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リンダの決心
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「リンダ、本当にすまなかった」
仕事をおえリンダが実家へかえろうと歩きはじめるとイーサンに声をかけられた。
必死にあやまるイーサンをみてもリンダの気持ちは凪いでいた。
結婚前から自分が騎士の妻に、イーサンの妻にふさわしくないことは分かっていた。しかし好きという気持ちを優先させてしまった。
初めから結果がみえていた結婚だった。
あるべき姿にもどさなくてはいけない。もうこれ以上イーサンをしばりつけてはいけない。
リンダが何もいわずに歩いていると、イーサンはリンダのとなりで結婚記念日を一緒に祝えなかったことをあやまりつづけた。
「イーサン、こんな道の真ん中でやめて。実家で話しましょう。父が帰ってるか分からないけど、両親もふくめて話そう」
「リンダ、まず二人で話したい。リンダのご両親に迷惑をかけているけど、まずは二人で話したいんだ。お願いだ」
リンダはイーサンを横目でちらりとみたが、視線を前にむけたまま歩きつづける。
二人は無言でリンダの実家へむかった。
リンダは家にもどると両親にイーサンとの話し合いに加わってほしいと頼んだ。
「まずあやまりたい」
イーサンが口火をきったが、リンダはすかさず「謝罪は必要ないので私から結論をいわせて」イーサンにこれ以上何もいわせないよう声を発した。
「でも、リンダお願いだ。本当にすまなかった。結婚する時の約束を破ってしまって本当にごめん。許してほしい」
リンダはテーブルを強くたたき、つづけようとするイーサンを黙らせた。
「本当に悪いと思っているなら黙ってくれる?」
リンダはこれまで誰にも見せたことがないほどの冷ややかさと怒りをみせた。
「私達にある選択肢はひとつだけ。離婚しましょう」
リンダの両親が息をのむ音がした。イーサンをふくめ誰も何もいうことができず沈黙がおりた。
「イーサン、私に騎士の妻は無理なの。
それでもこの二年がんばった。私なりにがんばった。でもやっぱり無理だった。
離婚してください」
リンダは静かに言い切った。
「リンダ…… どうして離婚なんて。他に好きな奴がいるのか?」
リンダが口を開こうとすると、
「駄目だ。やめてくれ。何もいわないでくれ。いまリンダに何かいわれたら耐えられない」
再び沈黙が部屋にながれる。
リンダは顔を白くしている夫をだまって見ていた。
リンダは結婚記念日にこなごなに砕け、もう何も感じることはないと思っていた心に痛みを感じた。
昨晩、実家にもどってきてからは涙もでなかった。母に事情を話しても感情はゆれることなく落ち着いて状況を説明できた。
何の痛みも苦しみも感じなかった。
母がイーサンとの結婚は、イーサンがリンダの父に結婚を申し入れたからで、決して親同士できめたものではないと説明した。そのこともリンダにとってどうでもよい話だった。
騎士の妻としてがんばれない自分に価値などない。
イーサンへの恋心でイーサンにまちがった結婚をさせてしまった。
イーサンのとなりには騎士の妻として激務の夫を支えられる強い女性がいるべきだ。それにもかかわらず弱い自分が居座ってしまった。
もっと早くに、結婚する前にリンダはがんばるべきだった。イーサンと結婚せずにすむようがんばるべきだった。
リンダはがんばるところを間違えてしまった。
いまさらな話だが、リンダはあの時、イーサンへの気持ちに引きずられてはいけなかったのだ。
結婚がきまったのはリンダが十七歳の時で、年齢的には成人だったがまだ何もしらない子供だった。
いまなら修道院へいくなど結婚せずにすむ方法を考えることもできる。
しかしあの時は結婚話だけでなく父ともめたことで動揺し、自分では考えていたつもりだったがまともに考えていなかった。
イーサンと結婚しない理由として、「騎士と結婚したくない」と父の騎士としての誇りを傷つける言い方をしてしまった。
そしてその言葉は父の怒りをかった。
リンダはどのようにして父の怒りを静めればよいのか分からなかった。
リンダが騎士の妻になりたくないことを知っていた母が結婚を反対してくれていたので、母からの説得により父が意見を変えてくれるだろうと思ってしまった。
結婚は親が決めるものと知っていたが、周りで親の反対を押し切って結婚した夫婦の話をきくことがあったので、本人たちの希望を聞いてくれるかもしれないと甘い気持ちがあった。
あとで知ったのは親に反対された場合、子は親を説得するために自分が望む結婚がどれほど親の利益になるかを納得させるため、年月をかけて用意するなど簡単でないことを知った。
ただ感情的に嫌だといってくつがえることではないことをリンダは分かっていなかった。
もし母だけでなく、父にもっと早い時期から商家に嫁ぎたいといった希望を話していれば、父もリンダの意をくんでくれたかもしれない。
過去を悔い、なげいてもしかたない。間違った道を元にもどすしかない。
リンダは痛みを感じる自分を叱咤する。
心を決めたのだ。もう迷わない。
イーサンと離婚するのがお互いにとっての正解だ。
リンダはぐっと体全体に力をいれ、離婚できるようがんばるのだと自分に言い聞かせた。
リンダはイーサンがうなだれている姿をみながらこれは一時的なものだと冷静になる。
イーサンが離婚に反対しているのは突然のことに動揺しているだけで、落ち着けばきっと離婚することが正しいと分かるはずだ。
リンダは表情をかえないよう気を張った。
仕事をおえリンダが実家へかえろうと歩きはじめるとイーサンに声をかけられた。
必死にあやまるイーサンをみてもリンダの気持ちは凪いでいた。
結婚前から自分が騎士の妻に、イーサンの妻にふさわしくないことは分かっていた。しかし好きという気持ちを優先させてしまった。
初めから結果がみえていた結婚だった。
あるべき姿にもどさなくてはいけない。もうこれ以上イーサンをしばりつけてはいけない。
リンダが何もいわずに歩いていると、イーサンはリンダのとなりで結婚記念日を一緒に祝えなかったことをあやまりつづけた。
「イーサン、こんな道の真ん中でやめて。実家で話しましょう。父が帰ってるか分からないけど、両親もふくめて話そう」
「リンダ、まず二人で話したい。リンダのご両親に迷惑をかけているけど、まずは二人で話したいんだ。お願いだ」
リンダはイーサンを横目でちらりとみたが、視線を前にむけたまま歩きつづける。
二人は無言でリンダの実家へむかった。
リンダは家にもどると両親にイーサンとの話し合いに加わってほしいと頼んだ。
「まずあやまりたい」
イーサンが口火をきったが、リンダはすかさず「謝罪は必要ないので私から結論をいわせて」イーサンにこれ以上何もいわせないよう声を発した。
「でも、リンダお願いだ。本当にすまなかった。結婚する時の約束を破ってしまって本当にごめん。許してほしい」
リンダはテーブルを強くたたき、つづけようとするイーサンを黙らせた。
「本当に悪いと思っているなら黙ってくれる?」
リンダはこれまで誰にも見せたことがないほどの冷ややかさと怒りをみせた。
「私達にある選択肢はひとつだけ。離婚しましょう」
リンダの両親が息をのむ音がした。イーサンをふくめ誰も何もいうことができず沈黙がおりた。
「イーサン、私に騎士の妻は無理なの。
それでもこの二年がんばった。私なりにがんばった。でもやっぱり無理だった。
離婚してください」
リンダは静かに言い切った。
「リンダ…… どうして離婚なんて。他に好きな奴がいるのか?」
リンダが口を開こうとすると、
「駄目だ。やめてくれ。何もいわないでくれ。いまリンダに何かいわれたら耐えられない」
再び沈黙が部屋にながれる。
リンダは顔を白くしている夫をだまって見ていた。
リンダは結婚記念日にこなごなに砕け、もう何も感じることはないと思っていた心に痛みを感じた。
昨晩、実家にもどってきてからは涙もでなかった。母に事情を話しても感情はゆれることなく落ち着いて状況を説明できた。
何の痛みも苦しみも感じなかった。
母がイーサンとの結婚は、イーサンがリンダの父に結婚を申し入れたからで、決して親同士できめたものではないと説明した。そのこともリンダにとってどうでもよい話だった。
騎士の妻としてがんばれない自分に価値などない。
イーサンへの恋心でイーサンにまちがった結婚をさせてしまった。
イーサンのとなりには騎士の妻として激務の夫を支えられる強い女性がいるべきだ。それにもかかわらず弱い自分が居座ってしまった。
もっと早くに、結婚する前にリンダはがんばるべきだった。イーサンと結婚せずにすむようがんばるべきだった。
リンダはがんばるところを間違えてしまった。
いまさらな話だが、リンダはあの時、イーサンへの気持ちに引きずられてはいけなかったのだ。
結婚がきまったのはリンダが十七歳の時で、年齢的には成人だったがまだ何もしらない子供だった。
いまなら修道院へいくなど結婚せずにすむ方法を考えることもできる。
しかしあの時は結婚話だけでなく父ともめたことで動揺し、自分では考えていたつもりだったがまともに考えていなかった。
イーサンと結婚しない理由として、「騎士と結婚したくない」と父の騎士としての誇りを傷つける言い方をしてしまった。
そしてその言葉は父の怒りをかった。
リンダはどのようにして父の怒りを静めればよいのか分からなかった。
リンダが騎士の妻になりたくないことを知っていた母が結婚を反対してくれていたので、母からの説得により父が意見を変えてくれるだろうと思ってしまった。
結婚は親が決めるものと知っていたが、周りで親の反対を押し切って結婚した夫婦の話をきくことがあったので、本人たちの希望を聞いてくれるかもしれないと甘い気持ちがあった。
あとで知ったのは親に反対された場合、子は親を説得するために自分が望む結婚がどれほど親の利益になるかを納得させるため、年月をかけて用意するなど簡単でないことを知った。
ただ感情的に嫌だといってくつがえることではないことをリンダは分かっていなかった。
もし母だけでなく、父にもっと早い時期から商家に嫁ぎたいといった希望を話していれば、父もリンダの意をくんでくれたかもしれない。
過去を悔い、なげいてもしかたない。間違った道を元にもどすしかない。
リンダは痛みを感じる自分を叱咤する。
心を決めたのだ。もう迷わない。
イーサンと離婚するのがお互いにとっての正解だ。
リンダはぐっと体全体に力をいれ、離婚できるようがんばるのだと自分に言い聞かせた。
リンダはイーサンがうなだれている姿をみながらこれは一時的なものだと冷静になる。
イーサンが離婚に反対しているのは突然のことに動揺しているだけで、落ち着けばきっと離婚することが正しいと分かるはずだ。
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