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カザニル・フォード 尿管結石(2)
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パディが続けて言った。
「バーコードハゲにも五分の魂。じゃあ、腎臓を探そうかあ。最初に膀胱を見つけた方が早いね。ではサーキス、手のひらをお股のちょっと上に移動させてごらん」
サーキスは左手をフォードの下腹部まで持って行った。
「ここか? ん? 丸い臓器の中におしっこみたいなのが詰まってる?」
「いいぞサーキス! それが膀胱だ。膀胱の上、左右に管が見えるかい?」
「あるね」
「その管が尿管。そこをたどって上を見て。左右対称に二つある。それが腎臓だ。腎臓はおしっこを作る所なんだ」
「おう、見つけたぜ。でも、あれ? 左の管に何か詰まってるよ。薄い茶色で石みたい…」
尿管は石が詰まっているせいで尿が行き場をなくして膨らんでいた。腎臓も少し腫れて色が悪くなっている。
「早い! それが尿管結石だよ! ちょっと右手で指差して」
サーキスはへその左辺りを指差した。
「ありがとう。サーキス、フォードさんを横に寝かせて。横腹から切る」
サーキスはフォードの背中から腕を入れて彼の体を横に寝かせた。これで患部の尿管が上向きになった。
「ありがとう。君は力持ちだね。ではリリカ君、フォードさんが手術中に目を覚ましたらたいへんだから、睡眠の呪文を一応かけて」
「ウロバンチェ・オブ・チェイジ……セーパション・トラスドアース・睡眠」
そしてフォードは変わりなく眠り続けた。サーキスが驚く。
「お前、魔法使いだったのか⁉」
この世界の魔法使いは攻撃系の呪文を扱う職業だ。
「そうよ。言ってなかったわね」
「では開腹します。メス」
リリカから渡されたメスでパディがフォードの腹部を切ったが、すぐに手を止めた。
「中年太りでやっぱり脂肪がすごい。前より太ってる気がする。これではなかなか尿管までたどり着かない…。リリカ君、血を吸引して欲しい。風を起こして。サーキスはいいと言うまで黙ってて。しばらく動かないで」
リリカは掃除機にも似たタル型のガラス製品の穴に人差し指を突っ込んだ。そして右手でその機械の正面から伸びる布製のホースを持つ。そして呪文を唱えた。
「ブルバーム・サインバイト……フラゥアフィシャル・パティプロ・風撃」
呪文を唱え終わると彼女の人差し指から風が吹き出した。木の枝を揺らし続けるぐらいの風力だ。その魔法の風はタル型ガラス製品の中の小さなプロペラを勢いよく回す。小さなプロペラは軸や歯車を伝って中央にある大きなプロペラを回した。
パディは患者の横腹の切開を続けた。血がじわっと吹き出すところをリリカがホースで吸い込んだ。魔法が動力の吸引機のようだ。サーキスが言った。
「あの、もう喋っていい?」
「いいよ」
「すげえ! こんなの誰が考えたんだ⁉」
「先生よ。パディ先生はこういうのを発明するのが得意なのよ」
「発案するだけだよ。僕が工作したわけじゃない。職人さんに作ってもらってる」
「へえ! でもそもそも風撃の呪文って一回喰らったことがあるけど、何でこんなにお行儀良くコントロールできてるの⁉ 普通だったら嵐みたいな風でこの部屋めちゃくちゃになるぜ!」
パディはメスで腹を切り進めながら言った。
「君も回復呪文を唱えてて、たまに不本意にも少ししか回復しない時があるだろ? 十センチぐらいの切り傷が五センチしか回復しない時とか。リリカ君は狙ってそういうのができるんだよ」
「すげえ! 天才魔法使いだな! 適職! あ、お前は片手ふさがってやりにくいだろう? ホースは俺が握るぜ」
「あ、ありがとう」
パディが切開を続け、体内からしたたる血をサーキスがホースで吸い込む。体を奥まで切り進めてようやく尿管が見えた。パディの視点で見ても、尿管がたぷんたぷんになっていて何かが詰まっているのが一目瞭然だ。
パディは尿管の石がある場所、上下を鉗子というハサミのような形のクリップを二つ使って挟んだ。そして石の部分を、管を切断しないように切り開いた。尿が少し漏れて、ギザギザに尖った茶色の石が飛び出した。大きさにして一センチと少し。パディが手に取ったその石を金属のトレイに置いた。
「リリカ君、ビーカー」
リリカが台の上からビーカーを手に取ってパディの手元へ差し出す。パディは尿管からクリップを外して尿をビーカーへ流し込む。腎臓と尿管の尿が空になったと思うと、パディは切れた尿管を縫合針を使って生糸で軽く縫った。それから瓶から液体をバシャバシャとかけて患部を洗った。
「それは?」
「生理食塩水。薄い塩水だね」
生理食塩水もサーキスにホースで全て吸い込んでもらう。
「僕の作業は終わった。サーキス回復呪文をかけてくれ。大回復を頼む」
「了解。スタフ・ワンズオゥルド・ソトジョンディビ……ティングスライ・ディルズンペンコ・大回復」
サーキスが呪文を唱えるとたちどころに患者の傷がふさがった。パディが腹に付着していた血液も拭きあげる。今まで見ていた臓器も気のせいだったかと思うぐらい、全く傷は残っていない。術後に高血糖になることもない。インスリンの投与も全く必要なかった。
「よし、一応終わり。まだ後片付けをしないといけないけど。サーキスのおかげで本当に助かったよ。心からありがとう。こほっ…。改めて自己紹介。僕はパディ・ライス。四十歳だよ」
パディがボールに入った液体で手をジャブジャブと洗いながら言う。パディ医師は実年齢より若く見えた。十歳サバを読んでもわからないぐらいだ。
「俺はサーキス! 名字はないぜ! 十九歳! ってさっき書いてたよな」
「何であんた名字がないのを偉そうに言ってるの? あたしはリリカ。あたしも名字はないわ。先生の助手兼、魔法使いよ。年齢は二十一歳」
サーキスは一驚に喫する。
「えーっ⁉ お前年上⁉ 絶対俺の年下って思ってた!」
「悪かったわね。ところで先生、彼は一体?」
「あー! サーキスは患者さんとしてここに来たんだよ! 訊いたら僧侶って答えたからオファーした。ちなみに彼は足の裏に粉瘤ができてるみたいだ」
「そうですか…。サーキス、あたしからも礼を言うわ。フォードさんが助かった。あんたのおかげよ。ありがとう」
リリカの少し優しげになった瞳がこちらに向けられた。左目には泣きぼくろがあることにサーキスは気が付いた。
(うわっ、さっきは鬼の形相で怒っていたのに調子が狂うぜ…。それにオファーってもしかして…)
「どういたしまして。俺もその謎のマシンで血を吸うの面白かったし」
三人が自己紹介を終えると手術台の上でフォードが動き始めた。
「はあぁぁ…。良く寝た。あれ? 腹が痛くない。痛くないぞーっ!」
「たまたま僧侶が見つかりましてこちらで勝手ながら、フォードさんの手術をさせていただきました」
リリカがそう説明しながら、フォードに彼の私物の服を渡す。フォードはタンクトップと膝までの半ズボン姿に。そして彼は革靴を履いてサーキス達の前に力強く立つ。こうして見ると彼の身長はずいぶん低かった。百五十センチ少ししかない。
「ふええー! 今回も手術は成功したようだな、さすがパディちゃん! 感謝感激雨あられ……なんてワシが言うと思うか、この頭チュルチュル眼鏡ー!」
パディは汗を流して苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「だいたいワシは、僧侶さえいれば丸一日苦しむようなことはなかったんだよーっ! お前の管理力が問われる失態だ! お前は僧侶さんがいなかったら…、何だ⁉」
「僕は僧侶さんがいないとフォードさんの治療もできません…」
「わかってるじゃないか、このポンコツヤブ医者がーっ! そんなんだから家賃を滞納しまくりなんだよ!」
サーキスは思った。
(さっき先生は痛みがこの人に暴言吐かせてるって言ってたぞ…。治ってもあんまり変わらないような…)
「お前の医術は確かに素人目にはすごいようにも見える。しかし、それは単に悪い箇所を切って僧侶に回復してもらうだけだろ? んなもん知っていれば誰でもできるわーっ!」
(そんなこと誰も知らないぜ…。その知識に価値があるんじゃ…)
「ところでパディちゃん? お前の医者としてのテクニックはパディちゃんの国でどれくらいだ?」
「ちゅ、中の下ぐらいです…」
「ほっほー! わかってるじゃないか! それとも少し盛ったか⁉ まあよろしい。今日はこれで勘弁してやるか…。今回の手術で先々月分の家賃はチャラにしてやる」
「あ、ありがたき幸せ…」
「でも先月分と今月分はちゃんと払えよーっ!」
「ははーっ」
ハゲ親父のフォードがちらっとサーキスの方を見た。サーキスはぶるっと肩を震わせたが、フォードの方は今までの憤怒の形相が嘘のように優しい顔で言った。
「君が僧侶さんだね? おかげでワシは助かった、ありがとう! ワシはカザニル・フォード。不動産屋だ。一応ここの大家。君の名前は?」
「俺はサーキス…。たまたまここに来た通りすがりの僧侶だぜ…」
「覚えたぞサーキス! よーし、君にお小遣いをあげよう! …あ、あれ? ワシの財布がない…」
「あたしが財布も預かってました」
リリカがチェーン付きの革財布を差し出した。中身がギッシリと詰まっている。
「おー! リリカちゃんはワシの財布をよく守ってくれた! すぐそばに貧乏で邪悪なお医者さんがいるからねー! はいサーキス、お駄賃」
フォードはサーキスに銅貨を五枚、五百ゴールド渡した。
「ありがとう…」
「はい、リリカちゃんも。さあ手を出して」
「ありがとうございます」
パディも並んで両手を出した。
「貴様にはやるかボケーッ! …さて仕事もあるし、帰るとするか。あ、そうそう。今日はサーキスはどこに泊まるの?」
「え…。俺はすぐそこの宿屋に泊まるけど…。フォードの宿っていう…。あれ? あれ?」
「そこはワシが経営してる宿屋」
リリカが補足した。
「フォードさんは不動産屋の社長さんでここ一帯のたくさんの土地や家屋を持ってるの。この病院は元は宿屋よ。フォードの宿と同じ造りになってるわ」
「どうりで何か見たことあると思ってた!」
「よし、サーキスには特別に格安で宿泊できるように手配しよう。ワシから女将に言っておくよ」
フォードがそう言いながらパディに手招きする。そしてフォードはパディに耳打ちした。
「今度の僧侶は手放すなよ! 何が何でも手懐けろ! ものにしろよ!」
「は、はい…」
(いや、俺に聞こえてるんだけど…)
フォードが行ってしまうとサーキスは小声で言った。
「ところでバーコードって何なんだろう…」
「バーコードハゲにも五分の魂。じゃあ、腎臓を探そうかあ。最初に膀胱を見つけた方が早いね。ではサーキス、手のひらをお股のちょっと上に移動させてごらん」
サーキスは左手をフォードの下腹部まで持って行った。
「ここか? ん? 丸い臓器の中におしっこみたいなのが詰まってる?」
「いいぞサーキス! それが膀胱だ。膀胱の上、左右に管が見えるかい?」
「あるね」
「その管が尿管。そこをたどって上を見て。左右対称に二つある。それが腎臓だ。腎臓はおしっこを作る所なんだ」
「おう、見つけたぜ。でも、あれ? 左の管に何か詰まってるよ。薄い茶色で石みたい…」
尿管は石が詰まっているせいで尿が行き場をなくして膨らんでいた。腎臓も少し腫れて色が悪くなっている。
「早い! それが尿管結石だよ! ちょっと右手で指差して」
サーキスはへその左辺りを指差した。
「ありがとう。サーキス、フォードさんを横に寝かせて。横腹から切る」
サーキスはフォードの背中から腕を入れて彼の体を横に寝かせた。これで患部の尿管が上向きになった。
「ありがとう。君は力持ちだね。ではリリカ君、フォードさんが手術中に目を覚ましたらたいへんだから、睡眠の呪文を一応かけて」
「ウロバンチェ・オブ・チェイジ……セーパション・トラスドアース・睡眠」
そしてフォードは変わりなく眠り続けた。サーキスが驚く。
「お前、魔法使いだったのか⁉」
この世界の魔法使いは攻撃系の呪文を扱う職業だ。
「そうよ。言ってなかったわね」
「では開腹します。メス」
リリカから渡されたメスでパディがフォードの腹部を切ったが、すぐに手を止めた。
「中年太りでやっぱり脂肪がすごい。前より太ってる気がする。これではなかなか尿管までたどり着かない…。リリカ君、血を吸引して欲しい。風を起こして。サーキスはいいと言うまで黙ってて。しばらく動かないで」
リリカは掃除機にも似たタル型のガラス製品の穴に人差し指を突っ込んだ。そして右手でその機械の正面から伸びる布製のホースを持つ。そして呪文を唱えた。
「ブルバーム・サインバイト……フラゥアフィシャル・パティプロ・風撃」
呪文を唱え終わると彼女の人差し指から風が吹き出した。木の枝を揺らし続けるぐらいの風力だ。その魔法の風はタル型ガラス製品の中の小さなプロペラを勢いよく回す。小さなプロペラは軸や歯車を伝って中央にある大きなプロペラを回した。
パディは患者の横腹の切開を続けた。血がじわっと吹き出すところをリリカがホースで吸い込んだ。魔法が動力の吸引機のようだ。サーキスが言った。
「あの、もう喋っていい?」
「いいよ」
「すげえ! こんなの誰が考えたんだ⁉」
「先生よ。パディ先生はこういうのを発明するのが得意なのよ」
「発案するだけだよ。僕が工作したわけじゃない。職人さんに作ってもらってる」
「へえ! でもそもそも風撃の呪文って一回喰らったことがあるけど、何でこんなにお行儀良くコントロールできてるの⁉ 普通だったら嵐みたいな風でこの部屋めちゃくちゃになるぜ!」
パディはメスで腹を切り進めながら言った。
「君も回復呪文を唱えてて、たまに不本意にも少ししか回復しない時があるだろ? 十センチぐらいの切り傷が五センチしか回復しない時とか。リリカ君は狙ってそういうのができるんだよ」
「すげえ! 天才魔法使いだな! 適職! あ、お前は片手ふさがってやりにくいだろう? ホースは俺が握るぜ」
「あ、ありがとう」
パディが切開を続け、体内からしたたる血をサーキスがホースで吸い込む。体を奥まで切り進めてようやく尿管が見えた。パディの視点で見ても、尿管がたぷんたぷんになっていて何かが詰まっているのが一目瞭然だ。
パディは尿管の石がある場所、上下を鉗子というハサミのような形のクリップを二つ使って挟んだ。そして石の部分を、管を切断しないように切り開いた。尿が少し漏れて、ギザギザに尖った茶色の石が飛び出した。大きさにして一センチと少し。パディが手に取ったその石を金属のトレイに置いた。
「リリカ君、ビーカー」
リリカが台の上からビーカーを手に取ってパディの手元へ差し出す。パディは尿管からクリップを外して尿をビーカーへ流し込む。腎臓と尿管の尿が空になったと思うと、パディは切れた尿管を縫合針を使って生糸で軽く縫った。それから瓶から液体をバシャバシャとかけて患部を洗った。
「それは?」
「生理食塩水。薄い塩水だね」
生理食塩水もサーキスにホースで全て吸い込んでもらう。
「僕の作業は終わった。サーキス回復呪文をかけてくれ。大回復を頼む」
「了解。スタフ・ワンズオゥルド・ソトジョンディビ……ティングスライ・ディルズンペンコ・大回復」
サーキスが呪文を唱えるとたちどころに患者の傷がふさがった。パディが腹に付着していた血液も拭きあげる。今まで見ていた臓器も気のせいだったかと思うぐらい、全く傷は残っていない。術後に高血糖になることもない。インスリンの投与も全く必要なかった。
「よし、一応終わり。まだ後片付けをしないといけないけど。サーキスのおかげで本当に助かったよ。心からありがとう。こほっ…。改めて自己紹介。僕はパディ・ライス。四十歳だよ」
パディがボールに入った液体で手をジャブジャブと洗いながら言う。パディ医師は実年齢より若く見えた。十歳サバを読んでもわからないぐらいだ。
「俺はサーキス! 名字はないぜ! 十九歳! ってさっき書いてたよな」
「何であんた名字がないのを偉そうに言ってるの? あたしはリリカ。あたしも名字はないわ。先生の助手兼、魔法使いよ。年齢は二十一歳」
サーキスは一驚に喫する。
「えーっ⁉ お前年上⁉ 絶対俺の年下って思ってた!」
「悪かったわね。ところで先生、彼は一体?」
「あー! サーキスは患者さんとしてここに来たんだよ! 訊いたら僧侶って答えたからオファーした。ちなみに彼は足の裏に粉瘤ができてるみたいだ」
「そうですか…。サーキス、あたしからも礼を言うわ。フォードさんが助かった。あんたのおかげよ。ありがとう」
リリカの少し優しげになった瞳がこちらに向けられた。左目には泣きぼくろがあることにサーキスは気が付いた。
(うわっ、さっきは鬼の形相で怒っていたのに調子が狂うぜ…。それにオファーってもしかして…)
「どういたしまして。俺もその謎のマシンで血を吸うの面白かったし」
三人が自己紹介を終えると手術台の上でフォードが動き始めた。
「はあぁぁ…。良く寝た。あれ? 腹が痛くない。痛くないぞーっ!」
「たまたま僧侶が見つかりましてこちらで勝手ながら、フォードさんの手術をさせていただきました」
リリカがそう説明しながら、フォードに彼の私物の服を渡す。フォードはタンクトップと膝までの半ズボン姿に。そして彼は革靴を履いてサーキス達の前に力強く立つ。こうして見ると彼の身長はずいぶん低かった。百五十センチ少ししかない。
「ふええー! 今回も手術は成功したようだな、さすがパディちゃん! 感謝感激雨あられ……なんてワシが言うと思うか、この頭チュルチュル眼鏡ー!」
パディは汗を流して苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「だいたいワシは、僧侶さえいれば丸一日苦しむようなことはなかったんだよーっ! お前の管理力が問われる失態だ! お前は僧侶さんがいなかったら…、何だ⁉」
「僕は僧侶さんがいないとフォードさんの治療もできません…」
「わかってるじゃないか、このポンコツヤブ医者がーっ! そんなんだから家賃を滞納しまくりなんだよ!」
サーキスは思った。
(さっき先生は痛みがこの人に暴言吐かせてるって言ってたぞ…。治ってもあんまり変わらないような…)
「お前の医術は確かに素人目にはすごいようにも見える。しかし、それは単に悪い箇所を切って僧侶に回復してもらうだけだろ? んなもん知っていれば誰でもできるわーっ!」
(そんなこと誰も知らないぜ…。その知識に価値があるんじゃ…)
「ところでパディちゃん? お前の医者としてのテクニックはパディちゃんの国でどれくらいだ?」
「ちゅ、中の下ぐらいです…」
「ほっほー! わかってるじゃないか! それとも少し盛ったか⁉ まあよろしい。今日はこれで勘弁してやるか…。今回の手術で先々月分の家賃はチャラにしてやる」
「あ、ありがたき幸せ…」
「でも先月分と今月分はちゃんと払えよーっ!」
「ははーっ」
ハゲ親父のフォードがちらっとサーキスの方を見た。サーキスはぶるっと肩を震わせたが、フォードの方は今までの憤怒の形相が嘘のように優しい顔で言った。
「君が僧侶さんだね? おかげでワシは助かった、ありがとう! ワシはカザニル・フォード。不動産屋だ。一応ここの大家。君の名前は?」
「俺はサーキス…。たまたまここに来た通りすがりの僧侶だぜ…」
「覚えたぞサーキス! よーし、君にお小遣いをあげよう! …あ、あれ? ワシの財布がない…」
「あたしが財布も預かってました」
リリカがチェーン付きの革財布を差し出した。中身がギッシリと詰まっている。
「おー! リリカちゃんはワシの財布をよく守ってくれた! すぐそばに貧乏で邪悪なお医者さんがいるからねー! はいサーキス、お駄賃」
フォードはサーキスに銅貨を五枚、五百ゴールド渡した。
「ありがとう…」
「はい、リリカちゃんも。さあ手を出して」
「ありがとうございます」
パディも並んで両手を出した。
「貴様にはやるかボケーッ! …さて仕事もあるし、帰るとするか。あ、そうそう。今日はサーキスはどこに泊まるの?」
「え…。俺はすぐそこの宿屋に泊まるけど…。フォードの宿っていう…。あれ? あれ?」
「そこはワシが経営してる宿屋」
リリカが補足した。
「フォードさんは不動産屋の社長さんでここ一帯のたくさんの土地や家屋を持ってるの。この病院は元は宿屋よ。フォードの宿と同じ造りになってるわ」
「どうりで何か見たことあると思ってた!」
「よし、サーキスには特別に格安で宿泊できるように手配しよう。ワシから女将に言っておくよ」
フォードがそう言いながらパディに手招きする。そしてフォードはパディに耳打ちした。
「今度の僧侶は手放すなよ! 何が何でも手懐けろ! ものにしろよ!」
「は、はい…」
(いや、俺に聞こえてるんだけど…)
フォードが行ってしまうとサーキスは小声で言った。
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