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偽りの姫だった娘は辺境で恋を取り戻す 6 ※

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 一つ肌を覆うものが脱がされる度に、リリーシャはリガードによってきちんと顔を見せるよう丁重にお願いされた。リガードの手のひらや唇が浮き出た骨のかたちや柔らかな身体の線をたどってどんなふうに綺麗なのかを教えてくれるものだから、リリーシャの心臓はうるさいほどに高鳴った。

「あの、胸はあんまり大きくならなくて……」

 おのずと白い肌に視線を落としたリガードを見つめて、リリーシャは心配になった。
 先がほんのりと色づいている乳房は、横たわったことでより小さく見える。起き上がろうとしたリリーシャはだが、優しくシーツの上に戻されてしまう。
 陛下よりは小さいですけれど、でも、ふつうです。でも、でも……あの……。うろうろと視線を彷徨わせながらでも、でもと言い募る唇は優しく封じられた。心配しなくてもいいのに、と。

 くちづけが深くなっていくとともに、肌の上を大きな手のひらがたどって愛撫する。
 乳房を手のひらで包まれて優しく捏ねるように揉まれるうちにじんわりと身体の奥で甘さが滲んできて、リリーシャはちいさくため息した。

 首筋を通って鎖骨を食んだリガードの唇が胸の先を食べたとき、リリーシャは自分の喉が甘く鳴いたのに驚いた。そして、乱れた髪の間から覗いたリガードの瞳の強さに少しだけ怯えた。けれども、怯えはいつしかじわじわと肌を満たす快さに隠れてしまった。

「あ……ん、ん……やっ、あ、」

 知らない感覚が肌の上をはしるのに、リリーシャは身を捩って逃れようとする。けれどもリガードは丁寧すぎるほどにリリーシャの乳房を愛撫しては舌で舐って、なかなか離してはくれなかった。その頃にはもう、リリーシャの頭から胸の大きさについての悩みはどこかに消えてしまっていた。だって、リガードが可愛いと囁きながら何度もくちづけてくれたから。

 リリーシャは、身体のくぼみをたどるように唇を押し当てながら下へと向かうリガードの髪にそっと手をさしいれて、何度も撫でた。縋りつくように。

 何度か気をやってしまいそうになったほどに舌で慰められた秘所につぷんと指が差し入れられたとき、リリーシャはシーツを握りしめて震えた。
 唇に触れられて少しずつ強ばりが溶けてきた内側を擦る指の動きに、息が乱れていくのがわかる。リガードの指を締め付けるように、内側がきゅうと締まった。しっとりと潤んだそこは、リガードを逃がさないとばかりにひったりと纏わり付いている。
 つんと立ち上がった突起を弄られながら、差し入れられた指がくちゅくちゅとみだらな音を立てながら動かされるのに、はあと息を零して。リリーシャはこっちと促されて、シーツではなくリガードの身体にしがみつかされた。

 ようやく慣れてきたと思ったらもう一本、また一本と指が増やされていき、その度にリリーシャは白い肌を震わせた。これが達するという感覚なのだと理解した身体がぼうっとしていると、震える足をやわらかに開かれた。

 リガードの低い声にゆるしてほしいと耳元で囁かれると、ぞっと肌が悦んだ。
 反射的に頷いた先で、リリーシャは唇を噛んだ。押し当てられた熱さに、秘所がとろとろと潤んでいくのがわかる。そう思ったら、熱さがゆっくりと挿し入れられてゆく。

「ひゃう、んっ……いたっ……あ……っ」

 いったいどういう形をしているのかもよくわからない内側を分け入る熱さは、リリーシャがひくひく腰を揺らしても泣いても、辛抱強く待ってくれていた。
 熱さが引き抜かれようとするのを察すると、すぐにリリーシャがいやいやと首を振ったからでもある。だめ。やめちゃ、だめです。

 リリーシャ。くり返し名前を呼ばれながら、リリーシャは感じたことのない痛みにぴくっと足を揺らした。
 リリーシャ、こちらを見て。何度も囁かれるのに、リリーシャはこわごわと瞼を押し上げた。

「おにい、さま……私、うまくできなくて」
「そんなことはない。僕こそ、痛い思いをさせてすまない。でも……すごく嬉しい」

 うれしい? リリーシャはかすかな声で囁いた。
 何度も嬉しいと囁き返されて、リリーシャは遠くの方で身体がじんわりと昂ぶっているのを感じた。は、と熱に浮かされたようなリリーシャの吐息にそのことを感じ取ってか、リガードがゆっくりと腰を進めた。

 柔らかい膝の裏を抱えられながら、リリーシャはじわじわと内側を満たしていく熱さがすべて呑み込まれるまで、涙がちに痛みを堪えていた。

「リリーシャ」

 浅い息をくり返すリリーシャは、気づけば滲んでいた視界にリガードを見つけた。ぼやけたリガードは、静かに微笑んでいた。すこし、泣いているようにも見えた。

 ゆっくりと近づいてきた身体に抱き寄せられると、触れあっているところが増えて、温かくて気持ちがよかった。唇が重なって、優しく食まれる。ちゅ、と音がして、リリーシャの頬は一層熱を持った。

「こんなに幸せな思いをする日がくるなんて、思ってもみなかった」

 リリーシャの瞳から溢れた涙を唇がたどって、そっと吸う。
 そうされると、リガードの顔がよく見えた。リリーシャは、ああと思う。

(私だって、そう。だって、夢みたい。こんなにも、お兄様が私のことを好きなんだとわかる日が来るなんて……)

 苦しげに目を細めて髪を乱した男のひとが、リリーシャを見つめていた。愛おしんでくれていることがありありとわかる表情だった。深く想ってくれていなければ、そんな表情はできなかっただろう。作ろうと思ってもできる顔ではなかった。

 リリーシャは、こんなに幸せそうなリガードの表情を見たことがなかった。
 こんなに満たされていて、でも飢えてもいて。それでも、リリーシャを気遣って動こうとはしないでいる男のひとの顔。

 その表情が、自分がいることで生まれたものだなんて信じられない。
 昔のリリーシャに教えたら、きっと嘘だと言うだろう。でも、何度見てもほんとうだった。

「……リリーシャ?」

 ぼんやりと自分を見つめているリリーシャに、リガードは気遣うように頬を撫でてくれる。
 その優しい感触に、リリーシャの目はすぐに潤んだ。すすり泣きはじめたリリーシャに、リガードが痛いのかと訊ねる。首を振りながら、リリーシャは俯いた。けれども心配そうな顔をしたリガードの手が追いかけてきて顔を上向けさせられる。

「ちがいます。嬉しくて……私も、嬉しい。だって、こんな……お兄様と結婚できて、愛してると言われるような幸せが訪れるとは思わなかった。こんなに幸せなこと、三年前の私は望むことすらできなかった、のに」

 うそみたい。リリーシャは囁いて、それから涙を含んだ睫毛を揺らした。リガードが、嘘じゃないと囁き返した。子供のようにリリーシャは訊ねた。お兄様、ほんと? うん、本当だ。

「これからは、望んでほしい。これまで出来なかった分、リリーシャをもっと甘やかしたい。君に、もっと色んなことをしてあげたかった。人目を気にせず可愛いと言って、抱きしめたかった。贈り物だってしたかった。……もっと、君の喜ぶ顔を見たい」

 今は苦しめているけれど。冗談めかして囁かれるのに、リリーシャはくすくすと笑った。どうしよう、やっぱり夢みたい。そう呟いて。

 初めて貫かれた身体は、まだじわじわと痛い。でも、その痛みさえリリーシャは嬉しかった。痛みがあるから、この幸せを実感出来るような気がした。だって、本当に夢みたいな幸せだからだ。

 リリーシャは、身体を繋げる行為の意味は、単純に子供をつくることだと思っていた。もちろん、それも間違いではない。でも、それだけではない。こみ上げた愛おしさに、リリーシャは笑った。
 母が――あの幼いリリーシャにとってほとんどすべてだった母がどうして恋を諦められなかったのか、いまようやく分かった気がした。リリーシャも、同じだ。どうしても、リガードでなくては嫌だった。どうしても、どうしてもだ。

 リリーシャはうまく力の入らない手を持ち上げると、リガードの頬を挟んだ。
 汗ばんでいて、熱い頬だった。私が灯した熱だわ。そうリリーシャは思った。

「お兄様、愛しています。ずっと、ずっと傍にいます。もう、ずっと離れません。だから、私の傍にいて、私を愛してください」
「誓う。もう二度と、リリーシャをこの腕の中から離したりはしない。……君の居場所は、ここだけだ。たとえ陛下にだって譲りはしない」

 ふにゃりと微笑んだリリーシャは、誰よりも好きな人の身体に細い腕を巻き付けた。
 うごいて。本当だって、教えて。囁くと、リガードは焦げつきそうな目でリリーシャを見た。

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