ときにはシリーズ

トド

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ときには、気心知れた親友と

⑥ 『作戦会議』

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「どうして、こんなことに……」
 メルエーナは憂鬱だった。

 これからしばらくの間、バルネアと二人だけでの生活になってしまうのが寂しくて仕方がないのだ。

 ルーシアの要望をバルネアが聞き、大舞台での料理勝負が開催されることとなったのだが、それにメルエーナとジェノも巻き込まれてしまうこととなったのだ。
 しかも、メルエーナはバルネアと組み、ジェノはルーシアと組んでお互いが争う形になってしまった。
 
 一時だけとは言え、自分がバルネアと敵対するよりは良かったと思う。しかし、ずっと好意を寄せているジェノと敵対するという事態は、決して望ましい状況ではない。
 しかも、真面目なジェノは、『同じ家で生活をしていて、万が一にもルーシアさんの情報を漏らしてしまってはまずいので』と言い、ルーシアと同じ宿屋で(もちろん別室だが)寝泊まりすることを決めてしまったのだ。

 凄腕の料理人二人の戦いに、自分のような未熟者が協力するなどと言うだけでも恐れ多くて困っているのに、しばらくの間、仕事以外でジェノと顔を合わせることができない寂しさが、メルエーナの気持ちを曇らせ続ける。

 今日も店の仕事が終わると、ジェノはバルネアに挨拶をして、すぐに仮宿に帰ってしまった。
 それが、メルエーナには物悲しくてならない。

 昼過ぎにはバルネアさんが何処かに出掛けて行ったので、帰って来るまで一人で留守番をし、そして二人だけの寂しい夕食を済ませ、いつものテーブルに向かい合って座る。

 するとすぐに、バルネアが口を開いた。

「さて、メルちゃん。明日の仕込みも終わったし、ルーシアとの勝負のための作戦会議を始めましょうか!」
 メルエーナとは対象的に、バルネアは楽しそうに活き活きしている。よほどルーシアさんとの勝負が楽しみなのだろうと、メルエーナは察する。

「……あっ、あの、バルネアさん」
「んっ? どうしたの、メルちゃん?」
 おずおずと声をかけたメルエーナに、バルネアは笑顔で尋ね返してくる。

「その、私なんかにできることがあるんですか? 私は、自分がどれだけ未熟なのかは理解しているつもりです。間違いなく私は、バルネアさんの足を引っ張ってしまいます。
 そして、私のせいで、バルネアさんが負けるようなことになってしまったら、私は……」
 メルエーナは顔を俯けて、正直な気持ちを吐露する。

 しかし、バルネアは席を立ち、落ち込むメルエーナの頭を優しく撫でてくれた。

「私は、メルちゃんならきっと私の手助けをしてくれると信じているから、お手伝いをお願いしたの。だから、そんなに自分を卑下しては駄目よ」
 バルネアの言葉を嬉しくは思いながらも、メルエーナはやはりその言葉がただの気遣いに思えてしまう。

「それと、負けるつもりはないけれど、私の料理における信念は、料理で人を幸せにすること。それをこの世界で一番、沢山の人を幸せにできるのが、私の生涯の目標である『世界一の料理人』よ。
 だからね、勝敗以上に、私は皆を幸せにしたいの。そして、それにはメルちゃんとジェノちゃんも含まれているわ」
 バルネアはそう言って微笑む。

「えっ? 私とジェノさんも? その、それは、どういう意味ですか? 」
 意味がわからず、メルエーナは顔を上げて尋ねる。

「決まっているじゃない。二人の輝かしい未来のために協力したいのよ!」
「あっ、あの、やはり意味がわからないのですが……」
 婉曲的なバルネアの物言いでは、その真意が掴めない。

「少し考えてみて。今回の勝負のテーマは魚介類を使った料理。そして、メルちゃんは魚介類の扱いが苦手よね」
「あっ、はい。まだ上手く調理ができません……」
 山奥の村の出身であるメルエーナは、生の魚介類を調理した経験が少ない。そのため、調理が苦手な食材になってしまっている。

「私は、この勝負を機会に、短期集中でメルちゃんに魚介料理を徹底的に教えるつもりよ。
それに、苦手な調理方法もこの際に、しっかりできるようにしましょう。ジェノちゃんに追いつけるようにね」
 バルネアはそう言って笑う。

「ですが、それでは肝心の勝負の料理が……」
「いいのよ。もう私の作る料理は決まっているから。メルちゃんに指導しながら完成させていくわ。料理のことならば、二つくらいのこと、なんとでもしてみせるわ」
 バルネアは得意げに言い、任せておきなさいばかりに、自らの胸を手で軽く叩く。

「ですが、それでは……」
 やっぱり自分はただの足手まといだ。そう思ったメルエーナだったが、バルネアの次の言葉が、彼女の気持ちを大きく変えるきっかけとなった。

「それに、メルちゃんの料理が上手くなると、ジェノちゃんも幸せになれるからね」
 バルネアはそう言い、椅子に座り直す。

「その、さきほども私とジェノさんも含まれていると言っていましたよね? それに、二人の輝かしい未来のためにとも……。それは、いったい……」
 メルエーナの問に、バルネアは悪戯っぽく微笑む。

「メルちゃんは将来、ジェノちゃんと結婚して家庭を持つわよね」
 バルネアは決定事項のように言うが、メルエーナは驚きと恥ずかしさで顔を赤らめてしまう。

「いっ、いえ、その、それは……」
 メルエーナは顔を紅潮させて、しどろもどろになってしまう。

「そして、若い二人のことだもの、すぐに子供も生まれると思うわ」
「こっ、子供……」
 メルエーナの顔が、この上なく真っ赤になる。

「いっ、いくらなんでも、話が飛躍しすぎです。まっ、まだ、お付き合いさえして……」
「あらっ? ジェノちゃんが相手では駄目なの?」
「そっ、そんなことは言っていません! ですが、そういうことは、しっかりと手順というものが……」
 メルエーナは恥ずかしさのあまりに混乱し、自分が何を言っているのかさえ分からなくなってくる。

「ふふっ。メルちゃんは、子供は何人ぐらい欲しいと思っているのかしら?」
「でっ、ですから、それは、その、結婚してから……。その、二人で相談……」
「メルちゃんは一人っ子よね? やっぱり、二人くらいは欲しいんじゃあないかしら?」
「えっ? えっ? あっ、あの、その……。はっ、はい……。男の子と女の子を……」
 メルエーナは思わず、自分が将来家庭を持つとしたらと空想していた事柄を口にしてしまう。

「子供は可愛いわよね。でも、子供って、気遣いをしらないから、残酷なことを平気で口にしたりすることもあるのよ」
「ざっ、残酷なこと、ですか?」
 バルネアの顔が真剣な表情に変わったため、メルエーナも何とか羞恥心を堪えて、尋ね返す。

「そうよ。いい、想像してみて……」
 バルネアはそう前置きをし、その残酷なことというのを話してくれたのだった。
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