シスターレナに叱られたい!

雛山

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懺悔其の十八 ギャー! アレ見られてたのかよ!!

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 不審な女性が今回のお客様でございます。
 もう春だというのに何故マフラー? マフラーで口元を隠してサングラス。髪型はツインテール
 年の頃は十代半ば、多分顔立ちは悪くないな。

「本日はどのようなご用件で?」

 すると少女は周りをキョロキョロと見回すと、誰もいないことを確認しているようだ。

「大丈夫ですよ、ここには私しかいませんから」
「は、はい、そ、それでは」

 少女はサングラスとマフラーを取る。やはり可愛らしい顔をしていた。

「え、えっと。シスターは私の事をわかりますか?」
「ん?」

 アタシはカーテンの隙間から彼女を見るが。はて? 後輩にこんな子はいないしミサに来るお客でもない。
 アタシは首をかしげる。どこかで見た事あるような気はするが……わかんない!

「いや、ちょっと」
「そうですか」

 イマイチ要領を得ないな、ようするにこの子誰?

「すいません、変な事言ってしまって。私は坂下雅代さかしたまさよといいます、シスターのお名前を伺ってよろしいでしょうか?」
「ん、まあいいかな。 アタシは幕田玲奈まくだれなだよ」

 あ、しまったいつもの口調で喋っちゃった……
 坂下と名乗った少女がクスクスと笑っている。むー、笑うことないじゃないか。
 しかし坂下って前にどこかで聞いたことがある気がするな? 気のせいかな。

「あー、やっぱおかしいかな? こっちのが素なんでね」
「御免なさい笑ったりして、私の方も素で喋ってくれる方が嬉しいです」

 珍しいねこういう反応されても腹が立たない子って、嫌味が無いってヤツか。これがシホだったらSTFの刑に処すところだよ。

「それで、坂下さんは何でここに来たんだい? 懺悔かな」
「いえ、悩み相談です、あと下の名前で呼んでくださいそのほうが親しみやすいので」
「わかったよ。それで悩み事ね、いいよ聞こうか?」
「色々と注文つけて御免なさい。もう一つ、顔を見て話したいんですけどいいですか? 顔が見える方が安心できるので」

 確かに色々と注文が多い娘だね。顔見せは別に構わないからいいけど。
 アタシはカーテンを開けて雅代と向かい合う。すると雅代が目を見開き両手で口を押えると。

「うわぁー……やっぱ近くで見ると綺麗な人」
「ハハ、やめてくれよ。アンタに言われちゃ嫌味に聞こえるよ。アタシなんて元ヤンキーのガサツ者だしね」

 そうは言うが、アタシもこんな可愛らしい子にそう言われちゃ多少は照れるものさ。
 しかし雅代は首をブンブン振って否定する。

「ほ、本当ですよ髪も綺麗だし、まつげ長いし、肌も綺麗。レナさん化粧してないんですよね」
「あぁ、化粧とか苦手なんで少しだけ触る程度だよ、リアなら詳しいと思うけどね……小じわ消しとか」
「レナさんならうちでもセンター確実ですよ!」

 うち? センター? なんかそれ最近流行ってるアイドルグループで聞いたことある単語だよねぇ?
 ん? あー! あのオタクの言ってた!!

「あー、思い出した! 雅代ちゃんアンタ下り坂くだりざか46しじゅうろくか」
「あれ? 知ってたんですか?」
「まあ、申し訳ないがアタしゃアイドルにゃ興味ないけど、ちょっと前に聞いたことがあってねそれで名前だけ憶えてたのさ、顔は初めて知ったよ」
「そうだったんですか」

 おっと、悩みを聞いてやらないとね。

「話の腰を折っちまったね、それで悩み事とは何かな?」
「あぁ、そうでした。凄く単純な話なんですけど私、実は友達がいないんです」
「そうなんだ。人付き合い得意そうに見えるんだけどねぇ」

 この容姿に愛嬌があれば、ダチの一人や二人くらい簡単に作れそうなのにね。

「いや、実は割と人見知りでして。学校でもボッチ飯ってやつなんですよ」

 少し自嘲気味に笑う雅代。

「テレビだとグループで仲良しのようにしてますけど、裏ではまったくそんなことないですし……むしろ私なんて、グループに入って一年半ほどで総選挙の五位なんかになってしまったので、影では何を言われているか……」
「へぇ、凄いじゃない。あれだけ人数がいる中でそこまで順位上げれるなんて」
「偶然ですよ。たまたま、ある番組の失敗が好意的に映ってそれがネット拡散された結果不思議な人気にが出ちゃって」
「それでも凄いよ」

 でもまあ、やっぱ芸能界って怖い所だね、よくあんな世界でやっていけるよねぇ。

「しかし、グループ内でもまったく友達いないのかい?」
「ええ、私さっき言ったように割と人見知りで。グループ内でも完全に孤立しちゃってます。とは、言ってもグループ内なんて自分以外は全部敵ですから、蹴落とす事ばかり考えていて仲良くしてる子達なんていないですけどね」
「うわ、アタシじゃ耐えられないや」
「えー、レナさんなら大丈夫じゃないですか?」
「喧嘩なら上等だけど、そういう陰湿なのは苦手だよ。雅代ちゃん、あんな世界でやってるんだから大したもんだよ」
「えへへ、そんなふうに褒められると照れますね」

 なるほどねぇ、芸能界ってのは相当の魔境のようだね。そりゃ友達って味方が欲しくもなるよな。
 雅代が照れながらも次を話す。

「それでですね、芸能活動のせいで学校も早退や休むことが多くて、クラスでも何を話していいか分からなくて。ここでも孤立してる気になるんですよ」
「ふむ」

 アタシは不良なのに無遅刻無欠席だったりする、授業はほぼ寝てたけど。いやー授業バックれたら負けだと思ってたんだよねぇ。授業中に仏像彫ってて怒られたこともあったなあ、今の仕事するならマリア像にしとくべきだったかな。

「芸能人の苦労はアタシにゃ分からないけど、アンタが大変なんだろうってのはなんとなくわかるよ」
「あは、学校でも話しかけられることはあるんですけど、なんというか距離があって、学生の坂下雅代じゃなくて芸能人の坂下雅代として話しかけられてるんだなって感じちゃうんです」

 今思うと、いつものアホどもの相談じゃなくて真面目な相談だったんだなと失礼ながらに思ってしまったよ。なるべくなら力になってやりたいものだ。

「ファンは味方じゃないの?」
「ファンの方は確かに味方なんですけど、友達とは違うかな?」
「まあ、それもそうか。しかし味方は大切にしないと。じゃないと一対二〇なんて喧嘩することになるよ、アレはしんどかった……」
「レナさんも凄い事してたんですね……」
「おっと、ごめん。芸能活動とヤンキーなんて一緒にしちゃいけないね」
「いえ、普通に接してくれて嬉しいです」

 さて、悩みなんで何か解決策は無いか考えてみようかね。

「さて、解決策か。芸能関係なら元紫貝塚歌劇団のリナが詳しいんだけど友達作りだからなぁ。」
「え? それって元蟹組の聖方里菜ひじかたりなさんですか?」
「あぁ、そうだけど」
「うわー! この教会にいたんだ」
「アイツの事しってるの?」
「はい! 前にあの人の演技と歌見てカッコイイなぁって思って」
「そ、そうか。今度紹介しようか?」
「いいんですか!」

 流石はリナ、中身はアレだが女性にも人気だな。

「えーと、友達ならやっぱ根性決めて自分から誘ってみるしかないんじゃないかな? それが出来ないから相談に来てくれてるのは分かってるんだけど。アタシじゃこんな事しか思いつかないんだよ」
「いえ、そうですよね。レナさんの言う通りなんですよね。私も頑張ってみます」

 かー、アタシの情けない答えを聞いても頷いてくれるとは出来た子だ。
 雅代は改めてアタシの方に向き直ると

「レナさん! 私のお友達になってください!」

 を、なんだいちゃんと言えるじゃないか……ん? アタシと友達になりたいって?

「え? アタシ?」
「はは、実はレナさんの事は少し前から知ってました、学校の北岡先輩が近くの教会に凄い美人がいるって言ってたのを聞いて」

 またアイツかよ!

「それで私実は綺麗な女の人を見るのが好きなんです。あ、恋愛の対象とかじゃないですよ! それで見に行ったらレナさんがいて遠くから見てたんですけど綺麗な人だなって」
「なんだそりゃ」
「しかも、箒でエアギターしながら何故かダ・カー〇のを熱唱してましたよね、歌も上手だなあって思ってました」
「ギャー! アレ見られてたのかよ!!」

 雅代がアタシの反応を見て笑ってやがる、コイツ。

「その後は子供たちとサッカーやってましたよね、しかも少〇サッカーとか叫びながら」
「……」
「そんなレナさんを見て、この人と友達になれたらなって思ってたんです」

 真顔で照れくさいこと言ってるなぁ。

「はぁ、分かった。いいよ元ヤンの腐れシスターだけどよろしくな」
「はい! 有難うございます」

 これが向日葵のような笑顔ってヤツか……リアのハエトリ草のような笑顔とは破壊力が違うな……
 そして雅代は腕時計を見ると。

「あ、もう少し話していたいけどレッスンの時間なんで行きます。それでは学校でも友達作れるように頑張ってみます!」
「ああ、応援してるよ」
「それでは有難うございました!」

 雅代はアタシにお辞儀すると、走って部屋を出て行った。

「はは、アタシとダチになりたいか……面と向かって言われると照れるもんだね」

 こうして雅代がうちの教会にしばしば遊びに来るようになったよ、リナが大喜びしてたのはまた別の話さ。
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