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第六章 『そこに、救いなどなくて……』
③ 『パメラからの護衛依頼』
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お肉増し増しのあんかけ焼きそばを幸せそうに食べ終えたパメラは、信仰する女神リーシスと料理を作ってくれたバルネアに感謝をし、改めてジェノ達の冒険者チームに依頼の話をすることにした。
「……というわけでね。私を含めた、うちの神殿の綺麗所の神官五人を、ここから馬車で一週間ほど離れたラセード村という村まで送って、帰りも護衛して欲しいのよ」
テーブルを二台くっつけた状態で、ジェノ、イルリア、マリア、セレクトと顔を突き合わせて地図を指差し、パメラは簡単に内容を伝える。
「……パメラさんも含めて五人ですよね?」
ジェノが確認の意味で訊いてきたので、パメラは頷く。
「んっ? 何か問題があるのかな?」
ジェノが渋い顔をしているのを理解し、不思議そうな顔をするパメラ。
「うちのメンバーは一応五名ですが、マリアとセレクトの二人は、飽くまでも臨時要因なので……。二人を外すと、俺とイルリアとリットしか居ない。その状況で五人の護衛は不可能です」
「あっ、大丈夫だよ、それは。うちの神官は、そんなにやわじゃあないから。だから護衛って言っても、形式上の物だから安心して」
「形式上なもの?」
「うん。実はさ、今回私達がラセード村に行く理由っていうのは、交流会という名のお見合いパーティーなんだよね」
パメラは恥ずかしそうに言うが、ジェノはいまいち事の次第が分からないようだ。そこで、イルリアが話に割って入ってくる。
「お見合いパーティーって、この街のリーシス神殿の女性とその村の男性とで婚姻を結ぶんですか?」
「いや、まぁ、そうなれば最高だけれど、とりあえずの顔見世というか、これからも良ければ交流を広げていきましょうっていう催し物の第二回目なの。あの村にはリーシス様の信徒の男性もいるし、うちよりも信者が少ない宗教で、改宗しても良いという方も多いから、うってつけなわけ」
「以外ですね。パメラさんがそんな催し物に参加するなんて」
友人として接してくれているパメラは、かなり気さくな人間だが、公には年若くして神官になった才女なのだ。信奉者は多く、特に若い女性信者からの人気は群を抜いているらしい。そんな彼女がお見合いパーティーという俗っぽいものに参加するのは、体裁が良くないのではないだろうかとジェノは思う。
「いやぁ、私は今回が初参加で、客寄せパンダな感じ。まぁ、そりゃあ、私だって結婚には憧れているけれど、やっぱりロマンスにあこがれているというか……」
「あらあら。やっぱりパメラちゃんも女の子ねぇ」
みんなのためにお茶を運んできてくれたバルネアが、微笑ましそうに言う。
「というわけだからさ、ジェノ君。護衛は適当でいいのよ」
パメラは気楽に言うが、ジェノは「それはできません」と口にする。
「俺達は既に正規の冒険者として登録されています。仮登録の頃ならばそのような粗雑な対応も黙認されていたかもしれませんが、これからはそうは行きません」
「うっ! そう言えば、そうだったわね。って、やっぱり正規の冒険者になると制約が厳しいの?」
パメラに尋ねられ、ジェノは簡単に今までとは異なる事柄を、特にギルドへの仕事の報告が今までより詳細に求められることを説明した。
「う~ん。それじゃあ仕方がないか。でも、他の冒険者に頼むというのもね。やっぱりジェノ君達の方が何かと気楽で安心なんだけどなぁ」
パメラは残念そうに言って、バルネアから受け取ったお茶を口にして嘆息する。
「ジェノ。パメラさんがここまで言っているのに、力を貸そうとしないのは、ちょっと頂けないわよ」
それまでお茶を飲んでいたマリアが窘めてきたので、ジェノは顔にこそ出さないでいたが驚いていた。
「俺だって、貸せるものなら貸したい。だが、人数が足りないのは仕方が……」
「もう! 貴方が頼んでくるのなら、私とセレクト先生だって力を貸すわよ! どうしてまず私達に話を振らないのって私は言っているのよ!」
マリアは心底腹立たしそうに言うが、ジェノはどうして彼女がこれほど怒っているのか分からない。そのことが、マリアを一層激怒させた。
「確かに私達は、貴方の冒険者のグループに無理やり入らせてもらったわ。けれど、私と貴方は幼馴染じゃあないの! 困っているのなら、私に相談してくれてもいいじゃない! 何よ、ここまで言わないと分からないなんて、本当に女心が分からないところだけは成長していないわね!」
マリアは肩で息をしながらも、一気にまくし立てた。
「……そうか。すまなかった。お前たちにはお前たちの事情がある。そう思って壁を作ってしまっていたようだ」
ジェノはマリアに頭を下げる。そして、
「マリア、セレクト。お前たちも多忙だと思うが、俺の友人が困っているんだ。数日力を貸してくれないだろうか?」
相変わらず仏頂面ながらも、慇懃にそう言って二人に協力を求めた。
「いいわよ、もちろん!」
「マリア様がそう言うのでしたら、私も当然お供しますよ」
二人の仲間は、笑顔で了承してくれた。ジェノは「感謝する」と礼を述べる。
「しかし、ジェノ。護衛される人間と、それをする人間が同じ人数では少し心もとなくないでしょうかね?」
セレクトの問に、ジェノは小さく頷く。
「分かっている。贅沢を言えば、あと一人は仲間が欲しい所だ。しかし、信頼が置ける人間でなければリスクが高い。護衛を危険に晒すことになるだろう」
「ええ。いきなり見ず知らずの人間を仲間に入れても様々なトラブルがあるでしょう。ですが、私にその問題を解決できそうな人間に心当たりがありますよ」
セレクトは静かに席を立ち、パメラの前に足を進めた。
「パメラさん。あと一人分の護衛費用を出すことは可能でしょうか?」
「えっ? う~ん。あと一人くらいの料金なら出せると思います」
「それは良かった」
セレクトはパメラの確認を取ると、ジェノに向かって微笑み、
「ジェノ。私の教え子でもあり、君の先輩でもあるシーウェンに声を掛けてみませんか?」
そんな提案をしてきたのだった。
……結果として、この提案をジェノは仲間たちと相談した後に受け入れる事となる。
けれど、ジェノは知らなかった。
何故、パメラは気楽な護衛だと言っていたのに、わざわざシーウェンという戦力を補強しようとしたのかを。
それは、虫の知らせ。何かの天啓であったのだ。
しかし、ジェノがそのことに気がつくのは、最悪な出来事に巻き込まれてしまってからだった。
「……というわけでね。私を含めた、うちの神殿の綺麗所の神官五人を、ここから馬車で一週間ほど離れたラセード村という村まで送って、帰りも護衛して欲しいのよ」
テーブルを二台くっつけた状態で、ジェノ、イルリア、マリア、セレクトと顔を突き合わせて地図を指差し、パメラは簡単に内容を伝える。
「……パメラさんも含めて五人ですよね?」
ジェノが確認の意味で訊いてきたので、パメラは頷く。
「んっ? 何か問題があるのかな?」
ジェノが渋い顔をしているのを理解し、不思議そうな顔をするパメラ。
「うちのメンバーは一応五名ですが、マリアとセレクトの二人は、飽くまでも臨時要因なので……。二人を外すと、俺とイルリアとリットしか居ない。その状況で五人の護衛は不可能です」
「あっ、大丈夫だよ、それは。うちの神官は、そんなにやわじゃあないから。だから護衛って言っても、形式上の物だから安心して」
「形式上なもの?」
「うん。実はさ、今回私達がラセード村に行く理由っていうのは、交流会という名のお見合いパーティーなんだよね」
パメラは恥ずかしそうに言うが、ジェノはいまいち事の次第が分からないようだ。そこで、イルリアが話に割って入ってくる。
「お見合いパーティーって、この街のリーシス神殿の女性とその村の男性とで婚姻を結ぶんですか?」
「いや、まぁ、そうなれば最高だけれど、とりあえずの顔見世というか、これからも良ければ交流を広げていきましょうっていう催し物の第二回目なの。あの村にはリーシス様の信徒の男性もいるし、うちよりも信者が少ない宗教で、改宗しても良いという方も多いから、うってつけなわけ」
「以外ですね。パメラさんがそんな催し物に参加するなんて」
友人として接してくれているパメラは、かなり気さくな人間だが、公には年若くして神官になった才女なのだ。信奉者は多く、特に若い女性信者からの人気は群を抜いているらしい。そんな彼女がお見合いパーティーという俗っぽいものに参加するのは、体裁が良くないのではないだろうかとジェノは思う。
「いやぁ、私は今回が初参加で、客寄せパンダな感じ。まぁ、そりゃあ、私だって結婚には憧れているけれど、やっぱりロマンスにあこがれているというか……」
「あらあら。やっぱりパメラちゃんも女の子ねぇ」
みんなのためにお茶を運んできてくれたバルネアが、微笑ましそうに言う。
「というわけだからさ、ジェノ君。護衛は適当でいいのよ」
パメラは気楽に言うが、ジェノは「それはできません」と口にする。
「俺達は既に正規の冒険者として登録されています。仮登録の頃ならばそのような粗雑な対応も黙認されていたかもしれませんが、これからはそうは行きません」
「うっ! そう言えば、そうだったわね。って、やっぱり正規の冒険者になると制約が厳しいの?」
パメラに尋ねられ、ジェノは簡単に今までとは異なる事柄を、特にギルドへの仕事の報告が今までより詳細に求められることを説明した。
「う~ん。それじゃあ仕方がないか。でも、他の冒険者に頼むというのもね。やっぱりジェノ君達の方が何かと気楽で安心なんだけどなぁ」
パメラは残念そうに言って、バルネアから受け取ったお茶を口にして嘆息する。
「ジェノ。パメラさんがここまで言っているのに、力を貸そうとしないのは、ちょっと頂けないわよ」
それまでお茶を飲んでいたマリアが窘めてきたので、ジェノは顔にこそ出さないでいたが驚いていた。
「俺だって、貸せるものなら貸したい。だが、人数が足りないのは仕方が……」
「もう! 貴方が頼んでくるのなら、私とセレクト先生だって力を貸すわよ! どうしてまず私達に話を振らないのって私は言っているのよ!」
マリアは心底腹立たしそうに言うが、ジェノはどうして彼女がこれほど怒っているのか分からない。そのことが、マリアを一層激怒させた。
「確かに私達は、貴方の冒険者のグループに無理やり入らせてもらったわ。けれど、私と貴方は幼馴染じゃあないの! 困っているのなら、私に相談してくれてもいいじゃない! 何よ、ここまで言わないと分からないなんて、本当に女心が分からないところだけは成長していないわね!」
マリアは肩で息をしながらも、一気にまくし立てた。
「……そうか。すまなかった。お前たちにはお前たちの事情がある。そう思って壁を作ってしまっていたようだ」
ジェノはマリアに頭を下げる。そして、
「マリア、セレクト。お前たちも多忙だと思うが、俺の友人が困っているんだ。数日力を貸してくれないだろうか?」
相変わらず仏頂面ながらも、慇懃にそう言って二人に協力を求めた。
「いいわよ、もちろん!」
「マリア様がそう言うのでしたら、私も当然お供しますよ」
二人の仲間は、笑顔で了承してくれた。ジェノは「感謝する」と礼を述べる。
「しかし、ジェノ。護衛される人間と、それをする人間が同じ人数では少し心もとなくないでしょうかね?」
セレクトの問に、ジェノは小さく頷く。
「分かっている。贅沢を言えば、あと一人は仲間が欲しい所だ。しかし、信頼が置ける人間でなければリスクが高い。護衛を危険に晒すことになるだろう」
「ええ。いきなり見ず知らずの人間を仲間に入れても様々なトラブルがあるでしょう。ですが、私にその問題を解決できそうな人間に心当たりがありますよ」
セレクトは静かに席を立ち、パメラの前に足を進めた。
「パメラさん。あと一人分の護衛費用を出すことは可能でしょうか?」
「えっ? う~ん。あと一人くらいの料金なら出せると思います」
「それは良かった」
セレクトはパメラの確認を取ると、ジェノに向かって微笑み、
「ジェノ。私の教え子でもあり、君の先輩でもあるシーウェンに声を掛けてみませんか?」
そんな提案をしてきたのだった。
……結果として、この提案をジェノは仲間たちと相談した後に受け入れる事となる。
けれど、ジェノは知らなかった。
何故、パメラは気楽な護衛だと言っていたのに、わざわざシーウェンという戦力を補強しようとしたのかを。
それは、虫の知らせ。何かの天啓であったのだ。
しかし、ジェノがそのことに気がつくのは、最悪な出来事に巻き込まれてしまってからだった。
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