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第三話

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朝8時、俺は今日もバイトで喫茶店ルミナスに来た。

「おはようございます」

 裏出口から入ると店内に顔を出す。オーナーの美智子さんはカウンター席に座ってシャーペンで頭をかいていたが俺の声に気付くと体をこちらに向けた。

「おはよう、今日もお願いね」

「はい・・・で、何をしているんですか?」

 俺は私服のまま美智子さんのそばに行く。テーブルにはバイト募集!と大きく書かれたポスターが置かれている。

「店員増やすんですか?」

「うーん、そのつもりなんだけど・・・このまま貼っててもね」

 彼女は唸りながら再びポスターに目を向ける。俺がバイト募集のことを知った時のと同じポスターを見て懐かしく思う。

「なんでこのままじゃいけないんですか?」

 率直に質問すると美智子さんは窓の外を見た。

「だってこれを貼っていても晴太くんしか来てくれなかったでしょ?正直インパクトが足りないんじゃないかって思うの」

 ポスターはシンプルでバイト募集と上に大きく書かれており、その下に時給額が書かれている。このお店はいつ働いても時間に関係なく1000円となっている。例え人が1人も来ない時間帯でも。そういう意味ではとても良い職場だと思う。

「インパクト、ですか?」

「何かアイデアない?その若い頭の中に?」

「美智子さんと俺ってそんなに年齢差があるんですか?」

「そんなにないけど、考え方や捉え方は変わるでしょ」

「まぁ、そうかもですね」

 実際に違うかどうかはわからないがそのことが絶対にないとは言えない。ほんの少しの違いぐらいは当然あるだろうから。

「そーだなぁ・・・今モノクロなのでもっと色を付けるとかどうですか?」

「色?例えば?」

「バイト募集の字を青くしてみたり?白地を緑にしてみたり?ですかね。時々見る求人ポスターはどちらかと言えば目立つものが多い気がするので」

「そっか、目立つように・・・ねぇ」

 彼女はポスターを手に取るとポスターと睨めっこしながら奥の方に入って行った。

 急に何も言わず消えた彼女を追いかけて奥に入ると階段を上がって自分の家の方に姿を消した。

 家の方に行ってもよかったのだが、開店までにすることがあるので彼女は放っておいて更衣室に入った。

 いつもの黒服に着替えるとモップをかけ、テーブルの上を拭く。それらが終わるとようやく彼女が店内に戻って来た。

「これでどう?」

 彼女はポスターを両手で開くと俺に見せた。

 ポスターはさっきとほとんど変わっていないが、字が青くなったり、緑地になってたりと華やかさが出ていた・・・ってそれ俺が言ったまんまなんだけど!

 彼女は思いの外それが気に入ったらしく笑顔を見せているのでツッコミを入れないことにした。

「いいんじゃないですか」

「そう思う?じゃあこれでいこう」

 彼女は一度奥に戻るとセロハンテープを持って登場し、外から見えるように窓ガラスに貼り付けた。

「人来るといいですね」

「そうだね。出来れば女の子がいいな」

「どうしてですか?」

「だって男の子2人だと私の話相手いなくなりそうだもん。晴太くんとその子ばっかり話そうだから」

「逆に女の子だと俺の居場所がなくなるんじゃ・・・」

「・・・よーし今日も頑張ろう!」

 彼女は話を無理やり終わらせるとキッチンで準備を始めた。



 開店後、店には数人の人が来てくれたが今は空席状態と言ってもいい。

 カウンター席では常連の夏子なつこさんというおばあちゃんが美智子さんと会話をしている。夏子さんは優しそうな顔をしている。小さい頃の美智子さんを知っているようで会話はとても私的なものばかり。

「美智子ちゃんはいつ男を捕まえるの?」

「男って、私にとってはコーヒーが永遠の恋人だよ」

「そんな痩せ我慢せんでいいのに。知り合いのお孫さんに美智子ちゃんと同い年の男性がいるのよ。会社のお偉いさんらしくて、しかもイケメンなのよ。どう?お見合いでも」

「もう、そういうの私苦手って言っているのに」

「そう言って毎回断って・・・女にも消費期限はあるのよ」

 夏子さんはそう言うと美智子さんの入れたコーヒーを美味しそうに飲む。そして時計を見上げた。

「あらいけない、幸江さちえさんとお昼の約束していたのだった。晴太くんお会計いいかしら?」

「わかりました」

 暇でカウンター席で2人の会話を黙って聞いていた俺は席を立つとレジの前に立った。

「はい、250円」

 常連のほとんどはレジを打つ前にお金を会計皿の上に置く。俺も慣れた手つきで会計を終わらす。

「250円ちょうどいただきます。レシートです、ありがとうございました」

 レシートを受け取ると夏子さんはドアを開けて振り向いた。

「美智子ちゃん、また来るね」

「お待ちしております」

 親しき中にも礼儀あり、その言葉通り美智子さんは深々と頭を下げると夏子さんは店を出て行った。

「はぁ・・・」

 頭を上げた美智子さんは溜息をついた。

「どうかしたんですか?」

 溜息をついた意味が分からず首を傾げながら聞いてみた。

「夏子さん、いい人なんだよ。小さい頃からなにかとお世話になった人だから。でも来店の度に男は?結婚は?って言われると疲れてくるのよ。私にはそういう気持ちが今はないからって言っても聞いてくれないから」

「確かにあの年の方はそういった話が好きなイメージがありますもんね」

 ただの偏見だが、若い人が近くにいると近所のおばさんはそういった話を持ち出すことが多い気がする。

 美智子さんはもう一度溜息を吐いた。

 夏子さんが帰ると完全に空席になった。店内にいるのは店員の俺とオーナーの美智子さんだけ。

「ちょうどいいからお昼にしましょうか」

「そうですね、俺弁当食べて来ます」

 彼女にそう伝えると更衣室に向かった。

 今朝作った弁当を自分の鞄から取り出すと家にいるであろう村上さんのことが気になった。

 昨晩、カレーを食べた後、時間も時間なので寝ることになった。彼女はここで寝ますと言って床で寝ようとしたが、客人である彼女をそんなところに寝かせるわけにはいかず、ベッドで寝るように言った。しかし彼女は床で寝ると言い張り続け、結果的にソファで寝てもらうことになった。

 客人が泊まることを想定していなかったので布団はもちろんない。彼女はいりませんと言ったが、また冷えて寝ていたら外と変わらない。今度は俺が頑固と譲らず、俺の羽毛布団を貸し、俺は厚着をして薄い布団をかけた。

 今朝起きてリビングに向かうとソファの上で丸くなって寝ている彼女がいた。羽毛布団を貸したとは言え、彼女はジャージの上下だけだろう。寒いのは当然だった。

 部屋から薄い布団を持って来ると羽毛布団の上にかけた。彼女の寝顔はとても可愛かった。年上なのにどこか子供らしい面持ちがあった。

 そんな無防備な彼女に見惚れていた俺は首を大きく左右に振り、昼食の方に意識を逸らす。

 冬休みに入っても俺の日々は変わらない。起きて自分の弁当を作って家を出る。行き先が近くに変わったことで少し余裕が出来ただけ。

 弁当は2人分作った。ご飯を炊いておにぎりを3つと卵焼きを作った。あとのおかずは冷凍食品で済ませる。小さいハンバーグやひじき、唐揚げとなるべくバランス良く。家にいる時は気にしなかった栄養バランスを1人暮らしを始めてから気にし始めた。

 弁当箱ももちろん1人分しかないので彼女の分は大きな平皿2つに分けて、それらをラップと共にお昼に食べてと書いた紙を置いて来た。

 今頃食べているだろうか?そのことを気にしながら1人で弁当を食べた。














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