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第三十九話

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 部屋に入ると何もない空間になっていた。ベットと勉強机、それとカーペットが引かれているだけ。本棚はあるものの何も入っていない。

 彼女が部屋に入って来るとあたりを物珍しそうに見渡した。

「物が全然ないね」

 彼女も同様のことを思ったようで俺に言ってくる。

「荷物のほとんどは持って行ってるからね、ここには持ち運びが難しい物と不要な物しか置いてないよ」

 そう言いながらクローゼットを開ける。中には少しではあるが服が残っている。高校入学前からそれほど体格が変わったわけではないので問題ない。

 懐かしい部屋を堪能してから荷物を部屋の隅に置く。そのままリビングに向かった。



 リビングに顔を出すと母さんがキッチンに立ち、父さんは姿を消していた。

「父さんは?」

「買い物に行ってもらったよ。まさか晴太が彼女を連れて来るとは思わなかったから何も準備してないもの」

「そこまでしていただかなくても・・・」

 彼女は遠慮気味に言うが、母さんは首を左右に振った。

「いいのいいの、晴太が初めて彼女を連れて来たんだもの。夕食は豪勢にしなくっちゃ」

 ウキウキとした母さんを見ていると彼女はそれ以上は何も言わなかった。

「俺たち部屋にいるから。ここに来るまでかなり疲れた」

「わかった」

 母さんの返事を受けてからリビングを出た。



 部屋に戻るなり、俺はベットに大の字になった。

「疲れた~」

 部屋の扉を閉めた彼女も肩の力を抜きながら口を開いた。

「緊張した~」

 彼女は扉の前に立ったまま溜息を吐いた。

「幸もこっちおいで、疲れただろう?」

「うん」

 彼女はベットの前に来るとゆっくりと腰を下ろした。

「晴太の家までこんなに長いとは思わなかった。疲れたよ」

「久しぶりに帰って来た俺ですら疲れたんだから当然だろ」

 今朝家を出たのが9時半、ここに着いたのが3時過ぎ。約5時間はずっといろんな乗り物に揺られていたことになる。疲れるのは当然だった。

「夕飯までここで休もう」

「そうだね」

 彼女はゆっくりと倒れ込んでくると広げた俺の二の腕に頭を乗せた。体もこちらに向けて来る。

 俺も顔を向けお互いに向き合う。

 俺は腕を曲げ、彼女の頭の手を乗せると彼女はゆっくりと目を閉じた。

「・・・こうしている時間が一番好き」

 彼女は少し広角を上げながら呟いた。

「落ち着くし、心がすごく満たされていく・・・そしてやっぱり晴太くんが好きだな~って思う」

 そう言われると少し照れてしまう。何度同じような会話をしてきても、こればっかりはどうしょうもない。

 彼女の頭を撫でながら俺も彼女に言葉を送る。

「俺も幸がいてくれるから頑張れるよ。そばにいてくれてありがとう」

 彼女は撫でている手にそっと自分の手を重ねた。

「うん」




「それで2人はどうやって出会ったの?」

 夕食の準備が出来たと呼ばれ、俺たちはリビングで食卓を囲んでいた。

 今日は本当に豪華にしたようで、テーブルには刺身や肉がずらりと並んでいる。

 それらを摘みながら食べていると母さんが我慢できないと言わんばかりに聞いてきた。

「どうって、ねぇ?」

「・・・」

 聞かれるだろうとは思っていたけれど、本当に聞かれると何と答えていいのか迷う。

 本当のことを話すという選択肢はない。それだと俺が高校の頃から同居していたことがバレる。

 こういう時のための打ち合わせをしておくべきだったと今更後悔した。

「え、えーっと・・・」

 なんて言おうかと悩んでいた俺の手に彼女が手を重ねて来る。テーブルの上なので目の前の2人にもその様子は見えているだろう。

 彼女の顔を見ると意を決したような表情を浮かべている。俺は嘘をついて隠そうとする一方で、彼女は全部話すつもりらしい。彼女のことに比べれば俺の隠し事なんてささやかなものだ。

 俺はそっと頷き彼女の考えに同意をした。

 彼女は2人の方を見ると口を開いた。

「最初に出会ったのはクリスマスイブの夜でした・・・」

 それから彼女はこれまでに起きたことを全て話した。仕事のことで家出したこと、親が危ない組織であること。包み隠さず全部話す。

 ウキウキと俺たちの馴れ初めを聞こうとしていた母さんの顔は暗く沈んでいる。父さんは顔色を変えることはなかったが、話を真剣に聞いてくれていた。

 彼女がメインに話し、俺が足りないところを付け足すようにしてこれまでの生活を話し終えた。

「・・・そう・・・だったの」

 母さんは話を聞いた後、そういうのが精一杯だったのだろう、それ以上言葉が出てこないようだった。

 そんな母さんの代わりのように父さんが口を開いた。

「言いたいことは色々ある・・・が、晴太に大事なこと一つ聞く」

 俺は父さんの顔を見ながら頷いた。

「この先、何があっても彼女を守れるか」

 その質問に対して俺は迷うことはなかった。だってそれはあの日彼女の父親とした約束と同じだったから。

「守るさ」

「・・・そうか」

 空になった食器と手にすると父さんはそれを流しに置いて出て行った。

「母さん?」

 ずっと黙っているので心配になり名を呼ぶとふーと息を吐きながら顔を上げた。

「まぁ、お父さんは何も言うつもりがないようだから私も何も言わない。彼女さんを大切にしなさいよ」

「うん」

 母さんは突然手を叩いた。

「・・・さて、この話は終わり、デザートあるけど何がいい?」

 そう言いながら立ち上がる母さんに俺は「ありがとう」と小声で言った。
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