俺を襲ったのは優等生だった

加藤 忍

文字の大きさ
上 下
17 / 40

水族館編 3

しおりを挟む
「イルカショーすごかったね、特にあのジャンプ!ビル二階なんて余裕だったよ」

「アシカもすごかったじゃん。ボールを鼻の上に載せてバランスとっているやつ。俺にはできね~よ」

 イルカショーはこの夏にはうれしい水しぶきを上げてくれていたが、最前列にいた人たちはカッパをかぶっていてもびっしょりと濡れていた。

 館内に戻ってからも彼女とショーのことを話ながら元のルートを進むことにした。矢印のルートは下に向かうエスカレーターを指していたので二階に向かった。

 二階に降りるとすぐに左に行けと矢印が示している。左側には別の通路があるがトイレの標識があるので無視した。

 矢印に従っていくとクラゲの水槽がいくつも見えてきた。それぞれの種類ごとにピンクや紫などの蛍光ライトに照らされていて、その光を反射させながら泳いでいるクラゲはとても綺麗だった。

「綺麗だね」

 彼女も同じことを思っていたようで声をこぼす。俺はポケットからスマホを取り出すとクラゲを撮影した。

「綺麗に撮れた?」

 写真を撮ったことに気付いた彼女が聞いてくる。俺は今撮った写真を彼女に見せる。

「その写真後で送ってもらってもいい?」

「いいよ、LINEで送っとく」

「ありがとう」

 後ろからもお客さんが来たので次に向かうことにした。

 次に見えてきたのはサンゴ礁の水槽だった。中にはチンアナゴをはじめとする小さい魚たちも一緒に入っていた。その水槽を見ると彼女が驚いた声を出した。

「どうした?」

「この中のサンゴって全部が本物じゃないんだって」

「マジで!?なんでわかったの?」

「説明文を読んでいたらそう書いてあって」

 そう言われ俺も説明文を読む。魚やサンゴの詳しい説明が書かれる中、文の最後にカッコ内にそう書かれているものがあった。小さいころに来たときは全く気にしなかったが、そうとわかるとちょっとショックを受けた。

 次にピラニアなどのアマゾンに住む生き物やカブトガニなどが展示されたエリアを過ぎると多くの人が集まっている水槽があった。

「なにがいるんだろうね」

 人の集まる水槽に行くと二匹のゴマアザラシが水槽の前にいる子供たちの前をうろうろと行ったり来たりを繰り返していた。

「あの子ちっちゃいね」

 子供たちの前を泳ぐゴマアザラシは家族のようで親が泳ぐのを必死で付いて行く子供の姿がかわいい。上のパネルには名前が書かれていて、その赤ちゃんは生まれて間もないことが分かった。

 彼女は人の隙間からカメラを向けて撮影していた。よく動くアザラシを撮るのは難しかったらしく、ほとんどの写真が少しぶれていた。

 何度もやり直しているとチャンスが来た。歩くのもおぼつかない女の子の前でアザラシは動きを止めた。アザラシは子供と少しの間見つめ合うと再び泳ぎ出した。

「撮れた?」

 彼女のスマホを見ながら聞くと彼女は撮れた写真を見してくれた。ガラスに手をつく女の子とそれを見ているアザラシ。とてもいい写真だった。

「いい写真が撮れた」

「確かに」

 彼女がスマホをしまうのを待ってから再び多くの人が集まっている隣の水槽に向かった。

「ここも混んでいるな」

「そうだね、何がいるんだろう?」

 アザラシの水槽の2,3倍はある大きな水槽を自由に泳ぐ生き物がいた。白くて大きなイルカのようにも見える生き物。

「スナメリだな」

「スナメリ?」

「しらない?」

「うん、昔行った水族館にはそんな生き物はいなかったから」

 そっか、スナメリってイルカと同じでどこにでもいるのもだと思っていたがそうではないらしい。

「スナメリはイルカの中までバブルリングを作ることで有名な生き物だよ」

「バブルリング?」

「え~と、名前の通り口から吐く息をリング状にして出すことができるんだよ」

「それってすごいね!私たちにもできるのかな?」

「それはわからないな。やったことないから」

 スナメリの説明をしていると観客から声が上がった。気になって水槽の方に目を向けるとスナメリの目の前に泡の輪っかができていた。

「あれがバブルリングか。実際に見ると本当にすごいね」

 彼女がバブルリングを撮ろうとスマホを取り出すとバブルリングはすでに消えていた。

「消えちゃった」

「まぁ、やってくれるのはスナメリの気まぐれだからね。見れただけでもよかったんじゃない」

「そうだね、見れない人もいるんだから」

「今日は運がよかったよ」

 俺も目の前で見るのは初めてだった。スナメリは近くで見ることはできなさそうなのでその場を離れることにした。

 少し歩くとさっき降りてきたエスカレーターのことろまで戻って来ていた。

「これで全部回ったのかな?」

 彼女に聞かれて俺は首を振った。

「もう一つ行ってない場所があるからそっちに行こう」

「もう一つ?」

 彼女は首を傾げる。

「着いたらわかるよ」

 そう言うと入り口の方に向かうことにした。別に秘密にする必要はないのだが、俺は目的地を伝えずにただ歩いた。

 人が入ってきている入り口を逆走して左に曲がる。すぐ目の前にあるL字の階段を下りると大きな水槽が現れる。その水槽には白色の陸と半分以上を占める水が張られている。

「ペンギンの水槽ってこんなことろにあるんだ」

「そうなんだよね。普通に進んだら一階のお土産売り場に行ってしまうんだよ」

 彼女はすかさずスマホを取り出すと陸でくつろいでいるペンギンを写真に収めた。

「下に行けばよりいい写真が撮れるよ」

 水の中を泳ぐペンギンを撮ろうとしている彼女に提案をする。彼女は首を傾げた。

「まぁ、付いて来て」

 さらに俺たちは進む。通路は先に行くにつれて下に行くようになっている。さっき降りてきた場所とは対照的な場所に来るととても広い場所に出る。そこには水槽の下に丸く開けられた道ができている。

「ここにもトンネルがあるんだ」

「早速行こうか」

「うん」

 彼女俺より少し小走りをしてトンネルの中に入っていった。俺も彼女に続いて中に入る。トンネル内からはペンギンの白いお腹や群れになって泳ぐ姿が見える。時々真横を通過して行くこともあった。彼女はそのたびにシャッターを押していた。そして写真を満足するまで撮ると俺の横まで来た。

「ペンギン可愛い」

「ペンギンはもういいの?」

「うん」

「じゃあお土産を見て帰りますか」

「そうだね」

 俺たちはトンネルを抜けるとエレベーターに乗る。二階の入り口前に出るとさっき来た道を戻ることにした。






















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リンデンヴェール〜乙女は吸血鬼から求愛される〜

城間ようこ(リンデンヴェール完結)
恋愛
幼い頃に親に捨てられ、施設で育った少女・和泉千香は『一般人』と『吸血鬼』が存在する世界で両者が共に学ぶ女子校に奨学生として通い、演劇部で吸血鬼の帝の血筋を引く直系の吸血鬼である宮牙美矢乃と組んで演劇に邁進する……が、美矢乃は一般人と吸血鬼が結ぶ『契り』をこれでもかと迫り続けている。 二人の過去、現在、頭を抱える千香とお構い無しの美矢乃の未来は? 恵まれずに育ち普通に生きたい一般人の千香、千香と共に生きたい吸血鬼の帝直系の令嬢である美矢乃の青春ラブファンタジー!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

タルパと夜に泣く。

seitennosei
恋愛
『タルパ』 タルパとは人工精霊とも呼ばれ、意図的に作り出したイマジナリーフレンドの様なもの。 自己暗示の一種で、上手くいけばタルパはまるでそこに本当に存在しているかの様に振る舞うところまで育つ。 町田手毬は田舎町で古本屋を営みながら1人で暮らしている。 数ヶ月前、隣家の家主である國本源造が死去した。 生前の國本の頼みで葬儀後から親族の者が正式に越して来るまでの数ヶ月間、隣家を管理をすることになった手毬は合鍵を預かり自由に出入りしていた。 しかし、親族との連絡ミスにより予定より早く住み始めた國本の孫、高橋清太郎と鉢合わせてしまうことになる。 不法侵入で咎められることを覚悟していた手毬に対し清太郎は―――

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

処理中です...