夏と竜

sweet☆肉便器

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98 working girlグリコ

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 グリコことグリフォンのケガはおよそ一週間ほどで完治した。

 包帯をはずされたグリコの半身は傷がふさがり新しい皮膚ができフサフサとした毛皮で覆われたんだ。

 包帯をしていた関係でもう一週間グリコは沐浴をしていない。いや、ゆまは姉ちゃんがグリコの身体に虫がわかないようにマメに身体を拭いてやっていたから臭いこそなかったけれども、グリコにはそれでもストレスだったんだろう。彼女の身体を診察していた長老に「これで完治じゃな」と告げられると真っ先に川での沐浴を希望した。

 「かわへからだをあらいにいきたいです。もしよろしければおねえさまもごいっしょにおねがいしたいんですが、おいやでしょうか?」

 いや、沐浴がしたいって言うよりもゆまは姉ちゃんと川で身体を洗いたいみたいだ。

 ゆまは姉ちゃんが川へ身体を洗いに行くときはいつもグリコは付いて行って一緒に川に入れない事を残念がっていたって言ってたからな。

 さて、こうしてケガも完治しすっかり元気になったグリコなんだけれど、彼女はトロールの集落で仕事をしたがった。

 どうやら朝に僕たちが今日の予定を確認し合って夕方に部屋で食事を食べながら一日にあったことを報告し合うのを耳にし自分もお世話になっているだけでなく集落で仕事をこなしこの集落での正真正銘の一員として認められたいとの欲求がムクムクと沸いたそうだ。

 「いつまでもおきゃくさまきぶんではいられませんし、トロールたちにはいのちをすくってもらったおんもあります。なによりおねえさまのおやくにたちたいのです。おねえさま、ナッちゃん、アオちゃん、わたしにもできるしごとはないでしょうか?」

 考えてみればこの集落での仕事を持っていない者などトロールの赤ん坊くらいしかいない。

 小さな子供でも朝の水汲み(井戸は完成したけれどもやっぱり各家庭に汲み置きの水は必要で朝の水汲みはなくならなかった)、薪割り、周辺の掃除など、加えて今は狩ってきたブンブンから糸を紡ぐ仕事をもこなしている。

 また、僕も農作業を手伝っているし、アオちゃんも(正直あまり役にはたっていないけれど)僕に倣って農作業、ゆまは姉ちゃんも吹田さんとトロールの打ち合わせの折衝やコボルトとの鍛冶仕事の依頼など忙しくしている。

 一日中忙しそうにしている僕らを目にしてグリコも自分だけが何もしていないのに心苦しさを感じたんだろう。

 とは言え、彼女は僕たちと違い獣の身体をしている。果たして何ができるんだろう?

 「グリコは前に住んでいた場所ではどんな生活をしていたのかしら?」

 どんな仕事をするにしろ慣れた仕事、希望する仕事をまわすのが効率の面でも本人のやる気の面でも良いことだとゆまは姉ちゃんは言う。

 そこで僕らはグリコが以前何をしていたかを最初に訊いた。以前から何らかの仕事をしていれば引き続きでその仕事をやってもらうのが最良だからだ。

 ゆまは姉ちゃんの問いかけにグリコは応えた。

 「そうですね、わたしのははがヨウタロウさんのようにナワバリをつくってそこにすんでいたぶぞくをしゅごしていたのでときおりははにしたがってナワバリのみまわりについてまわったりをしていました」

 「へぇ、アナタのお母さんも力のある幻獣だったのね。その他には?」

 「そうですね、みまわりのてつだいのほかには…… みずうみにおよいでいるさかなをながめていたり」

 「ん?」

 「ちいさくてかわいらしいちょうちょなどをおいかけたりもしましたわ」

 「んん?」

 「ときにはさんやにはえるめずらしいくさばなをさいしゅしそれをすみかにかざったりなども。そうそう、いぜんけわしいがけのちゅうふくにさくかれんなはなをもちかえりははにみせておりなどはははもことのほかおよろこびになってグリコのことをほめてくださいました」

 「んーーーっ??」

 ……………これって

 グリコさん。

 仕事。

 したこと。

 ないじゃーーーん。

 判明しました! グリフォンのグリコはお仕事なんか一度も経験のない深窓のご令嬢様だったのでございますことよ!

 と、言うわけで仕事経験のないグリコには何ができるのかわからないので一通り試しにやって貰おうって話になった。

 …………んだけど。











 「ちょっ、グリコーーッ! カブはもっとやさしく引き抜いてっ、そんな前肢で力任せに土をえぐっちゃーーーーーああぁぁーーーーッ!ッ」

 「あら? カブがまっぷたつ、きるてまがはぶけましたね」

 「………でも森の方まで飛んでっちゃったから探す手間が増えたよ」

 農作業に必要な繊細さを持っていないグリコには畑仕事は向いていなかった。









 「それでこの部品が重要なの。蝶番って言ってね、ホラ見て、パタパタと羽の様な動きをするでしょう? この羽の部分で扉と壁を繋げれば扉が開閉するって訳…… グリコ?」

 「もうしわけありません、おねえさまのおっしゃっていること、はんぶんもりかいできません」

 「そ、そう」

 コボルトとの技術的な話し合い。話を理解できずに挫折した。







 「もりのみまわりならばおまかせくださいっ! ははについてまわったこともありますのでけいけんならありますのでっ!」

 「グリフォンの幼子よ、それは我の役目、そなたに任せてしまったらこの森がそなたの縄張りになってしまうではないか。自重してもらいたい」

 「あ、あら、ヨウタロウさん、それはしつれいしました。わたしはしゅうらくでのしごとがほしいだけでそのようなだいそれたかんがえはなかったんです」

 「さもあろうがな」

 森の見廻り。それはヨウタロウさんの仕事なのでグリコは自分から辞退した。

 



 

 「もうっ、もうもうもう~~~~っっ! わたしができるしごとがちっともみつからないじゃないですかーーーっ!」

 仕事が見つからずに癇癪を起こすグリコだけれども、彼女は今トロールの赤ん坊たちに囲まれている。

 パタパタと振られている尻尾を懸命に追い掛ける赤ん坊、背中に乗ってフサフサとした毛皮に抱き着いて眠っている赤ん坊、翼を赤ん坊に掴まれて困った顔をするけれども怒らずにじっと耐えているグリコ。

 グリコはトロールの赤ん坊たちの人気者だ。フサフサとした毛並みと無邪気な性格が慕われる要因だろう。(アオちゃんも人気があるけれど四六時中僕と一緒だから僕が暇な時しか赤ん坊と遊ぼうとしないんだ)

 そしてグリコの仕事が決まった。トロールの奥さま方がセッケン作りやブンブンの布織りなどに勤しんでいる間のベビーシッター。

 「こどもをみているのがしごとといえるんでしょうか? これはあそびのえんちょうなのでは?」

 そう言うけれどね、キミが子供を見ていることで奥様方はおおいに助かっているんだ。胸を張っていい仕事だと思うよ、グリコくん。

 
 
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