17 / 31
その十七 よーしたまには買い物だその2
しおりを挟む「親父さん、アレ残ってます?」
ニーナは元気よく親父に品物を催促していた、すると親父は店の奥から箱に入った五〇センチほどの短剣を持ってきた。
「コイツのことだろ?」
親父さんはそういうとニーナに箱を手渡す、ニーナは箱の蓋を開け中身を取り出した。
刃の長さは三〇センチほどで、煌めくような銀色の刀身をしたいかにも高そうな短剣であった。
「これですよ! 王子見てください。この透き通るような銀の刀身を、そしてこの柄の宝石」
「あ、あぁ。見事なつくりだね」
短剣の刀身に頬ずりしてるよ、ニーナ……君はどこに向かってるんだ?
「こいつは良い品ですよ王子、お嬢ちゃんなんて一目惚れしちゃいましてね」
「へぇ、どうすごいんだい?」
僕が尋ねると親父とニーナは目を輝かせ短剣の説明を始める。
ミスリル銀がどうとか、宝石は雷の魔石で相手を痺れさせるのがどうたら、三〇分ほど説明されたが半分は右から左へ抜けていった。どうやら凄い武器らしい。
「……といった短剣なんですよ!」
「そ、そうか。ではそれを買おう。親父さんこいつはいくらなんだい?」
「はい、金貨二五枚です」
え? パンピーの年収とほぼ同じ値段だと? 吉田君の包丁よりマシだが高いなおい!
「たっか!」
「カナード王子、そいつは熟練の冒険者でもなかなか手に入れれない良品ですからね」
「そ、そうなんだ」
冒険者に転生じゃなくて良かった……
「いやー、まあ確かにニーナ嬢ちゃんが惚れるのもわかる一品ですよ」
「はいー、私もこの短剣に呼ばれてるような気がするほど気になってたんですよ」
「そ、そうなのか。わかった金貨二五枚だね」
僕はサイフから金貨を取り出し親父に渡す。
親父は金貨を受け取ると数を数える、その間もニーナは短剣を持って眺めて変な顔をしている。
「丁度ですね、毎度あり」
ここでの買い物を済ませ店を出る、ニーナはホクホク顔だった。
「これで王子を確実に護ることができますね!」
「はは、期待しているよ」
少し喉が渇いたので、お茶でも飲んでいこうとニーナに提案する。
「いいですねー、王子とお茶、ふふふ」
「では、適当にそれっぽそうなカフェに入るとしよう」
僕は近場の少し洒落た作りのお店に目を止める。店構えは雰囲気がよさそうだ。
「よし、ニーナあそこの店にしよう」
「わかりました!」
僕たちは店の方に向かった、扉をくぐるとチリンチリンと鈴の音が響く。お店の中もなかなか洒落た作りのカフェだった。
「いらっしゃいませー」
給仕の女性が僕たちの方へ向かってやってきた。
「あれ?」
「あ」
給仕の女性はクレアであった、どうやらここで働いているようだ。
「や、やあ。奇遇だね」
「カナード王子……」
クレアも僕たちを見て驚いていた、そしてチラっとニーナの方を向くと……ムスーっと膨れていた。
「と、とりあえず席にご案内しますね」
そそくさと歩いていくクレアの後を僕たちはついていくことにした、席に案内するとクレアは
注文を聞いてきた
「ご注文は何にいたしましょう?」
「僕はコーヒーをアイスで」
「私はレモネードでお願いします!」
ニーナが何故か勝ち誇った顔で注文した、何故勝ち誇る? 僕とニーナの注文をメモするクレア。うん給仕の服が似合っていて可愛いな。
他の男性客もチラチラとクレアを見ている、分かるぞその気持ち。
「でも、なんでクレアさんここで働いてるんですか?」
ニーナが聞くとクレアは苦笑いをして答えてくれた。
「うちは騎士と言っても貧乏でして……お小遣いは自分で稼がないといけないんですよ」
「そういえば前も言っていたな」
クレアは前にも言っていたなそんなことを。しかしこれで確定した、この世界はゲームに瓜二つだが決定的に違う世界なんだと。ゲーム内ではクレアはアルバイトなんてしていないし貧乏騎士でもここまでではなかった。
どうやら世界線が違うというべきかな。そうなるとクレアと結ばれなくてもいいのかな?
僕はふと目の前の少女を見ながらそう思っていた。
「だがソニアがいる限り、明るい未来は無いな……」
「「?」」
ぼくの呟きに二人の少女は不思議な顔をしていた。
「カナード王子何かあったんですか?」
「王子何か言いましたか?」
「いや、何でもないよ」
ゲームとここまで違うとなると、もう先の事は分からないと言っていいだろう、ゲーム知識のアドバンテージはないって事になるね、そうなるとソニアをどうやって対処するか? ただゲーム関係なしにアイツと一緒になったら破滅すると思う。
そうなると協力者が欲しいな、ただどうやって協力を仰ぐかだなぁ。たとえ破滅しなくてもアレが嫁さんは嫌だよ、性格も容姿も最悪だし、アレは無い。
クレアは厨房にオーダーを通し、少ししてからこちらに注文の品を持ってきてくれた。
そして注文の品を持ってきたクレアはニーナと談笑している、そんな少女二人を僕は眺めていた。
「やはり慣れてる人がいいなぁ……」
「王子、独り言多いですよ」
「さっきもですけどカナード王子大丈夫ですか?」
「……あぁ、うん。疲れてるのかも」
口に出す癖でもあったのか? 安住祥子時代にもたまに口に出してた事があったなぁ、注意しよう。
色々と考える事が増えたかな、二人の少女を眺めつつコーヒーを口に運んだ……あまり美味しくないなこのコーヒー……
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです
天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。
魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。
薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。
それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる