エイジヒル妖精譚 〜幽街画廊の由々しき平穏〜

犬すぱいらる

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泥まみれの妖精ふたり

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 エイジヒルは、マッチョを即効に見失っていた。
 マッチョの鎧の背中と金属風のブーツの底には、妖素噴出口の様な穴があり、圧縮した妖素を一気に噴出して超加速ジャンプを繰出して、両腕に装備してある円盤状の盾の先端からフックの付いたワイヤーが飛び出して木に引っ掛ける。 木に掛かると掃除機のコードの様に自動的に巻き戻る。
 そのタイミングで、もう片方の盾からワイヤーを飛ばしてもっと先の木に掛けて、ターザンの様に移動する。

 巨人とでも闘うつもりか? はたまた、あいつは蜘蛛の妖精かとか何とか思ったが、冷静に考えると、マッチョの空中での身のこなしからして、奴は風の妖精だろう。
 ゴーストツリーの街は空泳禁止だが、マッチョのアレは、空泳より迷惑だ。

 決まり事の空きを突いているつもりは無さそうだが、おそらくは普通に飛ぶより速いのか、飛び続けるよりはスタミナを消費
しないのか、鎧が重くて飛べないのか、色々考えたが、ただ、カッコいいとかその辺のちゃちい理由な気がする。

 おせっかいとは分かっているがエイジヒルは、マッチョがテキトーな正義感でネコを傷付ける事が許せないかった。

 そりゃ、ネコが来ればそれなりの被害はあるが退治されるには値しない微々たるものだ。
 一人の妖精がネコを退治出来るとは思わないけど、その意志が継がれ事が嫌だった。
 意志が継がれるといつか妖精でもネコを殺せる日がくるかもしれない。
 今みたいに苦労して、元の世界に返すよりも楽になるだろう。

 深読みかもしれないが、エイジヒルは、そんな未来は絶対に来てはならないと思う。
 そのためには、マッチョを止めなければならないのだ。

「エイさん何オロオロしてるんですか!」

 振り返るとエイジヒルの真後ろで、自転車にまたがった8703はなまるがいる。

「あのバカを見失った!」

「何、こんな所で自分を見失ってるんですか!」

「バカ!マッチョだ!あの鎧のバカだ!」

「そんな事より、ネコです!
 ネコが来たゲートが分かりました!
 ふらんすの森です。
 ロッキーの居るふらんすの森です!」

「じゃあ、組合の奴等は、ふらんすの森にネコを誘導して来るんだな?」

「そうです!
 ワタシとエイさんのミッションは、ロッキーの池をネコの誘導進路から外す事です!」

「何で僕が入ってんだ!
 僕のミッションは、ネコをバカマッチョから守る事だ。」

「見ず知らずのネコより、ワタシのロッキーです!」

「未だ見てないけどさぁ、一度見たら見ず知らずじゃあ無いだろ。
 それに、そのネコだって、お前みたいに心配してくれる人がいるかもだろ?
 何より可愛そうだし。」

「み、見直しました。
 ネコ可愛そうです。
 ワタシよりちっちゃいクセに、巨大なネコを気遣う偉そーで傲慢な、その優しさ!
 感動しました!」

「褒めてんのかよそれ?
 後、ネコってカメ喰うのかよ?」

「喰うに決まってるでしょう。
 ネコですよ。ネコ。」

「分かったよ。
 けど別々に行動な。 目的違うからな。」

「分かりました。
 私は、ネコ誘導隊の連中に、池に近付くなと釘を指してから、ふらんすの森をめざします。」

「そんなこと出来るのか?」

「大丈夫です!
 所長の名前を出せば、大体の組合員は平伏しますよ。
 あの妖精ひと恐れられてるんです。」

「そ、そうか、じゃあ僕はネコを見つけ出してマッチョを追っ払う。」

「その前に、マッチョさんはネコ誘導隊につまみ出されますよ。」

「お前こそ、ネコはカメ食べなくて無駄足で、ネコ誘導隊から面倒くさい奴認定されるだけだ。」

 分からないから行動する。お互い難儀なものだと思いエイジヒルは、街の門に向かい走り出した。

 
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