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許婚と結婚して本当に幸せになれるのか

やるべきことを思いついた

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 クロード・ロランが消防署をでるとステラの頬をぶったジルから声をかけられた。

「クロード、本当にいろいろとごめんなさい。クロードの許婚にひどいことをしてしまって」

 クロードはまさかジルがあやまりにくるとは思わずおどろいた。

 昨日は自分をだましたのかとクロードに怒りをぶつけ、どういうつもりで自分に甘いことをいったのかと問いつめられた。

 クロードはジルにかわいい女の子をかわいいと素直にほめ、すこしきどってノルン国の貴族の挨拶である手の甲へのキスをしただけだと説明した。

 その説明にジルは納得がいかないようだったが、貴族の挨拶といった時に「今でもそんなことする人がいるの?」ジルが小さくつぶやいたのが聞こえた。

 ジルとは町を巡回しているときに出会った。彼女と使用人が野良犬に追いかけられていたので犬を追い払い、辻馬車をつかまえる手伝いをした。

 かわいい女の子だったこともあり、つい調子にのって手の甲にキスをしてしまった。

 クロードと一緒に巡回していた先輩が「さすがにあれはやりすぎだろう」とあきれていた。

 それなので「手の甲へのキスはノルンではただの挨拶ですよ」と笑いとばした。

 それがまさかジルがステラの頬をぶつようなことになってしまうとは思ってもみなかった。

「本当にごめんなさい。彼女の頬は大丈夫だった?」

「ちょっと赤くなっただけで大丈夫だったよ」

 こわばっていたジルの表情がゆるんだ。

「彼女に直接あやまるべきなのは分かっているけど、ひどいことをした人に前触れもなく会うのは嫌かもしれないと人にいわれたの。

 だからお詫びの品を用意したのでクロードからわたしてもらえる?」

 ジルが小さな紙袋をクロードに手渡した。

「ハンカチ。いくつあっても困らないものだし」と説明した。

「それとね、昨日は気持ちが高ぶってクロードにもいろいろ言ってしまいごめんなさい。

 ノルン式の挨拶について聞いたことはあったけど、実際に見たことがなかったし遠い国のこととしか思っていなかったせいもあって――。本当にごめんなさい」

 ジルが恥ずかしげに謝罪する姿はかわいかった。

 昨日ジルを家まで送ったときに、クロードはジルがお嬢様であることに気付いた。

 初めて会った時にジルが一緒にいた女性を使用人だといっていたので、それなりに大きな商家の娘だろうとは思っていた。

 しかし昨日、ジルに付いていた使用人が御者に行き先として知らせた場所は裕福な人達しか住めない地域で、実際に馬車が到着した場所には立派という文字がふさわしい屋敷があった。

 ジルはクロードが思っていたよりもはるかに裕福な家のお嬢様で、普通であれば知り合うことなどまったくなかっただろう。

「疲れているところを引き止めてごめんね。クロードを使ってしまって悪いんだけど許婚にお詫びを伝えてもらえると助かる。

 本当にごめんね。これにこりずまだ友達でいてもらえる?」

「もちろん。誤解があっただけだし」

 ジルがじゃあまたといって笑顔で手をふり去っていった。

 昨日の勢いや怒りのはげしさにはおどろいたが、もとは感じのよい子だ。今日のような彼女がきっと普段の彼女なのだろう。

 クロードはジルからわたされたステラへの詫びの品をポケットにいれ家へとむかう。

 ふとステラに婚約解消したいといわれたことを思い出した。

 怒りがこみあげる。

 クロードにとってステラはすでに家族だ。

 ステラが結婚できる年齢にたっしていないので結婚という形で家族になっていないが、ずっと一緒に育ってきて自分が一生守っていく存在だと思っている。

 そのようにステラも考えていると思っていただけに、まさか婚約解消したいというなど想像すらしたことがなかった。

「ステラがあんなことをいいだすなんて絶対なにかあったはずだ」

 しかしクロードが好きな奴でもできたかと聞いた時にステラは嘘をついているように見えなかった。

 ステラは嘘をつくときに下唇をかむ癖があるが、あの時はかんでいなかった

 そうなるとなぜ婚約解消したいといいだしたのかが分からない。

 ここ最近、喧嘩をしたおぼえはない。そもそも小さい頃とちがい一緒にいる時間がすくなくなった。

 クロードは夜勤があったりと勤務時間が不規則で、ステラは学校だけでなく放課後や週末に働いてと忙しくしているので一週間に一度顔を合わせるかどうかというかんじだった。

 それでも家族が一緒にご飯をたべたりと行き来しているので、お互い相手が何をしているのかは把握していた。

「そういえばしばらくステラと一緒に出かけてないなあ」

 それが不満なのかもしれない。ステラはすっかり家族となっているのであらたまって一緒にでかけるといった許婚らしいことをしたことがない。

 弟のパトリックに最近恋人ができ、恋人と一緒に出かけたりしている。

 ステラも友人などから恋人との外出を楽しんだことを聞いたりしているだろう。

「そうだ、許婚らしいことだ! それが欠けてたんだ」

 クロードはステラとどこへ出かけようかと行く場所を考えはじめた。
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