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63 キマイラ壮行変
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「花子さん、キマイラがここまで来るのにあとどれくらい掛かります?」
「そうね、今までの移動速度から算出すればおよそ三時間といったところかしら」
三時間、現在キマイラはオオコウモリの翼を得て空を飛び真っ直ぐにこちらへ向かってると言う。
ゆまは姉ちゃんの住んでいる都会からここまでは高速道路を使っても四時間半くらい。うん、一時間半もあれば十二分に事は済ませられる。
ゆまは姉ちゃんはキマイラとの闘いなんて知らずにいられるだろう。
すでにキマイラの事件は国の指導の元に報道規制が敷かれている。例えゆまは姉ちゃんが何処かでテレビやラジオでニュースを見聞きしてとしても僕たちがキマイラの獲物になっているだなんて思いもつかないに違いない。
「ナツ君はゆまはさんに優しいのね。てっきり変態的愛情を隠そうともしない従姉妹に塩対応をしていたからうんざりしているのかと思っていたんだけど」
「うんざり…って言うか、ゆまは姉ちゃんは僕が産まれた頃からあんな感じだったから、ああいった愛情表現が普通だってちっちゃな頃は思ってたんです」
「そ、それは…なんとも」
花子さんはいかにもドン引きといった風に表情を引き吊らせる。
もちろん今ではゆまは姉ちゃんの僕に対する愛情表現が常軌を逸しているのはわかっている。
けどゆまは姉ちゃんはずっと僕に無償の愛情を注いでくれていたんだ。
そんな相手をどうやったら嫌いになれるんだろう。
「ナツーーッ、ニュースでやってたライオンのオバケ、アオちゃんを狙ってるって本当なのっ!?」
そうこうしているうちにエミおばさんがオフロードカーに乗ってじいちゃん家までやって来た。
ばあちゃんに頼んで連絡してもらったんだ。
息咳切って走り寄って来るおばさんのシャツのポケットにはシャノンが頭だけ出している。
どうやらじいちゃん家の周りに面識の無い隊員さんたちがいっぱいいるせいで得意の人見知りを遺憾なく発揮している様子だ。
それでも僕とアオちゃんの姿を発見し、シャノンはうれしそうにこちらへ向かい手を振ってくれている。
僕は手を振り替えしながらエミおばさんの質問に応える。
「本当だよ。今キマイラ… エミおばさんの言うライオンのオバケをそう呼んでるんだけど、そのキマイラは空を飛んで後三時間程で来るそうなんだ」
「空をっ!? 三時間っ!? 息子を呼んでる時間もないじゃないっ!」
エミおばさんの息子さん? ああ、空軍の軍人さんなんだったっけ。けど、時間に余裕があっても他の国で起こった事件だから外国の軍人さんに出番は無さそうだけどね。
とりあえず僕はエミおばさんにはシャノンも幻獣だから襲われる危険があること、だからここからじいちゃんたちと一緒に避難してもらうことを説明した。
説明を聴いているうちにおばさんも落ち着いてきたみたいだ。
「それでナツとアオちゃんはどうするの? 今のアンタの説明じゃカチコたちと私たちが避難って話だったけど、アンタたちがどうするのかが抜けてたわ」
「…僕とアオちゃんはキマイラの囮になるんだよ。キマイラはアオちゃんを狙ってるんだから、僕たちが避難したらその避難場所に現れちゃうから」
さすがはエミおばさん、説明せず内緒にしておこうと思ってた事まで突っ込んでしまうだなんて。ガッカリ美人なエミおばさんにそんな洞察力なんて求めていないよ。
ガッカリ美人はガッカリ美人のままでいようよ。
「ナツ、アンタね、アタシを残念キャラに仕立てようだなんて不埒な考えしてんじゃないわよ。アンタより十年長く生きてるんだからそれくらいは察するわよ。歳上舐めんじゃないわよ」
十年? 僕より十年上ってまだ二十代チョットじゃん。そーゆーあからさまなサバを読むとこがガッカリのガッカリな所以なんだけどね。
「うっさいわねっ。そうやっていちいち女性の年齢にツッコむとこがガキんちょなのよ。…まぁ、でも、表情は闘う男になってるわね。息子が入隊するってアタシと旦那に告げた時と一緒の顔。うん、いいわ、いっちょぶちかまして来なさい。カチコとふたりでご馳走作って待ってるから、ちゃんと勝ってきなさいよ。いいわねっ!
アオちゃんも気を付けるのよ。怪我なんてしたら承知しないんだからねっ!」
「うん、ありがと」
「キューッ!」
エミおばさんが僕の顔を撫でてその後ギュっと抱き締めてくれた。次いでアオちゃんにも。
「ナッちゃん、アオちゃん、お婆ちゃん心配で心配で胸が潰れそうだけど、無茶しないでねって言っても無駄なんでしょうね。なにしろあのお爺ちゃんの血を引いてるんだから」
そうだね、ばあちゃん。僕が大切なヒトのために頑張れるのはきっとじいちゃんからの遺伝なんだと思う。そしてばあちゃんの孫だから僕はきっと怖くても逃げ出さない勇気が持てたんだ。
「がんばってね」
「うん」
「キュー♪」
ばあちゃんも僕とアオちゃんを抱き締めてくれた。
「………」
シャノンは泣きそうな顔で僕とアオちゃんを往復し、何度も僕らを抱き締める。
「そんな心配しないで、エミおばさんと一緒に待っててくれればすぐに終らせてみせるよ」
「キュッ、キュー!」
シャノンは心配性だ。そんな彼女を僕とアオちゃんは何度も励ます。
「シャノン、アンタがそんなだとナツもアオちゃんも不安になるじゃない。ふたりを激励しておやんなさい、友だちが待っててくれるって思えばそれが励みにもなるんだから」
エミおばさんに言われシャノンはそのまぶたに溜まってた涙を拭いスッと僕に近づいた。
そして僕の頬に小さなキスを。アオちゃんにもキスをする。
「ありがとうシャノン、妖精のキスだ。きっと幸運が訪れる予感がするよ」
シャノンはもじもじと恥ずかしそうだったけど、ニコッといい笑顔で応えてくれた。
三人は隊員さんに促されエミおばさんが乗ってきたオフロードカーに乗り込む。シャノンはドアが閉まるまでずっと僕たちに手を振ってくれていた。
「じいちゃん」
じいちゃんは腕を組み僕らを無言で見下ろしている。
僕はじいちゃんにこの戦い、キマイラとの戦闘に参加せずばあちゃんたちを守ってくれるようお願いをした。
血の気が多いじいちゃんには不満が残る配置なんだろう。
「じいちゃん、ばあちゃんたちと一緒に居て欲しいんだ。あっちだって危険が無い訳じゃないんだから闘えるヒトが居て欲しいんだ」
「………………」
僕の説得に無言を貫くじいちゃん。
「ねぇ、じいちゃん。僕とアオちゃんにとってじいちゃんとばあちゃんは幸せの象徴なんだ。じいちゃんたちが無事でいてくれるなら僕たちはどんなに血と泥に塗れたって帰れる場所があるって信じて頑張れる。
シャノンにはすぐに終らせるだなんて言ったけどさ、たぶんキマイラとの闘いはそんな簡単なモノじゃ済まないって感じてるんだ。
じいちゃんと神社で見たキマイラ、あの恐ろしさは今でも鮮明に覚えてる、アレは相手を殺してそれを糧に生きる猛獣だ。確実に命のやり取りになる。
けどじいちゃんたちが待っててくれるなら僕とアオちゃんは命懸けでそこに戻ろうって思えるから……」
僕の拙い説得。命懸けってくだりでじいちゃんの鋭い視線は益々鋭さを増した。
「…だからばあちゃんたちと…」
「ナツ坊、アオ」
僕の言葉を遮りじいちゃんは組んでいた腕をほどき僕の肩に手を置く。
ズシリと重くゴツゴツとした堅い手のひらだ。
僕はこのじいちゃんの太くて逞しく頼もしい手が大好きなんだ。
「勝てよ」
それだけを言いじいちゃんは身を翻しエミおばさんの車に乗り込んだ。
「うん」
僕はそんなじいちゃんの広い背中に頷きを返した。
「そうね、今までの移動速度から算出すればおよそ三時間といったところかしら」
三時間、現在キマイラはオオコウモリの翼を得て空を飛び真っ直ぐにこちらへ向かってると言う。
ゆまは姉ちゃんの住んでいる都会からここまでは高速道路を使っても四時間半くらい。うん、一時間半もあれば十二分に事は済ませられる。
ゆまは姉ちゃんはキマイラとの闘いなんて知らずにいられるだろう。
すでにキマイラの事件は国の指導の元に報道規制が敷かれている。例えゆまは姉ちゃんが何処かでテレビやラジオでニュースを見聞きしてとしても僕たちがキマイラの獲物になっているだなんて思いもつかないに違いない。
「ナツ君はゆまはさんに優しいのね。てっきり変態的愛情を隠そうともしない従姉妹に塩対応をしていたからうんざりしているのかと思っていたんだけど」
「うんざり…って言うか、ゆまは姉ちゃんは僕が産まれた頃からあんな感じだったから、ああいった愛情表現が普通だってちっちゃな頃は思ってたんです」
「そ、それは…なんとも」
花子さんはいかにもドン引きといった風に表情を引き吊らせる。
もちろん今ではゆまは姉ちゃんの僕に対する愛情表現が常軌を逸しているのはわかっている。
けどゆまは姉ちゃんはずっと僕に無償の愛情を注いでくれていたんだ。
そんな相手をどうやったら嫌いになれるんだろう。
「ナツーーッ、ニュースでやってたライオンのオバケ、アオちゃんを狙ってるって本当なのっ!?」
そうこうしているうちにエミおばさんがオフロードカーに乗ってじいちゃん家までやって来た。
ばあちゃんに頼んで連絡してもらったんだ。
息咳切って走り寄って来るおばさんのシャツのポケットにはシャノンが頭だけ出している。
どうやらじいちゃん家の周りに面識の無い隊員さんたちがいっぱいいるせいで得意の人見知りを遺憾なく発揮している様子だ。
それでも僕とアオちゃんの姿を発見し、シャノンはうれしそうにこちらへ向かい手を振ってくれている。
僕は手を振り替えしながらエミおばさんの質問に応える。
「本当だよ。今キマイラ… エミおばさんの言うライオンのオバケをそう呼んでるんだけど、そのキマイラは空を飛んで後三時間程で来るそうなんだ」
「空をっ!? 三時間っ!? 息子を呼んでる時間もないじゃないっ!」
エミおばさんの息子さん? ああ、空軍の軍人さんなんだったっけ。けど、時間に余裕があっても他の国で起こった事件だから外国の軍人さんに出番は無さそうだけどね。
とりあえず僕はエミおばさんにはシャノンも幻獣だから襲われる危険があること、だからここからじいちゃんたちと一緒に避難してもらうことを説明した。
説明を聴いているうちにおばさんも落ち着いてきたみたいだ。
「それでナツとアオちゃんはどうするの? 今のアンタの説明じゃカチコたちと私たちが避難って話だったけど、アンタたちがどうするのかが抜けてたわ」
「…僕とアオちゃんはキマイラの囮になるんだよ。キマイラはアオちゃんを狙ってるんだから、僕たちが避難したらその避難場所に現れちゃうから」
さすがはエミおばさん、説明せず内緒にしておこうと思ってた事まで突っ込んでしまうだなんて。ガッカリ美人なエミおばさんにそんな洞察力なんて求めていないよ。
ガッカリ美人はガッカリ美人のままでいようよ。
「ナツ、アンタね、アタシを残念キャラに仕立てようだなんて不埒な考えしてんじゃないわよ。アンタより十年長く生きてるんだからそれくらいは察するわよ。歳上舐めんじゃないわよ」
十年? 僕より十年上ってまだ二十代チョットじゃん。そーゆーあからさまなサバを読むとこがガッカリのガッカリな所以なんだけどね。
「うっさいわねっ。そうやっていちいち女性の年齢にツッコむとこがガキんちょなのよ。…まぁ、でも、表情は闘う男になってるわね。息子が入隊するってアタシと旦那に告げた時と一緒の顔。うん、いいわ、いっちょぶちかまして来なさい。カチコとふたりでご馳走作って待ってるから、ちゃんと勝ってきなさいよ。いいわねっ!
アオちゃんも気を付けるのよ。怪我なんてしたら承知しないんだからねっ!」
「うん、ありがと」
「キューッ!」
エミおばさんが僕の顔を撫でてその後ギュっと抱き締めてくれた。次いでアオちゃんにも。
「ナッちゃん、アオちゃん、お婆ちゃん心配で心配で胸が潰れそうだけど、無茶しないでねって言っても無駄なんでしょうね。なにしろあのお爺ちゃんの血を引いてるんだから」
そうだね、ばあちゃん。僕が大切なヒトのために頑張れるのはきっとじいちゃんからの遺伝なんだと思う。そしてばあちゃんの孫だから僕はきっと怖くても逃げ出さない勇気が持てたんだ。
「がんばってね」
「うん」
「キュー♪」
ばあちゃんも僕とアオちゃんを抱き締めてくれた。
「………」
シャノンは泣きそうな顔で僕とアオちゃんを往復し、何度も僕らを抱き締める。
「そんな心配しないで、エミおばさんと一緒に待っててくれればすぐに終らせてみせるよ」
「キュッ、キュー!」
シャノンは心配性だ。そんな彼女を僕とアオちゃんは何度も励ます。
「シャノン、アンタがそんなだとナツもアオちゃんも不安になるじゃない。ふたりを激励しておやんなさい、友だちが待っててくれるって思えばそれが励みにもなるんだから」
エミおばさんに言われシャノンはそのまぶたに溜まってた涙を拭いスッと僕に近づいた。
そして僕の頬に小さなキスを。アオちゃんにもキスをする。
「ありがとうシャノン、妖精のキスだ。きっと幸運が訪れる予感がするよ」
シャノンはもじもじと恥ずかしそうだったけど、ニコッといい笑顔で応えてくれた。
三人は隊員さんに促されエミおばさんが乗ってきたオフロードカーに乗り込む。シャノンはドアが閉まるまでずっと僕たちに手を振ってくれていた。
「じいちゃん」
じいちゃんは腕を組み僕らを無言で見下ろしている。
僕はじいちゃんにこの戦い、キマイラとの戦闘に参加せずばあちゃんたちを守ってくれるようお願いをした。
血の気が多いじいちゃんには不満が残る配置なんだろう。
「じいちゃん、ばあちゃんたちと一緒に居て欲しいんだ。あっちだって危険が無い訳じゃないんだから闘えるヒトが居て欲しいんだ」
「………………」
僕の説得に無言を貫くじいちゃん。
「ねぇ、じいちゃん。僕とアオちゃんにとってじいちゃんとばあちゃんは幸せの象徴なんだ。じいちゃんたちが無事でいてくれるなら僕たちはどんなに血と泥に塗れたって帰れる場所があるって信じて頑張れる。
シャノンにはすぐに終らせるだなんて言ったけどさ、たぶんキマイラとの闘いはそんな簡単なモノじゃ済まないって感じてるんだ。
じいちゃんと神社で見たキマイラ、あの恐ろしさは今でも鮮明に覚えてる、アレは相手を殺してそれを糧に生きる猛獣だ。確実に命のやり取りになる。
けどじいちゃんたちが待っててくれるなら僕とアオちゃんは命懸けでそこに戻ろうって思えるから……」
僕の拙い説得。命懸けってくだりでじいちゃんの鋭い視線は益々鋭さを増した。
「…だからばあちゃんたちと…」
「ナツ坊、アオ」
僕の言葉を遮りじいちゃんは組んでいた腕をほどき僕の肩に手を置く。
ズシリと重くゴツゴツとした堅い手のひらだ。
僕はこのじいちゃんの太くて逞しく頼もしい手が大好きなんだ。
「勝てよ」
それだけを言いじいちゃんは身を翻しエミおばさんの車に乗り込んだ。
「うん」
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