
「ああ。モンスターをひたすら倒していたらこうなった。そして倒したい敵がいて、強くなる必要もあった。一応、僧侶の呪文はレベル八まで九回使える。ここまでできてもまだ倒せない敵がいると思う。だからもう俺はあまり戦いたくないんだ」
「すごいぜ! お前は聖騎士だったから寺院で一番呪文を覚えるのが遅かったけど、追い越されてしまったぜ! それにしても死んで生き返ったらスッキリするもんだな! 気分がいいぜ!」
「だろ? 死ぬのも悪くないよね!」
パディ達が和気あいあいで笑っていたが、リリカはそうではなかった。
「いいわけないでしょ!」
彼女は激昂していた。
「そうやって人を殺しておいて生き返らせたらチャラっておかしいわよ! 命ってのはそんなに安っぽいものじゃないわ! 謝ってギーリウス! そんな考えだからあたしは僧侶が嫌いなのよ! あんたは聖騎士みたいだけどね! サーキスも殺されて何をヘラヘラしてるの? 先生もちょっとの時間死ぬのは気にしないんですか? そんなのおかしいわよ…。ううっ…」
リリカがさめざめと泣き出すとギーリウスはブーツを脱ぎ出した。そして足の甲、額をピッタリと床に付け、両手で丁寧な三角形を作ってリリカに向けた。それは三人が見たこともないぐらい立派な土下座だった。
沈黙が支配する。フォードの鉛筆の音だけが部屋に響いた。
「も、もういいわよ。顔を上げて。お願い」
ギルは体を起こして靴を履いた。
「悪かったな」
リリカは返事もしないで目をこすりながら部屋を出て行った。
「ジョセフは寝たままか…。仕方ない帰るか。まあ、あれだ。ドクターにサーキス、今日はありがとう。…で、いいよな?」
「もちろん! また来てくれたまえ」
「俺がそこまで送るぜ!」
一部始終、話を聞いていたフォードは彼に興味津々だった。
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