俺を襲ったのは優等生だった

加藤 忍

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文化祭準備 4

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モール内は服やアクセサリー、小物や家具ばかりで仮面などが置かれていそうな店はなかなか見つからなかった。ハロウィンが近ければ置かれていたかもしてないが、今日からハロウィンまでは1か月もある。置いている店はかなり少ないだろう。

「ここに入ってみない?」

 通路沿いの店を見ていると彼女が立ち止まって店の方を指さした。

 彼女の視線の先には変わったお店があった。服やアクセサリーの店と違い、時計や駄菓子、化粧品や本と統一感のないお店だった。

「そうだな」

 普段見ないお店に興味を惹かれて頷いた。


 店内は外装でもわかるように統一感がなかった。服が置かれていたり、バックがあったりとバラバラ。そんな中、彼女が何かを見つけたようで早歩きで進んでいくと商品を手に取り自分の顔に重ねた。

「どうかな?」

 緑色の顔のゾンビの顔をした仮面を持った彼女は聞いてくる。

「いいんじゃない?」

 商品は彼女の持っているもの以外にもフランケンシュタインやヴァンパイアなどが置かれている。

「全種類1個ずつ買っていく?」

「そうだね、種類は多い方がいいもんね」

 彼女が商品の仮面を手に取っているとLINEの着信が来た。LINEはクラスのグループに贈られたようで彼女のスマホの着信音が同時になった。

(裕二、小野鬼さん、仮面買った?)

 手に取った仮面をレジに持っていこうとする彼女を呼び止めて返信をした。

(今から買うところ)

 送ったメッセージはすぐに数人の既読が着いた。

(仮面いらなくなった)

(どういうこと?)

(衣装班の提案でメイクでやることになった)

「小野鬼さん」

「何?」

「仮面いらなくなった」

「どういうこと?」

 離れていた場所で立ち止まっていた彼女が返って来た。仮面を持ったまま不思議そうな顔をしている彼女にスマホの画面を見せる。彼女は上から会話の内容を読み終えると「そうなんだ~」と声を漏らしてから商品をもとの場所に戻した。

「生首の人形もないし、ならもう買う物はないね」

「そうだな。学校に帰ろった」

 このモールにいる用事がなくなった俺たちはモールを出ることにした。


 学校に帰る間、彼女と共通の話題がほとんどない俺は学校の出来事や大智たちと話した内容などを話題に出す。彼女も似た様なもので女子だけの話題を上げて来る。そんな会話をしていると彼女が店の前で立ち止まった。

「ちょっとあれ食べて行かない?」

 彼女の視線の先には過去に純恋とクレープを食べに来た公園があった。その園内には一台の車が止まっていた。その横にはアイスクリームの置物が置かれていた。

「いいけど、そんなに長くいられないよ」

「わかってる」

 俺たちは帰路を外れて公園内に入った。


 公園内は合いも変わらず小学生の子供が元気に遊んでいた。ジャングルジムに登ったり、滑り台を滑ったり、懐かしいけいどろをしているグループもいた。そんな子供たちを見ながら車のもとに歩いて行った。

「いらっしゃい」

 車の前に行くと帽子を被った若いお兄さんが店のやっていた。遠目で見たときはあのおじさんが、なんて思ったがさすがに違った。

 メニューは全部で6種類だった。バニラ、チョコ、いちご、マンゴー、抹茶にバニラとチョコのミックス。彼女はメニューを見るとすぐにチョコを注文した。お兄さんは素早くそれを作ると30秒足らずで彼女の渡した。

「それでそっちの学生さんは?」

「え~と・・・抹茶で」

 たまには違った味でもいいかもと思ったのだが、やっぱり好きな味を選んだ。

 できたアイスクリームは値段が比較的安く、二人で400円だった。二人分払ってもよかったのだが、俺がアイスを受け取った時点で彼女はすでにつり銭トレーに200円を置いていたので自分の分だけ払った。


 来週には10月に入るにも関わらず外気は暑く、冷たいアイスはおいしかった。車の近くにあったベンチに座って二人でアイスを食べている。しかし俺たちの間には沈黙があるだけ。椅子に座ってから彼女は黙り込んでしまった。話しかけた方がいいような気がしたが、眉間にしわを寄せて何かを考えている彼女に声をかけることができなかった。

 沈黙の空気のなか、抹茶の味を口いっぱいに広げながら楽しそうに遊んでいる子供を見ていると先にアイスを食べ終えた彼女が口を開いた。

「宮岡くんってさ・・・誰かに噛まれたことある?」

「どういうこと?」

「ごめん、遠回しに言ったらわからないよね」

 彼女は俺の顔を見た。その顔はいつもの彼女の雰囲気とは違った。笑顔も何もない真剣な顔だった

「吸血、されたことがあるよね」

「・・・」

 正直というか馬鹿というか、俺は彼女から目を逸らしてしまった。それの行動に彼女は確信を持ったようだった。

「やっぱりそうなんだ。私と同じだね」

 彼女は公衆の場で第一ボタンを開け始めた。とっさに顔ごとよそを見いた。

「こっちを見て」

 彼女にそう言われて躊躇しながらゆっくりと向いた。彼女は服を引っ張って左の首筋をあらわにしていた。そこにはとても見覚えのある跡が残っていた。二個の小さな黒い点、今も俺の首筋に残っているものとほとんど変わらなかった。

「それって・・・」

「裕二くんもあるんだね、この跡が」

 俺は無言で頷いた。彼女は服を整えるとボタンを閉じた。

「最初裕二くんを見たとき、感だったんだけど私と同じ気がしたの。確証はなかつた。だから学校案内をしてもらったときに質問したの、同類かって。でも宮岡くんは意味が分かっていなかった。だから違うんだって、私の勘違いなんだって」

 あの時の質問の意味は本当に理解できず、また考えようともしなかった。だがそんな意図があったのだと今理解した。

「それでもどうしても疑いは晴れなかった。そんなとき、たまたま宮岡くんの服に隠れた跡を見つけたの。正面からだと見えないけど横から見たらはっきりと二つとも見えた時があった。それで私は確信したの、同じだって」

「黒子って可能性もあったんじゃない?」

「あったけど、同じ大きさのものが二つ並んでいることは少ないかなって」

 彼女は手を遊ばせながら地面を見つめた。

「宮岡くんはどう思う?」

「何を?」

「吸血鬼を」

「・・・」

「私は彼らの存在が嫌い」

 俺はその言葉に本当に何も言えなくなった。吸血鬼を嫌いと言った彼女に俺から言えることは何もない。だって俺はその吸血鬼を好きになっているのだから。

「私ね、高校に入ってすぐ吸血鬼に誘拐されたんだ」

「え!?」

 俺は彼女の言葉に驚愕した。誘拐、最近ではよく耳にするが身近な人間が被害にあったというのは初めて来た。驚いていて整理の付かないまま、彼女は話を続ける。

「私を誘拐したのは30ぐらいのおじさんだった。人気のない倉庫に8日間、彼は私を誘拐した日から捕まるその日まで私の血を毎日吸い続けた。服を無理やり脱がされ、抵抗しても力の差がありすぎて私はなされるままだった」

 思い出している彼女の手は大きく震えている。とても怖い経験をしてきたことがそれだけで伝わって来る。そんな彼女の背中に手を置いた。俺の顔を見上げる彼女の顔色は少し青ざめていた。

「話さなくていいよ。思い出すのはいやだろう」

「・・・宮岡くんはどう思う、吸血鬼が私たちと変わらずに生活していること」

 下を向いた彼女は質問をしてきた。俺は自分に素直に彼女の質問に答えることにした。

「俺は別にいいと思う」

「え!?」

 彼女は俺がそんなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。下を見ていた視線を上げる。

「確かに俺も襲われて血を吸われた。その跡は今も残っている。でも吸血鬼がすべて悪いやつとは思えないんだ。俺を噛んだ吸血鬼はね、俺の血を飲んだ後とても申し訳なさそうな顔をしていたんだ。何度も謝られたよ。確かに吸血鬼の中には悪意を持って人を襲う、それこそ小野鬼さんを襲ったような連中もいるだろう。でもそれは人間もそうだよ。殺人は起こるし、誘拐もする。でも中には悪意のない人もいる。人間も吸血鬼も俺は変わらないと思うんだ」

 純恋と過ぎしてきた日々を思い出しながら思ったことをすべて彼女に伝えた。彼女は見開いていた目をいつものサイズに戻す。

「・・・そうだね、言われたらそう思う」

 彼女はそう言いながらも下を向いた。

「でも、やっぱり私は彼らが嫌い」

 俺の考えや思いでは誤魔化せないほど彼女に植え付けられた過去はとても大きかった。





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