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フォエミナの花 2
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セレイナがアドリーシャを呼びに来たのは、いつもなら帰る時間が近づいてからのことだった。
エティケは帰宅が遅れる旨を屋敷に報せてくれていたが、セレイナは今日は短めに済ませましょうと微笑んだ。
いつもの白い小部屋で向かい合うと、セレイナは改めて授業が遅れたことを詫びた。
「今日はごめんなさいね。ファブロ祭司長に呼び出されていたの」
「大切なお話だったのですか?」
「話自体は長くなかったのだけど、ものすっごく待たされたの。ほら、蝕が近いでしょう。そのせいで何かと忙しいみたい。そこら中で薫香を焚いてるものだから、私にも移っちゃったわ」
セレイナは、袖を鼻先に近づけて眉をひそめる。
祭司官は、薫香を焚いて祈りを捧げることで生まれつき授かった神力を磨く。聖木の樹脂から作られる薫香は、焚くと木のような落ち着いた香りに独特の粉っぽさが滲む。
祭司官だった父が毎日欠かさず祈りを捧げていたのでアドリーシャにとっては身近な香りだが、娘好みの香りではないことも理解できる。果実たちは自分たちを軽んじる祭司官を嫌っているから、尚更好ましく思わないのだろう。
やんなっちゃうと呟いたセレイナが、ふとアドリーシャを見つめた。
「ファブロ祭司長が、あなたと王弟殿下のことを気にしているみたいなの」
ファブロは、アドリーシャがイルディオスの果実だと宣言した祭司官である。
当時は序列二位の祭司官だったが、この五年の間に祭司長に上り詰めた。ファブロは祭司官の頃から直接弟神の神託を賜ることが多く、その優秀さと神力の強さで早くから名の通った人物だった。
「私に教えてもよろしいのですか?」
「祭司長自身がアドリーシャに伝えるように言ったのよ。あの人はいつも笑っているけれど、見た目通りの人ではないでしょう」
あれ以来ファブロとは顔を合わせていないが、権力を使うことに長けたイルディオスが神殿との交渉に手を焼いていることを鑑みるに、厄介な相手であることは疑いようもない。
「気をつけます。ほかに、何か言われませんでしたか?」
「あんなに待ったのにそれっぽっちよ。まったく勝手だったらないわ」
セレイナは、作り付けの飾り棚から白い木で造られた小箱を二つ取り出した。柔らかい仕種で開けられた小箱の中には、それぞれ白い香炉と小瓶とが収められている。
セレイナは細い瓶をするりとつまみ上げると、目の高さに掲げた。透明な硝子の中で、とろりとした蜜が鈍く揺れる。
「アドリーシャは、まだきちんとフォエミナを使ったことがなかったわね」
セレイナは、アドリーシャがフォエミナのお茶を口にしないことを疑問に思っている果実がいると教えてくれた。
「別に、あの子たちは告げ口や意地悪をしたいわけじゃないのよ。ただ、あなたが王弟殿下の子どもを身籠もろうとしているのではないかと心配しているの」
アドリーシャの脳裡に、四阿で懸命に微笑もうとしていたサーニャの横顔がよぎった。
セレイナは細い指で小瓶の蓋を開けると、甘い香りを漂わせる蜜をスプーンの上にとろりと垂らした。琥珀色をしたそれは、一見して蜂蜜のようにも見える。
「私たち果実は籠に連れて来られると、まずフォエミナ漬けにされるの。フォエミナの花を煮出したお茶は香りも味も甘くておいしいから、私も喜んで飲んだわ。そして、月のものが来なくなってから、自分が毎日飲んでいた花の効能を知らされるというわけ」
……フォエミナと呼ばれる紫の花は、国中を探しても籠の中にしか咲いていない。
初めてこの花を見た日、アドリーシャには思い出したことがあった。
記憶の裏付けを取るために屋敷の図書室にあるだけの植物図鑑のページを繰ったが、予想した通り、どの年代に纏められた図鑑にもフォエミナは載っていなかった。
そうして、用心深く耳を澄ませて拾い集めた果実たちの会話をつなぎ合わせて、この花を煮出したお茶を飲むと、果実は子どもを孕まない上に、月のもので力ある者の相手を務められない日もなくなるのだと見当をつけたのである。
その推測は合っていて、果実たちの何気ない会話を聞く度に、アドリーシャは一人だけ安穏と暮らしている自分を省みるのが常だった。
「アドリーシャは、どうしてフォエミナを口にしないできたの?」
「貴族の娘は、力ある者を生むことを期待されます。母は、私ができるだけ神力の強い子を産む将来を望むと同時に、敵対する家から毒を盛られることを恐れていました」
貴族の娘に毒が盛られるのは命を狙ってのことではなく、優れた子を孕めなくするためだ。とりわけ、神力を多く授かった娘が狙われる。
不妊となる毒の使用は先々代の王の御代に厳罰化されたために随分下火になったが、娘を持つ家門では、娘の食事を厳しく管理するのが習いとなっていた。
「私の生家には、神殿による焚書や検閲を免れた古書も保管されています。現在親しまれている神話からは省かれていますが、私が読んだ古書には、弟神が兄神の果実に紫の花を与えて、子を孕めなくしたという逸話が載っていました」
籠を訪れるようになって間もない頃のアドリーシャは、今よりも色濃く母から受けた教育に浸されていた。
よく知らないものを口にしないのは当たり前のことであったし、万一子どもを産めなくなってしまったら、もっとだめな娘になってしまうと恐れる気持ちが強かった。
だから、子どもができないからいいものの、しつこい男は最悪だという果実たちの愚痴を聞いて、ひどく驚いたことをよく覚えている。
「なるほどね。……フォエミナは、継続して飲むことで月のものを止められるだけじゃなくて、使い方次第で催淫作用や幻覚作用をもたらすの。聞いたことはない? 果実たちはフォエミナを閨で焚くのよ。この花は、私たちにとって自分を守るためになくてはならない存在なの」
蜜を口に含んだセレイナは、肩を強ばらせたアドリーシャの様子に笑って、ぺろりと唇を舐めてみせる。
「ひと匙くらい舐めただけでは、大した効き目はないわ。以前薬師をしていた果実も、依存性はないようだと言っていたし」
「そう、なのですか?」
「ええ。これから、フォエミナの使い方を教えるわね」
セレイナは小箱の中身と使い方について説明し終えると、小箱を布でくるんだ。
少しだけなら蜜を舐めたりお茶を飲んでみても身体に影響はないと教えられて、アドリーシャは曖昧に頷く。
差し出された包みを膝に抱くと、陶製の香炉が入っているせいだろう、少し重たい。
フォエミナの香りが肌に染みていくように思われて、アドリーシャは微かに息をついた。
エティケは帰宅が遅れる旨を屋敷に報せてくれていたが、セレイナは今日は短めに済ませましょうと微笑んだ。
いつもの白い小部屋で向かい合うと、セレイナは改めて授業が遅れたことを詫びた。
「今日はごめんなさいね。ファブロ祭司長に呼び出されていたの」
「大切なお話だったのですか?」
「話自体は長くなかったのだけど、ものすっごく待たされたの。ほら、蝕が近いでしょう。そのせいで何かと忙しいみたい。そこら中で薫香を焚いてるものだから、私にも移っちゃったわ」
セレイナは、袖を鼻先に近づけて眉をひそめる。
祭司官は、薫香を焚いて祈りを捧げることで生まれつき授かった神力を磨く。聖木の樹脂から作られる薫香は、焚くと木のような落ち着いた香りに独特の粉っぽさが滲む。
祭司官だった父が毎日欠かさず祈りを捧げていたのでアドリーシャにとっては身近な香りだが、娘好みの香りではないことも理解できる。果実たちは自分たちを軽んじる祭司官を嫌っているから、尚更好ましく思わないのだろう。
やんなっちゃうと呟いたセレイナが、ふとアドリーシャを見つめた。
「ファブロ祭司長が、あなたと王弟殿下のことを気にしているみたいなの」
ファブロは、アドリーシャがイルディオスの果実だと宣言した祭司官である。
当時は序列二位の祭司官だったが、この五年の間に祭司長に上り詰めた。ファブロは祭司官の頃から直接弟神の神託を賜ることが多く、その優秀さと神力の強さで早くから名の通った人物だった。
「私に教えてもよろしいのですか?」
「祭司長自身がアドリーシャに伝えるように言ったのよ。あの人はいつも笑っているけれど、見た目通りの人ではないでしょう」
あれ以来ファブロとは顔を合わせていないが、権力を使うことに長けたイルディオスが神殿との交渉に手を焼いていることを鑑みるに、厄介な相手であることは疑いようもない。
「気をつけます。ほかに、何か言われませんでしたか?」
「あんなに待ったのにそれっぽっちよ。まったく勝手だったらないわ」
セレイナは、作り付けの飾り棚から白い木で造られた小箱を二つ取り出した。柔らかい仕種で開けられた小箱の中には、それぞれ白い香炉と小瓶とが収められている。
セレイナは細い瓶をするりとつまみ上げると、目の高さに掲げた。透明な硝子の中で、とろりとした蜜が鈍く揺れる。
「アドリーシャは、まだきちんとフォエミナを使ったことがなかったわね」
セレイナは、アドリーシャがフォエミナのお茶を口にしないことを疑問に思っている果実がいると教えてくれた。
「別に、あの子たちは告げ口や意地悪をしたいわけじゃないのよ。ただ、あなたが王弟殿下の子どもを身籠もろうとしているのではないかと心配しているの」
アドリーシャの脳裡に、四阿で懸命に微笑もうとしていたサーニャの横顔がよぎった。
セレイナは細い指で小瓶の蓋を開けると、甘い香りを漂わせる蜜をスプーンの上にとろりと垂らした。琥珀色をしたそれは、一見して蜂蜜のようにも見える。
「私たち果実は籠に連れて来られると、まずフォエミナ漬けにされるの。フォエミナの花を煮出したお茶は香りも味も甘くておいしいから、私も喜んで飲んだわ。そして、月のものが来なくなってから、自分が毎日飲んでいた花の効能を知らされるというわけ」
……フォエミナと呼ばれる紫の花は、国中を探しても籠の中にしか咲いていない。
初めてこの花を見た日、アドリーシャには思い出したことがあった。
記憶の裏付けを取るために屋敷の図書室にあるだけの植物図鑑のページを繰ったが、予想した通り、どの年代に纏められた図鑑にもフォエミナは載っていなかった。
そうして、用心深く耳を澄ませて拾い集めた果実たちの会話をつなぎ合わせて、この花を煮出したお茶を飲むと、果実は子どもを孕まない上に、月のもので力ある者の相手を務められない日もなくなるのだと見当をつけたのである。
その推測は合っていて、果実たちの何気ない会話を聞く度に、アドリーシャは一人だけ安穏と暮らしている自分を省みるのが常だった。
「アドリーシャは、どうしてフォエミナを口にしないできたの?」
「貴族の娘は、力ある者を生むことを期待されます。母は、私ができるだけ神力の強い子を産む将来を望むと同時に、敵対する家から毒を盛られることを恐れていました」
貴族の娘に毒が盛られるのは命を狙ってのことではなく、優れた子を孕めなくするためだ。とりわけ、神力を多く授かった娘が狙われる。
不妊となる毒の使用は先々代の王の御代に厳罰化されたために随分下火になったが、娘を持つ家門では、娘の食事を厳しく管理するのが習いとなっていた。
「私の生家には、神殿による焚書や検閲を免れた古書も保管されています。現在親しまれている神話からは省かれていますが、私が読んだ古書には、弟神が兄神の果実に紫の花を与えて、子を孕めなくしたという逸話が載っていました」
籠を訪れるようになって間もない頃のアドリーシャは、今よりも色濃く母から受けた教育に浸されていた。
よく知らないものを口にしないのは当たり前のことであったし、万一子どもを産めなくなってしまったら、もっとだめな娘になってしまうと恐れる気持ちが強かった。
だから、子どもができないからいいものの、しつこい男は最悪だという果実たちの愚痴を聞いて、ひどく驚いたことをよく覚えている。
「なるほどね。……フォエミナは、継続して飲むことで月のものを止められるだけじゃなくて、使い方次第で催淫作用や幻覚作用をもたらすの。聞いたことはない? 果実たちはフォエミナを閨で焚くのよ。この花は、私たちにとって自分を守るためになくてはならない存在なの」
蜜を口に含んだセレイナは、肩を強ばらせたアドリーシャの様子に笑って、ぺろりと唇を舐めてみせる。
「ひと匙くらい舐めただけでは、大した効き目はないわ。以前薬師をしていた果実も、依存性はないようだと言っていたし」
「そう、なのですか?」
「ええ。これから、フォエミナの使い方を教えるわね」
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