夏と竜

sweet☆肉便器

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70 ミルメコレオ逃亡変

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 「グッバイサヨナラ葬らんッッ!!」

 試合を決めたのは僕の横合いから放たれたゆまは姉ちゃん渾身の一打だった。

 「グパッ!?」

 ゆまは姉ちゃんがいつの間にか手にしていたネットバズ。花子さんが落としそれを拾ったんだろうそれをゆまは姉ちゃんは野球のバットよろしく構えフルスイングでミルメコレオの鼻面にジャストミートさせた。

 金属製の筒がミルメコレオの顔面を捕らえその突き出た鼻先がグシャリとひしゃげるのを僕は目の前で見させられた。
 鼻を強打すると生き物ってのは自然と涙が溢れて視界が塞がれ闘争本能も削がれる

 ミルメコレオはもう僕たちのことなど構うことなく身を翻し逃亡を謀ろうとした。
 今度こそ偽装じゃなく本当に心が折れた末の逃亡。

 だけど僕だって簡単に逃がそうだなんて思わない。
 背中を向けたミルメコレオに向かって咄嗟にジャンプ、透明なアリの羽を掴んだ。

 「ナッちゃんっ!」

 「キューッ!」

 宙に浮き上がるミルメコレオ、僕を追うように同じくその背中にしがみつくアオちゃんとゆまは姉ちゃん。

 ミルメコレオは僕たちを乗せ空を飛んだ。

 「このっ!」

 「ゆまは姉ちゃんっ、ダメだって、落ちたらケガじゃ済まないよっ」

 僕たち三人の重みを背負いながらもミルメコレオはあっという間に地上から離れる。
 落ちたら洒落にならない高さだ。
 僕はミルメコレオの背中にしがみつきながらもさらにネットバズで叩こうとするゆまは姉ちゃんを止めながら行く先を見定める。

 ミルメコレオはじいちゃんの家の上を通り過ぎ裏の山の中へと向かっている。

 山の中には神社がある。

 神社の裏には。

 「穴だ」

 そう、本来幻獣たちが居るべき場所に通じる穴があるんだ。

 どうやらミルメコレオは穴を潜り僕たちが追い掛けて行けないあっち側・・・・へと逃げるつもりみたいだ。

 神社上空に到達しミルメコレオは高度を下げる。

 落ちても無事な高さに達したら即座に脳天をカチ割ってやろうとゆまは姉ちゃんがネットバズを振り上げる。

 バチッ

 「うわっ!?」

 「きゃぁっ!?」

 「キュッ!?」

 境内まであと一〇メートルの高さまで近付いた時、僕たちの身体に雷みたいな衝撃が走った。

 たぶんこれが結界ってヤツの力なんだと思う。
 いつもなら僕たちが神社の敷地に入ってもただ空気が変わるだけの気配しかしないんだけど、強い幻獣と一緒だったせいで僕らにもダメージが来たんだ。

 お陰でゆまは姉ちゃんもミルメコレオの脳天カチ割りを実行できずさらには手にしていたネットバズまで落としてしまった。

 そしてさらに強い衝撃。

 「ああっ、くッ!」

 さっきの雷をもっと強くした痛みが全身を走る。

 「ッギュグ!!」

 ミルメコレオには僕らの何倍ものそれが走ったらしくアリの外骨格の隙間から体液を流しながら草むらに倒れ込んだ。

 僕たちは背中から投げ出されミルメコレオ同様草むらに転がる。

 「アオちゃん、ゆまは姉ちゃん、無事?」

 直ぐ様起き上がりふたりの無事を確認。

 「…ん、平気よ。地面が柔らかかったから」

 「キュー、クルル」

 どうやら怪我もないようだ。

 ミルメコレオは弱っていたところに二度の雷を浴び虫の息、立ち上がることすらも叶わずビクビクと痙攣を繰り返している。

 「ここは…」

 背の高い木々に囲まれた神社の境内とは射し込む陽の明るさが違う。
 周りの木が高いのは一緒だけど幹周りが倍以上も太いし種類も杉木じゃない。
 なにより吸い込む空気が神社の中よりももっと濃密な感じがする。

 どうやら僕たちは。

 「幻獣の世界」

 …に来てしまったみたいだ。

 「ナッちゃん、ミルメコレオがっ」

 ゆまは姉ちゃんの声にはっと我に返る。
 そうだ、今は感傷に浸ってる場合なんかじゃない。ミルメコレオをなんとかしなくっちゃ。

 ミルメコレオはうまく動かない四肢を引き摺り逃げようともがいている。
 キマイラの下半身を奪った時と一緒の動きだ。
 ここでヤツに猶予を与えればまたアリか小さな生き物でも食べて復活する恐れがある。

 「なにかっ、武器になるものっ」

 僕は周囲を見渡す。
 だけどここはまったくひとの手の入っていない森らしくそれらしいモノが全然見当たらない。

 仕方なしにその辺に落ちてた太めの木の枝を構えミルメコレオを打ち付けたけど、逆に木が折れる始末だ。
 いや、チョットアリの装甲がへこんだかな?

 折れた木の枝を投げ捨てもう一度別な枝を拾う。

 打撃じゃダメだ。

 今度はアリの装甲の繋ぎ目を狙い尖った枝の尖端を突き立てる。

 「ゴアガァァッ!」

 どうやらミルメコレオはかなり衰弱しアリの装甲もそれに伴って柔くなっているようすで深々と突き刺さった。

 僕は三つ目の枝を拾いそれも突き立てる。

 「アゴャアァァッ!」

 「フグブッ! ギギッ」

 「ガッ……グ」

 「ンギ………」

 「……ィ」

 突き立てては拾い突き立てては拾い突き立てては拾うを繰り返す。

 時々反撃のつもりなのかこちらを振り返り牙を立てようとするけれど、それもゆっくりと億劫そうな動きなのでかわすのも難しくはない。
 アゴの下を狙って蹴飛ばし黙らせ再びアリの身体に木の枝を突き立てる作業に戻る。

 もう僕もこれを闘いだなんて思ってはいない。
 これは殺す為の作業だ。ただひたすらにミルメコレオの命を擂り潰す為の作業。

 残酷だけどここで情けを掛ければまたアオちゃんを襲いに来るだろう。僕は黙々と作業に徹した。

 ブツッ

 十数本目の枝でライオンの胴とアリの胴が切り離された。
 もうミルメコレオの悲鳴も響かない、ただ切り離された時にちいさく震えただけだ。

 「ふぅ」

 僕はアリの体液と自分の汗でドロドロになったひたいを拭って大きく息をつく。

 はて、そう言えばアオちゃんとゆまは姉ちゃんは静かだなと考えふたりがいたはずの場所を見るとゆまは姉ちゃんがアオちゃんを胸に抱き大きな木の根元で寝息をたてていた。

 まったくひとが一所懸命に殺してるのにお気楽だなと怒りよりも苦笑が洩れる。

 ゆまは姉ちゃんは長距離の運転で、アオちゃんは自分が襲われる緊張で疲れていたんだろう。
 しょうがないな、もう少しだからがんばろうと次の木の枝を探し始めたところに上から声がした。

 「随分と酷な事をする。キマイラがいかな凶獣とてかような末路は余りにも不憫」

 振り返るとそこには頭から一本の長い角を生やしたものスゴく大きな黒いヒツジが立っていた。

 


 
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