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第二章 オバさん冒険する編

18話 店でもはじめんべ?

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 魔女学校を卒業して一週間がたった。

(あらー、困ったわねぇ。魔女の雑貨屋さんを営業しようとしたけど、お金が足りないわ)
「うーん、あと十万リシェ足りないわー」

 アンジェリカが家計簿とにらめっこしながら呟いた。
 十万リシェとか言われても価値が分からないだろう。一リシェは十円だと思ってほしい。
 そしてこの世界の一般的な家庭の一か月の収入は平均で九〇〇〇から一〇〇〇〇リシェである。そしてコッペパンの平均相場が五リシェである。
 それを踏まえて十万リシェとなると、かなり高額である。
 頭を抱える主を見つけリヴァイアさんがやってきた。

「主よ頭を抱えて何をしているのだ? パリパリ」
「あら? リヴァイアさん」

 リヴァイアサンは手に持った海苔を食べていた。
 だから、コイツどこに口があるんだよ!

「オバさんね魔女学校出たから、魔女の雑貨屋を開きたいのよ」
「ふむ」
「それで家の一部を改築したかったのだけれど、これが結構お金がかかるみたい、要するにお金が足りないのよね」

 アンジェリカの話を聞くと顎に手を当て考えるリヴァイアサン……コイツの顎ってどこ?

「ふむ、大金を稼げる仕事を探せばよいのではないか?」

 しごく普通でもっともな答えが返ってきた。ほんとコイツ見た目に反して意見は普通なんだよな。

「そうなのだけど、オバさんを雇ってくれる高額のお仕事なんて無いわよー。オバさん頭もあまり良くないもの、貴族の家のお仕事とか無理よー」

 アンジェリカの収入は近所の漁業組合のお手伝いをして、時給七〇リシェ貰っているのであった、パートだね。
 リヴァイアサンは首を振ると、こういった。

「いや、そうではない。この街にもあったであろう。マーシャが生業にしていたアレが」
「マーシャちゃん? マーシャちゃんって魔女になる前は……踊り子だったかしら? いや、でもそれこそオバさんには無理よー」
「え?」

 マーシャが魔女学園に来る前の仕事は踊り子ではない、アンジェリカはそういった細かい事は覚えない主義なのだ。

「違うであろうが、冒険者だ。我も詳しい仕組みは知らぬが。ちまちまパートしてるよりは稼げぬか?」

 リヴァイアサンが冒険者の事を話すと、アンジェリカも手をポンと叩いたオバさんらしい反応である。

「そういえばメルリカさんが、特典で魔女だとランクの上の依頼がどうとか言ってたわね」
「いっておったな」

 少し悩むアンジェリカ……約二秒ほど悩む。

「そうねえ、明日にでも冒険者ギルドに行ってみようかしら?」
「そうするとよい」

 ――
 ――――

 翌日、アンジェリカはリヴァイアサンと共に、冒険者ギルドへと向かったのであった。
 冒険者ギルドは町の近くに大きなダンジョンや、遺跡などがある場所にあることが多い。
 アンジェリカはギルドの建物を見ると呟いた。

「この街に数十年住んでるけど、冒険者ギルドっていった事が無いわねぇ」

 ま、何十年住んでようが、必要ないと行かない場所なんていくらでもあるよな。
 アンジェリカの見ていたギルドの建物は、石造りの割と大きな建物である、なんか市役所っぽいが気にしてはダメであろう

「そうであろうな、冒険者でなければ来る必要性はほとんどないからな」
「とりあえず入ってみましょう」

 アンジェリカは躊躇うことなく戸を開け入っていった。
 建物の中は人がそれなりにおり活気づいていた。

「にぎわっているな」
「そうね」

 アンジェリカ達は建物の中をぐるっと見回す、すると周りがざわついた。
 どうやらアンジェリカとリヴァイアサンを遠巻きに見ているようだ、おばさんが来るようなところではないためだろうか? 物珍しそうに見ている人が多い。

「あら? やはりオバさんが来るのは珍しいのかしら?」
「かもしれんな」

 いや、よく見てみよう。どうやらアンジェリカでなくリヴァイアサンの方を見ているようだ。
 それはそうだ、オバさんよりはどうみても魚の尻尾の方が珍しい。

「あぁ、私じゃなくて、リヴァイアさんを見てるのね」
「む? 我か……まあ、この姿には威厳も何もないからなあ」

 威厳とか関係ないから、上下魚の尻尾が歩いてたら誰でも見るだろ。
 アンジェリカは珍しそうに周りを見る、カウンターには職員らしき人物が三名ほどと鎧やローブなどで装備を整えた数名の冒険者達がいた。

「あそこで聞いてみるのがいいわね」
「そうするといい」

 アンジェリカはカウンターに向かうと、丁度空いた職員に尋ねる。

「ちょっといいかしら」
「はい、なんでしょう?」

 アンジェリカが話しかけたのは中年の男性職員である。体格の良いちょび髭のオヤジだった。

「オバさんね、お金が必要になったからここにきたのよ」
「は、はあ? でしたら銀行にいかれては?」

 オバちゃんの説明は要領を得ないことが多い、いきなりカウンターに来て金が要るとか言われても困る。

「違うのよ、お店を作るにお金が足りないからね。オバさん働こうと思ったのよ。冒険者になればここでお仕事貰えるのよね?」

 最初から冒険者になりに来たと言えばいいのに……

「なるほど、冒険者ライセンスの発行ですね?」
「ええ、ええ。それよ多分」
「では、少々お待ちください」

 男性職員は席を立ち奥へと向かった。

「オバさんもこの歳で冒険者デビューよ」
「主よそんなこと威張られても困るぞ」

 したり顔で語るアンジェリカ、呆れた顔で(?)返すリヴァイアサン。
 そうこうしてると職員が戻ってきた。

「こちらに記入を、これが登録書になりますので」
「え? 冒険者って書類に記入するだけなの?」

 この世界の冒険者はぶっちゃけ、文字さえかければバカでもなれるのであった。しかし稼げるかは別問題である。

「さて、いくつか注意事項があります」
「はいはい、なにかしら?」
「まず、登録についてですが登録料が必要となります、登録料は一〇〇〇リシェとなっております。すぐにお支払いいただいてもよろしいですし、最初の依頼料からの天引きでも構いません。あとは依頼仲介料として、報酬から五パーセントの手数料を頂くことになっております」

 説明が長いので省略。

 簡単に説明すると
『冒険者は全部で九つのランクに解れている事。銅等級から始まり一番上が金等級、そして銅でも松竹梅と別れており、松が一番上となる。銅の梅が一番低く金の松が一番上となる』

『一定期間、まったくの依頼達成が無い場合は冒険者資格が失効する。しばらく依頼が受けられない場合は申請する事』

『法律違反者は資格剥奪のうえ永久的に冒険者には戻れない』『依頼が達成できない場合はすみやかに申請すること、その場合は違約金の支払いが発生する。この処置は無茶な依頼を受けないようにするための処置である』なんかまだあるけど割合!

「以上となります」
「うんうん、三分の一は覚えたわよ」
「まあ、またその時に聞いてください」

 そしてなんやかんやで手続きは進んでいった。

「はい、これで終了となります。こちらがアジャルタ様の冒険者証明書です、無くさないようお願いします」

 冒険者証、正直見た感じは運転免許証のようなものであるため、氏名と顔写真まであるのだった。簡易マジックアイテムであるため不正利用は一応できないようになっている。裏の面の特徴の場所に『魔女』と書かれていた。

「うんうん、オバさんこの歳になって、まさか冒険者になるなんてねぇ」

 証明書を見ながらうんうんと頷いていた。
 リヴァイアサンがアンジェリカに話しかけた。

「何か浸ってるところ悪いが、依頼を探さなくて良いのか?」
「おっと、そうね。あの掲示板から探すのね」

 アンジェリカは掲示板へと向かうのであった。
 さあ、これでオバさん冒険者アンジェリカ・アジャルタが誕生したのであった……
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