98 / 117
98 working girlグリコ
しおりを挟む
グリコことグリフォンのケガはおよそ一週間ほどで完治した。
包帯をはずされたグリコの半身は傷がふさがり新しい皮膚ができフサフサとした毛皮で覆われたんだ。
包帯をしていた関係でもう一週間グリコは沐浴をしていない。いや、ゆまは姉ちゃんがグリコの身体に虫がわかないようにマメに身体を拭いてやっていたから臭いこそなかったけれども、グリコにはそれでもストレスだったんだろう。彼女の身体を診察していた長老に「これで完治じゃな」と告げられると真っ先に川での沐浴を希望した。
「かわへからだをあらいにいきたいです。もしよろしければおねえさまもごいっしょにおねがいしたいんですが、おいやでしょうか?」
いや、沐浴がしたいって言うよりもゆまは姉ちゃんと川で身体を洗いたいみたいだ。
ゆまは姉ちゃんが川へ身体を洗いに行くときはいつもグリコは付いて行って一緒に川に入れない事を残念がっていたって言ってたからな。
さて、こうしてケガも完治しすっかり元気になったグリコなんだけれど、彼女はトロールの集落で仕事をしたがった。
どうやら朝に僕たちが今日の予定を確認し合って夕方に部屋で食事を食べながら一日にあったことを報告し合うのを耳にし自分もお世話になっているだけでなく集落で仕事をこなしこの集落での正真正銘の一員として認められたいとの欲求がムクムクと沸いたそうだ。
「いつまでもおきゃくさまきぶんではいられませんし、トロールたちにはいのちをすくってもらったおんもあります。なによりおねえさまのおやくにたちたいのです。おねえさま、ナッちゃん、アオちゃん、わたしにもできるしごとはないでしょうか?」
考えてみればこの集落での仕事を持っていない者などトロールの赤ん坊くらいしかいない。
小さな子供でも朝の水汲み(井戸は完成したけれどもやっぱり各家庭に汲み置きの水は必要で朝の水汲みはなくならなかった)、薪割り、周辺の掃除など、加えて今は狩ってきたブンブンから糸を紡ぐ仕事をもこなしている。
また、僕も農作業を手伝っているし、アオちゃんも(正直あまり役にはたっていないけれど)僕に倣って農作業、ゆまは姉ちゃんも吹田さんとトロールの打ち合わせの折衝やコボルトとの鍛冶仕事の依頼など忙しくしている。
一日中忙しそうにしている僕らを目にしてグリコも自分だけが何もしていないのに心苦しさを感じたんだろう。
とは言え、彼女は僕たちと違い獣の身体をしている。果たして何ができるんだろう?
「グリコは前に住んでいた場所ではどんな生活をしていたのかしら?」
どんな仕事をするにしろ慣れた仕事、希望する仕事をまわすのが効率の面でも本人のやる気の面でも良いことだとゆまは姉ちゃんは言う。
そこで僕らはグリコが以前何をしていたかを最初に訊いた。以前から何らかの仕事をしていれば引き続きでその仕事をやってもらうのが最良だからだ。
ゆまは姉ちゃんの問いかけにグリコは応えた。
「そうですね、わたしのははがヨウタロウさんのようにナワバリをつくってそこにすんでいたぶぞくをしゅごしていたのでときおりははにしたがってナワバリのみまわりについてまわったりをしていました」
「へぇ、アナタのお母さんも力のある幻獣だったのね。その他には?」
「そうですね、みまわりのてつだいのほかには…… みずうみにおよいでいるさかなをながめていたり」
「ん?」
「ちいさくてかわいらしいちょうちょなどをおいかけたりもしましたわ」
「んん?」
「ときにはさんやにはえるめずらしいくさばなをさいしゅしそれをすみかにかざったりなども。そうそう、いぜんけわしいがけのちゅうふくにさくかれんなはなをもちかえりははにみせておりなどはははもことのほかおよろこびになってグリコのことをほめてくださいました」
「んーーーっ??」
……………これって
グリコさん。
仕事。
したこと。
ないじゃーーーん。
判明しました! グリフォンのグリコはお仕事なんか一度も経験のない深窓のご令嬢様だったのでございますことよ!
と、言うわけで仕事経験のないグリコには何ができるのかわからないので一通り試しにやって貰おうって話になった。
…………んだけど。
「ちょっ、グリコーーッ! カブはもっとやさしく引き抜いてっ、そんな前肢で力任せに土をえぐっちゃーーーーーああぁぁーーーーッ!ッ」
「あら? カブがまっぷたつ、きるてまがはぶけましたね」
「………でも森の方まで飛んでっちゃったから探す手間が増えたよ」
農作業に必要な繊細さを持っていないグリコには畑仕事は向いていなかった。
「それでこの部品が重要なの。蝶番って言ってね、ホラ見て、パタパタと羽の様な動きをするでしょう? この羽の部分で扉と壁を繋げれば扉が開閉するって訳…… グリコ?」
「もうしわけありません、おねえさまのおっしゃっていること、はんぶんもりかいできません」
「そ、そう」
コボルトとの技術的な話し合い。話を理解できずに挫折した。
「もりのみまわりならばおまかせくださいっ! ははについてまわったこともありますのでけいけんならありますのでっ!」
「グリフォンの幼子よ、それは我の役目、そなたに任せてしまったらこの森がそなたの縄張りになってしまうではないか。自重してもらいたい」
「あ、あら、ヨウタロウさん、それはしつれいしました。わたしはしゅうらくでのしごとがほしいだけでそのようなだいそれたかんがえはなかったんです」
「さもあろうがな」
森の見廻り。それはヨウタロウさんの仕事なのでグリコは自分から辞退した。
「もうっ、もうもうもう~~~~っっ! わたしができるしごとがちっともみつからないじゃないですかーーーっ!」
仕事が見つからずに癇癪を起こすグリコだけれども、彼女は今トロールの赤ん坊たちに囲まれている。
パタパタと振られている尻尾を懸命に追い掛ける赤ん坊、背中に乗ってフサフサとした毛皮に抱き着いて眠っている赤ん坊、翼を赤ん坊に掴まれて困った顔をするけれども怒らずにじっと耐えているグリコ。
グリコはトロールの赤ん坊たちの人気者だ。フサフサとした毛並みと無邪気な性格が慕われる要因だろう。(アオちゃんも人気があるけれど四六時中僕と一緒だから僕が暇な時しか赤ん坊と遊ぼうとしないんだ)
そしてグリコの仕事が決まった。トロールの奥さま方がセッケン作りやブンブンの布織りなどに勤しんでいる間のベビーシッター。
「こどもをみているのがしごとといえるんでしょうか? これはあそびのえんちょうなのでは?」
そう言うけれどね、キミが子供を見ていることで奥様方はおおいに助かっているんだ。胸を張っていい仕事だと思うよ、グリコくん。
包帯をはずされたグリコの半身は傷がふさがり新しい皮膚ができフサフサとした毛皮で覆われたんだ。
包帯をしていた関係でもう一週間グリコは沐浴をしていない。いや、ゆまは姉ちゃんがグリコの身体に虫がわかないようにマメに身体を拭いてやっていたから臭いこそなかったけれども、グリコにはそれでもストレスだったんだろう。彼女の身体を診察していた長老に「これで完治じゃな」と告げられると真っ先に川での沐浴を希望した。
「かわへからだをあらいにいきたいです。もしよろしければおねえさまもごいっしょにおねがいしたいんですが、おいやでしょうか?」
いや、沐浴がしたいって言うよりもゆまは姉ちゃんと川で身体を洗いたいみたいだ。
ゆまは姉ちゃんが川へ身体を洗いに行くときはいつもグリコは付いて行って一緒に川に入れない事を残念がっていたって言ってたからな。
さて、こうしてケガも完治しすっかり元気になったグリコなんだけれど、彼女はトロールの集落で仕事をしたがった。
どうやら朝に僕たちが今日の予定を確認し合って夕方に部屋で食事を食べながら一日にあったことを報告し合うのを耳にし自分もお世話になっているだけでなく集落で仕事をこなしこの集落での正真正銘の一員として認められたいとの欲求がムクムクと沸いたそうだ。
「いつまでもおきゃくさまきぶんではいられませんし、トロールたちにはいのちをすくってもらったおんもあります。なによりおねえさまのおやくにたちたいのです。おねえさま、ナッちゃん、アオちゃん、わたしにもできるしごとはないでしょうか?」
考えてみればこの集落での仕事を持っていない者などトロールの赤ん坊くらいしかいない。
小さな子供でも朝の水汲み(井戸は完成したけれどもやっぱり各家庭に汲み置きの水は必要で朝の水汲みはなくならなかった)、薪割り、周辺の掃除など、加えて今は狩ってきたブンブンから糸を紡ぐ仕事をもこなしている。
また、僕も農作業を手伝っているし、アオちゃんも(正直あまり役にはたっていないけれど)僕に倣って農作業、ゆまは姉ちゃんも吹田さんとトロールの打ち合わせの折衝やコボルトとの鍛冶仕事の依頼など忙しくしている。
一日中忙しそうにしている僕らを目にしてグリコも自分だけが何もしていないのに心苦しさを感じたんだろう。
とは言え、彼女は僕たちと違い獣の身体をしている。果たして何ができるんだろう?
「グリコは前に住んでいた場所ではどんな生活をしていたのかしら?」
どんな仕事をするにしろ慣れた仕事、希望する仕事をまわすのが効率の面でも本人のやる気の面でも良いことだとゆまは姉ちゃんは言う。
そこで僕らはグリコが以前何をしていたかを最初に訊いた。以前から何らかの仕事をしていれば引き続きでその仕事をやってもらうのが最良だからだ。
ゆまは姉ちゃんの問いかけにグリコは応えた。
「そうですね、わたしのははがヨウタロウさんのようにナワバリをつくってそこにすんでいたぶぞくをしゅごしていたのでときおりははにしたがってナワバリのみまわりについてまわったりをしていました」
「へぇ、アナタのお母さんも力のある幻獣だったのね。その他には?」
「そうですね、みまわりのてつだいのほかには…… みずうみにおよいでいるさかなをながめていたり」
「ん?」
「ちいさくてかわいらしいちょうちょなどをおいかけたりもしましたわ」
「んん?」
「ときにはさんやにはえるめずらしいくさばなをさいしゅしそれをすみかにかざったりなども。そうそう、いぜんけわしいがけのちゅうふくにさくかれんなはなをもちかえりははにみせておりなどはははもことのほかおよろこびになってグリコのことをほめてくださいました」
「んーーーっ??」
……………これって
グリコさん。
仕事。
したこと。
ないじゃーーーん。
判明しました! グリフォンのグリコはお仕事なんか一度も経験のない深窓のご令嬢様だったのでございますことよ!
と、言うわけで仕事経験のないグリコには何ができるのかわからないので一通り試しにやって貰おうって話になった。
…………んだけど。
「ちょっ、グリコーーッ! カブはもっとやさしく引き抜いてっ、そんな前肢で力任せに土をえぐっちゃーーーーーああぁぁーーーーッ!ッ」
「あら? カブがまっぷたつ、きるてまがはぶけましたね」
「………でも森の方まで飛んでっちゃったから探す手間が増えたよ」
農作業に必要な繊細さを持っていないグリコには畑仕事は向いていなかった。
「それでこの部品が重要なの。蝶番って言ってね、ホラ見て、パタパタと羽の様な動きをするでしょう? この羽の部分で扉と壁を繋げれば扉が開閉するって訳…… グリコ?」
「もうしわけありません、おねえさまのおっしゃっていること、はんぶんもりかいできません」
「そ、そう」
コボルトとの技術的な話し合い。話を理解できずに挫折した。
「もりのみまわりならばおまかせくださいっ! ははについてまわったこともありますのでけいけんならありますのでっ!」
「グリフォンの幼子よ、それは我の役目、そなたに任せてしまったらこの森がそなたの縄張りになってしまうではないか。自重してもらいたい」
「あ、あら、ヨウタロウさん、それはしつれいしました。わたしはしゅうらくでのしごとがほしいだけでそのようなだいそれたかんがえはなかったんです」
「さもあろうがな」
森の見廻り。それはヨウタロウさんの仕事なのでグリコは自分から辞退した。
「もうっ、もうもうもう~~~~っっ! わたしができるしごとがちっともみつからないじゃないですかーーーっ!」
仕事が見つからずに癇癪を起こすグリコだけれども、彼女は今トロールの赤ん坊たちに囲まれている。
パタパタと振られている尻尾を懸命に追い掛ける赤ん坊、背中に乗ってフサフサとした毛皮に抱き着いて眠っている赤ん坊、翼を赤ん坊に掴まれて困った顔をするけれども怒らずにじっと耐えているグリコ。
グリコはトロールの赤ん坊たちの人気者だ。フサフサとした毛並みと無邪気な性格が慕われる要因だろう。(アオちゃんも人気があるけれど四六時中僕と一緒だから僕が暇な時しか赤ん坊と遊ぼうとしないんだ)
そしてグリコの仕事が決まった。トロールの奥さま方がセッケン作りやブンブンの布織りなどに勤しんでいる間のベビーシッター。
「こどもをみているのがしごとといえるんでしょうか? これはあそびのえんちょうなのでは?」
そう言うけれどね、キミが子供を見ていることで奥様方はおおいに助かっているんだ。胸を張っていい仕事だと思うよ、グリコくん。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる