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終章 勇者侵攻
第百一話 魔王と死霊王
しおりを挟む「――我は命ずる、暗き闇よ奔れ、我れに仇なす者を喰らい噛み砕け! 噛み砕く闇の牙!」
詠唱完了とともに地面にスティックを突き立てると、突き立てた場所から黒い影が敵目掛けて疾走します。
アストの反応が遅れたようです、驚きの表情で叫びます。
「なんだと! 上位魔法がアレだけの詠唱で発動できるのかよ!」
黒い影が迫る中アストは苦肉の策なのかスケルトンを踏み台にし上空へ飛びあがりました。
「間に合え!」
スケルトン数体が地面から放たれる闇の牙に噛み砕かれました。
「惜しいです」
「可愛い顔してエグイことしやがる」
「敵に容赦はしません、時間をかけたくないので私もリミッターを解除します」
マウナ・ファーレ腐っても魔王ですので本気を出します、マカナさんにもまだ見せたことのない姿ですね。まあ、私はサティほどの変化はありませんけど。
このモードになると、モード終了後から二日間はまともな魔法が使えなくなる弱点がありますけどね。
「マウナ様! 長時間のリミッター解除はいけませんぞ!」
「わかっています、十分でケリをつけます! はああああ!」
魔力を集め体内に取り込んでいきます、私の目の白目部分が黒くなり瞳の部分が金色に光ります。
「ふざけんな! こちらも対抗してやる! 死者の杖よ主である俺の声に応えよ!降りろカステリオ!」
「カステリオの魔力が増幅しております! マウナ様注意なされよ!」
モルテの忠告通りこれは危険です。
アストの髪が逆立ち周りから黒いモヤが立ち上ります。
「これではまるで、アストにカステリオが降臨してるかのようですな!」
モルテの指摘通りなのかアストが笑っています。
「ははは、その通り。これがチヨルカンで勇者たちが研究していた降霊魔法というヤツだ!」
そう言うとアストが手を振り上げ魔力を塊にして投げつけてきました、魔法ですらない攻撃ですが高い魔力を持つ者が行えば下位魔法と同等の破壊力になります。
私は片手を前に出しそれを受け止めます。
「その程度なら私にもできますよ?」
お返しと言わんばかりに、私も魔力を小さく纏めて高速で指弾として飛ばします。
「くそ!」
アストはスケルトンで防ぎます、スケルトンの頭がはじけ飛びました。
「化け物め!」
「ええ、魔王ですから」
「ふざけやがって! ――ゴースト・トリガー!」
死霊を弾丸として飛ばす死霊術の攻撃魔法です、珍しい魔法ですね。
苦悶の表情を浮かべ飛んでくる淡く光る球を結界で弾きます。
「マウナ様、死霊術に攻撃種の魔法は少ないですがどれも嫌らしいモノばかりです、油断せぬよう」
「わかっています! 精神を破壊する魔法が主と聞いていますからね」
「その通りです、肉体的に与えるダメージはさほどですが、精神や魂にダメージを与えてきますので注意を」
私は頷き風の魔法を詠唱しながら近付きます。私もマナカさんに護身術程度の格闘術を教わっていますので魔法を混ぜつつ実戦です。
「魔法使いが突っ込んでくるだと!」
「――ライトニング・ジャベリン!」
私は走りながらもアンダースローで雷の槍を投げつけます。我ながら器用な事をしてるものです。
アストは完全には躱せずダメージを受けております。
「ぐぬぁ! あの位置からではレジストも間に合わなかったか!」
「それで終わりじゃないですよ!」
悶えるアストに私はスティックを叩きつけます!
「うぎゃああ!」
吹き飛ぶアストですがスケルトン達に受け止めてもらって体勢を立て直します。
私がアストを睨みつけて次の詠唱を開始しようと思った時、後ろから衝撃を受け私も前方に吹き飛ばされました。
「く!」
後ろを振り向くと、スケルトンの体当たりを受けたようです。カタカタと顎を鳴らしつつ近付いてきたスケルトン。
アストばかりに気をとられたのはミスですね、すかさず他のスケルトンもやってきて私の足にしがみつきます。
「しまった!」
「よし! ――聞こえるか? 聞こえるだろ、怨嗟の声が死者達の声が? 誘うは幾千もの死者の嘆き! 生者への恨み!さあさあさあ! お前もこっちに来いと恨みを漏らす! 千の怨嗟!」
アストの詠唱が完了しました、良くない気配がします、どうやら死霊術の中でも極位の魔法のようです。
モルテもスケルトン達にはばまれこちらには来れないようです。
私も急いでレジストを試みますがこれは無理みたいです。
「マウナさま! 気を確かに保たれよ! ええい! 骸骨どもめ! それは死霊術の極位魔法! カステリオの切り札的な魔法ですぞ!」
魔王の魔法ですか厄介そうですね! しかしレジストは失敗。
私は何百という手に捕まり、先ほどまで何もなかった地面に突如現れた黒い池に引きずり込まれます。
「捕捉完了……くぅ、しかしこの魔法は使う俺自体が流石にキツイな。シンクロ率が八割だとこの魔法は完全には再現できないか、だが未完成でも強力な精神破壊魔法だぜ」
――
――――
アストの声が聞こえたと思うと、どこからか呻くような声が聞こえだしました。
「気を確かにですか……極位の精神破壊魔法、確かにこれは厄介そうですね」
何百それこそ千近くの死者達がこちらを見ております、これは本当に抜けるのに苦労しそうですね。並の人間なら数秒と持たずに廃人でしょうね、さっさと脱出してアストを倒すとしましょう!
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