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9話
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「はぁ…今日1日でいろんな事あったな…」
事務室で事務仕事をしながらため息混じりに呟く。別に華河に呆れて零した言葉ではない。ただ、華河にあんな過去があった事に驚いていた。普段の能天気そうな態度からは考えられないような過去。それを聞いたあとは、何故だか華河の事が気になってしょうがない。事務仕事もなかなか進まない程だった。
他人にここまで興味を持ったのは初めてだった。親しい友人がいない、という事ではないが、小さい頃からどこか冷静で淡白だったから、そこまで他人に惹かれる事はなかった。
「鷹村さん、どうしました?」
「三谷さん」
隣で事務仕事をしていた三谷さんが話しかけてくる。この病院に入って来てから、話しかけられる頻度が何故だか多かった。
「あ、仕事全然進んでないじゃないですか!」
「あぁ…ちょっと、悩んでる事があって」
「ふーん…だったら外の空気でも吸って、休憩した方が良いですよ。丁度休憩時間なんで」
「…そうしますね。ありがとうございます」
少し外を歩いて気分転換でもしてくるか、そう思い、病院の中庭に向かった。
「鷹村さん。どうも、さっきぶりですね」
「お、北河…だっけか?」
向こうの方から話しかけてきた、華河と同室患者である北河。北河の事は、何故かは分からないが話した時からどこか苦手意識があった。
言動の1つ1つに、何か違和感を感じるような…
そんな感じがした。
「ところで、中庭では禁煙ですが、大丈夫なんですか?」
「…まじか」
あれ、でも病院地図では中庭には喫煙スペースがあって。それがここだと記載されていたが…
また病院側のミスか?カルテの情報が長らく更新されていない病院だ。地図の記載ミスがあってもおかしくはない…のか?
「1人きりになれる場所を知ってるんです。そこで吸えばどうでしょうか?」
「あぁ、そうしておく。その場所はどこなんだ?」
「僕が案内しますよ」
そう言われ、言われる通りに北河について行った。
着いたのは病院の裏手にある裏山の麓辺り。景色がいいとは言いきれないが、病院の裏にある庭と駐車場が見える程の高さだった。
「本当に人が来ないんだな、ここ」
「ええ、これまでここに入った人は、僕と鷹村さん以外見た記憶はありませんよ」
「へえ、そうなのか」
人が多い場所でちらちら見られながら吸うより、人気のない場所でゆっくり吸った方がいいと考え、このままここで吸う事にした。
「そうだ、鷹村さんに話したい事があったんです」
「ん、なんだ?」
煙草を吸っている最中突然話しかけてきた北河。なんだろうか、と警戒しながら話を聞くことにした。
「んー、話すと言うより聞く、と言った方がいいかもしれませんね。いいですか?
「いいぞー。できるだけ手短に頼む」
「それじゃあ…鷹村さんは、華河の何なんですか?」
「…は?」
突然北河の声のトーンが下がる。
予想だにしていなかったその問いに、答えられずにいた。
「さっき鷹村さんが僕に『なにか聞いていたか』それに対して何も聞いてないような返答しましたよね…
あれは全て嘘です。
信孝が大事な事を話してたみたいなんで、つい知らないふりしちゃいました」
「は、え…?」
「出す言葉もないって感じですか?大丈夫ですよ。今はまだ聞いてるだけでいいので。
…信孝、少し不思議なとこがあるんですよね。あんな元気で能天気そうに見えるのに、実の所は自分の事は、心を許した相手にしか絶対に話さないような…そんな所があるんですよね。
もちろん、僕もその1人…と言いたいところなんですが、生憎僕はあの話、初めて聞いたんですよ。
…信孝が泣くところも。全部初めてなんです。
それで僕、思ったんですよー…
なんで貴方なのかって。
なんで何年も一緒だった僕じゃなくて、新しく就任したようなぱっと出の担当医のやつなんかに、信孝が秘密を話すのかって。
多分信孝は貴方に対して何か特別な感情を抱いてるんじゃないですかね?…貴方も同様に。心当たりはありませんか?
まあそれは僕も同じなんですけどね。
それでも勘違いだけはしないでくださいね?
私と貴方は仲間でも同士でも、ましてや友人なんて吐きそうになるようなくだらない関係なんかじゃない。
_僕達は『敵』同士だ
言っとくけど、僕の方が信孝に対する想いも気持ちもお前に負けない程でかいものなんだよ。
…お前"なんか"に信孝は渡さねぇよ」
突如雰囲気がもとのものから大きく変化した北河に、ただ驚いたが、それと同時に恐怖も感じた。
こいつなら、「信孝の為に」という理由だけで人を殺しそうな雰囲気まで出ていたのだ。
「…まぁそんな感じの…いわゆる警告ってやつですよ。
信孝に手を出したら…わかるよな?」
それではこれで、と言い、今いた場所から去っていく北河。
二重人格と疑われても仕方のない程の雰囲気の変化に、ただそこに座っている事しか出来なかった。
事務室で事務仕事をしながらため息混じりに呟く。別に華河に呆れて零した言葉ではない。ただ、華河にあんな過去があった事に驚いていた。普段の能天気そうな態度からは考えられないような過去。それを聞いたあとは、何故だか華河の事が気になってしょうがない。事務仕事もなかなか進まない程だった。
他人にここまで興味を持ったのは初めてだった。親しい友人がいない、という事ではないが、小さい頃からどこか冷静で淡白だったから、そこまで他人に惹かれる事はなかった。
「鷹村さん、どうしました?」
「三谷さん」
隣で事務仕事をしていた三谷さんが話しかけてくる。この病院に入って来てから、話しかけられる頻度が何故だか多かった。
「あ、仕事全然進んでないじゃないですか!」
「あぁ…ちょっと、悩んでる事があって」
「ふーん…だったら外の空気でも吸って、休憩した方が良いですよ。丁度休憩時間なんで」
「…そうしますね。ありがとうございます」
少し外を歩いて気分転換でもしてくるか、そう思い、病院の中庭に向かった。
「鷹村さん。どうも、さっきぶりですね」
「お、北河…だっけか?」
向こうの方から話しかけてきた、華河と同室患者である北河。北河の事は、何故かは分からないが話した時からどこか苦手意識があった。
言動の1つ1つに、何か違和感を感じるような…
そんな感じがした。
「ところで、中庭では禁煙ですが、大丈夫なんですか?」
「…まじか」
あれ、でも病院地図では中庭には喫煙スペースがあって。それがここだと記載されていたが…
また病院側のミスか?カルテの情報が長らく更新されていない病院だ。地図の記載ミスがあってもおかしくはない…のか?
「1人きりになれる場所を知ってるんです。そこで吸えばどうでしょうか?」
「あぁ、そうしておく。その場所はどこなんだ?」
「僕が案内しますよ」
そう言われ、言われる通りに北河について行った。
着いたのは病院の裏手にある裏山の麓辺り。景色がいいとは言いきれないが、病院の裏にある庭と駐車場が見える程の高さだった。
「本当に人が来ないんだな、ここ」
「ええ、これまでここに入った人は、僕と鷹村さん以外見た記憶はありませんよ」
「へえ、そうなのか」
人が多い場所でちらちら見られながら吸うより、人気のない場所でゆっくり吸った方がいいと考え、このままここで吸う事にした。
「そうだ、鷹村さんに話したい事があったんです」
「ん、なんだ?」
煙草を吸っている最中突然話しかけてきた北河。なんだろうか、と警戒しながら話を聞くことにした。
「んー、話すと言うより聞く、と言った方がいいかもしれませんね。いいですか?
「いいぞー。できるだけ手短に頼む」
「それじゃあ…鷹村さんは、華河の何なんですか?」
「…は?」
突然北河の声のトーンが下がる。
予想だにしていなかったその問いに、答えられずにいた。
「さっき鷹村さんが僕に『なにか聞いていたか』それに対して何も聞いてないような返答しましたよね…
あれは全て嘘です。
信孝が大事な事を話してたみたいなんで、つい知らないふりしちゃいました」
「は、え…?」
「出す言葉もないって感じですか?大丈夫ですよ。今はまだ聞いてるだけでいいので。
…信孝、少し不思議なとこがあるんですよね。あんな元気で能天気そうに見えるのに、実の所は自分の事は、心を許した相手にしか絶対に話さないような…そんな所があるんですよね。
もちろん、僕もその1人…と言いたいところなんですが、生憎僕はあの話、初めて聞いたんですよ。
…信孝が泣くところも。全部初めてなんです。
それで僕、思ったんですよー…
なんで貴方なのかって。
なんで何年も一緒だった僕じゃなくて、新しく就任したようなぱっと出の担当医のやつなんかに、信孝が秘密を話すのかって。
多分信孝は貴方に対して何か特別な感情を抱いてるんじゃないですかね?…貴方も同様に。心当たりはありませんか?
まあそれは僕も同じなんですけどね。
それでも勘違いだけはしないでくださいね?
私と貴方は仲間でも同士でも、ましてや友人なんて吐きそうになるようなくだらない関係なんかじゃない。
_僕達は『敵』同士だ
言っとくけど、僕の方が信孝に対する想いも気持ちもお前に負けない程でかいものなんだよ。
…お前"なんか"に信孝は渡さねぇよ」
突如雰囲気がもとのものから大きく変化した北河に、ただ驚いたが、それと同時に恐怖も感じた。
こいつなら、「信孝の為に」という理由だけで人を殺しそうな雰囲気まで出ていたのだ。
「…まぁそんな感じの…いわゆる警告ってやつですよ。
信孝に手を出したら…わかるよな?」
それではこれで、と言い、今いた場所から去っていく北河。
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