王室の光と華 真実の愛と影

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教会にあふれる声

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 ステンドグラスが日に照らされ輝き、教会が美しい歌声でみちる。

 聖歌の余韻をのこしながら静寂がおとずれた。

 純白のウエディングドレスをきた花嫁と礼装用の軍服をきた王子が、

「病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も」と誓いの言葉をかわし指輪の交換をする。

 手をとりお互いを見つめ合う二人。

 厳粛な儀式でありながらも温かさを感じる。

 十九歳のテリル国王女、グロリアは、従兄であるケイヤロ国第二王子の結婚式に参列していた。

 周りからそろそろグロリアの婚約者を決めなくてはといわれる年齢になった。

 結婚式に参列したおかげで、結婚という文字が現実として自分にせまっていることを実感する。

 テリル国の国王にはグロリアと妹のリリアン、二人の王女しかいないため、グロリアが王太子として将来テリル国の女王になる。

 王配となる結婚相手は他国の王族から国益にあう王子がえらばれる。

 選ばれた相手と良い関係をきずくことができたらと思うが、望みすぎてはいけないとグロリアはできるだけ考えないようにしていた。

 グロリアが聖歌に耳をかたむけながら聖歌隊を見るともなしに見ていると歌っている男性と目が合った。

 その男性はグロリアにはっきり分かるほどの笑みをみせたあと指揮者へ視線をもどした。

 歌っている人と目が合うことは多くないため、一瞬のこととはいえグロリアの印象にのこった。

「起立を」という声がしグロリアは儀式に意識をむけた。

 式をおえた二人が教会の外へむかう。第二王子の結婚を祝うために集まった人達の前で花嫁にキスをし、婚姻がつつがなく結ばれたことが公になる。

「とてもきれいだったわ。私も美しいウエディングドレスをきて結婚したい」

 妹、リリアンがうっとりとした表情でいったあと、

「式自体はすてきだけど待つ時間が長くて、じっと座っていないといけないのが大変よね」と笑った。

 妹の笑みに「華やか」という言葉が自然と口をつく。

 姉妹なので姿形は似ているが、リリアンはグロリアにはない華やかさがあり人の目をひく。王室の華とよばれるのにふさわしい美しさだ。

 妹は場にいるだけで周りを明るくするだけでなく、人の気持ちをとらえる社交性もありグロリアは助けられることが多かった。

「お姉さま、その帽子とてもお似合いです。うらやましい。

 その帽子、私も大好きなのに私には悲しいほど似合わなくてとてもくやしいです」

 妹が帽子についている羽根飾りをなでている。妹は帽子そのものよりも羽根飾りが気に入っているようで、この帽子をかぶるたびに何度も羽根飾りにふれる。

 招待客と話していた母と目があうと、声をださずに口だけを動かし来るようにいった。両親のそばに聖歌隊の指揮者と聖歌隊のローブをきた男性がいた。

「オーシャス国の第三王子、アルフレッド殿下だ」

 先ほど目が合った聖歌隊の男性はアルフレッド王子だった。

「オーシャス国の王子殿下がなぜこの国の聖歌隊に?」

 妹がグロリアも思っていた疑問を口にした。

「恐れ多くも私がアルフレッド殿下に願いでたのです。

 オーシャス国でアルフレッド殿下の美しい歌声を耳にしました。心にしみる歌声で涙がでました。

 殿下が第二王子殿下の結婚式に参加されると聞き、ぜひ聖歌隊で歌っていただけないかとぶしつけにもお願いしたのです。

 アルフレッド殿下が快く引き受けてくださり感無量です」聖歌隊の指揮者がこたえた。

「私の声が役に立ち何よりです」

 アルフレッド王子の歌声を思いだす。ソロで歌っていた姿はりりしく、歌声は深みがあり心地よくひびいた。

 そういえばとアルフレッド王子が秋からテリル国の海軍士官学校に入学することになっているといった。

 はじめて聞く話しで父へ視線をむけると、指揮者との話にいそがしくこちらの話は聞いていなかった。

「では秋からは私どもの国でお会いする機会がふえますね」

「はい。お見知りおきを」

 アルフレッド王子が胸に手をあてうなずくように軽く頭を動かしたあと目が合った。

 森を思いおこさせる緑の瞳に吸いこまれそうな感覚におちいった。

「グロリア殿下、リリアン殿下、お久しぶりでございます。すっかりご立派になられて。見ちがえました」

 親戚に声をかけられたのをきっかけに、挨拶がまだであった人達にグロリアとリリアンは囲まれていた。

 挨拶や近況報告、世間話が飛びかう中、突然「真実の愛」という言葉を耳がとらえた。

「イゴヌス国の王太子が平民と結婚するために王位継承権を放棄するという話、お聞きになりました? まさかのことにイゴヌス国は大騒ぎになっているそうですわ」

「まさしくお芝居のようですわね」

「市井では王太子が身分を捨ててまで真実の愛に生きるともてはやされているようですな。下々の者の浅はかさに呆れ果てる。

 イゴヌス国はただでさえ政情が安定していないのに、このことでいっそう不安定になると王太子たるものが理解していないとは嘆かわしい」

「真実の愛などと美しい言葉で何かをごまかそうとしているのでしょう」

 グロリアはイゴヌス国について知っていることを思い起こす。テリル国からはなれているのでつながりが強いとはいえない。しかし時をさかのぼれば姻戚関係があるはずだ。

 イゴヌス国は先王時代に王位継承でもめたことから政情が不安定になっていた。現国王が国内安定に注力していると聞いている。

 王太子の名はすぐに思い出せたが顔はうかばない。資料にそえられていた写真をみただけなので覚えていなくても仕方ないだろう。

 どの国でも国が荒れている時に王位継承権を放棄したり、はく奪されたりということは起こるが、平民と結婚するために王位継承権を放棄するなどこれまでなかったはずだ。

「真実の愛とはどのようなものなのでしょうね?」

 妹のつぶやきにはっとした。すっかり意識が場からそれてしまっていたらしい。

 妹の言葉はグロリア以外には聞こえなかったようで、イゴヌス国王太子への非難がつづいていた。

「王位を捨ててまでつらぬく愛。私たちのような者にとって真実の愛という言葉、ちょっぴり憧れませんこと?

 真に愛する方と結ばれる。お芝居やおとぎ話のなかにしかないものだと分かっているからこそ憧れる」

 体感できるほど場がゆれたかと思うと、にぎやかを通り越しさわがしいほどの声があふれた。

「公爵夫人ともあろう方からまさかそのようなお言葉を聞くことができるなど、長く生きてみるものですわね」

 女性のからかう言葉をうけた公爵夫人はあでやかにほほえんでいる。

 王位を捨てつらぬく愛。

 その言葉のひびきはたしかに魅力的だ。

 しかしグロリアは自分には関係ないことだと知っている。この世に生まれた時からグロリアの生き方は決まっている。

 目が合った妹の美しい空色の瞳をグロリアは見つめた。
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