俺を襲ったのは優等生だった

加藤 忍

文字の大きさ
上 下
28 / 40

買い物デート 3

しおりを挟む

「おまたせしました。たこ焼き2つとドリンクです」

 カウンターの上に置かれたトレーを受け取ると純恋が座っている席に向かった。

 あの後いろんな店を回ったが、彼女が気に入った服は見つからず、手ぶらのままフードコートで休憩を取ることにした。1時を過ぎているので席はかなり空いている。

「お待たせ」

 トレーを机の上に置くとスマホを操作していた彼女が顔を上げる。

「ありがとう、お金何円だった?」

「お金はいいよ」

「そうもいかないって・・・」

 彼女はいつも通り鞄から財布を取り出そうとする。

「何円?」

「お金はいいっていつも言ってるのに」

「だっていつも奢ってもらってばっかりだもん。水族館の時も祭りでもそう。私ばっかり何かしてもらって私は何もしてあげられてない。だからせめて自分の食費ぐらいは払わないと」

 彼女は真剣な目で俺を見て来る。彼女の目は横を見ることなく、一点をじっと見ている。そんな彼女を見ながら頬を緩ませ、頬杖をついた。

「それは違うかな。俺は純恋からいつも元気を貰ってるよ」

「・・・元気?」

 彼女は何を言っているのわからないといった顔を見せる。しかし俺は言葉を続ける。

「そう、元気。嫌なことや辛いことがあっても純恋の笑顔を見たらそんなこと全て忘れられる。純恋が頑張ってたら俺も頑張ろって思える。俺はいつも純恋に助けられているようなものだからね、これぐらいはしてあげたいんだよ。だからお金は払わなくていい」

「それは私もだよ」

 机に手をつき勢い良く彼女は体を乗り出した。その光景に周りの人の視線を感じた。彼女もそれに気づいたのか萎れながら席に座った。

「私も裕二くんといると嬉しいし、幸せだなって思うよ。裕二くんが頑張ってたら私だって頑張ろうって思うもん。だからこれはおあいこ。なのに裕二くんばかりがお金出してる、そこは不公平だよ」

 どうもこの会話がお金を受け取らないと終わらないのだろうか?そう考えているとふといい案を思いついた。俺は頬杖をやめて背中を伸ばした。

「じゃあ、今度俺のお願いを一つ聞いて。それならいいでしょう」

 彼女は顎に手を当てながら無言で少し考え始めた。俺の顔の真下では徐々に元気をなくし始めた鰹節かつおぶしが最後の足掻きとばかりに懸命に揺れている。

「わかった。そうする」

 考えてがまとまった彼女は顔を上げた。ようやくこの話が解決したので俺はトレーの上に置かれたたこ焼きを手にする。

「でも、えっちいのはなしね」

「え~」

「え~って、もしかしてえっちなことをお願いするつもりだったの!?」

 冗談で言ったつもりなのだが彼女は本気で捉えてしまった。早く弁解しないと本当に俺がその手のお願いをするつもりでいると思われる。

「冗談だよ」

「もう~!」

 彼女は頬を赤らめながらも膨れて見せた。そんな彼女の顔を見ながらトレーに載せられたたこ焼きを爪楊枝で取ると自分の口に放り込んだ。話をしていたからか、たこ焼きは丸々一個口に入れても熱いとは思わないほど冷めていた。

「それでお願いって?」

 彼女ももう一つのたこ焼きのパックを自分のもとまで持っていってからたこ焼きに爪楊枝を刺した。

「まだ決まってない」

「・・・そうなんだ」

 彼女の返事の後、少しの沈黙をもってこの話が終わった。

 フードコートでたこ焼きを食べ終え、俺たちはまだ見ていない三階に向かった。しかし三階にはあまり目を引くようなお店はなく、結局またフードコートに戻って長々と二人で話をした後、それぞれの家に帰ることとなった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...