私は諦めませんので。

ララ

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第二話

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未来視。
私が十歳の時、その能力は発現した。

突然頭の中に未来のイメージが映像となって流れ出すのだ。
そしてそれは一か月以内に起る出来事で、その未来は変えることはどうやっても回避不可能だった。

もちろん自分にとって都合の良い未来が見えた時もあった。
しかしその大半はその反対で、私が悲しい時の映像が流れることが多かった。

十一歳の時。
私は両親に思い切って相談した。
すると、両親は怯えた顔で私を見て、慎重に口を開いた。

「ヴィクトリア。こ、このことは誰にも言ってはいけないよ……」

「どうして?」

幼い私はまだ知らなかった。
この国で未来視の能力を持った人間は畏怖されている存在であることに……。

魔法を超越した魔法として、未来視は扱われている。
一見幸運で素晴らしいことのように思うが、実際はその逆。
大きすぎる力は騒乱を生み、簡単に人を殺す。

国に残る歴史書には、未来視を持った魔女が駆逐されたとの文書まであるほどだ。
両親はそれを知っていて、私が酷い扱いを受けるのを恐れたのだろう。
唇を震わせながら言葉を続ける。

「ヴィクトリア。どうしてもだ。絶対にその能力のことは誰にも言ってはならないよ」

「……分かった」

納得はしていないが、私はとりあえずそう答える。

そうして時が過ぎ、大人になった私はヨハン王子の婚約者に選ばれた。
もちろん未来視のことは黙ったままで。

しかし二週間前、あろうことか王子との初夜の日にそれは訪れた。
王子の唇が私に迫ったその時、激しい頭痛と共に未来の映像が頭の中を駆け巡った。

「うぅっ……!」

思わず私はその場にうずくまる。

「大丈夫か?」

遠くで王子の心配する声がするが、意識は未来の映像に吸い込まれていく。

王子の自室に私はいた。
王子から婚約破棄を告げられる。
それを了承する私。
そして……廊下で不気味に笑うリリア。
『私がヨハン王子のお世話してあげるからね』

「はっ!!」

そこで映像は止まる。
気づいたら私は大量の汗をかいていた。

「ヴィクトリア!大丈夫か!?」

王子は屈んで私の肩に手を置いている。
どれくらいこうしていたのだろう……まるで二日間寝ていないような疲労を感じる。

「ヨハン王子……すみません……」

私が謝るも、彼は納得してはいないようだった。

「ヴィクトリア。一回魔術師に診てもらおう。君の体はどこかおかしい」

魔術師なんて……きっと全てがバレてしまう。
この時の私は既に未来視が異質な存在であることを知っていた。
もう誤魔化すことはできない。

そう思った私は、意を決して自分から王子に告げることにしたのだ。

「ヨハン王子。私は未来視の魔法が使えるのです」
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