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33 籠目大社
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「うわぁっ!?」
僕は布団を押し退けて飛び起きた。
夢を見て悲鳴をあげながら起きたことなんて初めてだった。
ぐっしょりと寝汗みにまみれた寝間着、お腹の上にはアオちゃんが僕にしがみついてまだ寝ていた。
その背中にはシャノンまで居た。
まるで亀の親子だ。
「これが原因か」
悪夢を見た理由、それはアオちゃんたちの重みによるものだろう。
前にどこかで聴いたことがあった。寝てる間に胸を圧迫されると悪い夢を見るって。
「ク~アァ」
大きなあくびをひとつ。アオちゃんが目を覚ました。
「キュー♪」
僕と目が合うと嬉しそうに「おはよう」ってあいさつ。
「おはようアオちゃん」
僕もあいさつを返したけど、アオちゃんは僕を見て首をかしげた。ひどい夢を見て顔色が悪かった僕を心配しているみたいだ。
僕は「大丈夫だよ。ちょっと怖い夢を見ちゃったんだ」って何でもないことだとアオちゃんの頭を撫でてあげた。
アオちゃんは僕の手が頭を撫でる感触にクルクルと喉を鳴らしながらも「どんなゆめ?」って首をかしげる。
僕は記憶を手繰る。夢ってヤツは起きた瞬間にはもう覚えてないことも多い。悲鳴をあげるほどの悪夢だって所詮は夢でしかない。
もう忌々しい架空の記憶は現実に押し流され始めている。
だから僕は首を横に振った。
「もう忘れちゃったよ。それよりも朝ゴハンを食べよう。今日はエミおばさんもシャノンも居るからきっと賑やかだよ」
僕は寝間着を着替えてアオちゃんとまだ寝起きでうつらうつらとしているシャノンを連れて階段を降りた。
「おはようじいちゃん、ばあちゃん。エミおばさんは?」
居間にはじいちゃんが胡座をかいて新聞を読んでいた。
お勝手にはばあちゃん、お味噌汁をよそっている。
「エミさんならそこよ」
ばあちゃんが居間の隣にあるお仏壇の部屋を指差す。
襖が開け放たれたそこにはシーツで出来た芋虫が一匹転がっていた。
「ふたりして明け方まで呑んでたみたいでね、エミさんは今日はずっとあの調子でしょうね。寝かせておいてあげましょう」
芋虫はしばらく羽化しそうになさそうだ。
「まったく、おじいちゃんだってもう若くないんだから、エミさんに張り合ってそんなに呑まないでちょうだい」
「んー、ああ」
ばあちゃんのお小言を新聞で顔を隠してやり過ごそうとするじいちゃん。
明け方まで呑んでたって言うのにじいちゃんは平気そうだ。
そういやじいちゃんが酔い潰れたところって見たことがないや。
「冷蔵庫だって空っぽにしちゃって、もう。夜中にオツマミを漁ったんでしょうけど、冷凍庫にあった保冷剤にまで歯形が付いてたわよ。ネズミじゃないんだから」
「ふむ、ありゃ食いモンじゃなかったんじゃな、どうりでエイミーが食った後に真っ青な顔をしとった訳だ。 お、ナツ、籠目大社で改築工事があるらしいぞ」
じいちゃんがあからさまに話題を逸らしてきた。
たぶん僕が起きる前からばあちゃんのお小言は続いてたんだろう。
じいちゃんが僕にだけわかるアイコンタクトで「助けろ」って告げてきたのでしょうがなく話に乗ってあげた。
「籠目大社って?」
「ああ、昔婆さんと一度関西に汽車で旅行した時にな、参拝した神社じゃ。ワシんとこの神社とはエライ違いでな、本殿の他に拝殿やら神楽殿やらが建たっとって立派なもんじゃった。
なのにな、参道のど真ん中を塞ぐようにデッカイ大岩が奉ってあってな、邪魔っ気だったのをよう覚えとるよ」
奉ってあったのに邪魔って…じいちゃん、バチがあたるよ。
じいちゃんが言うには『籠目大社』ってのは有名な観光地らしい。そんな有名な神社だから地方の新聞にも改装のニュースが載るんだろうね。
僕がそんなことを考えてたらじいちゃんが内緒話でもするみたいに僕に顔を近づけてきた。
じいちゃん、お酒臭い。アオちゃんもシャノンもそっと僕から身を放した。
「ナツ坊、その大岩な、ありゃぁこっちの神社にあるのと一緒じゃ」
「え? 一緒ってなにがさ?」
「つまりじゃな、あの大岩がこっちで言うところの穴を塞いでる結界だってことじゃ」
「ええっ!?」
僕の驚いた顔にじいちゃんはイタズラが成功したみたいなニヤリとひとの悪い笑顔を見せた。
「え? え? じゃあその籠目大社ってのも幻獣の居る世界に通じてるの!?」
僕の問いにじいちゃんはコクリと頷いた。
「そうじゃろうな、もっとも穴自体は岩に塞がれとったから幻獣の姿すら御目にかかれんかったがな」
じいちゃんが言うには岩が穴を塞いでてそれが封印の役割を果たしてるらしい。
それでもじいちゃんが穴の存在に気が付いたのはじいちゃん家の上の神社とおんなじ気配がしたからなんだって。
そういやエミおばさんの故郷の近くにもピクシーのたくさんいる森があったし、そこもあっちに通じる穴があったらしい。
僕が思ってるよりもずっとたくさんのあっちに通じてる穴があるのかも知れないな。
僕はちゃぶ台に並べられたオカズをつまみ食いしようとするアオちゃんをなだめながらそんなことを思っていた。
僕は布団を押し退けて飛び起きた。
夢を見て悲鳴をあげながら起きたことなんて初めてだった。
ぐっしょりと寝汗みにまみれた寝間着、お腹の上にはアオちゃんが僕にしがみついてまだ寝ていた。
その背中にはシャノンまで居た。
まるで亀の親子だ。
「これが原因か」
悪夢を見た理由、それはアオちゃんたちの重みによるものだろう。
前にどこかで聴いたことがあった。寝てる間に胸を圧迫されると悪い夢を見るって。
「ク~アァ」
大きなあくびをひとつ。アオちゃんが目を覚ました。
「キュー♪」
僕と目が合うと嬉しそうに「おはよう」ってあいさつ。
「おはようアオちゃん」
僕もあいさつを返したけど、アオちゃんは僕を見て首をかしげた。ひどい夢を見て顔色が悪かった僕を心配しているみたいだ。
僕は「大丈夫だよ。ちょっと怖い夢を見ちゃったんだ」って何でもないことだとアオちゃんの頭を撫でてあげた。
アオちゃんは僕の手が頭を撫でる感触にクルクルと喉を鳴らしながらも「どんなゆめ?」って首をかしげる。
僕は記憶を手繰る。夢ってヤツは起きた瞬間にはもう覚えてないことも多い。悲鳴をあげるほどの悪夢だって所詮は夢でしかない。
もう忌々しい架空の記憶は現実に押し流され始めている。
だから僕は首を横に振った。
「もう忘れちゃったよ。それよりも朝ゴハンを食べよう。今日はエミおばさんもシャノンも居るからきっと賑やかだよ」
僕は寝間着を着替えてアオちゃんとまだ寝起きでうつらうつらとしているシャノンを連れて階段を降りた。
「おはようじいちゃん、ばあちゃん。エミおばさんは?」
居間にはじいちゃんが胡座をかいて新聞を読んでいた。
お勝手にはばあちゃん、お味噌汁をよそっている。
「エミさんならそこよ」
ばあちゃんが居間の隣にあるお仏壇の部屋を指差す。
襖が開け放たれたそこにはシーツで出来た芋虫が一匹転がっていた。
「ふたりして明け方まで呑んでたみたいでね、エミさんは今日はずっとあの調子でしょうね。寝かせておいてあげましょう」
芋虫はしばらく羽化しそうになさそうだ。
「まったく、おじいちゃんだってもう若くないんだから、エミさんに張り合ってそんなに呑まないでちょうだい」
「んー、ああ」
ばあちゃんのお小言を新聞で顔を隠してやり過ごそうとするじいちゃん。
明け方まで呑んでたって言うのにじいちゃんは平気そうだ。
そういやじいちゃんが酔い潰れたところって見たことがないや。
「冷蔵庫だって空っぽにしちゃって、もう。夜中にオツマミを漁ったんでしょうけど、冷凍庫にあった保冷剤にまで歯形が付いてたわよ。ネズミじゃないんだから」
「ふむ、ありゃ食いモンじゃなかったんじゃな、どうりでエイミーが食った後に真っ青な顔をしとった訳だ。 お、ナツ、籠目大社で改築工事があるらしいぞ」
じいちゃんがあからさまに話題を逸らしてきた。
たぶん僕が起きる前からばあちゃんのお小言は続いてたんだろう。
じいちゃんが僕にだけわかるアイコンタクトで「助けろ」って告げてきたのでしょうがなく話に乗ってあげた。
「籠目大社って?」
「ああ、昔婆さんと一度関西に汽車で旅行した時にな、参拝した神社じゃ。ワシんとこの神社とはエライ違いでな、本殿の他に拝殿やら神楽殿やらが建たっとって立派なもんじゃった。
なのにな、参道のど真ん中を塞ぐようにデッカイ大岩が奉ってあってな、邪魔っ気だったのをよう覚えとるよ」
奉ってあったのに邪魔って…じいちゃん、バチがあたるよ。
じいちゃんが言うには『籠目大社』ってのは有名な観光地らしい。そんな有名な神社だから地方の新聞にも改装のニュースが載るんだろうね。
僕がそんなことを考えてたらじいちゃんが内緒話でもするみたいに僕に顔を近づけてきた。
じいちゃん、お酒臭い。アオちゃんもシャノンもそっと僕から身を放した。
「ナツ坊、その大岩な、ありゃぁこっちの神社にあるのと一緒じゃ」
「え? 一緒ってなにがさ?」
「つまりじゃな、あの大岩がこっちで言うところの穴を塞いでる結界だってことじゃ」
「ええっ!?」
僕の驚いた顔にじいちゃんはイタズラが成功したみたいなニヤリとひとの悪い笑顔を見せた。
「え? え? じゃあその籠目大社ってのも幻獣の居る世界に通じてるの!?」
僕の問いにじいちゃんはコクリと頷いた。
「そうじゃろうな、もっとも穴自体は岩に塞がれとったから幻獣の姿すら御目にかかれんかったがな」
じいちゃんが言うには岩が穴を塞いでてそれが封印の役割を果たしてるらしい。
それでもじいちゃんが穴の存在に気が付いたのはじいちゃん家の上の神社とおんなじ気配がしたからなんだって。
そういやエミおばさんの故郷の近くにもピクシーのたくさんいる森があったし、そこもあっちに通じる穴があったらしい。
僕が思ってるよりもずっとたくさんのあっちに通じてる穴があるのかも知れないな。
僕はちゃぶ台に並べられたオカズをつまみ食いしようとするアオちゃんをなだめながらそんなことを思っていた。
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