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困り顔

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「裕二くんのクラスに転校生が来たんだってね」

「来たよ」

 お昼休みに屋上で純恋と二人で昼食を食べていると彼女は今日来た小野鬼さんの話を持ち出した。

「どんな子なの?」

「話はしてないけど、見た感じ元気で明るいフレンドリーな子だよ」

「可愛い?」

「可愛いと思うよ」

 純恋が俺と付き合っていることが分かるとクラスの男子はすぐに小野鬼さんにチェンジした。休み時間が来ると二時間目以降女子より早く小野鬼さんのもとに行き質問などをしていた。女子はそんな男子を哀れみのような目で見ていた。

 彼女の容姿は確かに可愛いと言えるだろう。最初見た金髪はどうやら地毛らしく、この学校で唯一の黒以外の髪色をしている。また笑顔を絶やさない子のようでみんなに囲まれている間も笑顔が生徒の隙間から何度も見ることができた。

「ふーん」

 純恋は不満そうな顔をしながらウインナーを口に運んだ。

「どうかした?」

「別に、なんでもないよ」

 なんでもない顔ではないのだが、なんでもないと言うならこれ以上聞かないことにした。

「それで次はいつ行く?」

 話を変えるために話題を振る。俺が何を言いたいのか理解した純恋はパッと笑顔を見せた。

「今週!って言いたいんだけど、今週は二日とも家庭的な用事があって」

「そっか、なら来週だな」

「ごめんね」

「気にしなくていいよ。じゃあ来週はどこに行こうか?」

 純恋は最初から案があったらしく、すぐに提案をしてきた。

「もう時期秋物の服が出るから見に行きたい」

「なら来週は隣町の大型ショッピングセンターに行こうか。あそこなら服もあるし終わった後にゲーセンとかにも寄れるしね」

「あーあ、早く来週にならないとかな」

 純恋はそう呟きながら雲の流れる空を見上げた。俺も同じ空を真似して見上げる。

「今週の家庭的な用事?って何するの?」

「ちょっと京都まで行ってくるの」

「京都!?なんで今頃?夏休み中に行けば良かったのに」

「そうなんだけどね、お父さんの関わっている事件数が夏に多くてねとても行けるような状況じゃなかったの。だから今週行くことになったの」

「ホテルとか予約してるの?」

「ホテル?してないよ」

「え!?」

「え?」

 俺たちはお互いに首を傾げた。どうやら話が噛み合っていないらしい。

「旅行だよね?」

「違うよ、おばあちゃん家に行くだけだよ。正月以降一回も行ってなかったから顔を出しにね」

「あ、そうなんだ。俺はてっきり旅行に行くのかと」

「京都は昔住んでたから旅行なんでする気にもならないよ。もう見慣れすぎて」

「鬼条さんって京都出身なんだ、知らなかった」

「お父さんとその辺の話したんだよね?」

「したよ。でもどこに住んで居たとかどこの学校に通って居たとかは教えてもらってなかったし、こちらから聞くこともしなかったから」

「そっか」

 俺たちは口を閉じた。話し声のしなくなった屋上には吹奏楽部の音楽が風に乗って届いてくるだけだった。


 昼の終わりを告げるチャイムが鳴ると俺たちはそれぞれの教室に戻った。あの後の沈黙はすぐに解け、いつものように会話を続けた。

 教室に戻ると出て行く前と同じ光景が教室内に広がっていた。小野鬼さんの周りに多くの生徒が集まっている。だが朝ほどではない。半数ぐらいの生徒はすでに席に着いて近場同士で話している。チャイムはもう鳴っているので俺は自分の席に向かった。

 席に着くまでのほんの少しの間、後方から誰かに見られている気配を感じたがここは教室、見られていると感じてもおかしくない状況なので勘違いだろうと思うことにした。


 放課後、純恋は今日はみんなと寄り道するらしく、俺たちは別々に帰ることになっている。付き合っているからといっていつも一緒にいる必要はない。いたいとは思うが友達との関係も大切にして欲しいから。

 カバンに教科書などを入れるとカバンを持って席を立った。出口近くでは男子の群れが小野鬼さんを囲んでいる。

「部活見学しない?」

「校内案内するよ」

「サッカー部のマネージャーになって」

 皆が皆思い思いに小野鬼さんを誘っている。彼女は周りを見ながら困った表情を浮かべている。そんな彼女を歩きながら見ていると彼女と目があった。

「ごめんなさい、今日は宮岡くんに学校案内を頼んでいるの」

 彼女は申し訳なさそうに両手を合わせると横にかけていたカバンを取ると男子の群れからなんとか抜け出し俺の元に寄って来た。

「行こう」

「え!?・・・あ、うん」

 彼女の目が助けを求めているように見えて、つい彼女の話に乗った。クラスの男子が俺を恨んでやると言わんばかりの目で見てくる。怖い、すごく怖い。純恋のとき以上の怨念を背中に受けながら小野鬼さんと二人並んで教室を出た。


「さっきはありがとう」

 階段を降りていると彼女がそう口にした。

「私の嘘を本当にしてくれて」

「いいよ、困っていそうだったし」

「本当にありがとう」

 彼女は少し俯きながら口にする。

「それで、これからどうするの?」

「帰るよ、って言いたいんだけど、まだ学校のこと分からないし、教室もどこにあるのかわからないから一人でぶらぶら探検でもしようかなって思ってる」

「それ、付き合おうか?」

「え!?いいの?」

 俺の言葉が以外だったのか彼女は目を大きく見開いてこちらを見てくる。

「いいも何も小野鬼さん一人で回っていたら俺がさらにみんなになんか言われそうだからな。小野鬼さんを一人にしてお前は何をしてたんだって」

 みんなが聞いていなければ俺は帰るつもりだったが、さすがにさっき感じた恨みのような眼差しがより一層強くなるのがただ怖かった。

「ありがとう、何から何まで」

「いいよ、それで最初はどこからみたい?」

「できれば一階から順番に見てみたい」

「わかった」

 俺たちは昇降口まで降りてくると職員室や売店のある方に歩いた。












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