王室の光と華 真実の愛と影

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王女の結婚

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 テリル国第二王女リリアンとトレバー男爵家次男サミュエルの結婚は、テリル国に社交ダンスの流行をうみだした。

 王室の華がダンスでつむいだ愛と二人の恋がさわがれ、サミュエルがリリアンと婚約したあとに大きな大会で優勝したことから、社交ダンスに興味のなかった人達が注目するようになった。

 リリアンとサミュエルの結婚は心配していた妨害もなく拍子抜けするほど順調にすすんだ。

「お父さまというよりも、お父さまを意のままに操ったお母さまが暗躍したという感じかしら」

 姉が笑いながら言った。

 母の暗躍のおかげでサミュエルは結婚後もダンサーとして活動をつづけることができた。

 本来であればサミュエルは王族の一員として公務をこなすべきだが、母がサミュエルにダンサーとしてのキャリアを捨てさせるのは国家的損失といいダンスを優先させることが認められた。

「王妃陛下には返しきれないほどのご恩を受け感謝の念に堪えません」

 サミュエルはリリアンとの結婚のためにダンスをあきらめる覚悟をしていたので母に深く感謝した。

 サミュエルはレッスンだけでなく、家に帰ってきてからもダンスに必要なトレーニングをしてと忙しかった。

 体を壊すのではと思うほどダンス一色の生活をしているが、それがダンサーとしてのサミュエルの生き方なのだとリリアンは何もいわなかった。

「美しすぎる。いまだにあなたが私の妻だと信じられない。夢のようで。愛してます、リリアン」

 サミュエルが家に戻ってくるなりリリアンを抱きしめた。

 サミュエルはリリアンへの気持ちを隠さなくてもよい状況になってからは言葉や態度で分かりやすく愛情をあらわした。

 顔を合わせれば愛していると抱きしめる。リリアンの好きな物をおぼえこまめに贈り物をする。会えないならせめて声をと電話してくる。

 周りからサミュエルがリリアンに向ける視線の甘さをよくからかわれた。

 それは結婚してからも変わらなかった。

「あなたと散歩した時に気に入っていた花を見かけたので」

「あなたの美しい写真がのっている雑誌があったから」

 夫はリリアンをよろこばせることに手間を惜しまなかった。

 サミュエルと前パートナーとのことは、

「国教で男女とも結婚するまで貞操を守れと、とくに女性はきびしく純潔であるよういわれるが、男に対してはその部分が甘いのが現状だ。

 だからといって女遊びがはげしかったり、すでに愛人がいたり隠し子がいるなら話は別だ。

 前パートナーと元婚約者へ遺恨がのこらない形で男爵家が上手く処理している。この程度ならかすり傷にもならない」

 父が若い男としてありがちだと笑い飛ばし何の問題にもならなかった。

 リリアンの感情的には少しわだかまりをおぼえたが、サミュエルがリリアンを不安にさせないようにと考えつく限りの愛情表現をするだけでなく、リリアン以外の女性と接する時は礼儀正しい態度をとるだけに徹底した。

 お互い忙しく共に過ごす時間が多いとはいえないが、一緒にすごす時は夫から愛され、大切にされていると実感できた。

 リリアンは夫から愛され幸せだと思う。

 王女として結婚に多くのものを求めていなかったが、思いがけずおだやかな幸せをえられたことに感謝していた。

 二度目の結婚記念日をむかえようとしている時に、

「リリアン、サミュエルと新しいパートナーは子供の頃に一緒にレッスンを受けていたのね。知らなかった」

 母から言われたことにリリアンは引っかかりを感じた。

 母は後援者の特権だといい、昔からお忍びで後援しているダンサーの練習を見に行くことがあった。

「あなた以外の女性と親しくしているのはめずらしいと思って聞いたら、幼馴染みだといっていたわ」

 サミュエルは半年前にパートナーが怪我をし競技生活から引退することになったことから、新しいパートナーと組んでいた。

 新パートナーは子供の頃に同じダンス教師から教えてもらっていた顔見知りだと聞いていたが、幼馴染みとして親しくしていたことは知らなかった。

 嫌な予感がする。

 これまで夫はリリアンに誤解をうけるようなことはしたくないと女性への態度に注意をはらい、パートナーのように日常的に接する女性については細かくおしえてくれていた。

 リリアンはサミュエルにさりげなく新パートナーのことを聞き「母から幼馴染みだったと聞いておどろいたわ」というと、「リリアンに言ってなかった?」大げさにおどろきあやまられた。

 リリアンは考えすぎだと思うもののかすかな不安がのこった。

 リリアンは姉が第二子出産予定日が近くなり公務をひかえていることから、リリアンが姉の代わりに多くの公務をこなしていた。

 公務をひとつ終え、次の訪問先に向かおうとしている時に夫がレッスンをしているスタジオが近いことを思い出した。

「ダンス・スタジオに五分ほど寄っても大丈夫かしら?」

 時間と警備的に大丈夫かを確認し顔をみせることにした。

 車がスタジオに近付くと道の反対側に夫が新パートナーと歩いているのが見えた。レッスンの合間に軽食を買いに出ることがあるのでその帰りのようだ。

 運転手が車をUターンさせスタジオの前にとめようとしている時に、夫が新パートナーの服についた葉を手ではらうと二人は見つめあい、パートナーの手を指をからませて握った姿が目にとびこんだ。

 運転手は駐車することに気を取られ二人の姿に気付いていないだろう。しかし護衛は気付いたはずだ。

 いつもであれば安全を確認するためすぐに行動するが、一瞬の間があいたあと車外へ出ようとした。

「お待ちください。道が混雑していたので予定よりも時間がおしています。

 大変申し訳ありませんがこのまま次の目的地に向かっていただけませんか?」

 侍女がリリアンに済まなそうな顔をしながらもきっぱりといった。

 侍女は分かっている。リリアンが表面的には普通にしていても動揺していることを。

 彼女も二人の姿をみたのだろう。リリアンをやんわりとこの場から遠ざけようとしている。

「分かりました。次の公務先にむかって」

 自分が車の中で座っていたことに感謝する。座っていなければ動揺していることが目に見えて分かっただろう。

 姉にいますぐ会いたかった。姉に話を聞いてもらいたい。

 しかし姉は第二子の出産を間近にひかえている。心配をかけるようなことはできない。

 配偶者の不貞など王侯貴族にめずらしくない。

 でもまさか自分がそのような状況におちいるとは考えたことがなかった。

 誰にでも起こりえることでありながら、どこかで自分は大丈夫と思う気持ちがあった。

 リリアンは大きく息を吸った。

「私はテリル国王女、リリアン。王女としての品位を落とすようなことは決して許されない」

 リリアンは目的地につくまで目をつむり体を車のシートに深く沈みこませた。
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