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第二十一話

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集合時間の9時より少し早い時間に俺たちは鳥居の前に着いた。鳥居の奥ではすでに階段に一列に並ぶ長蛇の列が出来ている。

「晴太ー!」

 鳥居の前で立っていると、鳥居の右側でこちらに手を振る拓海と悠人、それから鈴木さんもいた。

 俺は彼らを見つけると後ろで彼女がついて来ているのを確認しながら向かった。

「あけおめ晴太」

「あけおめ」

 お互いに新年の挨拶を交わす。

「初めまして、晴太の姉の幸です。よろしくね」

 村上さんも前回同様に礼儀正しい挨拶をする。

「初めまして、内海《うつみ》拓海です」

「瀬良《なら》悠人です」

「鈴木玲香です」

 全員が自己紹介を終えると、俺は拓海の姿に違和感を持った。

「拓海髪伸びた?」

「伸ばしてんの、新学期からイメチェンしたいから」

「・・・悠人、拓海に何があった?」

「目の前の俺に直接聞けよ!」

 わざわざ拓海の後ろにいる悠人に尋ねると、拓海が俺の首を腕で締めて来た。

「く、苦しい、苦しいから・・・」

 全く苦しくないのだが、流れというか、空気を読んで苦しそうに言う。

 それを楽しそうに鈴木さんが笑っていて、心配そうに村上さんが見ていた。

 そんな茶番も見飽きた悠人がうーん、と唸った。

「こればっかしは俺の口から言うのはねぇ?」

 そう言いながら鈴木さんの方を見る。鈴木さんはその視線を送られ、ポッと顔を赤く染めた。

「えーと、私たち付き合うことになったの」

「え、悠人と!?」

「なんでこの流れでそうなるんだよ」

 冗談を言うと拓海は一層に腕に力を入れる。

「やばい、それは本当に苦しい」

 演技ではなくなり、懸命にギブアップを拓海の腕を何回もタッチしながら伝える。そこでようやく拓海が腕をほどいてくれた。

「俺とだよ」

「そんなことわかってるよ。それでいつ告ったの?どっちから?」

「クリスマスの日に俺からデートに誘って、そのまま・・・なぁ?」

 拓海は照れ臭そうに鈴木さんを見る。鈴木さんは拓海と目が合うと優しい笑顔を浮かべた。

「それはおめでとう・・・それじゃあ揃ったし並ぼうか」

 俺がそう言うと鈴木さんに止められた。

「待って、あと1人来るはずなんだけど・・・」

「あと1人?」

 俺はその1人に思い当たる節がなかった。誰だろう?そう思っていると、遠くの方から走って来る人影が見えた。

「あ、来た」

 鈴木さんはその人の方を見ながら声を上げた。

 みんながその人の方に目を向ける。距離は徐々に近くなる。

「ことちゃん、こっちこっち!」

 大きく手を振りながら走って来る女の子を呼ぶ鈴木さん。

 女の子は俺たちの元まで来ると、荒い息のまま頭を下げた。

「ご、ごめんなさい、支度に時間かかっちゃって」

「ことちゃん大丈夫、時間ジャストだから。私たちが来るのが早かっただけ」

「そう、なんだ」

 女の子は頭を上げると胸に手を当て、大きく深呼吸をした。

「なんで日野さんが・・・」

 横にいる彼女の方を見ながら聞くと、彼女は頬をかきながら目を泳がせた。

 それを見てか、鈴木さんが挙手をした。

「ことちゃんは私が今朝誘ったの。いくら仲がよくても女子1人は気まずいなって思って」

 理由を聞き、もう一度日野さんの方を見る。彼女もこちらを向いていて、目が合うと軽く頷いた。

「なんだ?晴太は知ってるのか、その子のこと」

 拓海に聞かれ頷いた。拓海の言い方だと、拓海、多分悠人も初顔合わせなのだろう。

「バイト先が同じなんだよ」

 日野さんとの関係を話すと、彼女は拓海たちの方を向いた。

「初めまして、日野琴音です。今日はよろしくお願いします」

「内海《うつみ》拓海です」

「瀬良《なら》悠人です。よろしくね」

 ひとまず自己紹介を終えると、日野の視線は俺の横にずっと立っている村上さんに向いた。

「あの、そちらの方は?」

「俺の姉の幸」

「初めまして」

 村上さんが笑顔を作って見せると、日野さんはさっき以上に頭を下げた。

「よ、よろしくお願いします!」

 全員の紹介、挨拶を終えたところで拓海が口を開いた。

「それじゃあ並びますか、人も増えて来たしな」

 拓海に言われて列を見ると、列はさっき以上に伸びていた。俺たちがここで話している間も多くの人が通ったのだから当然だ。

「そうだな」

 悠人の返事と共に、俺たちは長い列の最後尾に並んだ。


 列の途中で手水を行う場所があったのだが、作法をまともに行なっている人は少なかった。

 俺たちは半分列に残り、半分が作法通りに手を洗い、口をすすいだ。

 それから数十分後、俺たちはようやく神社の前にたどり着いた。

 神社にある鈴は3つしかないので、俺たちは男女に分かれた。

 最初に女子がすることになり、3人が並ぶ。村上さんは後ろから見ると高校生と見分けがつかなかった。

 事前に家で渡した5円を投げ、鈴を鳴らす。それから二礼二拍手、そのまま手を合わた。

 
 願いごとを伝え終えた3人はほぼ同時に帰って来た。

「私たちあそこにいるから」

 鈴木さんがおみくじのある場所を指差す。

「わかった」

 それを聞いて拓海が返事を返す。

 3人が賽銭箱の前を離れると、入れ替わるように俺たちが一列に立つ。事前にポケットに忍ばせていた5円玉を投げた。

 あとは前の3人のように作法に倣って手を合わせ、そっと目を閉じた。

 今年1年、健康でありますように。バイトで大きな怪我がありませんように。決めてはいないけど、高校の進路先に合格しますように。

 願うことはまだまだ沢山ある。自分のことだけでも山のように。

 でもそれ以上に叶えて欲しいことがあった。

 ・・・どうか、村上さんの仕事がうまくいきますように。

 手を離し、礼をする。横を見るとすでに2人の姿がなかった。

 慌てて周りをキョロキョロと見回すと、3人の待つ場所に向かう2人の後ろ姿が見えた。

 俺は急いで後ろの人と交代し、後を追った。
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