公爵令息に求婚されました

ララ

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第六話

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窓から見える景色は闇一色だった。
私はこの夜をあと何回見られるのだろうか。

「ごめんなさい……お父さん、お母さん……私……もう死んじゃうかも……」

窓辺の椅子に腰かけ、私は静かに涙を流していた。
最後くらい両親と、幼馴染のサラとエリックに会いたかった。
でもそれももう叶わないことなのだ。

そう思ったら急に全てがどうでもよくなってきた。
今夜はブライトは仕事だと言って家を出ている。
私は自然に窓を開けていた。
冷たい風が部屋になだれ込み、私の髪を揺らす。

「ごめんなさい……」

私が椅子から立ち上がったその時だった。

「エレナ様!!!お止め下さい!!!」

後ろから肩を強い力でガシっと掴まれた。
驚いて後ろを見ると、そこには使用人のナナの姿があった。
息を乱し、獣のような目で私を睨んでいる。

「エレナ様……今……何をしようとなさいましたか?」

あぁ……どうしてそんなことを私に聞くのだろう。
あなたも知っていたでしょ?

「そこから飛び降りようとしていませんでしたか?」

それのなにがいけないというの?
こんな人生なら死んだ方がマシじゃない!

「ダメです……死んでは……ダメです」

「うるさい!!!!!!」

もう限界だった。
私はナナに掴みかかり、彼女を床に押し倒した。
そして思いっきり彼女の頬をビンタした。
鋭い音が部屋に響いた数秒後、私は我に返った。

「……わ、私は……ち、違うんです……ナナさん……ごめんなさい……」

てっきりナナは私に敵意を向けていると思った。
自分に掴みかかり床に押し倒し、ビンタまでしたのだ。
仕返しされても当然だ。
しかし、ナナは怒ってなどいなかった。
代わりに私と同じくらいの涙を流して、不器用に笑顔まで作っていた。

「今から一年前……私の妹が死にました。彼女はブライト様の婚約者でした」

「え?」

「警察はなぜか妹の事件を調べようとはしませんでした。だから私は身分を隠し、ここで使用人として働くことにしました。妹の死の手掛かりがあると思って……」

「……手掛かりは見つかったんですか?」

「ええ。あなたと同じです。妹はブライト様の非道に堪えかねて自殺したんです。この前……酒に酔ったブライト様が自分で言っていました」

ただただ衝撃だった。
私が何も言えないでいると、ナナが泣き入るような声で言う。

「だから……死なないでください……もう……妹のような犠牲は……たくさんです」

感情が大きく揺さぶられ、私はナナを抱きしめていた。
傍から見れば、私たちは床で寝る恋人みたく滑稽に見えただろう。

「一緒に……戦ってくれますか?」

ナナの弱々しい言葉が耳に突き刺さった。
だが、それは巨人の大声以上の激を私に浴びせかけた。

「はい。もちろんです」
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