夏と竜

sweet☆肉便器

文字の大きさ
上 下
90 / 117

90 帝国について

しおりを挟む
 「ヴィアテ帝国、かの国は優性民族を主張するエルフ族とドワーフ族、そして労働階級と称される獣人族たちを主として構成された帝政国家じゃ。」

 「『ヴィアテ帝国』、名前ははじめて聞いたけどエルフとドワーフと獣人の国が海の向こうの大陸にあるってのは以前ピッグマンさんから聞いたことがあったよ。たしかこっちの大陸にも渡って来てて海沿いに街を作っているんだよね?」

 「さよう、帝国に隷属する土地を広げ属国とした地より搾取しもたらされた利益を食み肥え太る彼の国にとって侵略こそ国策なのだそうじゃ、そして海の向こうの土地を粗方平らげた帝国は次なる獲物としてこちらの大陸にその触手を延ばした訳じゃな。」

 確かそーゆーのを植民地政策って言うんだっけ。僕が生まれるずっと昔に日本やヨーロッパの国とかがやったりしていた国策でインドや東南アジア、南アメリカなんかを植民地にしたんだっけ。学校の授業でやった。
 植民地の国に学校を作ったり近代的な建築物を建てたり産業を発展させたっていい面もあるって先生はいってたけど、それだって植民地にさた国に住め本国のヒトたちが快適に住めるようにするって側面が第一な気がする。
 いきなり知らない土地から押し掛けて来てさ、もっと文化的な生活をさせてあげるって今までのそのヒトたちのやってきた習慣を取り上げて別な生活習慣を押し付けて親切面して実際は彼らが稼いだ利益の大半を吸い上げるのってなんだか狡くない?
 もちろん国同士のやり取りならば自分たちの国の利益を優先させるのは当たり前だと思うんだけれども、それでも相手の国や個人の事情を思いやるのも必要だってのは僕みたいな子供だってわかる理屈だ。

 あ、もしかして……

 「………」

 「クー?」

 「如何した?」

 「あ、うん」

 考え込んだ僕を不審に思ったのかヨウタロウさんが声をかけてきた。

 「……もしかしたらさ」

 「うむ」

 僕は心配そうに見上げてくるアオちゃんの頭を撫でながらヨウタロウさんに心に芽生えた不安を伝える。
 
 「僕たちがトロール族にしていることもそのヴィアテって国と一緒なのかな? 僕もゆまは姉ちゃんも吹田さんたちもトロール族の生活が便利になってお腹いっぱい食べれるようになって冬に死ぬ子がいなくなって貧しい暮らしから脱け出せればって思ってたけれど、これも押し付けなのかなって…… もしかしたらトロールのみんなはそーいったこと実はありがた迷惑で本音を言えば望んでいないのかなって……」

 急に不安になってきちゃったんだ。

 「我はまつりごとというものに疎くはあれども夏の懸念が的はずれであるのだけは理解しているぞ。侵略を受けている者があの様に健やかな顔をしていようか? 搾取されている者がその搾取している相手の隣で楽しげに食事をするものか? 侵略している筈のそなたらを友と呼び共に泥に塗れ笑おうか? 夏、そなたの懸念は杞憂に過ぎぬ、そなたらの世界の住人はそなたを含め誰も侵略などと言う忌まわしい行為に手を染めてはおらぬ。そなたらの助力にトロール族の民は誰もが感謝をしている。
 夏、覚えておくと善い、悪意を以て行った行為はどの様に転じてもそれは悪行にしかならぬ、対して善意を以った行為もその善意の範疇から外れた者共にとっては悪行に映る事もある。だがそなたらのトロール族に施した行いは正しく善行であろう。案ずる必要などない、もっと胸を張るがよかろう」

 「そっか…… うん、そっか、ちょっとね不安になっちゃったんだ。ゴメンヨウタロウさん、話を続けてくれる?」

 「うむ」

 ヨウタロウさんの言葉は僕の不安を解消させてくれた。さすがはじいちゃんの親友だ。

 「話を続けよう」

 脱線は軌道修正されて帝国の話にもどる。

 「自らの座する大陸を侵略し尽くした帝国はその成果に満足せず海を渡り我らの大陸を次なる獲物と狙いを定めた訳じゃな」

 「うん」

 「海沿いに住み処を構えていたマーメイド、サハギン共を隷従させその地に拠点となる街を造り侵略軍を駐留させた帝国はこの大陸を探索し有用な鉱石の採れる山を荒らし森を焼き払い農地へと変貌させていった。
 その途中に点在していた幻獣の集落を武力で屈伏させながらな」

 確かトロールの集落にも帝国の軍人らしきエルフやドワーフが来て自分たちに従えって脅してきたってピッグマンさんが言ってたっけ。
 今僕が持っているモーニングスターの元の所有者たちだ。
 もしそのエルフたちが探索の途中で死ななかったら海沿いの街まで戻った後に軍隊がトロールの集落に押し寄せて来ていたのかも知れない。
 もしかして僕が思っているよりもこの大陸を取り巻く状況ってヤバいんだろうか。

 「海沿いの街を治めているのは帝国の王族の一員だと聞く、名は知らぬが軍の一翼を従えるエルフの王家の血族だそうだ。政も上手く軍人共にも慕われている様だがそのやり口をみるとどうにも非情な質の人物であるようじゃな」

 王族で軍を率いているエルフかぁ。

 エルフって森に住んでて野菜しか食べなくって弓矢が得意ってイメージだったけど、なんだか印象変わっちゃうなぁ。
 軍を率いる将軍で森を焼き払うんだもん。どっちかって言うと某ジブリ作品に出てくるデンカっぽいよね。

 あ、あの作品はアオちゃんも赤いブタさんが主人公の作品の次に好きでとくにガンシップって呼ばれてた拳銃みたいな先端をした飛行機がお気に入りだったっけ。

 「夏、アオちゃんも聴くがいい。帝国の進攻は停まらずやがてこの大陸全土を覆うこととなろう。我ら幻獣は大陸を守護する者、勝敗の如何に関わらず必ずや干戈を交える運命にあろう。故にそれ前にそなたらは元の世界に戻るのじゃ。親友ともの血族を斯様なる争いに巻き込みなどしたらゲンジに顔向けが出来なくなるでな」

 ちょ、それじゃぁっ。

 「……トロール族のヒト達はどうなるのさ!? せっかく発展した集落や畑なんかはっ? 全部また焼かれて殺されちゃうのっ!? 捕まって奴隷にされちゃうのっ!? そんなひどいことってないよっ!」

 僕の訴えにヨウタロウさんはちょっと哀しげに眼を伏せた。

 「全てが無くなる事はなかろう。生き残った者がその技術を伝えるであろうし努力し成し遂げた記憶はきっとトロール共の希望となる。
 朽ち果てた大樹の根元に新たなる萌芽が芽吹く様に滅びたとて何処かしらに命は繋がるものなのじゃ」

 「…………」

 巨躯を誇り強大な力で森を護ってきた守護幻獣、なのに今僕の目の前に居る彼はすごくちっぽけで無力に見えた。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』 俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。 しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。 「私、、オバケだもん!」 出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。 信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。 ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。

けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~

ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か―― アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。 何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。 試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。 第13章が終了しました。 申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。 再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。 この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。 同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

三度目の庄司

西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。 小学校に入学する前、両親が離婚した。 中学校に入学する前、両親が再婚した。 両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。 名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。 有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。 健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

ソラのいない夏休み

赤星 治
ミステリー
 高校二年の楸(ひさぎ)蒼空(そら)は、他校で同年の幼馴染み、三枝(さえぐさ)日和(ひより)から夏休みの自由研究で双木三柱市(ふたきみつはしらし)で有名な四十二の都市伝説調査に誘われる。  半ば強引ながらも参加させられ、猛暑の中歩き回ることを想像して気が乗らない蒼空の元に、三枝日和が失踪した報せが入る。  神隠しのような日和の失踪を、都市伝説調査で参加していた日和の同級生・御堂(みどう)音奏(かなで)と探る最中、クラスメートの死の予言を聞いた蒼空の同級生・涼城(すずしろ)夏美(なつみ)と協力して調査することになる。  四十二の都市伝説に纏わる謎は、やがて蒼空を窮地に追い詰める。 【本作において】  本作は、以前エブリスタで投稿していた作品を加筆修正(加筆修正箇所はかなり多いです)したものです。物語の内容と結末は同じです。ご了承くださいませ。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

わたしと玉彦の四十九日間

清水 律
ライト文芸
守らなければならない村の『しきたり』 惣領息子様と呼ばれる『玉彦』 そして隔離された村という領域のなかで巻き起こされる『奇々怪々』 中学一年生の比和子は、母親の出産、父親の海外出張のため、夏休みの間だけド田舎にある祖父の家で過ごすことに。 この祖父の家がある村は、日常茶飯事に不可思議な出来事が起こる。 村民に敬い畏れられる名家の、ちょっと世間に疎いおかっぱ頭の惣領息子『玉彦』と出逢ったことで、ド田舎で過ごす人生最大の退屈な夏休みは忘れられないものとなる。 ※完結まで予約投稿済です。 ※今作品はエブリスタでも掲載しています。  完結特集や現代ファンタジージャンル一位を獲得させて頂いております。  出版社主催『ボーイミーツガール大賞』最終選考作品。

処理中です...