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守護天使は進むべき道をささやいてくれるのか

救いの原点

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 ステラはヤング弁護士事務所にむかいながら緊張していた。

 弁護士になるには弁護士見習いとして弁護士事務所で働き仕事をおぼえ推薦状をえたあと試験に受からなくてはならない。

 見習いを指導するのは時間がとられるだけでなく何かと手間もかかるので気軽に頼めるものではない。

 ステラの場合、弁護士になることが出来るのか分からないだけに見習いとして雇っても弁護士になれずにお荷物になる可能性があった。

 ステラはヤング弁護士とはまったく関係のない、女性が弁護士になることへ理解をしめしてくれる人をさがした方がよいのではと思った。

 これまでよくしてもらったヤング弁護士に迷惑をかけたくなかった。

 しかしレベッカがヤング弁護士がステラにまったく相談されなかったらその方が傷つくといったので思い直した。

 ステラが教師見習いになってからも、ヤング弁護士から手伝ってほしいと助けを求められると手伝っていたので良い関係をたもっていると思う。

 しかしお願いすることが大きすぎて足がふるえそうだった。

「ステラ、話を聞く前にちょっとこれを清書してくれないか?」

 事務所で挨拶した早々仕事をまわされた。忙しい時にお邪魔して申し訳ないと思いながら清書する。

 気持ちを落ちつけるとペンをとり清書していく。契約書で使われる法律用語もすっかりおぼえた。

 見習いのポールがいない時は、ステラがポールにかわりヤング親子が口頭でいうことを書きとめ書類をつくることを何度か経験している。

 まったく何も知らない見習いよりも役に立つとは思うが、弁護士になることが出来ないかもしれない見習いなど迷惑だろう。

 西地区では女性弁護士が認められたので東地区でも女性弁護士が認められる日はかならずくるはずだ。

 他の地区で前例があれば自分の所でもという話になりやすい。しかしそれが「いつ」になるかは誰も分からない。

 地区ごとに対抗心があり「あの地区がやったならこちらも早くやらないと」となる場合もあれば、「あの地区が妙なことをやっている」と流されることもある。

 現時点では弁護士よりも早く認められた女性医師でさえ東地区では誕生していない。

 やるべきことを終え軽食を食べながら話をすることになり、ステラは覚悟をきめてヤング・シニアに弁護士になりたいと思っていることを打ち明けた。

「そうか――弁護士になりたいか」

 シニアがそのようにいったまま黙りこんだ。

「なあステラ、もしかして学校で嫌なことがあったか? 教師の場合、教師同士でいろいろあると聞くし、子供よりも親の方が厄介だったりするんだろう? 教師をやめたくなってるとか」

 ジュニアにそのように聞かれステラは大きく首をふった。

「教師の仕事に不満があって弁護士になりたいと思っているのではないんです。

 西地区で女性弁護士が誕生したという話を聞いてからずっともやもやする気持ちがありました。

 生徒の家庭で問題があった時に法で救うことができないのかと考えはじめた頃から、自分の中に弁護士になりたいという気持ちがあると気付いたんです」

 ジュニアが大きく息をはいた。

「ステラ、夢をこわすようなことをいうが考えが甘い。甘すぎる。

 西地区で女性弁護士よりも先に女性医師が誕生したのは知ってるよな? それにともない西地区の大学で女子学生が医学部の入学をゆるされた。

 でも医学部に入学した女子学生に授業をうけさせない教授がいて問題になったり、教授だけでなく男子学生もグループになって行う実習で女子学生と一緒にやるのを拒否したりしてるそうだ。

 それでも何とか医師になれたとしても女性医師を受け入れる医院がないかもしれない。理想と現実はちがうんだよ。

 女性が医師や弁護士になる道ができたのは確かだ。だがまだ現実はおいついてない。肩書きがあるだけの状態だ。

 女性が弁護士になっても女性に仕事をまかせようという男はいないだろう。男と同じ能力があったとしても『女』というだけで敬遠される」

 ステラは自分の手をギュッとにぎり合わせた。

 分かってはいてもあらためてそのように現状をつきつけられると希望がしぼんでいく。

「悪いことはいわない。女性の職業として教師は社会的地位も高く需要もある。

 教師の仕事が向いてないなら辞めるのも仕方ない。でもそういうことじゃないんだろう?。

 女性が高等学校を卒業しないとなれないしっかりした職を捨ててまで弁護士になる必要はないだろう? 今のまま教師でいた方がステラにとって幸せだと俺は思う」

 ジュニアがステラのことを考えてくれているからこその言葉だと分かる。

 もし東地区が女性に門戸を開いたとして男性弁護士がそのことに対しどのような態度をとるのか、そして自分たちの顧客がどのような反応をするのか手にとるように分かるからこその言葉だろう。

 しかしステラはいいたかった。現実を分かっていないといわれても自分の気持ちをいいたかった。

「――人を助けられることをしたい。この事務所で働いていて何度となくそのように思いました。

 レベッカが離婚について事務所に相談にきて、法がレベッカの助けになったのをみて強く心に残りました。

 ノルン人がディアスで苦労しているのをたくさん見てきました。ディアスは彼らを移民として受けいれたのに、彼らの苦労がむくわれていないと思うことが多くありました。

 でもこの国の法がレベッカを救ってくれた。それをみてこの国が、法がレベッカを救ってくれたと感動したんです。

 事務所で働いていて法が万能でもなければ、レベッカのように救いとなるわけでもないのは分かってます。

 でももし私が人を助けられるとしたら弁護士ではと思ったんです。法で人を救いたい。いま救えない人も救うことができるのは法ではないかと思ったんです」

 沈黙がおりた。

 自分でも現実をまったく分かっていない青臭い希望をのべただけなのは分かっているが、これまで自分でも上手く言葉にできなかった気持ちを口にできたことをステラは満足していた。

「分かった、ステラ。少し考えさせてくれ」

「父さん! 下手にステラに希望を持たせるのはかえって残酷だ。これまでの信頼関係があるからこそ、言いにくいことをしっかり言うべきです」

 シニアが小さくうなずいた。

「ジュニアがいった通りこの東地区で女性が弁護士になれるかはまだ分からないし、なれたとしても見通しが明るいとはいえない。だから希望をもたせることをいうつもりはない。

 ただ私自身、考えたいことがある。だから今日はステラの話を聞くだけで、これ以上私から何かいうつもりはない」

「はい。お忙しいなかお時間をさいていただきありがとうございます、シニア」

 ずっと硬い表情だったシニアがほほえんでくれた。

 ステラはすっきりした気分だった。

 少しづつ進んでいけばよい。あせらず自分ができることをやるだけだ。

 ステラは決心をあらたにした。
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