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白衣作り
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「とほほー。真っ赤なまんまだよー」
翌日の病院。赤黒くなった血染めの白衣を見てパディががっかりしていた。両脇には思案顔のサーキス、同じく打開策を考えるリリカがいた。
昨日は一応、洗ってはみたが、白衣から血液の跡が落ちるわけがない。ワイシャツ姿のパディは落胆していた。
「僕の国じゃ白衣は権威の表れって言う人がいるけど、僕が白衣を着ないと全く医者に見えないよ。これじゃただの冴えないおじさんだよ…。とほほほー」
「いえ! 先生は白衣がなくても素敵です!」
「ありがとう、そう言ってくれるのはリリカ君だけだよ」
(俺もそう思うぜ。かなり個人的な意見だったぜ)
「新しく買うにしても余裕が…。患者さんが最近多かったけど色々と支払いが…。フォードさんが今月分の家賃を待ってくれたら購入可能だけどね…。ああー、昨日は白衣を脱いでおけばよかったね。失敗、失敗。でもブラウンさんが助かってよかったよ!」
サーキスが提案した。
「とりあえず白衣に見えたらいいんだよな? ベッドのシーツで作ればいいだろ?」
「はあ? 誰にそんなことができるのよ?」
「俺がやってやるよ! ケーキは作れないけど、俺は以前、僧侶の法衣を作ってたんだ。兄弟弟子の分、全員な。白衣ってちょっとゆったりめの上着だろ? 飾りもないし、簡単だぜ」
パディとリリカは驚き、半信半疑ながらもベッドシーツを二枚ほど用意した。生地が特にいいものを選んだ。サーキスの方は宿屋に戻って、そこの女将から糸切りと手芸用の銀ペンを借りて来た。
「じゃあ、始めるぜ。まずはこの血で汚れた白衣の糸を抜いてバラす。これで寸法を取るのも簡単だぜ」
縫い目を見られたくなかったらしく、リリカがサーキスから白衣に手をかけようとした。
「あ、それぐらいあたしがやるわ!」
「駄目だぜ。最終的にその着物を縫う人間が糸を抜いた方が効率的だ。なぜなら糸を抜いたり、切ったりしながら縫製をイメージできるからだ。バラす作業から組み立てる作業を想像できるぜ」
言いながらサーキスは次々と糸切りで糸を切っていく。口で言うだけはあってその手つきはかなり慣れたものだった。サーキスは糸を抜きながら気付いた。白衣は何度ととなく補修された跡がある。
「先生ってこの白衣、何年ぐらい着てるの?」
「こほっ…。五年半だよ。僕がここに来てからずっとそれを着てる。一張羅だね」
「ふーん。なんかさあ、これを補修した奴って下手くそなんだよね。脇なんか見てよ。ひっくり返して縫えばいいのに表から縫ってる。センスのかけらも感じないね。背中はステッチが飛び飛びで玉止めもできてない。ここはピッチが狭かったり、広かったり…。ひどすぎる。裁縫に才能ないのにこの挑みようは無謀だぜ。不器用さこの上ないぜ!」
リリカは頬を膨らませて怒った。
(うっっさいわね!)
床にベッドのシーツを、その上にバラされた白衣を置いた。サーキスは銀ペンでその形をなぞっていく。パディが訊いた。
「でもサーキスは何で法衣なんか作ってたの?」
「まあ、そりゃ寺院に金がなかったしな。俺が下っ端だったし、先輩が命令してたんだ。俺に法衣を作れってね。俺より器用な奴は他にいなかったし」
サーキスは銀ペンでなぞられた部分をハサミでジョキジョキと迷いなく切った。
「みんな思い思いのデザインで作れって言ってきたんだ。それも豪華に目立つように。セリーン様の刺繍はさすがに誰も思い付かなかったけど、みんな派手だったね。師匠が一番ボロを着てた」
そして、もう手縫いを始めた。段取りが非常に良い。
「みんな思い思いって、それじゃ同じ寺院で統一感がなかったんじゃないの?」
「なかったぜ! てんでバラバラ! それでみんな自分達のことを馬鹿ばっかりの寺院って笑ってた! 派手な衣装を着るのも客に言うことを聞かせるためだ。先生の言う威厳ってやつ?」
サーキスがシーツを縫ったあとを見せてもらうとピッチも計ったように均等、縫い幅も極力狭くしている。それでいて機械のように早い。二人は声が出ないほど驚いた。
(これは⁉ これだけの腕があればもしかしたら⁉)
(す、すごすぎる! これなら…!)
パディ達が驚愕しているとサーキスが針でシーツを縫いながら質問した。
「昨日もちょっとしか聞いてなくてあんまり理解ができなくて。ばあちゃんって結局どうしてあんなになったわけ?」
「ブラウンさんは元々血圧が高かったらしい。あ、血圧というのは血管にかかる圧力のことだ。ファナ君も言っていたけど、ブラウンさんは塩が大好きらしい。それで心臓に血の塊ができたのだろう。それが流れて膝に詰まったんだ。それを急性動脈閉塞症と言う。僕が膝の裏を切り裂いて血の蓋を飛ばしたんだよ。一応、あの二人にはブラウンさんの食事を気を付けるように言ったよ。塩分はなるだけ摂取しないように」
「じゃあ、ゆっくり大きな声で呪文を唱えろって言ったのは?」
「あの噴水みたいに血液が飛んでる時に回復が遅れていたら、出血多量でブラウンさんが死んでしまう。それで間に合うように君が大回復の詠唱の折り返しの時を狙って足を切ったんだ」
「へえー! 先生は僧侶の呪文の詠唱を覚えてるの⁉」
「うっすらとね。小回復だけは普通に言えるよ。ドッフトリータン・ドルーフィズ・トゥーリ・トレスタンク・リトゥス・インファルコン・サークシャル・シャルフィオ・グレイプスィックス・ターグラッド・小回復」
「僧侶になれるじゃん⁉」
「こっちに来てからすぐに自分で呪文が唱えられたら便利だなあって思ってたけど、詠唱を覚えるだけじゃ駄目だね。肝心な信仰心が僕は皆無みたいだ。たはははー。そりゃ、メスで人を切ってたら上がらないよー!」
(先生はセリーン様を信じてないのかなぁ…。まあ、人のことはどうでもいいけど)
そして、あっという間に白衣は出来上がった。
「よし完成。でも、床に付けたから一回洗った方がいいな。どう?」
「すごいよ! ありがとう!」
「まあまあね」
リリカの方は強がりを言った。
次の日、洗われた新しい白衣をパディは羽織ってみた。寸法は以前とほぼ同じ。生地も厚いのでそれなりに豪華に見えた。何より新しい白衣は気持ちよかった。
(本当にいい僧侶が来てくれた…)
翌日の病院。赤黒くなった血染めの白衣を見てパディががっかりしていた。両脇には思案顔のサーキス、同じく打開策を考えるリリカがいた。
昨日は一応、洗ってはみたが、白衣から血液の跡が落ちるわけがない。ワイシャツ姿のパディは落胆していた。
「僕の国じゃ白衣は権威の表れって言う人がいるけど、僕が白衣を着ないと全く医者に見えないよ。これじゃただの冴えないおじさんだよ…。とほほほー」
「いえ! 先生は白衣がなくても素敵です!」
「ありがとう、そう言ってくれるのはリリカ君だけだよ」
(俺もそう思うぜ。かなり個人的な意見だったぜ)
「新しく買うにしても余裕が…。患者さんが最近多かったけど色々と支払いが…。フォードさんが今月分の家賃を待ってくれたら購入可能だけどね…。ああー、昨日は白衣を脱いでおけばよかったね。失敗、失敗。でもブラウンさんが助かってよかったよ!」
サーキスが提案した。
「とりあえず白衣に見えたらいいんだよな? ベッドのシーツで作ればいいだろ?」
「はあ? 誰にそんなことができるのよ?」
「俺がやってやるよ! ケーキは作れないけど、俺は以前、僧侶の法衣を作ってたんだ。兄弟弟子の分、全員な。白衣ってちょっとゆったりめの上着だろ? 飾りもないし、簡単だぜ」
パディとリリカは驚き、半信半疑ながらもベッドシーツを二枚ほど用意した。生地が特にいいものを選んだ。サーキスの方は宿屋に戻って、そこの女将から糸切りと手芸用の銀ペンを借りて来た。
「じゃあ、始めるぜ。まずはこの血で汚れた白衣の糸を抜いてバラす。これで寸法を取るのも簡単だぜ」
縫い目を見られたくなかったらしく、リリカがサーキスから白衣に手をかけようとした。
「あ、それぐらいあたしがやるわ!」
「駄目だぜ。最終的にその着物を縫う人間が糸を抜いた方が効率的だ。なぜなら糸を抜いたり、切ったりしながら縫製をイメージできるからだ。バラす作業から組み立てる作業を想像できるぜ」
言いながらサーキスは次々と糸切りで糸を切っていく。口で言うだけはあってその手つきはかなり慣れたものだった。サーキスは糸を抜きながら気付いた。白衣は何度ととなく補修された跡がある。
「先生ってこの白衣、何年ぐらい着てるの?」
「こほっ…。五年半だよ。僕がここに来てからずっとそれを着てる。一張羅だね」
「ふーん。なんかさあ、これを補修した奴って下手くそなんだよね。脇なんか見てよ。ひっくり返して縫えばいいのに表から縫ってる。センスのかけらも感じないね。背中はステッチが飛び飛びで玉止めもできてない。ここはピッチが狭かったり、広かったり…。ひどすぎる。裁縫に才能ないのにこの挑みようは無謀だぜ。不器用さこの上ないぜ!」
リリカは頬を膨らませて怒った。
(うっっさいわね!)
床にベッドのシーツを、その上にバラされた白衣を置いた。サーキスは銀ペンでその形をなぞっていく。パディが訊いた。
「でもサーキスは何で法衣なんか作ってたの?」
「まあ、そりゃ寺院に金がなかったしな。俺が下っ端だったし、先輩が命令してたんだ。俺に法衣を作れってね。俺より器用な奴は他にいなかったし」
サーキスは銀ペンでなぞられた部分をハサミでジョキジョキと迷いなく切った。
「みんな思い思いのデザインで作れって言ってきたんだ。それも豪華に目立つように。セリーン様の刺繍はさすがに誰も思い付かなかったけど、みんな派手だったね。師匠が一番ボロを着てた」
そして、もう手縫いを始めた。段取りが非常に良い。
「みんな思い思いって、それじゃ同じ寺院で統一感がなかったんじゃないの?」
「なかったぜ! てんでバラバラ! それでみんな自分達のことを馬鹿ばっかりの寺院って笑ってた! 派手な衣装を着るのも客に言うことを聞かせるためだ。先生の言う威厳ってやつ?」
サーキスがシーツを縫ったあとを見せてもらうとピッチも計ったように均等、縫い幅も極力狭くしている。それでいて機械のように早い。二人は声が出ないほど驚いた。
(これは⁉ これだけの腕があればもしかしたら⁉)
(す、すごすぎる! これなら…!)
パディ達が驚愕しているとサーキスが針でシーツを縫いながら質問した。
「昨日もちょっとしか聞いてなくてあんまり理解ができなくて。ばあちゃんって結局どうしてあんなになったわけ?」
「ブラウンさんは元々血圧が高かったらしい。あ、血圧というのは血管にかかる圧力のことだ。ファナ君も言っていたけど、ブラウンさんは塩が大好きらしい。それで心臓に血の塊ができたのだろう。それが流れて膝に詰まったんだ。それを急性動脈閉塞症と言う。僕が膝の裏を切り裂いて血の蓋を飛ばしたんだよ。一応、あの二人にはブラウンさんの食事を気を付けるように言ったよ。塩分はなるだけ摂取しないように」
「じゃあ、ゆっくり大きな声で呪文を唱えろって言ったのは?」
「あの噴水みたいに血液が飛んでる時に回復が遅れていたら、出血多量でブラウンさんが死んでしまう。それで間に合うように君が大回復の詠唱の折り返しの時を狙って足を切ったんだ」
「へえー! 先生は僧侶の呪文の詠唱を覚えてるの⁉」
「うっすらとね。小回復だけは普通に言えるよ。ドッフトリータン・ドルーフィズ・トゥーリ・トレスタンク・リトゥス・インファルコン・サークシャル・シャルフィオ・グレイプスィックス・ターグラッド・小回復」
「僧侶になれるじゃん⁉」
「こっちに来てからすぐに自分で呪文が唱えられたら便利だなあって思ってたけど、詠唱を覚えるだけじゃ駄目だね。肝心な信仰心が僕は皆無みたいだ。たはははー。そりゃ、メスで人を切ってたら上がらないよー!」
(先生はセリーン様を信じてないのかなぁ…。まあ、人のことはどうでもいいけど)
そして、あっという間に白衣は出来上がった。
「よし完成。でも、床に付けたから一回洗った方がいいな。どう?」
「すごいよ! ありがとう!」
「まあまあね」
リリカの方は強がりを言った。
次の日、洗われた新しい白衣をパディは羽織ってみた。寸法は以前とほぼ同じ。生地も厚いのでそれなりに豪華に見えた。何より新しい白衣は気持ちよかった。
(本当にいい僧侶が来てくれた…)
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