王室の光と華 真実の愛と影

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華の侍女

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 芝生や樹木の目にまぶしいほどの緑があふれる空間に咲きほこるバラが彩りをそえている。

 リリアン殿下と初めてお会いした時のことを思い出す。

 当時はまだ王太子でいらした現国王陛下の侍従をしていた父が、王家の離宮でひらかれるガーデンパーティーに招かれ家族全員で参加した。

 グロリア殿下と歳がほぼ同じなせいか殿下はすぐに打ち解けてくださり二人で話をしていると、グロリア殿下をさがしに来られた四歳のリリアン殿下が乳母の手を引っぱりながらあらわれた。

 天使かと思うような愛らしさで、バラの花が計算されたかのようにリリアン殿下の周りで咲いていて現実とは思えなかったほどだ。

 それ以来、機会があるたびに離宮に招かれ両殿下と友人として過ごす幸運にめぐまれた。そしてリリアン殿下が十六歳の時に侍女としておそばにお仕えるようになった。

 イゴヌス国の大使に招かれガーデンパーティーに出席したリリアン殿下は、女性からみても見惚れるほど美しい。

 王女を出産されたばかりと思えないほど光り輝いているリリアン殿下のとなりを、サミュエル殿下が洗練された所作でエスコートされている。

 サミュエル殿下はダンサーとしてつねに女性が美しく見えるよう心がけていらっしゃるので、リリアン殿下の美しさが引き立つよう気を配られている。

 リリアン殿下の美しさに引き寄せられた人達があっという間に殿下を囲んだ。

 リリアン殿下はサミュエル殿下の裏切りをお知りになった日から変わられた。

「王室の華として誇り高く美しく生きるわ」

 そのお言葉どおり華やかさと美しさに磨きをかけ、美しさだけでなく親しみやすい笑顔と軽やかで心おどる会話で人をひきつけるリリアン殿下は、これまで以上に殿下の信奉者をふやした。

 友人として、そして侍女として二人の王女と親しく接してきた。

 共に過ごすなかでお二人があえて言葉にしないことや、ご本人も気付いていらっしゃらない無意識の行動の意味を理解することがある。

 リリアン殿下はサミュエル殿下に恋をし結婚されたが、おそばで見ていて思ったことがある。

 リリアン殿下はサミュエル殿下からのお気持ちに、愛にこたえることを恋と思われたのではと。

 あの頃殿下は国内の貴族から結婚相手をみつけなくてはという焦りをお持ちだった。

 そのような時にあらわれたのがサミュエル殿下だった。愛情表現豊かなサミュエル殿下に愛をささやかれ、リリアン殿下のお気持ちがサミュエル殿下へ傾いたのは自然な流れだったように思う。

 自分のことを愛してくれる人を愛さなくてはと、ご自分の気持ちを相手に合わせることで好ましいという感情をもりあげていかれたような気がする。

 リリアン殿下はサミュエル殿下の裏切りを知ったあと、これからは相手の気持ちにこたえる必要はないと解放された気分になられたのではと思う。

 自分を愛してくれる人に愛を返さなくてはいけないという呪縛から逃れられたのではと。

 あくまでもお二人をみて感じたことで事実ではない。

 リリアン殿下がどのようにお考えだったかをご自分から語られることはないだろう。友人として友が触れてほしくないと思うことを問うつもりはない。

 過去は過去でしかない。これからのリリアン殿下の幸せの方が大切だ。

 リリアン殿下が歓談されているお姿を見ていると、ふいに視界に入った女性が駆け落ちをした従姉に似ていて思わず声をあげそうになった。

 背の高さから従姉ではないとすぐに分かったが、目をはなすことができないほど従姉に似ていて胸がしめつけられた。

 料理人と駆け落ちをし戻ってきた従姉は、隣国で過去の自分のおこないと向き合い、慈善活動にはげむ静かな生活をおくるはずだった。

 しかし従姉は過去を後悔はしても反省はせず、衝動のままに新しい愛を求めいなくなってしまった。

 従姉が戻ってきたことが噂になっていた時に、リリアン殿下が彼女は真実の愛を本当に見つけたのだろうかとお聞きになったことがある。

 あの時は自分自身がまだ従姉と会っておらず、伯母から従姉が変わり果てて戻ってきたと聞いただけだったのでまともに答えることができなかった。

「人の気持ちって変わるのよ。状況や環境が変われば気持ちなんてすぐに変わる。好きという気持ちがあっという間に変わるなんて誰も教えてくれなかった」

 駆け落ちしてからの三年の間に、従姉だけでなく駆け落ち相手の男性も好きという気持ちをすりきらせてしまった。だからといって二人は別れることもできなかった。

 お互いすべてを捨て選んだ相手だ。自分たちは幸せなのだ。これまでと何かとちがうので慣れる時間が必要なだけだ。時間がたてばうまくいく。

 だましだまし関係を保ち、別れてしまえば自分たちは間違ったことになる、おろかといわれてしまうと意地をはりつづけるしかなかったのだろう。

 料理人だった男性は平民で彼自身もすべてを捨てているが、貴族である従姉の方が彼よりも多くのものを捨てなくてはならなかったことに負い目を感じていたはずだ。

 だからこそ彼は従姉への気持ちをうしなっても従姉と別れなかったが、体を悪くしたことから限界がきたのだろう。

 従姉は貴族の娘として使用人にかしずかれ、不自由なく過ごせる環境が整えられているのが普通だった。

 平民の生活が貴族とまったくちがうことは知っていても、実際に経験してみなければ誰もそのちがいがどれほど大きいのかは分からない。

 従姉は駆け落ちした時二十歳だった。大人といわれる年齢だが、大人として責任を取れるような大人ではなかった。

 二十歳の貴族の娘に平民の生活や世間を分かれという方が無理だろう。

 彼女と駆け落ちをした男性も従姉と同い年で情熱と衝動だけで動いた。

 自分たちは正しい。何でもできる。愛があればどのような苦労も耐えられる。

 何も知らないからこそ勢いで駆け落ちが出来た。

 誰もが人には言いたくない恥ずかしい経験や失敗をして大人になり、そのような経験から勢いだけで、衝動だけで動いてはいけないと学ぶ。

 従姉は若さと勢いで駆け落ちし、そのつけからも逃げ、いまとなっては生きているのかさえも分からない。

 自分自身も恋に落ち、従姉のように自分の気持ちを貫きたいと思ったことはある。しかし貴族の女として家のために政略結婚をした。

 お互い配偶者に愛を求めていない。夫には愛人がいる。

 いまのところ心ひかれる男性はいないが、いつか自分も愛を得る日がくるかもしれない。

「自分を幸せにできるのは自分だけなのよ」

 生まれたばかりの王女殿下をいとおしそうに抱っこし、そのようにおっしゃったリリアン殿下はきっとご自分が望む幸せを手にされるだろう。

 リリアン殿下と視線があった。目に親しみをこめ大丈夫よと合図をおくってくださる。

 この美しい人を、王室の華をずっとおそばで見ていたい。
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