王室の光と華 真実の愛と影

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戸惑い

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 リリアンが姉の家をたずねると義兄のカルロ王子がにぎやかに迎えてくれた。

 義兄に会うたびにリリアンはこの人ほど王族にふさわしい人はいないと思う。受け入れられていると感じる温かい笑顔がとても自然だ。

 そのためだろう。義兄が話すエギャス語訛りのテリル語は、訛っているとあざ笑われるのではなくチャーミングともてはやされている。

 甥のヒューバートは昼寝から起きたばかりで機嫌が悪かったようだが、リリアンに抱っこされると泣き止んだ。

「グロリアが言うとおりだな。ヒューバートは王室の華の美しさにすっかり骨抜きにされている」義兄が感心したようにいった。

 姉と義兄の三人でお茶を飲みながらお互いの近況を話したあと、義兄はポロの練習があると席をはずした。

「お義兄さま、相変わらずポロにはまっていらっしゃるようね」

「自国では出来なかったのでのめりこんでいるみたい」

 姉がすこしあきれた顔をしていう。

「お姉さまがお幸せそうで本当によかった」

 姉が一瞬おどろいた顔をみせたあと、

「幸せといえばあなたがトレバー男爵家のサミュエルと親密だと皆うわさしてるわよ」訳知り顔でいった。

「親密といわれるほど交流していませんよ。ダンスを教えてもらっているだけですもの」

「でもこれまでトレバー男爵令息は誰に頼まれても自分の練習があると教えることを断っていたのに、リリアンには教えていると周りは大騒ぎよ」

 姉が「はやく話しなさい」という顔になっている。

 サミュエルとのいきさつを姉にくわしく話していなかったことを思い出し、母のごり押しだというと姉が大きくうなずいた。

「王妃からの依頼であれば仕方ないわよね」

 姉がふふっと笑い声をもらしたあと、

「お母さまのお気持ちがよく分かる。私も以前あなたとパイロット貴公子が踊っているのを見た時にあまりにも素敵でずっと見ていたいと思ったもの」

 まだ飛んでいるのを見るのがめずらしい飛行機をあやつる、見目のよい侯爵令息がパイロット貴公子とよばれていた。

 あのダンス大会からサミュエルのリリアンへの態度が変わった。

 それまでサミュエルはリリアンに興味をもっているように見えなかったので油断していたが、好意を伝えられリリアンはとまどっていた。

「もしかしたらお母さまのお見合い工作かしら? リリアンの結婚相手にトレバー男爵令息をと考えているのかも」

「ありえない話ではないですね。私の結婚相手をどうするかは話が行き詰まっているので。

 高位爵位家だと派閥のバランスがすこし面倒なので、お父さまも出来るだけバランスを崩すことのないお相手をとお考えですし」

「お母さまが本当に画策されたことなのかは分からないけれども、あなたはトレバー男爵令息を好ましく思っていたりするの?」

 リリアンは問いかけた姉をじっと見つめた。

「――正直にいうとよく分かりません。好ましいと思う気持ちがあるのはたしかですが。

 自分と年齢が近い男性をずっと幼いと思ってきました。でも気が付くと私自身がもう子供ではなく二十歳になり、私と同じような年齢の男性たちもマナーを身につけ紳士らしく接してくれるようになっているのですよね。

 王宮には大人しかいないですし、私達に接する大人の男性はマナーがしっかりしているだけでなく洗練された人も多いので、若い男性を頼りなく感じていました。

 でもサミュエルに対して頼りないと思ったことはなく、容姿が似ているわけではないですが先生を、フェンシングを教えてくれた先生に似たものをかんじます」

 姉は小さくうなずくと静かに「あなたには誰よりも幸せになってほしい」といった。

「私を支えるために国内の相手との結婚をと動いているのは知っているわ。

 でもあなたに無理をさせ、幸せになれると思えない結婚をしてまで国内にとどまってほしいとはまったく思っていない。

 さいわい政情は小康状態を保っているので多少の無理や時間かせぎはできるはず。あなたが乗り気でない結婚を早まってするようなことはしてほしくない」

 姉の気持ちがうれしかった。

 リリアンが姉に対して思うことを、姉もリリアンに対して思ってくれている。

 誰よりも幸せになってほしいと願う相手だと。

 王宮という場所で育った二人の周りにいるのはつねに大人だった。王宮で働く大人しか周りにいなかった。

 大人の世界にいる子供は二人だけで、いつも二人一緒に行動していた。

 リリアンにとってグロリアは、姉であるだけでなく、親友であり、そして自分が支えるべき未来の女王だった。

 姉がまとう光がテリル国を照らす。その姿を間近で見ていたい。支えつづけたい。

 本来ならば他国へ嫁ぎ姉の近くにいることなど出来なかったはずが、運がリリアンの味方をしてくれた。

 決まりかけていた他国の王子との婚約が流れた。

 国のために結婚する王女に自身の相手を選択する自由はない。だからこそ国内の相手であれば誰でもよいとリリアンは考えていた。

 国内の相手に嫁いでしまえば姉のそばを離れずにすむ。

 姉が思い出したように急に「愛はふやせるものなのよ」といった。

「――カルロとの結婚が決まった時にお母さまがいったの。愛はふやすことができると。

 あの時は何をいわれているのか分からなかったけれども今なら分かる。

 失った愛を悲しみ、そのことにとらわれるのではなく、新しい愛をはぐくめばよいと。世の中にはさまざまな形の愛があり、恋だけが人を幸せにするものではないという意味だったと思う。

 私はカルロに恋はしなかったけれども、パートナーとして信頼している。そしてヒューバートが生まれて愛をふやせたと思ったの」

 リリアンは姉のいう愛が分かるような気がした。姉は義兄と良い関係をきずくことで信頼しあい、それは愛へと形を変えたのだろう。そしてヒューバートという愛する対象がふえた。

 自分が置かれた状況の中で幸せをつかむ。そのようにすることが出来る姉をリリアンは強いと思う。

 母も政略結婚で父のもとに嫁ぎ、父とおだやかに家族としての絆を作り上げた。

 リリアンも母や姉のように愛をふやすことができたらとは思うが、結婚に多くのものを求めるつもりはない。

「いっそのことどなたか私に求婚してくださらないかしら? 公衆の面前でお断りできないほど派手に」

 姉が絶句したあと、

「一番派手で心にひびく求婚をした国内の貴族男性とリリアンが結婚するというおふれをだしたら、とんでもない数の男性が集まりそうよね」といい笑いだした。

 そのようなことを実際にするわけにはいかないが想像するだけでたのしそうだった。
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