エイジヒル妖精譚 〜幽街画廊の由々しき平穏〜

犬すぱいらる

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消し屋のダル

ラストタイム

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「えっ!
 フルエスペースをツリーの中に移転させる計画があるの?」

「うん、サナちゃんが言ってた。」

「てか、なんで僕らに頼むんだよ。」

「エイさんが、フルエちゃんと同郷でマブダチだから頼み安いんだろ。
 ちなみに、フルエスペースのゴーストツリー移転と石焼きめだかの営業再開でミッションコンプリートだよ。」

「石焼きめだか関係ないし。」

「大人気のフルエスペースに嫉妬してんだろ。」

「つまらない奴だな。
 大体あの店コンセプトがデタラメなんだよ。 ごはんと味噌汁つけて醤油かけたり、店主が作務衣着てたり和食のイメージで何だろうけど、店は巨石をくり抜いただけで、テーブルも椅子も石ときた。 
 まるで石器時代だ。
 日本をまるで分かってない。」

「いや、僕は石の妖精だからあそこ落ち着くんだよ。」

「で、報酬とかあるの?」

「無いだろ多分? 僕としては幽街画廊の改装とかお願いしたいんだけどね。」

「まぁ営業続けさせてくれるだけでも御の字だろ。」

「僕がどれだけ組合に貢献したかだ!」

「組合ってよりサナちゃんのお願いなんだろ?」

「だよね。」

「フルエが帰ってくるまで待つか。」

「だよね。」


 エイジヒルは、キセルに桃のキューブを詰めこんで口に咥えた。

「帰ってくるもんかね?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あんたらまだ起きてたの?」

 22時を少し過ぎている。

 フルエは、何事もなかった様な顔で帰って来た。その後にはダルも居る。

「フルエ、ゴーストツリーに移転しろよ。」 

「しないよ。」

「何で?」

「興味無いし、今の場所気に入ってるしね。」

「……諦めろ…エイジヒル。」

「あっ!」

「エイさん今!」

 エイジヒルとヒューは、お互いの顔を見合わせて驚いた。

「あぁ、名前呼ばれたこと?
 この人まだまだ成長するわよ。」

 フルエは、得意気に言い切った。
 何があったかは知らないが、ダルは手懐けられたのだろう。

「……出る。」

「ダル! どこ行くんだ。」

「…エイジヒル……暇なら来い。」

「行くー!」

 エイジヒルは、慌てて壁に掛けたあったインバネスコートを羽織った。
 前々から消し屋の仕事には興味があったのだが、ダルにお願いしても同行させて貰えたためしは無い。
 ダルの方から誘うのはもちろん初めてである。
 こんなチャンスは二度と来まい。
 それに、サナサナの件もあるのだ。

「………フルエ…0時以降に飲め…」

  ダルは、栓のしてある小さな箱をフルエに投げた。

 フルエは、片手で受け取りその箱を開ける。

「…外気に晒すと効果が弱まる。……まだ
開けないでくれないか。」

「消す相手に注文する普通?」

「……私は、確実主義だからね。」

「わかった、いってらっしゃい。」

「何か仲良くなってない君ら?」

 エイジヒルは、この数時間の間にダルとフルエに何があったのか知りたかった。
 ダルとは、出会って80年ほど経つが名前を呼ばれたのは今が初めてであった。

「エイくん。 友の友といえば、我が友も同然って言葉もあるでしょ。」

「無いよ。」

「……クライアントを待たせてある。」

 エイジヒルは、ハンチング帽を被ると小走りでダルの側へ駆け寄った。

「何処まで行くんだ?」

「……石焼きめだかだ。」

「や、やっぱりフルエを消すのってあいつなんだな。」

 ダルは、答えずに幽街画廊を出た。
 フルエの顔をチラッと見た後、エイジヒルもダルの後を追った。



「ダルさんってホント抜けてるよね。」

 フルエは、ダルとエイジヒルを見送った後に呆れる様に呟いた。

「そうかな?」

「消そうとしてる相手にバレるとか大概でしょう?
 クライアントだって教えくれたし、それにこの箱。」

 フルエは、ダルに渡された箱を見つめる。

「どうせ、私を消す薬が入ってるんだろうけど、今までの消し屋なら私に気付かれずに飲まされてきた。
 どの妖精ひとが消し屋だったかもわからないし、普通ソレがプロでしょ?」

 ヒューは、少し考えた。

「ダルさんは、フルエちゃんを気にかけてたんじゃないかな?
 繁華街で孤立していくフルエちゃんを気の毒に思ったんだよ。」

「それで、わざわざ私の前に現れたって言うの?」

「君の本心を知りたかったんだろ?」

「知ってどうするの?
 結果は変わらないし、これからも繰り返すよ。
 いつか、歌の魔女みたいにさ、ひとりぼっちの世界に堕ちてしまうのかな?」

「大丈夫だよ。僕や、エイさん、それにダルさんだっているからさ。」

「けど、やっぱり辛いよ。」

「そうだ、箱開けてみなよ。」

「まだ開けるなって言ってたじゃん。」

「いいから開けてみなよ。」

 仕方なしにフルエは、小箱を開けて中の瓶を取り出した。

「めだか店主用・・・・ってまったく、抜けてるよね。」

「あくまでも道化を演じるみたいね。
 フルエちゃん最後に言ってやりたいことあるんじゃないの?」

「でも来るなって。」

「君にどう言ったか知らないけど、僕には、タイムリミットは0時って聞こえたけどね。」

「そうはならないでしょ。」

「今日は、いろいろとぶちまけれたんじゃないかな?
 これは仕上げだよ。」

「・・・・」

「ダルさん優しいだろ?」

「あのさ、あの妖精ひとが道化を演じるならさ、私はそれに気付かない道化をえんじる。

 優しいでしょ・・・私。」

「そだね。」

「じゃあ行ってくる。
 間抜けな消し屋さんに忘れ物を届けて来るよ。」

「いってらっしゃい。」

 バレーボール程の大きさで、大きい目が一つしか無いヒューだが、フルエには、笑顔で見送ってくれてる様に見えた。

 

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