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第四十話
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夕食を終え、風呂にも入って部屋のんびりしていた。
「今から外に行かないか?」
「今から?」
「うん、今から」
俺は彼女に目的も告げず誘う。彼女は不思議に思いながらも首を縦に振った。
「少し出かけて来る」
寒くないように服を着込んで玄関で靴を履く。手にはスマホを持ち、ライトが眩しく照らしている。
玄関で声をかけるとリビングから「気をつけてね」と母さんの声が聞こえた。
彼女が靴に履き替えるまで待ってから一緒に外に出る。
扉を開けるとすぐに冷たい空気が家の中に入って来る。厚着をしてきたつもりなのに少し身震いがする。
彼女も同様で両手で体を抱いている。
「すぐ帰るから」
そう言って2人で歩き始めた。
家の明かりが少し遠くに見えるぐらいまで道路を歩いた。あたりは暗く、電気の一つもない。
彼女はあれから何も言わずに付いてきた。時々「どこに行くんだろう?」と声を漏らしていたが、俺はそれには答えなかった。
道路を歩いてしばらくすると足を止める。俺が止まったことに気づくと彼女も足を止めた。
「どうしたの?」
俺は振り返り彼女の方を見る。
「ライト消して」
「え!?どうして?」
「いいからいいから」
俺は相変わらず理由を告げずに彼女に指示を出す。
彼女は拒むことなくそれに従う。
2つのスマホから明かりが消え、本当に闇に包まれる。
「どうするの?」
目がまだ慣れていないので彼女の声はすれど、その姿を捉えることが出来ない。
「空を見て」
俺は彼女に再び指示する。その頃には彼女の輪郭がぼんやりと見え始めていた。
空を見上げると一番よく光っている一等星が見える。空を見続けるとそれは次第に多くなっていった。
「すごい」
横の彼女がはっきりと見えると彼女は空を見ながら目を見開いていた。
「前に言ってたからさ、満天の星が見たいって」
「うん、言った。三年前だったよね」
「うん」
彼女も覚えていたらしい。俺もあの日はよく覚えている。彼女が就職を取り消された日で彼女が初めて俺の前で泣いた日。とても印象的な一日だったから。
2人で空を見上げる。風もなく、獣も鳴いていない。近くにある川やそこから伸びる水道を流れる水が音を立てるだけ。
静かに夜空を見ながら俺は何度も頭の中で練習した言葉を口にする。
「俺がさ、今の職場に慣れて、余裕が出来たらさ・・・」
彼女は俺の顔を見る。見られていると緊張で頭が真っ白になるので、意識しないように空見ようとして、やめた。この言葉はちゃんと伝えないといけないから。彼女の顔を見て思いを伝えないといけないから。
深く深呼吸をして言葉を口にする。
「結婚して欲しい。その時ちゃんとしたプロポーズするから、だから・・・」
そこまで言ってようやく彼女の異変に気付いた。彼女の頬を流れる涙が月明かりに反射していた。
「え!?ど、どうした!」
想定外の出来事にさっきまでの冷静さが失われた。
彼女は首を左右に振ってから、手で流れる涙を拭った。
「嬉しくて・・・でも本当にいいの?私で」
彼女は流れる涙を何度も何度も拭う。発した声は少し涙声が混じっている。
そんな彼女とは対照的に俺は笑って見せた。
「幸がいい、幸以外の人は考えられない」
そう言うと幸は俺の胸に飛ぶ混んで来た。それを受け止めるように幸の背中に手を回す。
「ありがとう」
彼女は顔を上げた。目元は少し腫れている。泣いているのだから当然だ。
俺はゆっくりと彼女に顔を近づける。今から何をしようとしているのか察した彼女はそっと目を閉じた。
そのまま俺たちは唇を重ねる。周りは寒いけど、彼女と重なっている部分だけはとても暖かい。
こういう時間がこれからも続く。そう思うだけでとても心が満たされていった。
どちらかともなく唇を離す。唇にはまだ重なっていた時の感触が残っている。
「帰ろうか」
「うん」
体を離す代わりに俺たちはお互いの手を握った。静かな夜道を2人並んで帰った。
「今から外に行かないか?」
「今から?」
「うん、今から」
俺は彼女に目的も告げず誘う。彼女は不思議に思いながらも首を縦に振った。
「少し出かけて来る」
寒くないように服を着込んで玄関で靴を履く。手にはスマホを持ち、ライトが眩しく照らしている。
玄関で声をかけるとリビングから「気をつけてね」と母さんの声が聞こえた。
彼女が靴に履き替えるまで待ってから一緒に外に出る。
扉を開けるとすぐに冷たい空気が家の中に入って来る。厚着をしてきたつもりなのに少し身震いがする。
彼女も同様で両手で体を抱いている。
「すぐ帰るから」
そう言って2人で歩き始めた。
家の明かりが少し遠くに見えるぐらいまで道路を歩いた。あたりは暗く、電気の一つもない。
彼女はあれから何も言わずに付いてきた。時々「どこに行くんだろう?」と声を漏らしていたが、俺はそれには答えなかった。
道路を歩いてしばらくすると足を止める。俺が止まったことに気づくと彼女も足を止めた。
「どうしたの?」
俺は振り返り彼女の方を見る。
「ライト消して」
「え!?どうして?」
「いいからいいから」
俺は相変わらず理由を告げずに彼女に指示を出す。
彼女は拒むことなくそれに従う。
2つのスマホから明かりが消え、本当に闇に包まれる。
「どうするの?」
目がまだ慣れていないので彼女の声はすれど、その姿を捉えることが出来ない。
「空を見て」
俺は彼女に再び指示する。その頃には彼女の輪郭がぼんやりと見え始めていた。
空を見上げると一番よく光っている一等星が見える。空を見続けるとそれは次第に多くなっていった。
「すごい」
横の彼女がはっきりと見えると彼女は空を見ながら目を見開いていた。
「前に言ってたからさ、満天の星が見たいって」
「うん、言った。三年前だったよね」
「うん」
彼女も覚えていたらしい。俺もあの日はよく覚えている。彼女が就職を取り消された日で彼女が初めて俺の前で泣いた日。とても印象的な一日だったから。
2人で空を見上げる。風もなく、獣も鳴いていない。近くにある川やそこから伸びる水道を流れる水が音を立てるだけ。
静かに夜空を見ながら俺は何度も頭の中で練習した言葉を口にする。
「俺がさ、今の職場に慣れて、余裕が出来たらさ・・・」
彼女は俺の顔を見る。見られていると緊張で頭が真っ白になるので、意識しないように空見ようとして、やめた。この言葉はちゃんと伝えないといけないから。彼女の顔を見て思いを伝えないといけないから。
深く深呼吸をして言葉を口にする。
「結婚して欲しい。その時ちゃんとしたプロポーズするから、だから・・・」
そこまで言ってようやく彼女の異変に気付いた。彼女の頬を流れる涙が月明かりに反射していた。
「え!?ど、どうした!」
想定外の出来事にさっきまでの冷静さが失われた。
彼女は首を左右に振ってから、手で流れる涙を拭った。
「嬉しくて・・・でも本当にいいの?私で」
彼女は流れる涙を何度も何度も拭う。発した声は少し涙声が混じっている。
そんな彼女とは対照的に俺は笑って見せた。
「幸がいい、幸以外の人は考えられない」
そう言うと幸は俺の胸に飛ぶ混んで来た。それを受け止めるように幸の背中に手を回す。
「ありがとう」
彼女は顔を上げた。目元は少し腫れている。泣いているのだから当然だ。
俺はゆっくりと彼女に顔を近づける。今から何をしようとしているのか察した彼女はそっと目を閉じた。
そのまま俺たちは唇を重ねる。周りは寒いけど、彼女と重なっている部分だけはとても暖かい。
こういう時間がこれからも続く。そう思うだけでとても心が満たされていった。
どちらかともなく唇を離す。唇にはまだ重なっていた時の感触が残っている。
「帰ろうか」
「うん」
体を離す代わりに俺たちはお互いの手を握った。静かな夜道を2人並んで帰った。
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