夏と竜

sweet☆肉便器

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103 魔法の講義(補習)じゃ

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 「ああ、アオちゃんよ暫し待て、ソナタには今少し話さねばならぬ事柄が残っておる」

 実りが(僕ら魔法が使えないメンバーにとっては)すくない講義が終わってさて帰ろうかと歩き始めたところでヨウタロウさんがアオちゃんに声をかけてきた。

 「キュ?」

 それに応えてアオちゃんが「何?」って振り向く。

 「アオちゃん、ソナタには竜族固有の魔法の件も教えておこうかと思ってな。今暫くの時間を我に与えてはくれぬかな?」

 うえっ!? 竜族固有の魔法ッ!? なにそれっ、カッコよくない? うん、聴きたい聴きたいっ。アオちゃんだって興味あるよねっ!?

 「キュ? キューッ、クルルルルッ!」

 やっぱりアオちゃんも興味を示しゾロゾロと歩いているトロールさんたちの隙間を縫うようにしてヨウタロウさんの足元まで走り寄ってゆく。

 「へぇ、竜族固有の魔法かぁ、あ、でもさっきヨウタロウさん魔素マナに属性はないって言ってたよね!? それなのに魔法には種族によっての違いはあるんだ?」

 さっきの講義の中でグリコが風の魔法を放っていたけれど、アレは別にグリコがグリフォンだから使える魔法でもなく一般的に知られた魔法だって言ってたよね。
 グリフォンには固有の魔法が存在していないのに竜にはあるんだ?

 「種族によって得意な魔素マナの扱い方はそれぞれ違っておるからな。確かにエアーハンマーはグリフォン固有の魔法では無いが大空を駆けるグリフォンならば大気に干渉させる魔素マナの扱いは他の種族よりも優れているであろうな」

 「んん? どーゆーこと?」

 「うむ、解り難かったか。つまりはな、魔法の元となる魔素マナには属性は宿ってはおらんがソレを扱う者には得意不得意とする魔素マナの使い方があるってことじゃ。
 例えば空を飛び大気をよく知るグリフォンならば魔素マナで大気を効率良く囲み操る術に長けておるが、反面火を良く知らんので魔素マナを操り炎を動かすにはどうしたら良いのかよく判らずに魔法も発動せん。仮に発動したとしても思い通りに操れず維持もままならず炎は消えたりするのじゃよ」

 そっかぁ、だったらグリコはこれから魔法の訓練をするにしてもアオちゃんの魔法を真似させるんじゃなくって『大気』に関係した魔法を練習した方が上達も早いかもしれないな。
 うん、後でグリコと話をしてみよう。

 でもそれも今度だな、今はアオちゃんの竜族固有の魔法の話が先だ。アオちゃんももう待ちきれないみたいな様子でヨウタロウさん前脚にしがみついている。

 せっかくアオちゃんがやる気に満ちているのに待たせちゃったら悪いよね。

 「ゴメンゴメンアオちゃん、それじゃぁ早速ヨウタロウさんに話をしてもらおうか」

 「ん? 夏、ソナタも同席するのか?」

 んー? おやー? なんだかヨウタロウさんが意外そうな顔をしてそう言うけれどもどうして僕がアオちゃんの訓練に同席しないと思ったんだろう?

 アオちゃん居るところ皆川夏の影ありですよ。アオちゃんが新しい魔法を覚えるんならやっぱり僕だって知っておきたいじゃないのさ。

 「アオちゃんよ、どうする? 竜魔法は竜族独自の魔法じゃ。竜族以外の種族においそれと伝えるべきではないのだと思うのじゃが。
 夏を同席させるかはソナタの判断に任せよう。如何する?」

 えっ!? なにそれっ、ヒドイッ! でももちろんアオちゃんの事だもの、僕が一緒の方が絶対にいいよね。

 そう思っていたらアオちゃんはヨウタロウさんの前肢にしがみついた状態のまますこしだけ考えてからこう応えた。

 「キュッ」

 えっ!? ええーーーーーーーっっ!!?

 「いや」ってなにそれっ!? 僕が一緒じゃ嫌だってこと? どうしてだよっ? 何でだよっ? 僕らいつだって一緒にやって来たじゃんっ、それなのに、それなのに、アオちゃんが新しい魔法を覚えるチャンスなのに僕をのけ者にするってどーゆー事なのっ!??

 判んないんですけど? 本っトーーーに意味不明なんですけどっ??

 「キュッキューッ、キューッ、キュルルッ」

 それなのに何故かシャノンとグリコには同席してほしいってさらに意味がわかんないよっっ!??

 も、もしかして僕ってば嫌われちゃった? アレですか? お父さんやお母さんを思春期のお子様が突如疎ましくなってしまったりしちゃったりしちゃうハンコーキってヤツですか? でも僕はアオちゃんの親じゃなくって友達だし…… あ、でもアオちゃんを卵から孵したのは僕みたいなもんだから親と言われれば否定できない面もなくはないし…… でもでもでもでも僕アオちゃんに嫌われるような事なんかしたことないし、でもでもでもでもでもでもハンコーキって突然来るみたいだしでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでも、あああああああああああああ~~~ーーーーーーーーーー……

 僕が混乱してその場に立ち尽くしていると首にゆまは姉ちゃんの腕がガッシリと廻された。

 「ナッちゃんは私の方で面倒見ているんでアオちゃんの事、よろしくお願いしますね、ヨウタロウさん」

 「うむ、心得た。夏は些か心を乱している様子だ、ゆまは、よく見てやっててくれ」

 「言われずともー♪」

 僕が混乱から立ち直るよりも先にアオちゃんを脚にしがみつけたヨウタロウさんはもと来た道を辿ってシャノンの居る穴のある方角へ行ってしまった。

 「おねえさま、ナッちゃんはだいじょうぶでしょうか? ひどくとりみだしているようにみうけられますが」

 「ん、大丈夫よ。ナッちゃんの事は私に任せてグリコはアオちゃんの方へ行ってちょうだい。アオちゃんだって新しい魔法を覚えるのは不安だからシャノンちゃんとグリコの同席をヨウタロウさんにお願いしたんでしょうからね」

 だったら、不安だったら余計僕が一緒に居るべきじゃないっ。僕はゆまは姉ちゃんの腕から逃げようともがいたんだけれども、ゆまは姉ちゃんの腕はガッシリと僕の首に巻きついてちっとも離れてくれない。

 「ゆまは姉ちゃんっ、放してよっ」

 「ん~? ダメよ、放したらナッちゃん、アオちゃんの所に走ってっちゃうじゃないの」

 そんなの当たり前じゃん、アオちゃんの側に僕は居なきゃダメなんだよっ。

 「……ハァ、ナッちゃんってばアオちゃんの事ちっとも判ろうとしないのね」

 アオちゃんの事? そんなことない、アオちゃんの事を一番わかってるのは僕なんだから。

 「ホラ、やっぱり何にも判ってなんかない」

 したり顔の上から目線でゆまは姉ちゃんにそんな事言われたくなんかないっ、ついでに言えばさっきからおっきいおっぱいが背中に当たってスゴくきもちいいっ。

 「そう? 上から目線なのはお姉ちゃんがナッちゃんのお姉ちゃんなんだから当然だし、おっぱいは中身がナッちゃんへの愛で溢れているから当然だわよね。
 そしてアオちゃんもお姉ちゃん程では無いにしろナッちゃんLOVEだからガンバっているんじゃない。もっとアオちゃんの事信用してもいいんじゃない?」

 「えっ?」

 どうしてアオちゃんと離れるのがアオちゃんを信用する事につながるのさ? ゆまは姉ちゃんもしかして酔ってるの? 
 
 「酔ってなんかいないわよ。いい? アオちゃんは最近新しい魔法を覚えようと頑張っていたじゃない? それもナッちゃんに内緒で」

 うん、僕が訓練をしている脇でシャノンと何だか不思議な踊りを踊りながら訓練してた。 ……ってか何でそれをゆまは姉ちゃんが知っているのさ?

 「アオちゃんに今朝方相談されたからね、『まほうのミサイルじゃないあたらしいまほうのれんしゅうしてるんだけれど、うまくいかないの、ゆまはおねーちゃんどうしたらうまくいくのかな!?』って」

 うっ、僕には内緒にしているくせしてゆまは姉ちゃんには相談しちゃうんだ。うわ~、ショックだ~、やっぱり僕の事嫌いになってるんじゃない。

 「違うってば、バカねぇ、大好きなナッちゃんだから新しい魔法を見事に成功させて誉めてもらいたいんじゃないの。判るわ~、ナッちゃんの満面の笑みは戦闘力五八万、たった五のゴミでは太刀打ちの出来ないキュンさがあるもの」
 
 ゆまは姉ちゃん、相変わらずツッコミ所満載の発言だね。いや、もういつもの事だからいちいち取り上げてツッコミはしないんだけれどさ。

 ともかくゆまは姉ちゃんはアオちゃんが僕の事を好きだからあえて僕に新しい魔法がどんなのかを教えないし、アドバイスも訊きにこないって言うの?

 「そーよー、だからアオちゃんがちゃんと新しい魔法を覚えて見せに来たら思いっきり誉めてあげなさいよ。それがアオちゃんの一番喜ぶ事なんだから」

 うん、わかったよ。じゃぁ僕はアオちゃんが魔法を完成させて見せに来るまで待ってればいいんだね.

 けどそれってどれくらい待ってればいいんだろう? ヨウタロウさんがしっかりと指導しているハズだからそんなには掛からないとは思うんだけれど、アオちゃんは才能よりも努力のヒトだからイマイチ見当がつかないな。
 今日中には成功するのかしらん?

 「どうかしらねー、暇ならお姉ちゃんとイチャイチャしてる?」

 いや、しない。しませんよ?
 
 せっかくひとりの時間ができたんだから僕もアオちゃんを見習って訓練をしておこうとペンダント状態のモーニングスターを取り出してソレを通常の大きさにまで戻した。

 五メートル程の銀の鎖の先にバスケットボール位の鉄球が着いた神器と呼ばれる武器だ。

 コイツは僕の手にしっくりと馴染んできて僕の思うがままに動いてくれる。

 基本振り回して遠心力を利用しないと飛んでってはくれないけれど、ちょっとした軌道修正だとか絡まりそうになった時だとか、あと鉄球が僕自身にぶつかりそうになったりした場合、「こっち側に動いてほしいな」って考えると鉄球は僕の思いを汲んで動いてくれるんだ。
 最近ではその扱い方にもかなり慣れてきて ……そうだな、ゆまは姉ちゃんの頭に乗っけられているリンゴだって叩き落とせる。
 もちろんそんな危ない扱い方なんかしないけれどね。『他者を傷付ける武器は例えソレが可能でも遊び半分で扱ってはならない。慢心すれば思わぬ場面でしっぺ返しを喰らう』ってのがピッグマンさんに耳にタコが出来るほど聞かされた心得だからだ。

 僕は鎖の中程を右手で掴み頭上で勢いよく回転させる。充分に勢いが付いたところですこしだけ手を捻り僕の首に巻き付かせる様に軌道を修正させる。

 僕の思うがままに鎖は僕の首を一周、お辞儀をするみたいに頭を下げるとモーニングスターの軌道は横回転から縦回転に、回転するモーニングスターを僕を中心にメビウスを描くみたいに振り回す。僕の足元に来た鉄球、その付け根に近い部分の鎖に差し出した脚を絡ませ蹴りあげるみたいに鉄球を放てば鉄球は下から掬い上げるみたいな軌道を見せて目の前の岩に衝突し岩を砕いた。

 「スゴッ、もう完璧にマスターしてるじゃない。その動き、キル〇ルのGOG〇夕張よね!」
 
 そーそー、昔ゆまは姉ちゃんと観たよね。あの映画は子供にはかなり残酷でトラウマモノだったけれど殺陣たてって言うの? 戦いの部分はかなりカッコよくって記憶に残ってたんだよね。
 映画の中で敵の中ボスっぽい立ち位置で女の子がでてくるんだけどさ、その子戦いなのに学校の制服姿でモーニングスター振り回してんの。スゴく印象深くってモーニングスターの練習の時に参考にさせてもらったんだよ。
 見たのはずいぶん前なんで記憶もうっすらなんだけれどね。

 もちろんただのモーニングスターならこんな動きすれば僕なんて鎖が全身に絡まるか、最悪鉄球が頭にヒットして大ケガモノだけれども、使用者の意図を汲んでくれる神の器だからね。
 ホント神器様様だよ、今夜もしっかりと磨いてあげよう。

 僕が訓練を始めてどれくらいの時間が過ぎたんだろう、夢中になってると時間の経過を忘れちゃうんだけれど、完全に陽が暮れて辺りの景色も見え難くなった頃、穴のある方角から青い光が疾走はしってグリコの歓声が聞こえてきた。

 「ん? もしかしてアオちゃんの魔法、成功したのかな?」

 「そんな雰囲気ね、行ってみましょうか」

 僕とゆまは姉ちゃんは顔を見合わせてアオちゃんの居る穴のある方向へと歩きだした。 ……だそうとした。

 歩き出そうとしたんだけれど、思ったよりも訓練に熱を入れてしまっていたみたいで僕の脚は言うことを聞かずにガクガクと震えるだけだ。
 さっきまでは夢中だったから気にもならなかったんだけれど、一度集中が切れるとダメだね。疲労が一気に押し寄せてくる。

 「ゆまは姉ちゃんゴメン、汗で汚れちゃうのに……」

 「気にならないわ。大好きなナッちゃんの汗だもの、お姉ちゃんにとっては極上のオナネタよ♪」

 「オナ……なにって?」

 疲労でマトモに歩けない僕はゆまは姉ちゃんの肩を借りてアオちゃんの元へと向かう。

 汗臭くって申し訳ないと思ったんだけれど、ゆまは姉ちゃんはなんだかモノスゴくご機嫌な様子だ。

 「あ、おねえさま、ナッちゃん、おまたせいたしました」
 
 穴に向かう中ほどで戻ってくるグリコとヨウタロウさんに出会った。はて、アオちゃんの姿はどこだろうと思ったらアオちゃんはグリコの背中に跨がってグッタリと突っ伏していた。
 グリコの翼の影になっててすぐには気が付かなかったよ。

 「それでアオちゃんの竜族の固有の魔法だったかしら、成功したの?」

 疲労の影響で口も利くのも億劫なごしたい僕に代わってゆまは姉ちゃんが訊ねてくれる。

 「はいおねえさま、わたしおどろきました。りゅうぞくのまほうってスゴいんですね。マナをあやつってあのようなものをつくりだしてしまうだなんて……
 ねぇヨウタロウさん、スゴかったですよねぇ、アオちゃんのまほう」

 「う、うむ、この世界とは違った世界で育ったからか我が思い描いていたものと些かの相違は見受けられたが、そうだな、大成功と言ってよい成果じゃな」

 「そっかー… ナッちゃん? ちょっとっ」

 どうやらアオちゃんの魔法は成功したみたいだ。それを耳にした僕はゆまは姉ちゃんの肩に回していた腕を放してガクガクとまだ震える膝に活を入れてアオちゃんの元まで歩いていった。

 グリコが気を効かせて僕の側まで寄ってきてくれる。

 グリコの背中ではアオちゃんがやり遂げた満足げな笑みを見せながら眠っている。

 僕はアオちゃんを起こさないように気を付けながらその身体を腕のなかに抱き留める。

 ドラゴンだとは言っても子供の僕の腕のなかにスッポリと納まるちいさな身体だ。
 そんな身体で一生懸命に魔法を覚えようとするアオちゃんは本当にスゴいヤツだ。僕は親友のちいさな身体に頬を寄せながらそっと囁いた。

 「アオちゃん、よくガンバったね」

 
 
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