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文化祭 2
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「これから第72回聖南高校の文化祭を開催します」
クラスにあるスピーカーから文化祭の開始を知らせるアナウンスがなる。
「どうしよう、始まったよ!」
「落ち着いて、大丈夫だから!」
目の前でおどおどとしている二人に声をかける。
「大丈夫、練習通りやれば出来るから」
「「鬼条さん!」」
ひらひらと長いスカートを揺らしながら二人が近付いてきた。
「そうだよね、練習通りにやればいいだけだもんね」
「練習通り、練習通り・・・よし!」
気合を入れる二人の後ろのドアがガラリと開く。ドアの向こうからは同い年ぐらいの私服の男子生徒が数人束になって入って来た。
私たちは横に並ぶと何回も恥ずかしながら練習した言葉を口にしながら頭を下げた。
「「「いらっしゃいませご主人様」」」
頭を上げると男子たちは普段言われない言葉を言われてそわそわしている。そんな姿を見ると私まで恥ずかしくなって来る。
「こ、こちらにどうぞ」
私の右に立っていた女の子がぎこちない歩きで来てくれたお客様を席の方に誘導していった。
「鬼条さんごめんね、変わってもらって」
お客さんがメニューを選んでいるのを見ているとキッチンの方から実行委員をしている女の子が私のもとに来た。
「全然いいよ、二時間接客時間が伸びただけだから」
「ほんと鬼条さんがやるって言ってくれて助かったよ」
彼女は安心したようにため息を吐いた。
私の仕事の始まりは10時から。でも8時半の時点で接客の仕事をしている。今朝のこと、白髪が目立つ担任が欠席の人がいることをホームルームで伝えた。その子は朝一の接客担当だった。
緊急のことで実行委員長がキッチン担当の女子に代理を頼んだ。しかし全員目を逸らして名乗り出ることはなかった。そんな状況でただただ時間が過ぎていった。
そもそもキッチンを担当している子たちはメイドのコスプレをしたくない、つまり反対派の子たちだった。私も賛成ではなかったが、みんながやろうって言うから首を縦に振るしかなかった。
そんな反対派の子たちが自分から手をあげることはない。そうなると誰かがやらないといけない。
「じゃあ、私が長くやるよ」
そう言うしかなかった。他の人が名乗り出る可能性はゼロに近いから。
男性客にはメイドが、女性客にはヒツジが接客をするようになっている。来てくれたお客様をテーブル、と言っても普段使っている机と椅子に白い布をかけているだけなんだけど。席に着かれたらメニュー表を渡し、決まれば読んでもらう。注文を承り、提供して、入り口でお礼を言う。
「ご主人様、またのお越しをお待ちしております」
客足は途絶えることを知らず、忙しいまま時間だけが過ぎていく。廊下には順番を待つ人がずらりと並んでいる。キッチンも忙しそうにパンケーキやオムライスを作っている。コンロにも数に限りがあるのでいっぺんに作ることは出来ない。前日に作って置いたストックは朝の二時間で空になってしまったらしい。
忙しいなか注文の品を運んでいるとお客様の首筋を見て急に疼いてしまった。噛みたい、吸いたい、その気持ちを押し留めるためにみんなより早く仕事をこなす。
「あと2時間」
私は気合を入れ直した。
「二名ですね、男性一人、女性一人入りまーす」
教室前の廊下で受付をしている女子の声が教室内に届く。しかし俺たちは返事をしない。今から脅かす俺たちに客が入ることを知らせるだけの声だから。
入り口の方からはカップルであろう二人の声が聞こえる。
「アキくん怖いよ」
「たかだか文化祭のお化け屋敷だろう?何が怖いんだよ」
イチャつく二人の声はお化け屋敷に来た人たちの定番なのだろうか、カップルで来るとみんな同じ会話をしているような気がする。
入り口側から順番にみんなが脅かしに入る。ゾンビ、魔法使い、フランケン、そして吸血鬼、午前中はこのメンバーになっている。純恋のメイド喫茶にはギリギリ間に合うかどうか。
一番最初のゾンビの子の前までカップルが進んだようで彼女の頑張って出している低い声が響く。その後に入って来た女の子の奇声が聞こえる。
「アキくん怖い」
「うんうん、怖いね」
男性の方はお化けではそれほど怖がらないらしい。そのまま順番にみんなが脅かしていく。
そしていよいよ俺も出番。俺のいる場所からは出口までの一本道になっている。他の通路にはあるはずの小明かりはない。出口から入る光だけ。
「余裕だったな」
「私は怖かったよ~」
彼氏の腕に捕まって歩く二人が目に入るとゆっくりと二人の後ろをついて行く。二人は安心しきっていて後ろの俺には気付いていない。
二人が出口の50センチ手前に来るとドアにつけられた紐を隠れている人が本気で引っ張る。紐は釣り糸なのでよく見ないとわからない。ドンっと音を立てて閉まったドアの前で二人が立ち止まる。
「びっくりした」
「そうだな」
そんな立ち止まっている彼氏の肩を軽く叩く。彼氏の方がゆっくりと振り向くと手に持っていた懐中電灯で血の付いた自分の顔を照らす。
「またのお越しを・・・」
恐怖感を演じるため低い声を出す。今までこんな声が出せたんだと自分でも驚くような声で。
真っ暗になった場所で急に現れた俺に男性は尻餅をついて倒れ込み、急いでドアを開けると彼女を置いて走り出してしまった。倒れたままの女性は唖然と彼氏の逃げて行ったドアの向こうを見ている。
「・・・すみません、大丈夫ですか?」
懐中電灯で全体を照らしながらその女性に手を差し出す。女性はしばらく俺の手を見ると手を伸ばした。女性を立たせるとせめてもと思いとても短い距離だったが出口まで案内した。
「ありがとう」
女性は礼を言うと廊下で待っていた男性のもとに向かった。男性の顔色はとても悪かった。
クラスにあるスピーカーから文化祭の開始を知らせるアナウンスがなる。
「どうしよう、始まったよ!」
「落ち着いて、大丈夫だから!」
目の前でおどおどとしている二人に声をかける。
「大丈夫、練習通りやれば出来るから」
「「鬼条さん!」」
ひらひらと長いスカートを揺らしながら二人が近付いてきた。
「そうだよね、練習通りにやればいいだけだもんね」
「練習通り、練習通り・・・よし!」
気合を入れる二人の後ろのドアがガラリと開く。ドアの向こうからは同い年ぐらいの私服の男子生徒が数人束になって入って来た。
私たちは横に並ぶと何回も恥ずかしながら練習した言葉を口にしながら頭を下げた。
「「「いらっしゃいませご主人様」」」
頭を上げると男子たちは普段言われない言葉を言われてそわそわしている。そんな姿を見ると私まで恥ずかしくなって来る。
「こ、こちらにどうぞ」
私の右に立っていた女の子がぎこちない歩きで来てくれたお客様を席の方に誘導していった。
「鬼条さんごめんね、変わってもらって」
お客さんがメニューを選んでいるのを見ているとキッチンの方から実行委員をしている女の子が私のもとに来た。
「全然いいよ、二時間接客時間が伸びただけだから」
「ほんと鬼条さんがやるって言ってくれて助かったよ」
彼女は安心したようにため息を吐いた。
私の仕事の始まりは10時から。でも8時半の時点で接客の仕事をしている。今朝のこと、白髪が目立つ担任が欠席の人がいることをホームルームで伝えた。その子は朝一の接客担当だった。
緊急のことで実行委員長がキッチン担当の女子に代理を頼んだ。しかし全員目を逸らして名乗り出ることはなかった。そんな状況でただただ時間が過ぎていった。
そもそもキッチンを担当している子たちはメイドのコスプレをしたくない、つまり反対派の子たちだった。私も賛成ではなかったが、みんながやろうって言うから首を縦に振るしかなかった。
そんな反対派の子たちが自分から手をあげることはない。そうなると誰かがやらないといけない。
「じゃあ、私が長くやるよ」
そう言うしかなかった。他の人が名乗り出る可能性はゼロに近いから。
男性客にはメイドが、女性客にはヒツジが接客をするようになっている。来てくれたお客様をテーブル、と言っても普段使っている机と椅子に白い布をかけているだけなんだけど。席に着かれたらメニュー表を渡し、決まれば読んでもらう。注文を承り、提供して、入り口でお礼を言う。
「ご主人様、またのお越しをお待ちしております」
客足は途絶えることを知らず、忙しいまま時間だけが過ぎていく。廊下には順番を待つ人がずらりと並んでいる。キッチンも忙しそうにパンケーキやオムライスを作っている。コンロにも数に限りがあるのでいっぺんに作ることは出来ない。前日に作って置いたストックは朝の二時間で空になってしまったらしい。
忙しいなか注文の品を運んでいるとお客様の首筋を見て急に疼いてしまった。噛みたい、吸いたい、その気持ちを押し留めるためにみんなより早く仕事をこなす。
「あと2時間」
私は気合を入れ直した。
「二名ですね、男性一人、女性一人入りまーす」
教室前の廊下で受付をしている女子の声が教室内に届く。しかし俺たちは返事をしない。今から脅かす俺たちに客が入ることを知らせるだけの声だから。
入り口の方からはカップルであろう二人の声が聞こえる。
「アキくん怖いよ」
「たかだか文化祭のお化け屋敷だろう?何が怖いんだよ」
イチャつく二人の声はお化け屋敷に来た人たちの定番なのだろうか、カップルで来るとみんな同じ会話をしているような気がする。
入り口側から順番にみんなが脅かしに入る。ゾンビ、魔法使い、フランケン、そして吸血鬼、午前中はこのメンバーになっている。純恋のメイド喫茶にはギリギリ間に合うかどうか。
一番最初のゾンビの子の前までカップルが進んだようで彼女の頑張って出している低い声が響く。その後に入って来た女の子の奇声が聞こえる。
「アキくん怖い」
「うんうん、怖いね」
男性の方はお化けではそれほど怖がらないらしい。そのまま順番にみんなが脅かしていく。
そしていよいよ俺も出番。俺のいる場所からは出口までの一本道になっている。他の通路にはあるはずの小明かりはない。出口から入る光だけ。
「余裕だったな」
「私は怖かったよ~」
彼氏の腕に捕まって歩く二人が目に入るとゆっくりと二人の後ろをついて行く。二人は安心しきっていて後ろの俺には気付いていない。
二人が出口の50センチ手前に来るとドアにつけられた紐を隠れている人が本気で引っ張る。紐は釣り糸なのでよく見ないとわからない。ドンっと音を立てて閉まったドアの前で二人が立ち止まる。
「びっくりした」
「そうだな」
そんな立ち止まっている彼氏の肩を軽く叩く。彼氏の方がゆっくりと振り向くと手に持っていた懐中電灯で血の付いた自分の顔を照らす。
「またのお越しを・・・」
恐怖感を演じるため低い声を出す。今までこんな声が出せたんだと自分でも驚くような声で。
真っ暗になった場所で急に現れた俺に男性は尻餅をついて倒れ込み、急いでドアを開けると彼女を置いて走り出してしまった。倒れたままの女性は唖然と彼氏の逃げて行ったドアの向こうを見ている。
「・・・すみません、大丈夫ですか?」
懐中電灯で全体を照らしながらその女性に手を差し出す。女性はしばらく俺の手を見ると手を伸ばした。女性を立たせるとせめてもと思いとても短い距離だったが出口まで案内した。
「ありがとう」
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