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猫
さらばマッチョ
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マッチョとは本来、強靱さ、逞しさ、勇敢さを表す言葉らしい。
マッチョがそう名乗ったのは、幽街画廊が初めてだった。
それまでは、何処にでもいる、旅の妖精と同様で名前など決めていなかった。
ただ、マッチョと言う言葉に憧れていたのだ。
あの時、何故名乗ったのか?
そう、ネコが来ると聞きいて興奮したのだ。
思えば、ネコと戦うためにどれだけの時間と妖石を溶かして来たことか。
マッチョは、小汚い酒場が好きだった。
初めて訪れた町では、何軒かある酒場でも特に汚い店を選んだ。
酒の酒類は関係ない。
そういった店は、当然ながら客層は良くなく、喧嘩などの暴力は日常茶飯事で(基本的に妖精の喧嘩は、打撃よりも疲労で決着が着く事が多い。)時には、どっちが勝つかの賭博まで始まる始末。
そして、そういった酒場では、毎晩の様に下品で 粗暴な客達が、持ち前の冒険譚や、武勇伝を披露していた。
そこで披露される話のどれもが、マッチョからみても、総合性のかけらもない、ツッコミ所満載の大胆で、お粗末な内容の物が多かった。
出来の悪い話を聞きながら他の客のツッコミに笑い、手に汗握る展開に熱くなり、つまらなければヤジを飛ばす。
そんなことで飲む酒は、100%妖石の低品質な安酒が最高に美味く、そして楽しかった。
妖精に性別など無いが、そこはまさに漢の空間であった。
マッチョは、日夜汚い酒場を探しては熱い野郎話に浸り、そして蒸せたかった。
ある日の事、とある暗い森の中にあるボロい酒場で、ネコを倒した事があると言う妖精に出会った。
そいつが、つまらない話をしたなら、ネコより強いかどうかを、ぶん殴って確かめてやろう。
最初は、そう思っていた。
話の内容は、今でも覚えている。
そのネコの名は、タマコ 人間の世界で、キヨマサ将軍の側近の公務員アルバイトを8人喰い殺して将軍の逆鱗に触れ8獣の怒りにより妖精界に追放された。
妖精界に来たタマコは、森中の町を8つ滅ぼしたところで、タマコを追ってやって来た、キヨマサ将軍の娘であり教育係のフランソワカが不思議ちゃん15人編成の暗殺部隊で交戦するが壊滅してしまい、何とか逃げ延びたフランソワカは、妖精の青年(話主)に対ネコ用の武器、猫目石ブレードを託される。(妖精と人間が同サイズなのか?)
猫目石ブレードを手にした妖精は、勇敢にタマコに立ち向かい、フランソワカを助けて見事、タマコを撃退した。
そして、妖精はフランソワカと結ばれて末永く幸せに暮らしたと言う。
マッチョは、このデタラメな話にえらく感銘を受けた。
ツッコミ所満載ではあるが、知らない世界と知らない文化の話が知的好奇心をくすぐる。
それに猫目石がネコに効くと言うのは説得力がある。
何より衝撃的だったのが、助けた将軍の娘と結ばれると言うところだ。
マッチョは、興奮した。
その妖精の話は、嘘っぱちと言うこと位は分かる。 現に、その場に居た客達は誰一人信じていなかった。
ただ、面白かったからヤジやツッコミが入っても酷いものでは無かったので話の最後まで完走することが出来た。
マッチョはその日、酒場を出た後に例の客を待ち伏せた。
その客は、マッチョに背後から声をかけられると、明らかにびびっていた。
そら、暗闇で自分よりデカい妖精に声をかけられるのは怖い事かもしれないが、この妖精は、ネコを撃退したと豪語したのだ。
マッチョは、ただ、もう一度その話を聞きたかったのだ。
その妖精には、しぶしぶ同じ話を4回させた。
聞く度に話の細部が変わるのは気にならない、デタラメな内容だが芯がある。
結末は変わらない。人間の娘を助けて、ネコを倒す。 そして結ばれるのだ。
マッチョは、この話に可能性を感じた。
ネコは、倒せかも知れない。
猫目石の武器が欲しい。
ネコを倒せば、リアルなヒーローだ。
誰かを助けたい。
守りたい。
そして添い遂げたい!
それが、マッチョの物語になる。
最高しか無い。
そして、マッチョはネコを倒すためのトレーニングを始め、ネコと戦う戦術と武器を独自に編み出したのだ。
道のりは決して短く無かったが、人生中最高に楽しい時間だった。
ジェットパックアーマー、ジェットブーツ、ワイヤーシールド、名槍クリソベリル
装備に問題は無い。 どこに出しても恥ずかしく無い力作だ。
戦術だって悪くない。
ただ、妖精一人では、非力過ぎた。 それが、敗因か?
いや、ネコには負けてない。
それ以前の問題だった。
ちっちゃい妖精と女の子妖精の連携に負けた。 それも自分の武器であるワイヤーシールドに負けたのだ。
「あなた、敗北ですね。
どうですか? スッキリですか? ぐじゅぐじゅですか?」
マッチョのシールドを持った背の高いタキシード姿の妖精が冷たい笑顔でマッチョを見下ろしている。
「君は強いな。 そして美しい。
そうだ、私と共に 生きてみないか?」
「な‼︎ ななななななぁぁぁ!」
最初の「な‼︎」は、おそらく何言ってんだコイツ、キモ!のなだろう。
次の「ななななななな」の悲鳴は、おそらく、何!この妖精ネコに食べられてるー!が言い切れなかったのだろう。
しかし、なんて顔だ。
目を見開いて、口を限界まで開けて叫んでいる。とてもヒロインとは言えない。
ヒロインとは、こんな時も動揺してはいけない。
ただ、ヒーローを信じて待つものだ。
もし、彼女にまた会えるなら、ヒロインの定義を教えたい。
余計なことを考えながら、ネコに背中を咥えられたマッチョの目からタキシード姿の美しい妖精の姿は、どんどん小さくなった。
マッチョがそう名乗ったのは、幽街画廊が初めてだった。
それまでは、何処にでもいる、旅の妖精と同様で名前など決めていなかった。
ただ、マッチョと言う言葉に憧れていたのだ。
あの時、何故名乗ったのか?
そう、ネコが来ると聞きいて興奮したのだ。
思えば、ネコと戦うためにどれだけの時間と妖石を溶かして来たことか。
マッチョは、小汚い酒場が好きだった。
初めて訪れた町では、何軒かある酒場でも特に汚い店を選んだ。
酒の酒類は関係ない。
そういった店は、当然ながら客層は良くなく、喧嘩などの暴力は日常茶飯事で(基本的に妖精の喧嘩は、打撃よりも疲労で決着が着く事が多い。)時には、どっちが勝つかの賭博まで始まる始末。
そして、そういった酒場では、毎晩の様に下品で 粗暴な客達が、持ち前の冒険譚や、武勇伝を披露していた。
そこで披露される話のどれもが、マッチョからみても、総合性のかけらもない、ツッコミ所満載の大胆で、お粗末な内容の物が多かった。
出来の悪い話を聞きながら他の客のツッコミに笑い、手に汗握る展開に熱くなり、つまらなければヤジを飛ばす。
そんなことで飲む酒は、100%妖石の低品質な安酒が最高に美味く、そして楽しかった。
妖精に性別など無いが、そこはまさに漢の空間であった。
マッチョは、日夜汚い酒場を探しては熱い野郎話に浸り、そして蒸せたかった。
ある日の事、とある暗い森の中にあるボロい酒場で、ネコを倒した事があると言う妖精に出会った。
そいつが、つまらない話をしたなら、ネコより強いかどうかを、ぶん殴って確かめてやろう。
最初は、そう思っていた。
話の内容は、今でも覚えている。
そのネコの名は、タマコ 人間の世界で、キヨマサ将軍の側近の公務員アルバイトを8人喰い殺して将軍の逆鱗に触れ8獣の怒りにより妖精界に追放された。
妖精界に来たタマコは、森中の町を8つ滅ぼしたところで、タマコを追ってやって来た、キヨマサ将軍の娘であり教育係のフランソワカが不思議ちゃん15人編成の暗殺部隊で交戦するが壊滅してしまい、何とか逃げ延びたフランソワカは、妖精の青年(話主)に対ネコ用の武器、猫目石ブレードを託される。(妖精と人間が同サイズなのか?)
猫目石ブレードを手にした妖精は、勇敢にタマコに立ち向かい、フランソワカを助けて見事、タマコを撃退した。
そして、妖精はフランソワカと結ばれて末永く幸せに暮らしたと言う。
マッチョは、このデタラメな話にえらく感銘を受けた。
ツッコミ所満載ではあるが、知らない世界と知らない文化の話が知的好奇心をくすぐる。
それに猫目石がネコに効くと言うのは説得力がある。
何より衝撃的だったのが、助けた将軍の娘と結ばれると言うところだ。
マッチョは、興奮した。
その妖精の話は、嘘っぱちと言うこと位は分かる。 現に、その場に居た客達は誰一人信じていなかった。
ただ、面白かったからヤジやツッコミが入っても酷いものでは無かったので話の最後まで完走することが出来た。
マッチョはその日、酒場を出た後に例の客を待ち伏せた。
その客は、マッチョに背後から声をかけられると、明らかにびびっていた。
そら、暗闇で自分よりデカい妖精に声をかけられるのは怖い事かもしれないが、この妖精は、ネコを撃退したと豪語したのだ。
マッチョは、ただ、もう一度その話を聞きたかったのだ。
その妖精には、しぶしぶ同じ話を4回させた。
聞く度に話の細部が変わるのは気にならない、デタラメな内容だが芯がある。
結末は変わらない。人間の娘を助けて、ネコを倒す。 そして結ばれるのだ。
マッチョは、この話に可能性を感じた。
ネコは、倒せかも知れない。
猫目石の武器が欲しい。
ネコを倒せば、リアルなヒーローだ。
誰かを助けたい。
守りたい。
そして添い遂げたい!
それが、マッチョの物語になる。
最高しか無い。
そして、マッチョはネコを倒すためのトレーニングを始め、ネコと戦う戦術と武器を独自に編み出したのだ。
道のりは決して短く無かったが、人生中最高に楽しい時間だった。
ジェットパックアーマー、ジェットブーツ、ワイヤーシールド、名槍クリソベリル
装備に問題は無い。 どこに出しても恥ずかしく無い力作だ。
戦術だって悪くない。
ただ、妖精一人では、非力過ぎた。 それが、敗因か?
いや、ネコには負けてない。
それ以前の問題だった。
ちっちゃい妖精と女の子妖精の連携に負けた。 それも自分の武器であるワイヤーシールドに負けたのだ。
「あなた、敗北ですね。
どうですか? スッキリですか? ぐじゅぐじゅですか?」
マッチョのシールドを持った背の高いタキシード姿の妖精が冷たい笑顔でマッチョを見下ろしている。
「君は強いな。 そして美しい。
そうだ、私と共に 生きてみないか?」
「な‼︎ ななななななぁぁぁ!」
最初の「な‼︎」は、おそらく何言ってんだコイツ、キモ!のなだろう。
次の「ななななななな」の悲鳴は、おそらく、何!この妖精ネコに食べられてるー!が言い切れなかったのだろう。
しかし、なんて顔だ。
目を見開いて、口を限界まで開けて叫んでいる。とてもヒロインとは言えない。
ヒロインとは、こんな時も動揺してはいけない。
ただ、ヒーローを信じて待つものだ。
もし、彼女にまた会えるなら、ヒロインの定義を教えたい。
余計なことを考えながら、ネコに背中を咥えられたマッチョの目からタキシード姿の美しい妖精の姿は、どんどん小さくなった。
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